「閉店そば屋の2階です」本当にあった山中湖の違法民泊
平野和之(経済評論家)
昨年12月、趣味の釣りのため、人気の山中湖(山梨県山中湖村)で宿泊することにした。釣りは、午前3時には起床せねばならず、高級なホテルでゆったりできるわけではないので、民宿を探した。
私は、海外出張などの際、飛行機は「エクスペディア」、宿泊は「ブッキングドットコム」を利用しているので、同サイトで民宿を検索した。古民家風の民宿が「2泊で7000円」となっており、これに決めた。
ところが、カーナビで目的地を設定し到着したが、予約した民宿の看板が見当たらない。すでにあたりは真っ暗で、民宿に何度も電話したが、誰も出ない。しばらくすると非通知の着信があり、電話に出ると、中国語なまりの男の声が聞こえてきた。
私「ナビの通りに来たが、何もない。太陽光発電の畑と閉店したそば屋があるが」男「そこです」私「ん?そば屋が…」男「はい、そば屋の2階です」
嫌な予感がした。2階に上がると受付にいた中国人らしき男が「お金は現金で」と言う。明細もなければ、領収書もない。裏口に案内されて中に入ると、室内はきちんとリフォームされ、思ったより部屋もきれいである。しかし、部屋の鍵はなかった。
※写真はイメージ(iStock)
詳細を聞いてみると、男はこう言う。
男「私はよくわかりません。ボス(中国人オーナー)から言われているだけで」私「ここはどんな客が泊まりに来るのか」男「主に中国人です」私「今は誰もいないが」男「中国人のチェックインは遅いですから」私「日本人は?」男「たまにきますよ」私「……」男「では、ごゆっくり」
対応は決して悪くないが、どうもしっくりいかない。普通、田舎の民宿に行けば、民宿の主人や女将らが出迎えてくれるイメージがあるが、この民宿は違和感だらけだ。
さらに30分後、コンビニエンスストアに買い出しに行こうとした時、驚愕した。なんと、無人になっていたのだ。周辺は無電灯の村なのに、閉店したそば屋を改造しただけの建物の2階に1人で宿泊なんて不安で仕方ない。どうみても、違法民泊である。しかも、部屋に鍵がないだけでなく、勝手口もフルオープンで入り放題、あまりの怖さに逃げ出し、すぐに山中湖管轄の警察署に通報した。
警察官に聞いてみると以下のような答えが返ってきた。
警察官「最近、多いんですよね、その手の違法民泊」私「取り締まりは?」警察官「基本、観光協会などでやってもらうので、警察がやれることはほとんどない」私「民泊が規制できなくても、民宿表記自体が違法じゃないか?お金返してほしい」警察官「民事に警察は不介入ですから、一応、電話しておきます」
結局、警察からも、観光協会からもその後の連絡はなかった。これこそ違法民泊リスクであり、実態なのだ。
そもそも、6月15日に施行された民泊に関する新法では、フロントの設置が義務付けられている。戸建ての場合は、同居人が必要となる地域も条例によってはある。
しかし、今回の私のケースでは、フロントが常時あるかのように装っているだけだ。さらに、明細も何もないだけに「ぼったくり民宿」として宿泊料を不当に高額にすることも可能だ。
こうした違法民泊が実際にあることを考えれば、そもそも地域によっては風営法などで、ラブホテルは実質的には新設できないが、民泊がラブホテル化する可能性も高い。また、モーテルは、防犯カメラの設置が事実上義務付けされているが、フロントがある民泊は不要だ。こうなると、「無法地帯」のような宿泊施設と化してしまう。
人目をはばかる不倫に利用されるだけならまだよいが、挙句の果てには売春やわいせつ行為といった犯罪の温床になりかねない。実際に民泊を利用した事件は相次いで報じられている。
今年2月、大阪市西成区などの民泊で女性会社員のバラバラ遺体が見つかった事件は記憶に新しい。また、3月には東京都内の民泊が覚醒剤の密輸拠点や精製に利用されていることが判明し、警視庁に米国籍の男が逮捕されるなど、悪用が目立っている。
また、大きく報じられることはなくても、女性だけで利用した場合に盗撮などの被害も多数あるという。あくまで可能性だが、テロリストの拠点に利用されることも予想され、結果的に暴力団のような反社会勢力の資金源になっていく恐れも十分ある。
こうした現状を考慮すれば、民泊の規制緩和による経済成長戦略や宿泊施設不足解消と、犯罪などの社会問題の解決コストを天秤にかけた場合、今回施行された民泊新法では不十分だ。
ゆえに以下のような対策が早急に必要であると考える。
さらに、山中湖村に限れば、神奈川県の水源に隣接しており、ホテル、民泊施設などの中国資本による土地取得が進む可能性がある。そうなれば、少々大げさかもしれないが、水源の権利を中国資本に奪われるなど、安全保障にも影響しかねない。国益を害するリスクがある土地取得規制の議論に、民泊も入れるべきかもしれない。�民泊の無許可営業の罰則強化
�警察の権限強化
�民泊の防犯カメラの設置基準強化
�戸建て建築などでの民泊の禁止
�民泊衛生管理者制度の設置
�違法通報制度に対するインセンティブ
�地域自治会との連携による徹底したセキュリティ強化
�サブリース(転貸し)の禁止
もちろん、2020東京五輪に向けた一時的な民泊の規制緩和論や地方創生を目的とした民泊を否定はしない。ただ、あまりにリスクが大きいのが現状だ。
ゆえに、地方などで経営難に苦しむ民宿の再生プランと、急増する観光客による宿泊施設不足解消を目的とした都市部での新規民宿参入をそれぞれ分けた上で、民泊新法を議論し直すべきである。
ただ、現状としては、多くのマンション管理組合で、民泊用途の許可規定改正議案は否決されている。だれしも自分のマンションに不特定多数の旅行客が出入りすることに不安を感じるからだろう。規制や取り締まりを強化し、安心感が広がらない限り、日本において民泊は遅かれ早かれ廃れていくのではないだろうか。