「お、スマブラだー」って呟いたらお母さんが「あ。知ってるの?遊んでく?」と聞かれて、俺が快諾すると、お母さんが嬉しそうにT君に話しに行く。10分ぐらいして家に上がる許可が出て、靴を脱いで中へ。初対面のT君にコントローラーを渡されて、ろくに会話もしないままゲームスタート。
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「アイテムなし、ストック3で良い?」奇しくもT君が提案したルールは、いつも俺が友達と遊んでるものと同じだった。 そしてキャラ選択。 俺が選んだのはカービィ。色ももちろん青に変更した。大してT君は… プリン!? 当時、罰ゲームでなければ誰も使っていなかったキャラだった。
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「場所は?」「ハイラルで」俺のお気に入りのステージ。 そして始まる俺とT君の戦い。 結果はT君の圧勝。一度も機を減らすことすらできず、それどころか58%ぐらいしかダメージを蓄積できずに、俺は敗北した。 こんなにボコボコにされたのは初めてだった。 「もう1回!」 俺がそう言うと、T君は頷いた。
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結局、3時間は遊んでいた。一度も勝てなかったどころか、一機すら削ることができなかった。 19時前になり、お母さんがT君を食事に呼ぶ。 「食べてく?」と聞かれたが、断った。今日は家でちらし寿司だから、給食もほどほどにしろと親父に言われていたのだ。 だが、こう言った。 「また来ます」
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次の日、学校でT君の家でスマブラをしたことをクラスで話しまくった。「3時間で一回も吹っ飛ばせなかった。しかも使用キャラはプリン」その言葉にクラスの友達は興味津々だった。 早速その日の放課後、6人でT君の家に行った。 お母さんは少し驚いていたが、6人を迎え入れてくれた。
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俺以外の一人ずつがT君に挑戦する。まずは藤原君。使用キャラはネス。結果はもちろん、T君の圧勝だった。 「もう1回やらせて!」藤原君が言う。だが2回目の結果も、0-3。 ここで全員に火がついた。「俺家からコントローラー持ってくる」吉田君がそう言って、家から出た。
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戦いを見ているのが、みんな我慢できなかったのだ。早くT君と遊びたかったのだ。 間も無くして、吉田君がコントローラーを2つ持ってきて、4人対戦ができる状態になった。その間、菅原君があっという間に2回負けていた。 吉田君が「チーム戦をやろう!」と言って、T君俺vs吉田君近藤君の戦いに。
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チーム戦でも、T君は凄まじい強さだった。俺なんていてもいなくても同じ。二人ともT君を倒すのに夢中で、実際俺は相手にされていなかった。結局二人を同時に相手しても、T君は1ストックも減らすことはなかった。 そこからは、1:2の戦いが続く。 だが3時間で、誰もT君の機を減らすことはできなかった。
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この日も、ゲームの終わりはT君のお母さんの一言。「そろそろご飯よ。みんなも食べてく?」だった。全員が頷いた。 良いカレーの匂いに誘われたからではない。みんな、T君に興味があったのだ。 「こんなたくさんでご飯食べないから、狭くてごめんね」と言われたが、気にならなかった。それよりも。
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「なんでそんな上手いの!?」「あれどうやってやんの?吹っ飛ばすやつ」 みんなそれぞれ、聞きたいことが山ほどあったのだ。 結局、ご飯の後にも1時間ほどゲームをやって、家に着いたのは21時だった。親父にしこたま怒られた。 翌日から、T君はプリン師匠と呼ばれるようになった。
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それから、放課後はプリン師匠の家に行くのが決まりになっていた。毎日遊びに行ってもT君のお母さんは笑顔で迎え入れてくれた。 T君に聞いた方法で、攻撃を避ける。攻撃するタイミングをしっかりと見極め、無駄な隙を与えない。ジャンプの大きさも考える。 そして数日後、ようやくその時は訪れた。
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ついに、T君から一機奪うことに成功したのだ。誰が奪ったかは正直覚えていない。その瞬間、俺はゲーム画面よりも、脳裏に焼き付いた映像があったからだ。 T君が、その時初めて悔しそうな表情をした。それが嬉しかったのだ。 結局、T君の家には毎日通っていた。ある日が来るまで。
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その日の朝、いつものように俺は「プリン師匠の家、今日誰が行く?」なんて話をしていた。 朝礼の時に、先生が言った。 「今日から、T君が登校を再開します」 そう言うと、T君が扉を開け、教室に入ってきた。 家で見るT君より少し小さく見えた。だが、それは紛れもなくT君、いやプリン師匠だった。
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「あ!プリン師匠!」 「師匠!」 俺たちがそう言うと、師匠は少し笑った。 T君が学校に来たことで、他のクラスのスマブラ勢の家にもT君を連れていけるようにもなった。 だが、結局T君よりスマブラが強い人は、一人も学年にいなかった。 T君は卒業する頃には、学年で有名人だった。
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俺があの時T君と仲良くなれたのは間違いなくスマブラのおかげだ。 口下手でも無口でも関係ない。「ゲームが強い」という事実は、すべてを吹き飛ばせる。 ゲームが勉強に役立つか、オリンピック種目に値するかはわからない。 だがゲームには、無限の魅力がある。俺はT君との出会いでそれを知った。
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#不登校は不幸じゃない って取り組みをやってるんですが、まさにだなと思いました。T君はゲームという得意なことが見つかり、それが自信につながり、友達もできた。 辛いまま嫌々学校に行くより不登校の期間があったからこそ良かった。http://www.obatakazuki.com/23624735 -
素晴らしい取り組みだと思います。当時は、「学校に来てくれたら色んな人とプリン師匠が戦えて嬉しいなー。みんな師匠の強さに震えろ」みたいな軽い気持ちで、不登校の生徒の心境には立てませんでしたが、時が経って今では、一人の子供が登校する助力になれて、嬉しい気持ちです。
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不登校の子の心境に立てなかった所が良かったんだと!対等な目線、いや尊敬の眼差しですよね。 なにより「プリン師匠」というあだ名を付けてくれたことがすごく嬉しかったはず!ゲームも素晴らしいがゆうやんさんがなによりも素晴らしい!
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最新機器は備えていないものの、たまり場としての場所を提供している、30数年後のお母さんの私。 自分はゲームに関心はないが、子ども達の会話を聞いているのが至福。
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お読みいただきありがとうございます。今はお子様たちは「ゲームができて嬉しい」と感じていると思いますが、大人になって、そういった環境を用意してくれたことにも、感謝するようになると思います!
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その後、師匠はどうなったのか、知りたいな〜、、、
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