介護人材の外国人依存は、苦戦必至

待遇の悪い日本は不利

  • 石橋 未来=大和総研 政策調査部研究員

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2018年6月15日(金)

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国内の介護人材不足を外国人労働力で補おうとする動きが加速している。だが、同様の取り組みを実施しているドイツは苦戦。まずは介護職の待遇改善が急務だ。

(日経ビジネス2018年4月9日号より転載)

石橋 未来[いしばし・みく]
大和総研
政策調査部
研究員
2002年東京女子大学文理学部卒業、大和総研入社。企業調査部、投資戦略部、経済調査部を経て18年から現職。医療・介護分野を中心に中長期的視点での分析を担当。

 介護分野の人手不足が続いている。厚生労働省の社会保障審議会で2017年に示された資料によると、25年には約38万人の人材が不足する見込みだ。

 こうした状況の中、政府は介護人材不足を外国人労働力で補おうとしている。これまでインドネシア、フィリピンおよびベトナムとのEPA(経済連携協定)に基づき、約3500人の介護福祉士候補者を受け入れてきた。

 さらに17年には外国人技能実習制度に介護職種を追加するなど、受け入れ数を増やす施策を追加した。だが、外国人労働力は日本国内の介護人材不足を解消するのだろうか。先行するドイツの事例を基に考える。

ドイツは人材を集められず

 高齢化が進むドイツでも、介護人材の確保は大きな課題である。日本と同様、労働環境の悪さや賃金の低さが国内のなり手不足に直結している。

 ドイツの介護現場では、欧州連合(EU)域内の東欧出身者を中心に外国人の就労が目立つ。ドイツの介護職を含むヘルスケア分野の賃金水準は、主な送り出し国であるポーランドやチェコと比較して3倍以上も高いためだ。

 ドイツでは、高齢者ケアの中核を専門介護士が担っており、この専門介護士の確保がとりわけ重要とされている。しかし東欧出身者に専門介護士などの高度人材は少なく、多くは介護アシスタント(1年程度の通常の職業訓練修了レベル)や、それ以下の熟練度の低い職種レベルで就労している。

 ドイツで専門介護士の資格を取得するには原則3年間の養成教育修了後、国家試験に合格する必要があるほか、十分なドイツ語能力も求められる。外国人にとって、そのハードルは高い。

 最近では、専門介護士の資格を取得したとしても、EU域内の別の国へ移動する者も増加している。背景には、ドイツの所得の優位性が薄れていることがある。例えば、英国のヘルスケア分野の平均賃金は、ドイツよりやや高い(下のグラフ参照)。加えて、英語という汎用性の高い言語が話されているため、英国への人材の流出が増加している。

日本の賃金は他国に比べて低い
●各国のヘルスケア分野における平均賃金(2014年)
注:欧州統計局(Eurostat)、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より大和総研作成。日本以外は「介護」に加え、一般診療や歯科などの「医療」も含むヘルスケア分野全体の平均。日本は「医療、福祉」の平均賃金を14年のユーロ/円平均値で換算
入居者の女性と話す東南アジア出身の介護福祉士(写真=朝日新聞社)

 そこでドイツは近年、人口構成が若い中欧やアジアなどEU域外からの受け入れを増やしている。13年に始まった「トリプル・ウィン・プロジェクト」では、母国での就労が困難なセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナなどの看護師を、ドイツのヘルスケア分野に受け入れている。

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