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企業・経営 週刊現代

破綻寸前のサッカークラブを立て直した「ジャパネットの底力」

高田明「地元愛こそ、商売の基本」

笑顔を絶やさず、独特のイントネーションで話す姿はテレビショッピングのときと同じ。あの高田社長は今、通販とはまるで異なる世界で挑戦を続けている。今年で70歳。原動力は地元長崎への愛だ。

楽天・三木谷とは正反対

インタビューの同時刻、九州・長崎から遠く離れた東京では、アンドレス・イニエスタが楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏が所有するプライベートジェットで来日し、J1ヴィッセル神戸への入団発表会見を行っていた。

日本サッカー界のビッグニュースに、V(ヴィ)・ファーレン長崎の社長を務める高田明(69歳)は、喜びと驚きが同居する複雑な感情を抱いていた。

「スペインの名門FCバルセロナで長く活躍した超大物選手ですよね。日本では飛び抜けた選手の出現、スターの登場によってそのスポーツ業界が盛り上がるということが起きる。

ゴルフの宮里藍ちゃんやテニスの錦織圭選手……イニエスタ選手の加入も、サッカー自体の関心を高めるという点での貢献が一番大きい」

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ヴィッセルのオーナー・三木谷氏は、イニエスタと年俸約32億円の3年契約を結んだ。総額100億円に迫る巨額投資に、高田は冷淡に「僕にはできない」と話した。

「32億円といったら、V・ファーレンの1年間の総収入よりも多い金額です。J1全18チームの平均収入も、大体37億。仮にそれだけの投資をして、イニエスタが加入したとしても、J1で優勝できる保証なんてありません。

これは投資としては相当のリスクですよね。確かにそれぐらいの価値がある選手で、三木谷さんもヴィッセルだけでなく、楽天グループ全体の費用対効果を考えての投資でしょうが……うらやましいですね」

日本のIT業界を牽引し、インターネットを使ったショッピングモールである「楽天市場」を展開してきた三木谷氏と、佐世保市の小さなカメラ店から、ジャパネットたかたを起業し、金利手数料を自社で負担するテレビショッピングを中心に大手通販会社に成長させてきた高田――。

メディアを通じた物販という意味では、近しい業種で日本のトップに上り詰めた両者だが、サッカークラブ経営者としてのタイプはまるで正反対だ。

 

'05年に発足したV・ファーレンは昨年3月、3億2460万円もの累積赤字が発覚し、選手や監督への給料が未払いになる恐れまで表面化した。

クラブ消滅の危機を招いた前経営陣が退陣し、再建に立ち上がったのが、メインスポンサーであったジャパネットたかたの創業者である高田だった。

さらにジャパネットホールディングス(HD)がクラブの株式を100%取得し、V・ファーレンは完全子会社となった。

高田に社長就任を要請したのは、'15年にHDの代表取締役社長を引き継いだ息子の旭人だ。39歳という若さながら、明が全幅の信頼を寄せる旭人が当時を振り返る。

「クラブを一致団結させるためには、父のような存在でないと無理だと思っていました。ジャパネットとしてもお金を大きく投下しなければ救えなかった。

経営者が父であれば、何も心配なくお金を預けられる。'17年末までに、再建のために7億から8億は投資しました」

父子がこだわったのは、株式の100%取得であり、その理由は'17年12月期に売り上げ1929億円、経常利益182億円(ともに過去最高)を記録するまでに成長したジャパネットたかたを、これまで上場させなかった理由と一致する。

株主の顔色をうかがわずに、「素早い経営判断」を可能にするための策が非上場であり、完全子会社化なのだ。旭人が続ける。

「一企業としての規模拡大よりも、お客様の幸福を考えることはサッカークラブの経営でも同じだと思うんです。ファンや選手にとって最善の環境をスピーディに作るためには、100%の子会社である必要があった」

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