新潟知事選で自民と公明の間に入った「見えぬが深い亀裂」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56053
与党が辛勝した新潟県知事選。しかしその裏側では、自民党、公明党の間にヒビが入り始めているという。
肩透かしを食らった公明党
新潟県知事選挙は、自公が支持した花角英世氏が、野党5党1会派が推す池田千賀子氏を下した。
結果としては与党候補の勝利だが、野党候補が僅かな得票差で迫る、ギリギリの戦いだった。
政権幹部は「政権基盤が揺らいでいるときに負けたら大変だった。表には出していないが、安倍晋三首相周辺や官邸の危機感は相当あった」と言う。
注目すべきは、勝敗を脇において、今回の選挙で与党にとって不都合な事態が招来されたと指摘する関係者は少なくないことだ。選挙を通して、自公の間を走る「溝」が深まりつつあるというのだ。そしてその溝は、今後、国政にも大きな影響を与えてゆく可能性がある。
その内実を見てゆこう。
奇しくも今回の選挙戦は、国政における自公VS野党共闘の構図がそのまま反映されたものだった。
そもそもこの出直し選は、野党統一候補だった前職の不祥事によるものだったから、本来なら自公は有利のはずだ。しかも、花角氏は旧運輸省(現在の国交省)出身。海上保安庁次長、新潟県の副知事も務めた経験もあり、運輸省時代は自民党の二階俊博幹事長の秘書官だった。
さらに、国交省はこの数年間、公明党が大臣を歴任していることもあり、同党の牙城だ。自公両党の直系で、新潟にもゆかりがある申し分ない候補を擁立し、有利に戦いを進められるはずだった。
ところが、蓋を開けてみれば、「自公楽勝」どころか、両党にとってつまずきや不協和音の連続だった。
選挙戦は、こんな異例の事態から始まった。
告示まで1ヵ月を切ったGW明け、公明党本部の選挙関係者が東京から遥々新潟に出向き、自民党新潟県連幹部を訪ねた。まだ候補も確定していない段階だ。知事選に向け、選挙事務所を合同で開くなど準備について相談を持ちかけた。
ところが自民党県連幹部は、合同事務所を開くどころか「やるならどうぞそちらで」と、選挙協力する気などまったくないという返事だった。
公明党が、このそっけない態度に驚き、慌て、怒ったのは言うまでもない。同党はただちに官邸や自民党本部に伝えた。
「今度の知事選は自公の統一候補をやる気はないのか。ならばうちは推薦も支持もない。自主投票だ」
公明党は、表でそう脅しをかける一方、簡単に自民党と離れるわけにもいかない。
水面下で、同党幹部や最大の支持団体である創価学会幹部らを通じて、官邸は菅義偉(よしひで)官房長官、自民党本部は二階幹事長らと、「高いレベルで不和を鎮静化させる調整」(公明党関係者)を行った。
その結果、告示前日の5月23日、本当にギリギリのところで自公でともに「花角氏を支持する」と共闘が決まったのだった。
二階幹事長の調整不足
この背景に何があったのか。明らかになったのは、自民党側にあった「油断」「慢心」と「気の緩み」だったと前出公明党関係者は言う。
「実は新潟県では、地元の自民党が公明党・創価学会に対してかなり嫌悪感を持っていた。過去県議選で、公明党が候補を出して自民党とバッティングし、自民党県連幹部は『許せない』と言っていた。
そこへ、そんな事情も知らないわが党が、中央から現地へとズカズカと入って行って何の疑いもなく選挙をリードしようとしてぶつかったというわけです。
でも本来、それは自民党内の問題です。選挙前に地域事情をきちんと把握して、今回は一緒にやれと県連に言って調整しておく話でしょう。二階幹事長は何もやっていなかったようです」
自民党選対関係者も「緩み」を認め、こう話す。
「不祥事で辞任した前職が野党候補だったため今回はこちらが有利と、油断や緩みがあった。
内閣支持率も下げ止まっているし、自民党の政党支持率は相変わらず高い。一強の驕りも影響したのではないか。そもそも新潟は、与野党が入り乱れて選挙土壌は複雑で難しいところだし」
結局この騒動、告示直前にようやく、菅氏や二階氏が学会幹部や公明党幹部と地元の自民党との間に入ったり、現地の県連を説得するなど水面下で精力的に動いたというのが実情だ。
この自民党の慢心と「行き当たりばったり」の態度は、選挙期間前から公明党をずっとイラだたせていた。
自民党の世論調査として出回った数字は、花角氏vs池田氏=43.3対38.1、44.0対39.1、46.3対40.3とどの段階でも花角氏有利だったが、実は公明党が独自にもっと多くのサンプル数で行った世論調査では、51対49で池田氏リードだった。
選挙期間中、公明党の現地選対幹部は呆れて私にこう言い放っていた。
「自民党の優勢という数字が陣営全体を緩ませてきた。自民党が引き締めている団体や企業などだけが盛り上がっているだけのことじゃないか。
うち(公明党)の運動員の実感はずっと『負けている』だった」
国政にも影響を与える重要な選挙で慢心する自民党の姿は、公明党の目にどう映ったか。自公の間に、ハッキリと目には見えないが、致命傷になりかねない亀裂が走ったことは間違いない。
そして、自公の間に走った緊張を、ある自民党のベテラン議員は極めて重く見ている。今後、この亀裂が、新潟という一地域に止まらず、大きなうねりとなって国政に影響を与える可能性があるからだ。同議員はこう話す。
「今回の選挙の出遅れの原因は自民党が作ったことは間違いない。
自公間に渦巻く不信感は、年内の沖縄県知事選挙や、来年の参院選にまで尾を引く可能性もある」
「安倍のままで大丈夫か?」
一方の学会幹部の一人は眉根を寄せてこう語った。
「加計学園や森友学園の問題はまだまだ尾を引く。今回の選挙の溝が一つのきっかけになり、この先、安倍政権と心中するのかという議論が学会内で起きてくる可能性もある」
実は公明党にとって、最も重要なのは来夏の参院選だという。
「来年春の統一選は勝てると見込んでいるが、照準は夏の参院選。前回(2016年)に立てた福岡、兵庫、愛知でまた擁立して必勝を期す」(公明党幹部)
ただその際に、強い政権で高い支持率でないと困るのだという。
「これらは複数区ですから自民党とぶつかる。そのときに自民党政権が批判を浴びていれば、連立を組んでいる公明党も共倒れする可能性がある。前回3つとも勝てたのは安倍政権に勢いがあったから。支持の高い強い政権でなければ困る」(同幹部)
つまり、今後もモリカケなどの余波を受ける安倍晋三首相が「9月に3選して、参院選のときにもそのまま連立政権の顔でいいのか」(同幹部)ということ。今回生まれた「溝」は、こうした懸念に拍車をかけることは言うまでもない。
野党にとっても、新潟は来年の参院選へ向けての試金石だった。2016年の参院選新潟1人区、前回の知事選といずれも野党の統一候補で戦い、勝利してきたこともあって、今回も立憲民主、国民民主、共産、自由、社民党、無所属の会がすんなりと足並みを揃えた。
陣営幹部の県議はこう総括した。
「新潟でのここ最近の野党統一の基礎を作ったのはいまの立憲民主党の枝野幸男代表と言っていい。枝野氏が民進党の幹事長だった2016年の参院選で、原発再稼働賛成の連合や地元の人間関係などに対して、仲間を騙したりもしながら、最後は共産党も入れた野党4党をまとめた。
新潟では、地元の野党関係者はいろいろ言いたいことはあるが、一つになれば勝てる、ある意味現実主義が完全に身に付いた。この流れは来年の参院選で国民民主党や共産党との選挙棲み分けの基礎になる」
新潟で繰り広げられた選挙戦は、中央の政局へと大きな大きな影響を及ぼすことになる。