CS:最近新たな痛みの原因について研究されているそうですね
遠藤:ここまで紹介した例は、自分自身で状況がつかみやすいものだと思います。ただ、「見る限り異常はないけれど、なぜか痛い」という症状があります。ハードなサイクリストの方は、男女関係なく経験があるのではないでしょうか。かくいう私も、現役時代に悩まされました。深い前傾姿勢=TTポジションをとると決まって同じ場所が痛くなる。しかもシーズンインの時期によく起きるものでした。痛みの範囲は小指の先程度ですが、すごく痛い。
ここでDTI(Deep Tissue Injury)という概念をご紹介します。以前は、褥瘡は浅いところから徐々に深くなるものと考えられていましたが、現在は必ずしもそうではなく、皮膚表面に症状がなくてもその奥にある組織(筋肉や脂肪など)と骨がこすれて、深い部分に先に損傷が生じることがあるという考え方です。国際的にも褥瘡の一種として分類されています。表面では症状がなくても、超音波検査では診断が可能で、黒く抜けるような所見が特徴的です。
スポーツ界では、車いすマラソンや車いすバスケットボールで研究されています。長時間座位を必要とする車いすスポーツは、サドルに座り続ける自転車競技と共通点があると考えました。
自転車競技により、アザができたり、皮膚が損傷するというような外傷が見られないのに、ものすごく痛い部分ができていたらDTIの可能性があるのではないかと仮説をたて、今後研究を進めていく予定です。
DTIの予防のために、車椅子スポーツでは、車椅子のシーティングを検討しているようです。自転車競技でも同様に、サドルの上で座る位置を前後にずらしてみたり、ダンシングを取り入れるなど、ポジションのバリエーションを増やすことで、なるべく同じ位置に圧がかかり続けないようにすることが必要です。また、私がシーズンインになりやすかったことを考えると、下半身を中心とした筋力不足も原因のひとつだと考えています。筋肉量が増え、フィジカルコンディションが整ったハイシーズンでは、下半身でしっかりと体を支えることができるので、サドルにかかる体重の割合が減り、DTIの原因である圧力を減らすことができていたと考えています。ライディングポジションに変化をつけることも大切ですが、根本的な解決には下半身の筋力アップがオススメです。