(英エコノミスト誌 2018年6月9日号)

トランプ氏のG7強硬姿勢、米朝会談控え「弱み見せないため」

カナダ・ケベック州で開かれた主要7か国(G7)首脳会議に合わせて会談した、ジャスティン・トルドー首相(右)とドナルド・トランプ米大統領(2018年6月8日撮影)。(c)AFP PHOTO / SAUL LOEB〔AFPBB News

たとえ北朝鮮と合意をまとめたとしても、大統領のアプローチは米国と世界全体を傷つける。

 ちょっと想像してみてほしい。ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)氏がシンガポールで6月12日に開催される米朝首脳会談で、朝鮮半島から核兵器を取り除く約束を交わす。

 その数日後に米国と中国が貿易戦争から一歩退き、和解を約束する。そして夏になると、制裁に耐えかねた市民がイランの現体制の打倒を目指して首都テヘランで蜂起する――。

 どの米国大統領が成し遂げても、これらは著しい成果となるだろう。外交政策のタブーを犯して小躍りしている人物にしてみれば、まさに素晴らしい偉業となる。しかし、実現する可能性は高いのだろうか。

 また、トランプ氏がビルの解体に使う鉄球を同盟国や国際機関にぶち当ててこうしたことを成し遂げようとするとき、それによる利益と費用のバランスは米国や世界全体にとってどのようなものになるのだろうか。

解体の費用と便益

 トランプ氏のナルシシズムと細かい部分の理解不足が米国の地位を良い方向に変えることなどあり得るのか、と読者は思うかもしれない。だが、古くからある問題に新しいアプローチを提示するという理由だけでも、同氏の衝動は重要だ。

 トランプ氏はバラク・オバマ氏と同様に、世界の警察官であることにうんざりし、イランのような「ならず者国家」やジハード主義者に苛立ち、中国からの挑戦がますます強まっていることに不安を募らせる国を引き継いだ。

 アフガニスタンやイラクにおける骨の折れる戦争と2008年の金融危機は、これまでのシステム――第2次世界大戦後に様々な機関や条約、同盟関係、古典的自由主義の価値観を組み合わせて作ったシステム――はもう普通の米国人には恩恵をもたらさないという感覚を強めただけだった。

 オバマ氏の解決策は、同様な考え方をする民主主義国に声をかけ、この世界秩序を修復・延命するのを手伝ってほしいと要請することだった。