米朝首脳会談、ワーキングランチのメニューを解説

A table with lots of small Korean dishes Image copyright whitewish
Image caption ワーキングランチで提供されたのは韓国料理ばかりではなかった

トマトケチャップを添えたウェルダンに焼いたステーキが好きな人物にとって、それはとても複雑なメニューだった。

「ハチミツとライムのドレッシングと新鮮なタコを添えたグリーンマンゴーのケラブ(マレーシア料理のサラダ)」や「オイソン(韓国のキュウリ詰め料理)」、「テグ・チョリム(しょう油で蒸したタラに野菜を添えた韓国料理)」など。

ドナルド・トランプ米大統領にとっては見慣れない単語が多かっただろう。米朝首脳会談を注視していたツイッター利用者も混乱した。

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ワーキングランチのメニュー

前菜

  • 伝統的なシュリンプカクテル、アボガドサラダと共に
  • ハチミツとライムのドレッシングと新鮮なタコを添えたグリーンマンゴーのケラブ
  • オイソン、韓国のキュウリ詰め料理

メイン

  • ショートリブのコンフィ、ジャガイモのドフィノワーズと蒸したブロッコリー、赤ワインソースを添えて
  • 甘酸っぱいクリスピー・ポークと揚州チャーハン、自家製XOチリソースと共に
  • テグ・チョリム、しょう油で蒸したタラにラディッシュとアジア野菜を添えたもの

デザート

  • ダークチョコレートを使ったガナッシュのタルトレット
  • ハーゲンダッツのバニラアイスクリーム、チェリーソース添え
  • トロペジエンヌ
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メニューを見たカナダCBC放送のサシャ・ペトリチッチ記者は、両首脳が「ハーゲンダッツが溶ける前に(デザートに)たどり着けたのか、それともクリスピー・ポークの時点で台無しになったのか」と質問した。

別のツイッター利用者は、「メニューにタコが入っている。(トランプ)米大統領がタコを食べるとは思えない」とつぶやいた。

しかし、このラインアップには韓国人も戸惑った。

オイソンは、キュウリに牛肉や卵、ニンジンなどを詰めた料理だが、これは14~19世紀に朝鮮半島を治めていた李氏朝鮮時代の伝統料理だ。それも、王族が食べる料理だという。

例えるなら、英国の首相が放映した政府高官とのディナーで、ヘンリー8世の好物だったハクチョウのローストを食べるようなものだ。

若い韓国人が何か分からなくても無理はない。当然のように、韓国の人々が日常的に食べる「オイソバギ(キュウリのキムチ)」と間違えている人もいた。

とある韓国人のツイッター利用者は、「どんな味がするんだろう」とつぶやいていた。

一方、メニューにあった「テグ・チョリム」はより親しまれている料理だ。チョリムは、肉や魚、野菜をしょう油ベースのだしで煮しめた料理をさす。典型的な韓国料理で、小鉢のひとつとして提供される。

4月に金委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が会見した際に振舞われた平壌の冷麺は振舞われなかったが、シンガポールは金氏にくつろいでもらえるよう最大限の努力をしたといっていいだろう。

そして賢く注意深い外交をするシンガポールは、トランプ氏も忘れてはいない。実際、メニューはトランプ氏が楽しめる、1980年代のニューヨークのレストランで振る舞われても場違いにはならないような立派なランチになっていた。

スターターには「伝統的なシュリンプカクテル、アボガドサラダと共に」を選ぶだろう。メイン料理には「ショートリブのコンフィ、ジャガイモのドフィノワーズと蒸したブロッコリー」を、そしてデザートには「ハーゲンダッツのバニラアイスクリーム、チェリーソース添え」を食べるに違いない。

もしショートリブがトランプ大統領のためのメニューではないと疑う人がいれば、ここにヒントを置いておこう。このショートリブには赤ワインソースが添えられている

トランプ氏はもちろん、禁酒していることで有名だ。

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一方、この首脳会談に1500万ドル(約16億5000万円)をつぎ込んだシンガポールは、訪問した著名人に自国の味を食べてもらう機会を逃さなかった。シンガポール料理は多様性に富み、主要民族グループである中国、インド、マレーシアの各料理を取り合わせていることで有名だ。

ショートリブのコンフィ以外のメインは「甘酸っぱいクリスピー・ポークと揚州チャーハン、自家製XOチリソースと共に」だった。シンガポールの中国料理レストランで出会えるような一皿だ。

XOソースは良質のコニャックと干したホタテやエビ、ニンニク、トウガラシなどから作られている。ソースの名は、コニャックのエクストラ・オールド(XO)から来ている。

しかしXOソースはシンガポールのものだと主張する人がいる一方で、これは1980年代の香港が発祥だと考えられている。揚州チャーハンはもちろん、この会談には姿を現さなかったが存在感を示した中国に対する、より明確な会釈だ。

ただ、揚州チャーハンは米国の中国料理レストランで出される典型的なチャーハンと同じだということは付け加えておきたい。ならばこれは、北朝鮮の未来についての妥協案に米国と中国が合意せざるを得なかったという暗示かもしれない。考えすぎの可能性もあるが。

Chinese cuisine-Yangzhou fried rice Image copyright Getty Images
Image caption 揚州チャーハンは中国への会釈?

その他の「ローカル」なメニューは、マレーシアの「ハチミツとライムのドレッシングと新鮮なタコを添えたグリーンマンゴーのケラブ」だ。

ケラブはサラダの一種で、ライムの果汁と砂糖、トウガラシのドレッシングがかかっている。

つまり、今回のメニューが主要人物全員から同意を得られるよう注意深く構築されたことは間違いない。米国と西洋諸国(チョコレートのガナッシュが欧州連合への目配せだというのは言いすぎか?)、朝鮮の両国、中国、そしてもちろん、ホストのシンガポールからも。

日本とロシアは取り残されてしまったかもしれない。しかし、これが皿の上の外交というものだ。

(英語記事 A diplomatic menu: What Trump and Kim ate

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