激しい衝突を繰り返してきた正恩氏とトランプ氏。「ロケットマン」「狂った老いぼれ」…。「言葉の戦争」とも呼ばれた状況から、どう対話に至ったのか、発言の変遷からたどる。
〈解説〉「米朝首脳会談は、トランプと金正恩(キムジョンウン)の政治ゲームだ」。韓国政府で長年、北朝鮮問題を扱った元高官はこう語る。「米朝最高指導者の初の対面」が、この会談の売り文句だ。「最高指導者による合意だから、北朝鮮の非核化は、今度こそ成功する」というわけだ。
だが、2人の最高指導者の言動や交渉の現状をみれば、事態は逆の方向に動いているのではないか。
2人とも国内で厳しい立場に置かれている。「世紀の会談」を政治利用したい思惑がにじみ出る。トランプ氏は1日、「(朝鮮戦争終結は)歴史的にとても重要だ」と語った。非武装地帯を始め、朝鮮半島の緊張は何も変わっていないのに、「歴史的」な成果に目を奪われている。
正恩氏も同様だ。2011年12月に権力を継承後、核とミサイル開発以外、業績はほとんどない。市民は生きて行くことに必死で、最高権力者の動静に構ってなどはいられない。
朝鮮戦争後も、ずっと緊張を強いられてきた市民たちに「平和」「和解」という幻想を振りまいて権威を高めようとしている。トランプ政権の残る任期中には、権力強化に役立つ経済や安保の利益を得ることに夢中になるだろう。
正恩氏の目標は自らの権力維持にある。その数少ない手段である核を放棄することはまずないだろう。
先の韓国政府元高官は「長くてもこの政治ゲームが続くのはあと3年」と予言する。「トランプが次期大統領選で負ければ終わるし、勝てば北朝鮮は用済みになるからだ」(ソウル=牧野愛博)
2018年6月11日 公開