オーバーロード ~経済戦争ルート~ 作:日ノ川
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しばらく買いに行けそうにないので先に投稿します
12巻を読んだ後矛盾等があった場合、訂正出来るところは訂正します
シャルティア・ブラッドフォールンは考える。
今日はもうずっとそうしている。
都合の良いことに今日は休日である。
今までであれば休日はナザリック、そして主人の為に働くことの出来ない辛い日でしかなかったが、今日ばかりは有り難い。
他の連中より一歩リードした、と内心喜んだものだが、その気持ちは既に消え失せ焦りばかりに募っていた。
「ぁぁぁぁ……クソ! なにも思いつかない。大体人間どもの好みなんて知るか! あぁ、アインズ様のお役に立てない。まだこの間の失態に対する償いも出来ていないのに」
償い。と考えて背中が熱くなった。
以前主人より頂いた罰と言う名のご褒美を思い出し、シャルティアは熱い吐息を吐く。
その時の思い出を反芻しかけたが、直ぐにそれどころではないと思い直し首を振る。
部屋の隅に立たせている
昨日アルベドから伝えられた主人からの命、王国内に作る商会で売り出す商品開発というものだが、以下の制約がある。
この世界にも存在している物で無くてはならない。
ナザリック内、およびナザリックの支配地で制作、生産が可能な物。
あまりにレベルが高い物は不可。
利幅が大きく利益が見込める物。
である。
そもそもシャルティアは頭を使って考えることが得意ではない。
この世界についてもある程度は情報共有のラインによって見聞きしているが、実際に人間達に接したことがあるわけではなく──記憶が失われている期間にはあったのかも知れないが──人間そのものにも大して興味がない。
もっと言うとシャルティアにとって人間とは自分の嗜虐心を満たすための玩具に過ぎず、その玩具がなにを望んでいるのかなど興味もない。
「ああ、アインズ様。折角貴方様がわたしの失態を償う機会を下さったというのに」
抱えていた頭を持ち上げ、天井を見上げたシャルティアは祈るように目を伏せた。
今回の命令は些か不思議なところがある。
そもそもこの手の仕事は頭脳担当である、アルベドやデミウルゴスが行うべき物だ。
更に言うのなら主人であるアインズ・ウール・ゴウン様。至高の御方にして知力においてもナザリック大墳墓の頂点に立つ御方一人で十分過ぎるはずなのだ。
もちろん主人の負担を少しでも軽くするために自分たちが存在している訳だが、あのお優しい主人は、自分で出来ることは自分でこなしてしまう。
それが少し寂しくもあるのだが、今回に限って敢えてアルベド、デミウルゴスを除いた守護者各員、そしてプレアデスと一般メイドたちにこの命令が下された。
それを聞いたときにシャルティアは、初めて主人の考えが理解出来たような気がしたのだ。
つまり今回の命令はあの許されざる大失態を犯し、現在誰でも出来るような簡単な仕事しか任されていない自分を救済するために下されたものなのではないか。という考えだ。
シャルティア達にとって神に等しい、いや神をも凌ぐ存在である至高の四十一人によって創造された者達はそれぞれ創造主にそうあれ。と望まれた姿形、能力を有している。
基本的に創造された立場はあれど、直接創造された者は同列の存在だが、能力に関してはそうはいかない。
特にシャルティア達階層守護者は全員が最高レベルの能力になっており、他の者達と一線を画すレベル、能力値、装備品が与えられている。
その中にあって知力という点では別格扱いされているのは三人。
同じ階層守護者であり、主人からもっとも多くの仕事を割り振られ、その全てを完璧にこなし度々主人よりお褒めの言葉を頂戴しているデミウルゴス。
守護者統括にして主人がいないときのナザリック内のほぼ全てを取り仕切り、シャルティアのライバルでもあるアルベド。
そしてナザリック大墳墓の絶対的支配者である主人が自ら創造した領域守護者パンドラズ・アクター。
この三人は知力において、主人を除いたナザリックの最高峰として創造されている。
創造主によってそうあれと創られているのだからシャルティアも素直に相手の方が上だと認めざるを得ない。
しかし他の者達はどうか。と言われるとシャルティアとしては全く負ける気がしないのが本音だ。
口にしてしまえば喧嘩どころか殺し合いに発展しかねないし、それを主人は望まないだろうから口には出さないが、シャルティアとしては自分の創造主であるペロロンチーノ様こそがもっとも素晴らしく、優れた御方だと信じている。
その御方に創造された自分は、特にそうあれと望んで創られた部分でなければ、他の者達より一歩優れていると考えている。
特にアウラ辺りよりは自分の方が優れているはずだ。
敢えて知力に優れた者達を外しての今回の命は正しく自分の有用性を主人に、そして前回の失敗以来やや自分のことを軽んじている者達に示す絶好の機会であり、主人もそれを望まれているに違いないとシャルティアは推察した。
そう考えると同じ正妻の座を争うライバルであるアルベドがわざわざシャルティアに一番先に声をかけたことにも納得がいく。
それほどまでに自分のことを気にかけてくれている主人に報いるためにもここは決して負けられない、だというのに。
「ぁぁあぁぁ。おい! 今何時だ!?」
イライラが募り声を荒げてシモベに問う。
「夜の十時二十七分でございます」
休日が終わってしまう。
当たり前のことだが明日はシャルティアは休日ではない。
仕事がある、それ自体は素晴らしいことだ。ナザリックのために働ける、それはナザリックの者達にとって最大の喜びに他ならないのだから。
しかし今日は、今日だけはまだ休日が終わって欲しくないと思ってしまう。
「ああ、もう! ちょっと出てくるでありんす!」
ずっと言葉遣いが変わっていたことに気がつき、シャルティアは吐き捨てるように言うと部屋を後にする。
同じ場所にずっといるのがいけないのだ。
決して自分の能力のせいではない。
誰に言うわけでもなく頭の中でそう呟き、シャルティアは一人歩き出す。
見慣れた自分の守護階層の中をどこに行くか考えながら足を進める。
ここは自分の守護階層とはいえ、他の守護者や場合によっては主が訪れることもあるのだから感情のままに動き無様な姿を晒すことは出来ない。
出来る限り平静を装いながらも、頭の中では未だ必死に考えを巡らせていた。
以前主より、自分たちの欲しい物を考えるように言われた際も苦労したが、今回はそれ以上に難しい。
主人に頼んで一匹くらい玩具用の人間を頂いていれば良かったとも思うが後の祭り。
ため息を吐きそうになるも、やはり周囲を気にしてしまい、これでは何のために外に出てきたのかわからない。
「そうだ。あそこに行きんしょうかぇ」
ふと落ち着ける場所を思い出し、シャルティアは早速とばかりに移動を開始した。
ナザリック第九階層、スパリゾートナザリック。
至高の御方によって創造されたこの場所は基本的に誰でも使用することが出来、以前アウラとアルベドの二人とともに訪れて以来、シャルティアは時折この場所を訪れていた。
自室にも当然浴室はあるが今日は目的が違う。
アンデッドであるシャルティアは疲労などしないが、考えすぎたせいかほんの少し頭に靄がかったようなものを感じる。
広いお風呂に入りながらゆっくりすれば、気分転換にもなるだろう。
そういう時にこそ、良いアイデアが浮かぶのかも知れない。
そんなことを思いながら脱衣所を抜け、体を洗って湯船に入る。
「はぁ」
頭の上にタオルを乗せながら体を伸ばして湯に浸かる。
アンデッドのシャルティアはお湯に浸かることで感じる気持ちよさはさほど無い。
アウラやアルベドがお風呂に浸かっていると妙に心地よさそうにしているのが少し不思議なくらいだ。
しかしそれでも体にはジワジワと染み込んで来るような暖かさがあり、思考が空になっていくような不思議な安堵感に包まれる。
「あれ? シャルティアも来てたの?」
明るい声が聞こえ、シャルティアは瞑っていた目を片方だけ開いて相手を見た。
「おや、アウラ。珍しいでありんすねぇ。ここで会うなんて」
休みを合わせて──と言うより主の気遣いによって合わされて──一緒に来ることはあったが、こうして偶然会うのは初めてだったかも知れない。
「あー、うん。そうだね」
どこか拍子抜けしたような様子のアウラも湯船に入り、微妙な距離を開けて二人で並んで入る。
お互いに何となく気まずくなり無言になってしまった。
「……仕事は終わりんしたの?」
ずっと黙っているわけにもいかず、シャルティアが問うとアウラは頷く。
「うん今日の分はおしまい。アインズ様からちゃんと休憩を取って夜はキチンと寝るように言われてるしね。ちゃんと寝ないと成長に悪いからって」
ふふん。とまっ平らな胸を張りながら言うアウラに苛立ちを覚えるが、今は相手をしていられない。
「そう。アインズ様が仰ったのだから、ちゃんと寝るんでありんすよ」
「うえぇ!? ちょっと、シャルティア! 何かあったの? 今日変だよ」
失礼な。と思いはしたが確かにいつもであれば、創造主に設定された通りに適当にからかってやっているところだ。
それを今日は何もしなかったから戸惑っているのだろう。
しかし今はそんな余裕は無い。
折角お風呂に浸かりながらゆっくり考えようと思ったというのに。とここでシャルティアはあることを思い出す。
目の前でこちらを訝しげに見ているアウラもまたアルベドから自分と同じ話を聞いているはずだ。
その彼女が妙にのんびりしているというか、特に気にした様子が無い。
アウラは今まで仕事をしていたはずで、その間は当然他のことを考えることは出来ないはず。
となれば今必死になってアイデアを出そうとするはずではないのか。
何故こんなにも落ち着いているのだろうか。
「ところでアウラ。アルベドから話は聞いていんすよね?」
シャルティアの問いかけにアウラは一瞬虚を突かれたようにえ? と不思議そうに首を傾げた後、ああ。と言うように頷いた。
「人間に売る商品の話? 聞いてるよ。あたしなんかは手っ取り早く力で支配しちゃえば良いって思うけど。アインズ様のお考えだものきっとスゴい理由とかあるんだろうね」
あたしもアインズ様の考えを理解出来るようになりたいなぁ。
などと現実不可能なことを夢見ているアウラの台詞を聞きつつシャルティアはそこじゃない。と心の中で焦れながら再度聞いた。
「それで。もう提出はしてきたんでありんすか?」
二、三日中に無記名で提出し、それを後ほどアルベド、セバス、ソリュシャンの三人が精査して主人の元に届けるらしい。
つまり最低でもこの三人に認められるアイデアを出さなくては主人の目に留まることすらないと言うことだ。
「ん? いや、あたしはまだ。あたしは明日が休みだから、明日考えて出すよ。シャルティアは今日休みだったんでしょ?」
「え、ええ。勿論でありんす。もうとっくに提出してこうして休息がてらお風呂に入っていたんでありんす」
「ふーん。どんなのにしたの? 被るとマズいから教えてよ。コキュートスはもう考えたんだってさ」
「え!?」
「ビックリだよね。あのコキュートスがだよ! この前の失態以来デミウルゴスに色々話を聞いたりしてるみたいだから成長したってことかなぁ。こうなることをアインズ様は考えていたってことだよねぇ」
コキュートスが。
しみじみと語るアウラを前に、シャルティアは動くことのない心臓が跳ね上がるような気持ちを感じていた。
口にしたことはないが、コキュートスとシャルティアは失態を犯した者同士、と勝手な親近感を覚えていたのだ。
もちろん同じ守護者としてナザリックに初めて敗北をもたらせたコキュートスには怒りを覚えもしたが、同時に同情もしていた。
今は支配下に置いた
そのコキュートスが、多忙な仕事の合間に既にアイデアを出していると知り、シャルティアは慌てた。
「それでシャルティアは──」
「コキュートスはどんなアイデアを考えたんでありんすか!」
「え? ああ、うん。コキュートスは武器だってさ」
一瞬シャルティアの強い口調に押されたアウラだったが、直ぐに気を取り直したように話を進める。
それを聞いたシャルティアは腑に落ちた。
確かにそれであれば納得だ。武人として造られたコキュートスは武器に対する造詣が深い。
自分の得意分野であれば直ぐに思いつくのも当然だ。
「でも、ナザリックの武器は売れないんでありんすよね?」
「うん。この世界にある金属は今のところアダマンタイトが一番堅い金属らしいから、そんな弱い武器、ナザリックには殆どないでしょ? だから先ずは金属を手に入れるところから始めるんだって」
「金属って鉱山か何かを見つけるんでありんすか? それは時間が掛かりそうねぇ」
今から商会を開店するまでどのくらいの時間があるのかは分からないが、鉱山を見つけ、掘り出し、加工するのでは時間が掛かるだろう。
あまり良いアイデアだとは思えない。
「それがさ。コキュートスが統治してる
成長したよねぇ。なんて胸の前で腕組みをしながら頷いてるアウラを余所に、シャルティアは愕然とした思いを抱いていた。
あのコキュートスが、戦いのことにしか興味が無く、暇さえあれば鍛錬しかしていない武人が、そんなアイデアを出してくるなんて。
そのアイデアは、思慮深く先の先まで見通す主人好みなものに感じられる。
「ま、マーレは?」
「ん? マーレはねぇ。休憩中になんかうんうん唸ってると思ったら急に思いついた。とか言い出してさ」
一縷の望みを抱いて聞いた最後の守護者──ガルガンチュアとヴィクティムは今回も外れているらしい──のマーレもまた既にアイデアがあると知りシャルティアは目の前が真っ暗になりそうだった。
「マーレは本らしいよ。あの子最近司書長と仲良くなったみたいで休みの日にはずっと本読んでるみたいだからね。図書館にある本を写して売れば良いんじゃないかって。何しろナザリックにある本は至高の御方々がお集めになったものだもんね、人間どもが作る話なんかよりずーっと面白いに決まってるよ、あたしはまだ読んだこと無いけど」
最後は小さな声で照れたように言うアウラ。
シャルティアはそんなアウラのことなど気にしている余裕はなかった。
それもまた良いアイデアだ。
図書館の本自体は至高の御方々が集めたものだから当然人間如きに売ることなど出来ないが、中身を写して売るのであれば問題ないだろう。
必要なモノも紙だけ、写すのは魔法を使うなり、無理であればアンデッドあたりを使用して写させればいい。
そこまで細かい作業が出来るかは謎だが、もし出来るのならばアンデッドは疲れ知らず。そうした単純作業は得意とするところだ。
「二人ともなかなかやるよねぇ。ところでシャルティアは結局どんなアイデア出したの? 教えてよ」
「う、うぅ」
言葉が出ず、恥ずかしさと己の無力さを嘆き、シャルティアはゆっくりと体をお湯の中に沈めていく。
ブクブクと口から漏れる息が──呼吸もないのに──湯面を揺らし、シャルティアは完全にお湯の中に姿を消した。
「ちょ! シャルティア。アンタ何やってんの、こら。出なさいよ、ちょっと!」
腕を捕まれ引きずり出される。
「離しんす! アインズ様のお役に立てないわたしなんて!」
「やーめーなーさーい。全く、もしかしてまだ何も考えてないの?」
「……そうでありんす」
自分でも聞き取れるかどうかの小さな声で言う。
それを受けてアウラははぁと大きくため息を吐いた。
「なんでそんな嘘つくのよ。もー」
「だって」
創造主によりシャルティアはアウラとは仲が悪いと決められている。
もっとも実際にはそんなに仲が悪いとは思っていないし嫌いでもない。
ただ彼女をいつもからかっているせいか、アウラ相手には弱味を見せたくない張り合いたいという思いが生まれてしまう。
「一応一人で考えないとダメだから、あたしは手伝えないけどさ」
やれやれと言わんばかりに手のひらを上にしたアウラがそう言った。
明確にそう決められているわけではないが、以前
その後敗走したコキュートスに対し主人は考えることが大事と言っていた。
それはコキュートスのみではなく守護者全員に向けられたものである。
つまり今回の命令も相談するのではなく、その考える力を用いることが前提となっているはずだ。
故に守護者たちもメイドたちも相談はせず各々で考えている。
「分かっていんす」
「……とりあえずさ。自分の好きなこととか趣味とか特技から考えてみたら? コキュートスもマーレもそうやって考えてるみたいだし」
少しの沈黙の後、アウラがシャルティアから顔を背けて言う。
「アウラ?」
「別にシャルティアのためじゃないよ。それにこれはアドバイス、こっから先は自分で考えなよ」
ダークエルフの浅黒い肌が朱に染まる。
お風呂のせいだけでは無いのは明白だ。
「余計なお世話でありんすぇ。チビすけ」
「んな!?」
立ち上がりかけるアウラに対し、くるりと背中を見せるとシャルティアは続けた。
「でも、一応礼は言っておくでありんす」
「最初から素直に言いなさいよ。全く! 世話が焼けるんだから」
その言い方が妙に姉ぶっているようで癪に障るが、今は何も言わないでおく。
吸血鬼の白い肌はダークエルフよりよっぽど赤が目立つのだから。
「それにしても趣味でありんすか。ん~わたしの趣味って人間とかあの子たちを虐めて遊ぶくらいしかありんせんのよねぇ。後はお風呂に入るくらい」
ここのお風呂ではなく、自室での話だ。
仕事が無く誰とも休みが被らないときはシャルティアは大抵自室で
あれを虐めるための道具などならいくらでも思いつくのだが、それを人間達に売ることはさすがに出来ないだろう。
「アンタって」
後ろからは呆れたような声が聞こえるが無視して、シャルティアは更に考える。
「趣味、特技、あたしだったら、んー。あ!」
アウラが突如として大きく声を出し、シャルティアはそれに釣られて僅かに後ろを振り返りアウラを確認する。
「何だぇ?」
「あたしも一つ思いついた」
「んなぁ!!」
「あはは、ごめんね」
「どうせチビすけの考えなんて大したことないでありんしょう? 分かっていんすからね!」
「なによ! 何も思いつかないアンタよりマシでしょ!」
「この! せっかく見直してやったのに!」
「そっちが先に突っかかってきたんでしょ?」
互いに立ち上がり、向かい合う。
剣呑な空気が周囲に立ちこめ膨れていく。
もう一押し、何かがあれば爆発するというところで、アウラの視線が微かに動きシャルティアの背後を捉えた。
「止め止め。ここで暴れたらまたあれに襲われるよ」
あれとアウラが指したのは精巧に作られたライオンの像、口からはドバドバと湯が流れ込んでいる。
「うっ」
以前アルベドも含めた三人でお風呂に入っているときに、アルベドがお風呂に飛び込むというマナー違反を犯した為に襲いかかってきたのだ。
その時は迎撃に出たものの、後にあれを創ったのが至高の四十一人の一人、るし★ふぁー様であると知り、三人揃って主人に謝罪をした。
主人は笑って許してくれたが、至高の御方が創ったゴーレムを攻撃するのはナザリック内では大きな問題であり、あの後デミウルゴス達から冷たい視線を送られたことも記憶に新しい。
その後主人は危険性を考えあのゴーレムを取り外す、もしくは改造し動かなくするようにすると言っていたが、至高の御方がお作りになったこの空間を一部とはいえ自分たちのために変えることなどあってはならないと皆で懇願し、風呂の中ではマナーをきっちり守ることを約束し、現状維持となっているのだ。
仕方ない。と無言で再びお湯の中に入るとアウラも続く。
気まずさに耐えかね、シャルティアは再びライオンの像に目を向けた。
素手で攻撃力が落ちていたとはいえ守護者たちの攻撃を受けても破壊されなかったあのゴーレム。
流石は至高の御方が創ったゴーレム。
(ん? 創った?)
不意に頭の中で何かが閃光のように瞬いた。
「どうしたの?」
「ちょっと黙って!」
郭言葉を使うことも忘れ、シャルティアは考える。
遡る記憶は主人に命じられ、王都に向かう途中だったセバスと合流したときのこと。
その後記憶が途切れてしまうため詳しくは覚えていないが、あの都市。現在は主人が冒険者モモンとして生活しているあの都市で見かけた記憶が朧気ながら存在する。
見窄らしい
それが妙に仰々しく飾られていた。ゴーレムとはナザリックではコロシアムの観客にも使われている程度のものだ。あれほど大事そうに飾るとは。と改めてナザリックの素晴らしさと、人間どもの拙劣さを実感したものだ。
(ゴーレムクラフターのクラス持ちならゴーレムは作れるはずでありんすよね? ナザリックにもいるはず。人間どもが
シャルティアは浮かんだアイデアを逃すまいと必死に頭を回転させる。
「これでありんすぇ!」
「だから騒がないでよ!」
思わず声を張り上げたシャルティアの背後から情けない声が響き、その直後。
再び動き出したライオンの像を今度は攻撃するわけにはいかないと、必死になって逃げる守護者二人の姿がそこにはあった。
今回はシャルティアの話
シャルティアはかなり使いやすく好きなキャラなので今後もちょくちょく出すと思います
次の話は12巻を読んだ後になると思うので少し遅くなるかも? まだ分かりませんが