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科学

ベーコンに殺される…|専門家が証明するその危険性

From The Guardian (UK) ガーディアン(英国)
Text by Bee Wilson

Photo: Tannis Toohey / Toronto Star / Getty Images

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「身体に悪い」と思いながらも、カリカリでジューシーなベーコンの美味しさを断ち切るのは難しい、という人は多いだろう。加工肉を食べ続けることは、本当に「命の危険」に関わるのか? 英紙記者による長編ルポを前後編でお届けする。

ある小さなカフェの常連だった時期がある。その店のベーコンサンドイッチが、よそとは一線を画す絶妙な美味しさだったのだ。パンとベーコンとソースだけの無駄のない一品を頬張るのは、面倒なことを一切合切忘れて、快楽に浸れる瞬間だった。

ところがある日、突然、このベーコンサンドを食べることが、さほど楽しいものでなくなってしまった。というのも2015年10月、「ベーコンはがんの原因になることが実証された」という報道が駆け巡ったのだ。

米誌「ワイアード」の記者は「インターネットを何よりも炎上させるのは『ベーコン』と『がん』という2単語の組み合わせなのかもしれない」と書いた。BBCはウェブサイトで「加工肉には発がん性がある」と冷静を装いながら報じたが、タブロイド紙「サン」には「ソーセージはダメったらダメ!」「キッチンに潜んでいた殺人鬼!」などの見出しが躍った。

ホットドッグ1日1本で…


こうした報道のきっかけとなったのがWHO(世界保健機関)だった。WHOが、発がん性の評価で加工肉を「グループ1」に分類したと発表したのである。それは研究者が、加工肉に発がん性(とくに大腸がん)があると充分な根拠をもって結論づけたということだ。

警告の対象となったのは英国のベーコンだけではない。イタリアのサラミ、スペインのチョリソ、ドイツのブラートヴルストなど多数の加工肉が問題視されたのだ。

健康不安を煽るニュースが二束三文で濫造されていることは、私でも承知している。だが、WHOの発表は10ヵ国から集まった22人のがんの専門家の勧告にもとづいたものだ。加工肉に関する研究論文400本以上が精査され、数十万人の患者のデータが考察されたわけである。

「加工肉を食べる量を減らそう」は、「野菜を多く食べよう」と同じくらいエビデンスにもとづいた食生活改善のアドバイスになったといっていい。加工肉は、アルコールやアスベスト、タバコなど120種ある発がん性物質の一つに認定されたのだ。

WHOの発表によれば、加工肉を1日に50g食べていると、死ぬまでに大腸がんに罹患する確率が18%上がるという。50gはベーコン2〜3枚、あるいはホットドッグ1本分だ。

自分ががんに罹患する確率が5%から6%程度に上がると聞いただけでは、ベーコンサンドを永遠にあきらめようと思う人は少ないかもしれない。だが、加工肉のせいでがんの死者数が世界全体で年間に3万4000人も増えていると聞いたらどうだろう?

英国のがん研究機関「キャンサーリサーチUK」の試算によると、英国人が加工肉や赤肉を一切食べなければ、がんに罹患する患者の数が毎年8800人減るという。この数は、英国の年間交通事故死者数の4倍である。

食品業界も反論


WHOの発表後、ベーコンやソーセージの売上が激減する期間が数週間続いた。英国のスーパーマーケットは、たった2週間で売上が300万ポンド(約3億8700万円)減ったという。

その後、報道の第二波が押し寄せた。その主要なメッセージは「パニックはやめよう」。まずベーコンと喫煙を同等に論じるのは適切でないことを指摘する報道が相次いだ。

両方とも健康に害をもたらすことは同じだが、その「危険度」が異なるというわけだ。わかりやすく言うと、肺がんの86%が喫煙に関連しているのに対し、加工肉や赤肉に関連している大腸がんは21%に過ぎない。

WHOも発表の数週間後、「あれは消費者に加工肉を食べないように勧告したものではない」と釈明した。

その間、食肉業界も、WHOの発表に注目すべきところは一切ないと強弁することに大忙しだった。食肉業界のロビー団体「北米食肉協会」は、WHOの発表について「芝居じみた、大げさな勇み足」と評した。

さまざまなメディアに「がんに罹患するリスクがほんの少し高まるだけだというのに、ベーコンを食事から一切なくそうとするのは拙速な判断だ」といった内容を、いかにも常識人ぶって説く記事が多数掲載された。

警戒すべきピンク色


それから3年。いまの加工肉の状況は、WHOの発表の前に戻った観がある。英国人の大半は、最初のショックから立ち直ったといえばいいか。英国におけるベーコンの売上も好調で、2016年半ばまでの2年間で5%も上昇している。

しかし、ベーコンとがんのつながりを示すエビデンスは増えるばかりだ。2018年1月には英国人女性26万2195人のデータを使った大規模な研究の結果が出た。それによると、1日にベーコンを9g(これはベーコン1枚に満たない分量)食べるだけで、その後の人生で乳がんに罹患する確率が有意に上昇する可能性があるとのことだ。

この研究のリーダーを務めたのはグラスゴー大学保健健康研究所のジル・ペル。加工肉を一切食べるなと勧告するのは逆効果になる懸念はあるものの、保健当局が加工肉の安全な消費量として「ゼロ以外」の数字を出すのは「不適切」だと論じている。

実はこのベーコン騒動には、もっと騒がれてしかるべき事柄がある。

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