“面白さ”を追求したら
生き物みたいな会社になった

「つくる人を増やす」カヤックの組織戦略

創業時の思い「仲間と面白い会社をつくろう」と、経営理念「つくる人を増やす」を追求していくと、アジャイル組織になっていた面白法人カヤック。事業は徐々に、広告やPRの受託開発、ソーシャルゲーム、ブライダルなどと幅広く膨らんでいくが、組織構造はフラットで、意思決定は現場で下されている。存在目的を重視し、自主経営を徹底しながら、全体性を確保している同社は、いま注目されている生命体型の「ティール組織」に近い。アジャイルな組織構造や人事制度の特徴と形成の経緯を、創業者が詳述する。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年7月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。

「何をするか」より
「誰とするか」「どこでするか」

 カヤックは1998年に合資会社としてスタートした。その後、株式会社化し、2014年には株式を上場したが、僕たちは創業以来、面白法人カヤックと名乗っている。

 会社設立に当たっていろいろ調べているうちに、会社も法的には「法人」という人であることがわかり、ならば「面白い人にしよう」と、面白法人という言葉が生まれた。

 直感で紡ぎ出した面白法人という言葉であったが、何度となくこの言葉について考えた結果、いまでは3つの思いを込めている。

 第一は、「まずは自分たちが面白がろう」。みんなが面白がって働いていれば、毎日会社に行くのが楽しいはずだ。そのために、さまざまな工夫をしている。たとえば、社員一人ひとりに「自分が面白く働けているか」を10段階で評価してもらい、チームの面白指数として見える化し、数値が低いチームはもっと面白く働けるよう改善に取り組んでもらう。社員には自分自身が面白がることの達人になってほしいと考えている。

 第二は、「周囲から面白い人といわれよう」。自分たちがつくり出している事業、あるいはカヤックという会社そのものが面白いと思ってもらえる実力をつければ、世の中に影響力を持った存在になれるはずだ。サイコロを振って給料を決める「サイコロ給」、国内外に住居兼オフィスを一定期間借りて仕事をする「旅する支社」、社員と株主とのブレスト(ブレインストーミング)なども、そうした発想から生まれた。

 そして、第三は、「誰かの人生を面白くしよう」。自分たちが面白がるばかりでなく、世の中に一人でも多く、面白がる人を増やすことで社会を変えていきたい。株式を上場したのも、それが目的だ。

 カヤックを設立した時に、「何をするか」は決まっていなかった。創業メンバーである大学時代の同級生3人で、「仲間と面白い会社をつくろう」。決まっていたのは、それだけだ。

「何をするか」より、「誰とするか」。その経営理念を掲げて20年が経つ。いまでこそ当然のように受け入れられるこの考え方も、創業当初は不思議がられることが多かった。会社というのは事業を遂行するために存在するもので、「誰をバスに乗せるか」といった人材戦略の話はあっても、「誰とするか」が事業に先行することはありえないというわけだ。

 しかし、「誰とするか」にこだわると、「何をするか」も自然と決まっていく。カヤックの社員数はいま300人弱だが、メンバーが増えてもその方針は変わらない。採用の基準は突き詰めて言うと「その人と一緒に働きたいか」「一緒に働くと面白そうか」という点に尽きる。

 最近では、面白く働くためには「どこで働くか」も重要だと考えている。カヤックの本社は神奈川県鎌倉市にある。鎌倉は海と山があり、文化的施設が徒歩で行ける範囲に集中している。東京都心での打ち合わせにも日帰りで行けるので、不便はない。「こういう場所で働きたい」と思い、ここに本社を置くことにした。

 好きな場所で働いていると、それだけで幸福度が上がるし、その場所を好きな仲間が集まってくる。そうした従来の経済指標では計測されてこなかった価値を指標化したいと考え、鎌倉の仲間たちと、地域から始まる新しい資本主義として「鎌倉資本主義」を提案している。

「つくる人を増やす」

 面白く働くためには当然、「何をするか」も重要だ。その点で、創業メンバーの共通認識としてあったのが、クリエイティブなことがしたい、面白いものをつくって世の中に出したいということだった。

 それを社員が理解しやすいように言語化したのが、「つくる人を増やす」というカヤックの経営理念だ。

 何かをつくり出すことほど、創造的で面白い仕事はない。それがコンテンツやサービスに留まらず、「この会社は自分がつくっている」という状態になれば、みんなが面白がって仕事ができると考えている。

 人は自分が主体的に関わっている時のほうが楽しくなる。カヤックでは、社員自身がこの会社をつくっていると実感してもらえるよう工夫している。たとえば、半年に一度、社員みんなが社長になったつもりで会社のことを考える「ぜんいん社長合宿」。ここでは、朝から晩まで全員でブレストをして、さまざまなアイデアを出し合う。「つくる人を増やす」という経営理念も、この合宿で決まった。

 つくることは、自分の価値基準を見つめ直す行為でもある。あらゆることを自分のモノサシで見つめられるようになれば、他人からの受け売りではなく、自分なりに幸せになる方法が見えてくる。だから、つくる人を増やすことは、一人ひとりが幸せになる社会につながっていくと思う。

 さらに、つくるという行為の先には相手がいて、その人からの反応がある。つくることによって人を楽しませたり、感動させたりすることができれば、「他人の喜びが、自分の喜びになる」という感覚を知ることができる。それが、「社会の喜びを生み出そう」という気持ちにつながっていけば、社会はきっとよくなるだろう。

 つまり、「つくる人を増やす」という経営理念は、カヤックという法人が「何のために生きているか」を表す言葉でもあるのだ。

 カヤックは利益を出すことを目的に存在しているのではない。上場企業であるし、利益を出すことはもちろん必要だが、それはつくる人を増やすことによって社会に貢献した対価として得られるものだと考えている。そういう思いで取り組まなければ、よい仲間は増えない。

 では、具体的にカヤックはどんな事業をやっているのか。現在は、広告やPRの受託開発を行う「クライアントワーク事業」「ソーシャルゲーム事業」「ゲームコミュニティ事業」が柱で、そのほかesports(エレクトロニック・スポーツ)事業、ブライダル事業なども手がけているが、事業内容としては「日本的面白事業」と説明している。

 以上のような、会社の成り立ちや経営理念、そして事業内容から結果的に、カヤックは、アジャイルな組織となり、アジャイルな人事制度を取っている。

 組織戦略ファースト

 では、「つくる人を増やす」ための組織とは、いったいどのようなものだろうか。個人が感じた面白さを表現し、おのおのが創造性を発揮するための組織戦略とは何か。

「どんな人と、どんな信念で、どんな組織をつくるか」、そのことを常に自問してきた。極端な話、その組織戦略さえしっかりと描けていれば、事業は何だってかまわない。そう考えるのが、カヤックの本質だといえる。

「つくる人を増やす」を経営理念とするカヤックは、クリエイターの集団である。ディレクター(企画担当者)、エンジニア、デザイナーの3つの職種で社員の94%が構成されている。クリエイターたちが面白がって生み出したコンテンツやサービスを、ライフサイクルや成長スピード、事業全体のポートフォリオなどの観点から判断し、的確にリソース配分していくことが、カヤックの事業戦略となる。

 ここからは、カヤックの組織構造と人事制度、組織文化についてより具体的に説明していこう。

組織構造

「生態系」という組織観

 法人も人であり、組織は人の集団である。だから、僕たちは創業当初から組織を生き物としてとらえてきた。

 最近、『ティール組織』(英治出版)という本が注目を浴びている。著者のフレデリック・ラルーは、人類誕生以来の組織の発達過程を分析し、複雑な階層組織、コミュニティ型組織の時代を経て、現在は生命体型組織が誕生しつつあり、これを進化型(ティール)組織と呼んでいる。組織を生き物としてとらえる視点は、僕たちと共通しているかもしれない。

 かつて人体は脳の命令によって動くと考えられていた。しかし、最新の生命科学は、脳だけでなく腸などの内臓や筋肉、骨などの各部が独自にメッセージ物質を発し、その情報交換によって生命を維持したり、活動したりしているメカニズムを明らかにしつつある。つまり、脳を頂点とする階層構造ではなく、フラットでかつ複雑に絡み合うネットワーク構造なのだ。

 カヤックの組織構造もそれに近い。組織内での肩書きは極端に少なく、僕を含めて取締役はいるが、取締役が命令系統や意思決定をつかさどっているわけではない。社内の正式なプロジェクトチームにはリーダーであるプロデューサーがいて予算を持っているが、プロジェクトが終われば、プロデューサーという肩書きも予算もなくなる。

 経営上の問題とか、組織運営上の課題などに気づいた社員は、どうすればその課題を解決できるか自分でアイデアを出し、仲間を募って解決策を練り、周囲を巻き込んでパイロットプロジェクトを実行する。その過程で上司の判断や決裁を仰ぐわけではない。

 試行がうまくいけば会社の正式なプロジェクト、ないしは社内制度として採用することもあるし、うまくいかなければ自然消滅する。自然消滅したからといって、それを失敗だととがめる者はいない。みんなでアイデアを出し合い、とりあえずやってみる。そして、みずから変化を起こすという文化が浸透しているからだ。

 ラルーは、ティール組織には3つの特徴(彼はそれを突破口と呼んでいる)があると指摘しており、その第一として「自主経営」(セルフマネジメント)を挙げている(他の2つは、「全体性」と「存在目的」)。これに当てはめるなら、カヤックはまさに自主経営の会社であり、肩書きや権限に頼ることなく、社員一人ひとりのアイデアや仲間との関係性によって会社が動いている。

人事制度

「ぜんいん人事部」

 カヤックの組織を、脳を頂点とする階層構造ではなく、フラットに絡み合うネットワーク構造としての生物のメカニズムに例えた。そうした組織における人事施策には、いくつかの大きな柱があると思っている。その柱の一つ目が、「ぜんいん人事部」という制度だ。

 カヤックでは、全社員が人事部に所属している。「採用」「評価」「給与査定」に全社員が関わりながら、面白く働ける組織をつくっている。この制度は、「つくる人を増やす」ための組織を追求していく中で生み出された制度である。一人ひとりにとって心地よい生態系をつくっていくならば、働く環境や制度の構築・整備は、組織の住人たちに委ねてしまうのがよいのだろう。そのような考えから、「ぜんいん人事部」は生まれた。

 一人ひとりが一緒に働きたい人を採用し、一緒に働いている人を個人の見解で評価する。職責や階層に依らずに、互いがともに働く仲間として、心地よい組織を考案する。権限と機会を提供することで、全員が自分の組織を主体的に考える。全員が業務を遂行しながら、その時々に感じた必要性を即座に組織にフィードバックする。その意味で「ぜんいん人事部」はアジャイル人事といえるかもしれない。

 個と組織をつなげる対話インフラ「ブレスト」

 2つ目の柱は「ブレスト」である。カヤックにおいて、ブレストは単なる手法に留まらない。

 さまざまな制度も新しい事業も、ブレストがそれを生み出す原動力になっている。それだけでなく、ブレストは面白がる体質になるために必須のトレーニングでもある。

 カヤック流のブレストで大事にしているのは、次の2つだ。

 (1)他人のアイデアに乗っかる。
 (2)アイデアを数多く出すことが最優先。

 ブレストをやっていると、不思議なことが起こる。ブレストで出てきたアイデアを、そのブレストに参加した全員が「自分事」として認識し始めるという現象である。そこで生まれたアイデアは、多数の参加者が「乗っかる」ことで生まれたものなので、特定の個人が生み出したものではない。しかし、ブレストに参加したメンバー全員が「つくる」ことに関わり、当事者として考え始める。つまり、ブレストにおいては、一人ひとりが自分を表現しながら、「チーム脳」ともいうべき集団的な共創エネルギーが生まれるのだ。

凡才の集団は孤高の天才に勝る』(ダイヤモンド社)という著書で、米国の心理学者キース・ソーヤーは、孤高の天才などは神話にすぎず、画期的なイノベーションを生み出すのは集団から生まれる天才的発想「グループ・ジーニアス」であると述べている。カヤックのブレストは、まさにグループ・ジーニアスを生み出す営みとなっている。

 近年はM&Aを通じてカヤックのグループに入る会社が増えてきた。グループ会社にカヤックの価値観を一方的に押し付けるようなことは慎んでいるが、ブレストだけはグループ共通の文化にしたいと思っている。

 何か困ったことがあった時、新しいことを一緒に始める時は、まずブレストからスタートする。それにより、一人ひとりの個性を大事にし、オープンでフラットな文化が浸透していく。ブレストそのものが、異なる文化を融合させる潤滑油の役割を果たしているのだ。

 給与はサイコロを振って決める

 カヤックが何をやっている会社かは知らなくても、サイコロで給料を決めている会社ということを知っている人はいるかもしれない。

 カヤックでは給料日前に全社員がサイコロを振り、「基本給×サイコロの出目÷100」が給与に上乗せされる。基本給30万円の人がサイコロで6を出せば、1万8000円がプラスされるわけだ。

 人間が人間を評価するのは難しいもの。フェアな人事評価システムが求められるが、そもそもフェアの定義が人によって違う。そして、いかに公平に査定しても、感情の揺れ幅に影響されることもある。人事査定なんて、評価する人間の感情や運で変わるもの。その振れ幅なんて、サイコロで給与を決める振れ幅と大して変わらないのではないか。カヤックの社員にはぜひとも面白く働いてほしい。だから人の評価なんて気にするな、そんな思いをこの「サイコロ給」に込めた。

 ちなみに、基本給は社員の相互評価によるランキングで決めている。デザイナー、エンジニアといった職種ごとに、一人の対象者を同じ職種の20人が評価する。自分自身も20人から評価されるわけだ。

 評価の基準は「自分が社長だったら、誰にたくさん給料をあげたいか」。採用と同じで、ここでも細かい評価項目は決めていない。結局は評価者一人ひとりの主観なのだが、一人の上司が評価するより、20人で互いに評価し合ったほうが納得感・公平感が高い。それは、一人ひとりの主観の集まりが、その組織が一番大事にしている価値観と一致するからだと思う。

 そして、ランキングの結果はすべてオープンにしている。年2回行われる360度評価も同様だ。誰が誰にどのような評価やコメントをしたのかは、すべて透明にしている。評価プロセスは主観に基づくものなので、一人ひとりがなぜそういう評価をしたのかを明確化することはできないが、結果をオープンにすることで、集合知としての価値観はよくわかる。

 一方、人にとっての報酬は給与だけではない。より高い役職で仕事がしたいと思う人もいる。

 給与と役職の評価制度は異なる。相互評価で上位にランキングされて、プロデューサーや職種のリーダーより高い給料をもらっているクリエイターはいくらでもいる。では、プロデューサーやリーダーはどうやって決まるかというと、最初はオーナーとしてプロジェクトを立ち上げた人がなる。

 だが、チームリーダーが面白がって仕事をしていないと、その下で働くメンバーも面白くない。そこで、メンバー一人ひとりに「自分が面白く働けているか」を10段階で評価してもらい、面白法人指数として数値化し、これも公開している。冒頭で述べたように、この数値が低いチームのリーダーには、みんながもっと面白く働けるよう改善に取り組んでもらう。それでも、指数が改善しなければ、リーダー交代となる。

 つまり、最も面白がって働いている人、一緒に働く人を面白くさせることができる人の役職が、上がる仕組みだ。

 ちなみに、先日、新たに2人の社員が執行役員に昇進した。しかし、カヤックには相互評価によるランキングはあっても、役員昇進の明確な基準はない。昇進したから連動して報酬が上がるわけでもない。さらに言えば、役員人事が社内で公表されることもあまりない。多くの社員は、誰が執行役員なのかさえ、知らないのではないか。

 では、どのように役員人事が決まるのかと言えば、「何となく」全員の意見が一致して選出される。これは、その方法が存在していない組織にいる人々にとっては不思議でならないようだが、「何となく決まる」「空気で決まる」というのも、意思決定のフローの一つの型である。ティール組織における意思決定フローにも共通するかもしれない。

 採用活動もコンテンツである

 カヤックはこれまで、いろいろな面白採用キャンペーンを行ってきた。たとえば、応募者がインターネットで自分の名前やハンドルネームなどを検索し、その検索結果がそのままエントリーシートになる「エゴサーチ採用」、ゲームのうまさで内定を決める「いちゲー採用」、卒業制作や卒業論文などつくったもので選考する「卒制採用」などだ。

 この背景には僕たちが採用活動を楽しみたいという思いと、こうしたオリジナルの採用方法を面白がる人かどうかでスクリーニングをかける狙いがある。

 面接での選考基準は、「その人と一緒に働きたいか」「一緒に働くと面白そうか」ということだけ。一般的によくある「協調性」とか「積極性」「主体性」など統一の評価項目は、いっさい決めていない。

 面接官を集めたワークショップで、会社として「ここを重視してください」という具体的な指示はしない。その代わり、「一緒に働きたいか」「一緒に働くと面白そうか」を判断するために、どんな質問をし、どんな点を評価するかを自分で考えてもらう。それを徹底的に考えさせないと、いい加減な採用になってしまう。実際にどんな質問をするかは本人の自由だ。

 結果的には、面接官との会話がブレストのようになっている人が合格しているケースが多い。たとえば、「入社したら何をしたいですか」という質問に対して、面白いことが好きな人はいろいろなアイデアを出してくる。そのアイデアに対して、面接官が「こうやったら、もっと面白くなるかもね」と乗っかり、予定調和ではないコミュニケーションがどんどん発展していくようなケースだ。一つの質問で何かを見極めるのではなく、ブレストが盛り上がるかどうかが事実上の選考基準になっているといえるかもしれない。

 僕は「面白法人は会社運営そのものがコンテンツなんだ」と社員に言っている。採用活動もみんなから面白がってもらえるコンテンツにしたいといろいろアイデアを出し合ってきた結果が、いまの採用制度になっている。

 育成制度はないが、仕組みはある

 カヤックには、社内研修制度というものがない。自分の意思で社外の研修を受ける社員はいるが、会社として推奨しているわけではない。

 だが、社員の成長を促す仕掛けはたくさんある。それらは日々の仕事と一体不可分になっているので、「これが仕事で、ここからが研修」と切り分けられないのだ。

 新規採用者のオンボーディング・プロセスについて説明すると、内定者は入社前のファーストブレストを社員と行う。内定者とキャリアが似ている現場社員と一緒にブレストすることで、「カヤックでできること」や、社内にどのような成長機会があるかを知ってもらうことが目的だ。

 入社後の最初の仕事は自分の名刺づくりだ。漫画っぽい面白さを大切にするカヤックでは、社員一人ひとりの名刺に漫画風の似顔絵が描かれている。新入社員はわずかだが予算を与えられ、どんな似顔絵を誰に描いてもらうか、自分で考えて発注する。カヤックにおいて「つくる人」になるファーストステップだ。

 そして、新入社員はいろいろなブレストに参加する。カヤックでは公式なプロジェクト、非公式なプロジェクトが同時進行でいくつも走っており、頻繁にブレストを行っているので、新入社員が参加できるブレストはいくらでもある。

 多くのブレストに参加することで社内ネットワークが広がるし、カヤックにおける発想法、意思決定プロセス、事業の進め方が自然と身についていくのだ。

 そもそもカヤックのプロジェクトは自分がやりたいと思った社員が始めているし、それに参加するかどうかも基本的には本人の自由。だから、そのプロジェクトを面白がれる人しか参加していない。面白いと思っていることを学ぶことは苦痛ではないし、学習スピードも速い。だから、社員の成長が加速する。

 カヤックには定期的な人事異動というものがない。プロジェクト単位で仕事が進んでいるので、プロジェクトが終わればチームは解散し、メンバーはまた新しいプロジェクトに参加する。

 プロジェクトメンバーをどうアサインするかは、公式プロジェクトについてはリーダーであるプロデューサーが決めている。「このプロジェクトにはあの人が必要だ」と思う社員に声をかけ、本人がOKすればそれで決まりだ。「このプロジェクトに参加したい」と自分で手を挙げる人もいる。その結果、ソーシャルゲームとクライアントワークなど事業部を横断する異動も頻繁に発生している。

 公式、非公式なプロジェクトがたくさん走っていて、社員同士の接点が多いので、「誰がどんな強みを持っているか」は互いによくわかっている。だから、社内労働市場は常に活性化していて、流動性が高い。

 そういう仕組みの中で、さまざまな仕事を経験することが、一人ひとりのキャリア形成につながっている。

組織文化

 失敗を許容する文化

 組織文化はどうやってつくるのか。僕は3つしかないと考えている。1つ目は評価、2つ目は制度、そして3つ目がエピソードだ。キリスト教に聖書があり、国が神話を必要とするように、物語を共有することが重要だと思う。

 カヤックには「みんなの情報ポータル」というイントラネットがある。ここでは業務手順のほか、社員の成功談・失敗談など特筆すべきエピソードを掲載している。

 なかでも社員によく読まれているのは、失敗についてのエピソードだ。カヤックが手がけているネット上のコンテンツやゲーム、スマホアプリなどの分野ではスピーディな開発が求められる。いいアイデアが出たら、すぐにプロトタイプでPOC(概念実証)をして、クライアントやユーザーの声を聞きながら改良していく。その過程では多くの失敗も生まれるが、そこから学び、完成度を高めていくスピードが成否を決める。

 だから、カヤックでは失敗を許容し、チャレンジを称賛する文化も大切にしている。社員が失敗のエピソードをよく読むのはそのためだ。

 先ほど説明した人事評価制度とは別に、カヤックには成長のための自己評価制度がある。報酬を決めるための人事評価には反映されないが、半年ごとに自分がやった仕事や経験した失敗などについて書いてもらい、これもイントラネットで公開している。

 そこに他の社員がコメントを書き込む。僕は自分の成長より、仲間の成長にコミットする組織文化をつくりたいと考えていて、社員には「仲間を助ける力をもて。仲間に助けてもらう勇気をもて」と言っている。

 そもそも面白法人である以上、最も重要なのは、面白く働くことである。失敗したかどうかよりも、その経験さえ面白がって、仲間とカバーしながら成長していくことが何より大切で、結果はそれについてくるものだと思っている。

 僕たちは直感的に面白法人という言葉を思い付き、誰もが面白がって働ける会社を追い求めてきた結果、個人が自主的に動く生命体型の組織になった。これはたまたまかもしれないし、本能的に環境変化を察知していたのかもしれない。

 いずれにせよ、カヤックは今後も社員一人ひとりの自発性によって面白いものが生まれる生態系をつくることに、ひたすらこだわっていきたいと思う。

 

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