みずほ銀行の次期システム開発はなぜ炎上した?今さら聞けない合併・統合失敗の歴史【図解】

みずほ銀行の新システムが2018年にようやく完成し、移行スケジュールが示されている。みずほフィナンシャル・グループが発足した2000年から17年が経過したが、その間、みずほ銀行次期システム開発は、長らく経営の重しとなり続けてきた。富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行という三行合併の歴史を振り返り、混迷・失敗の背景を探ってみたい。

みずほ銀行の次期システム開発はなぜ炎上した?今さら聞けない合併・統合失敗の歴史【図解】

2017年10月24日の日本経済新聞に「みずほのシステム完成、金融界にも安堵」という題名の記事が掲載された。2012年から開発してきたみずほ銀行の新システムに目途が立ったという内容である。

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銀行統合の最大のメリットはシステム投資削減

みずほ銀行の前身である、富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行は、それぞれが名門中の名門であった。

富士銀行は安田財閥の流れをくむ都市銀行であり、合併当時で130年以上もの歴史を誇る日本最古の銀行の一つである。

第一勧業銀行は、旧第一銀行と日本勧業銀行の合併により預金量で世界最大となったこともある。日本興業銀行は、戦後の日本復興に長期資金を提供する「長期信用銀行」であったため、特に優秀な人材が集まることで有名だった。

それぞれが企業グループを形成し、多くの子会社を持つ巨大組織だったわけだが、そんな巨大な三行が「対等な精神による合併」という名のもとに「みずほフィナンシャルグループ」を発足させたのが、2000年のことだ。

そもそも、銀行が合併する最大のメリットは「重複するコストの削減」である。海外の金融機関であれば、合併時に大規模な人員削減を行うことは珍しくないが、日本では経営が著しく不振でない大企業が人員削減を行うことは難しい。よって、コスト削減の本丸は「人件費」ではなく「システム投資の削減」となる。

なぜシステム投資なのかといえば、金融機関のシステム投資額がとにかく膨大だからである。IT調査会社のIDCによれば、全世界のシステム投資のじつに30%が、金融機関によってなされているという。

金融機関の数は、製造業などの他の産業の企業数に比べれば圧倒的に少ないことを考えると、一社(一行)あたりの投資額が膨大であることが容易にわかる。

金融業は、製造業のように工場を設立するわけでも、部品を調達するわけでもない。「お金というデータ」を厳格にやり取りする、いわば「システム装置産業」だ。預金残高が1円でも間違えることは許されないため、高い信頼性を担保すべく膨大なシステム投資を行っている。

大規模な銀行になると、年間数百億円というシステム投資額は一般的だ。もしみずほの前身である三行のシステムをすべて維持するのであれば、単純計算で3倍かかる。これを合併により1つに統合すれば、3分の1とまではいかないまでも、システム投資額が大幅に削減できる。

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次期システム統合失敗?のアダとなった「三行対等の精神」

銀行の合併においては、「合併する側のシステムを残し、合併される側のシステムを廃棄する」のが一般的である。業務においても、システムにおいても、合併する側にすべて合わせて統制を保つことでコスト削減が実施できる。実際、他のメガバンクである三菱東京UFJ銀行や三井住友銀行の合併においては、この原則が踏襲されてきた。

しかしながら、みずほにおいてはこの「三行対等の精神」がボトルネックとなったのだ。強者が弱者を合併するのであれば、どのシステムを残すかが明確だが、三行対等とお互いを立ててしまったために、リーダーシップの取り方が不明確になった。

その結果、三行を一行にしてコストを削減するのではなく、三行が合併した結果「みずほ銀行」と「みずほコーポレート銀行」という2行が新たに誕生するという中途半端な幕開けとなった。

この「中途半端」の下には、各銀行、情報子会社、そして各銀行のシステムを担当するベンダーの暗闘があった。

情報システム部門に配属された銀行員は、自分が担当しているシステムがなくなれば担当業務もなくなってしまう。このため、銀行にはいられなくなり、子会社への転籍を余儀なくされる。

銀行員が子会社に転籍すると、年収が3割下がるのが一般的だ。情報システム子会社の社員は、仕事がなくなれば銀行員より少ない年収が減少したり、会社ごと売却される可能性もある。

実際に、旧さくら銀行の情報システム子会社だった「さくら情報システム」は、三井住友銀行の誕生により、システムが住友銀行側に片寄せされたことで仕事がなくなり、売却されてしまった。

そしてIBM、富士通、日立といったITベンダーにとっては、担当してきた銀行のシステムがなくなれば、年間数百億円のビジネスがなくなるのである。

ベンダー社内で銀行のシステムを担当する社員は、年間の扱い額が大きいことから「出世コース」である。しかし、システム案件を失ってしまえばビジネスがなくなり、出世コースから外れることにもなり得る。

「旧三行のプライド」といったものの下には、もっとドロドロした個人的な感情や生活が渦巻いているのだ。