「他称しばき隊リンチ事件」がどうたらこうたら その2
前回エントリ http://kdxn.tumblr.com/post/174725678860/ のつづき。前回は第2準備書面にまとまっているものを掲載したが、ここではその他の書面に含まれていた「他称しばき隊リンチ事件」に関連する箇所を抜粋する。
主なポイントは次の2点。
(1) 室井幸彦は暴行事件の3か月も前から「エル金は逮捕されればいいのに」などと言っていた(第1準備書面)。
(2) 室井幸彦は2016年の冬になっても「エル金は右翼からカネをもらっていたかもしれない」と主張していた(第3準備書面)。
第1準備書面(2016年9月22日)
第3 プライバシー侵害、名誉毀損、侮辱等の不法行為の成立について
4 甲4のツイートについて。
(1) (略)
(2) 室井が「デマをも活用し気に入らない人物を貶めようとそのデマを吹聴した」のは事実であるから、真実性の抗弁により名誉毀損の違法性は阻却される。室井は室井が「リンチ事件」と称する暴行事件の約3か月前、後に暴行事件の加害者となる2名について「逮捕されればいいのに」と言うなど悪感情を抱いていたことが、第三者の陳述書によって明らかになっている(乙⑪号証)。この陳述書は、弁護士Fによって行われた聞き取りを記録したものである。また、同様にF弁護士によって行われた別人への聞き取り陳述書(乙⑫号証)によれば、まったくの第三者であるAが、後の暴行主犯であるエル金について「右翼からカネをもらっている疑いがある」とするデマを知っていたことがあきらかとなっている。
13 甲13のツイートについて
(1) (略)
(2) このツイートには「エル金が室井をしばいたことで」と明記されているように、暴行事件の存在自体を否定するものではなく、それが「リンチ」であるという主張に異を唱えるものである。
室井は一貫して暴行傷害事件を「リンチ」と呼んでいるが、これはネット上で2015年12月頃から「十三ベース事件」などと、あたかも連合赤軍の山岳ベース事件を想起させるかのような名称で流布されていたさまざまな流言飛語(乙⑬号証)を踏襲している。ところが実際には、この事件は梅田で起きたものであって十三は何の関係もなく、また「十三ベース」(ベースとは基地のこと)と呼ばれるような場所も実際には存在しない。しかし、ネット上の流言飛語においては、あたかもどこかのアジトに室井を呼び出して集団で暴行したかのような印象操作が行われていた。室井はそうしたネット上の流言飛語を利用して、カウンター運動そのものの組織的な動きであったかのような印象を与えるために「リンチ」という言葉を多用しているのである。
カウンター運動に参加している多くの人が自身のあずかり知らぬ事件について、隠蔽しただの組織としての自浄作用等を求められているという現状にあって、こうした「リンチ」というフレームアップを容認することはできない。
なぜなら、在日朝鮮人の犯罪事件や暴行事件は個人的な動機にもとづくものであってもしばしば総連や民団といった民族団体の組織的体質に結び付けられ、それが在日という属性そのものを非難する民族差別的言説を喚起してきたことは、論を待たないからである。実際にこの暴行事件をめぐっても、同様の言説はネット上に溢れているのであり、本来ヘイトスピーチに反対するカウンター運動に参加してきた室井はそうしたものにきちっと対抗すべき立場であるにもかかわらず、あろうことかそうした論調を利用して暴行加害者だけでなく、カウンター運動そのものを貶め、復讐しようとしているのである。これは、逆恨みと言わざるをえない。
そうしたことが「リンチなどあったのか?」という問いかけに表れているのであって、暴行事件をすなわちリンチ事件であるとする立場に野間は立っていない以上、そこに論争が生じるのは当然である。これらについて、言論で対抗することなく不法行為責任を問うことは、表現の自由の観点から言っても決して容認することはできない。
(3) (略)
第4 答弁書に対する反論への再反論
1 答弁書第2の1 (2) について
「これはリンチではなく単純な暴行にすぎない」をはじめとして、野間がネットや本件訴訟で主張してきたことのほとんどすべてについて、暴行事件主犯がこれまで主張した事実はない。暴行事件の加害者は刑事裁判で罰金刑となり罪を償ったところ、これから民事裁判でも損害賠償を請求される立場であり、事件については沈黙を守っている。また、公でない場においても暴行事件主犯が野間と同様の主張をしている事実は確認できない。
一方で、暴行事件の主犯および刑事事件で不起訴(すなわち無罪)となった人々についても、ネット上や雑誌上などで一方的に「リンチ事件」の加害者として非難されているという状況がある。そしてその多くは、レイシズムを含む非難である。
すなわち暴行事件をきっかけに、別の「ネット私刑」が行われていると見るのが妥当であって、そのことの不当性を唱えることは元の暴行事件を擁護することにはあたらない。
2 答弁書第2の2について
上記第3の13(2)および、第4の1で述べた通り、野間が了知していたのは「リンチ事件」ではなく、暴行傷害事件である。したがって、答弁書第2の1(2)において「暴行事件直後から」と記述し、事件の存在を認めていることになんの矛盾もない。
また、室井への問い合わせをツイッター上で行ったのは、すでにこの暴行事件が「十三ベース」事件などと称した事実と大きく異なる事件として広くネット上で話題になっており、大衆の関心の的になっていたからである。室井はこの暴行事件について「リンチである」という認識で告発する意図を持っており、室井を支援する人々も関係者が事件について公の場で言及しなかったことを事件の「隠蔽」として問題にしていたのだから(乙⑭号証)、これを「知られたくない私事」として隠蔽したがる室井の行動は矛盾しており、支離滅裂である。
なお対抗言論について、室井は「閲覧者が一方の言論に対する対抗言論を確認するとは限らない」と主張するが、野間のツイートは回答期限を設けたものではなく、また、ツイッターは仕様上返信があれば通知が行く仕様になっており、訴訟を提起するよりははるかに容易に反対意見を提示できるのは自明である。
3 答弁書2の3について
(1) (略)
(2) ②について
第4の1で述べた通り、野間が暴行事件主犯の主張を代弁している事実はない。主犯金の主張は謝罪文等において暴行事件の非を認め罪を償うというものであり、それ以上のことを述べていない。また、室井は「真実の発見」が意図と言いながら、いまだに事件と関係のない地名を冠した「十三ベース事件」という用語を用いる弁護士・高島章を相談役に立てており(乙⑯号証)、これは室井がいまだにこの暴行事件をフレームアップして山岳ベース事件のような組織的リンチであったと印象づける意図を持っていることを示しているにほかならない。
金展克が辛淑玉からのメールの破棄を約束したにもかかわらず実際には破棄していなかったのであれば室井が第三者に提供したとは言えないが、金展克が虚偽を述べていた以上、その誤認はこちらの責任ではない。
第3準備書面(2016年12月12日)
第2 「各論」について
4 「甲4のツイートについて」への反論
(1) (略)
(2) 名誉毀損について 「室井がデマをも利用し気に入らない人物を貶めようとそのデマを吹聴した」のは事実であり(乙㉓号証)、そのことを摘示されて室井の社会的評価が低下したとしても、野間の責任ではない。
(中略)
また「(エル金は)逮捕されればいいのに」という室井の発言について、それが事実と確認されれば室井が暴行加害者の訴外エル金に悪感情を持っていたことは証明されるので、その理由についてあれこれ説明されたところでこれも争点とは無関係である。
さらに、訴外エル金の「金銭疑惑」について室井はいまだ「明らかでない」と主張するが、室井が疑惑を持った2014年12月からおよそ2年が経過してもその真実性はなんら証明されておらず、ほかにそうした疑惑を強化する事実も見当たらない。また、室井言うところの「クソ右翼」も含め、未だに「金銭疑惑」の存在を主張しているのは室井ただ一人である。
また室井言うところの「疑惑を持つにいたった合理的な理由」についても、もとから悪感情を抱いていた相手に対して邪推を重ねたという域を出ることはなく、そのことは室井と「金銭疑惑」について会話している第三者2人が、「疑問が残る」「ちと言いすぎやしないか?」「僕は乗らない」「カウンター側に金が流れたとか脅されたとかデマ飛ばすヤツがいるはず」等と室井の意見に疑問を呈し、あるいはそれをたしなめるような言動を取っていることからも明らかである(乙㉓号証)。したがってその疑いにはなんら合理性はなく、「室井がデマをも利用し気に入らない人物を貶めようとそのデマを吹聴した」との野間の記述は真実であると言える。
なお、室井は乙⑫号証をもってして金銭疑惑を関係者に流布したのは訴外Aであったと主張するが、乙⑫号証によればAは「室井がエル金が愛国矜持会の竹井から金を受領している、という話を凡にしたらしいです」と「半ば呆れながら」述べており、室井のように「どう考えてもエル金は臭い」「案外本当かもしれませんよ」「エル金を一切信用してません」等金銭疑惑の存在を強く肯定する内容のことを流布したのではない。また乙⑫号証に記載されている陳述によれば、その場で訴外Aの妻が「そんなことを言い出しているのであれば厳しく叱らないといけないよ」と述べているのであって、あらゆる意味で室井の論調とは趣を異にする。また、乙㉓号証のフェイスブックのグループメッセージにおける会話において「外では言わない方が良い」と室井をたしなめているのもAであり、むしろ「ここにいる人以外に一切大事なことは話さない」と言っている室井本人がその言に反してそれ以外の人間凡にも同様のことを伝えたことが、乙⑫号証および乙からはわかるのである。
5 「甲5のツイートについて」への反論
(1) (中略)
室井言うところの「リンチ被害」は刑事事件としては集団暴行事件(暴力行為法1条)ではなく暴行・傷害事件(刑法204・208条)として処理されたのであり、また実際に「リンチ」という言葉から想起されるような特定集団の共謀による計画的な暴行ではなかったのだから、それを「しばかれた」と表現することは単に事実を記述しているにほかならない。また、ある事実について「リンチ」の語を用いれば私生活上の事柄ではないが、それ以外の語を使えばそれが公表を欲しない私生活上の事柄になるという主張は荒唐無稽である。 そもそも訴状において室井は《リンチの事実》によって室井の《社会的評価が著しく低下させられた》と主張していたのだから、《リンチ「被害」とは異なる文脈において「しばかれた」という言葉を用いた》ことを問題にする意味が不明である。
(2) 名誉毀損について 室井が私的な悪感情からあらぬ疑いをかけ、それを複数人に吹聴した結果疑いをかけた本人を激怒させ暴行されるにいたったことについて、野間は室井に軽蔑の念を抱きつつも、暴行被害の原因が室井にあったとまでは思わないし、そのような主張をしたこともない。
ただし、加害者や関係者から謝罪文を受け取ったあとの行動について、野間は加害者とは全く違う立場で自由に論評する権利を当然に有している。とくに、暴行の現場にいた3人の在日韓国・朝鮮人にたいして一切の反差別活動から手を引くように室井が強要しようとしたことは、全く許しがたいと考えている。室井はこれを「約束を反故にしたことに抗議したのみ」と主張するが、そもそも無期限の「活動への参加自粛」「SNS等での発信の自粛」等を、現にヘイトスピーチの被害を受けている当事者たちに強いること自体が社会通念に照らして著しく不当である種の人権侵害であり、《「カウンター」を離れ、独自に差別やヘイトスピーチの問題に取り組む方途を模索して》いた室井が「カウンター」運動のリーダーとみなす在日当事者たちに対して必要以上にその活動を制限しようとしていたことは、運動上の主導権を奪取しようとしていたとみなされてもしかたがない。活動の自粛は「自発的」に申し出られたものだと室井は主張するが、であるならばその自粛期間についても彼らは当然自由に決定できるはずであり、室井はその期間についてあれこれ指示する立場にはないはずである。
とくに関係者の一人である訴外李信恵については、ヘイトスピーチ団体「在特会」元会長桜井誠、およびヘイトスピーチサイト「保守速報」管理人との民事訴訟を闘っている最中であり、これはヘイトスピーチ問題の法的解決がどのように推移するかという点において、社会的にも大きな注目を集めているものであった。この裁判が多くの支援者とともに闘われているのも、そうした社会的意義が極めて大きいからであるが、室井は《裁判支援者集会を開いたり、各所でカウンター活動に参加したり》することそのものを《勝手次第に活動してい》ると評価して、このことをあろうことか《カウンター活動全体に対する社会的評価を著しく損ない、差別意識をかえって助長する結果を招来するおそれが強い》と、いわば「自分との約束を守らなければ差別がひどくなるぞ」と、およそ合理性を欠く脅迫的論法によってたしなめようとしたのである(乙㉗号証)。
事実、この「差別意識をかえって助長する結果」は後に招来されたと言うことができるが、その主な原因は室井とその支援者の振る舞いによるものであり、そのことは現在ヘイトスピーチ本出版の代表的存在であり、在特会の元広報部長が編集部に在籍する青林堂発行の雑誌『ジャパニズム』に室井がわざわざ登場してこの「リンチ事件」の顛末を語るといったことにも具現化していると言えよう(乙⑨号証)。
室井と暴行加害者および関係者の間でどのような約束がかわされ、それがどういった推移を辿ったかについてはいわば完全に「私的な事柄」であり野間は一切口出しする立場にないが、その結果として室井が取った行動が反差別という観点から見て社会的に著しく不当である場合、公正性を重んずる立場から当然に野間はそのように論評する権利を有しているのは自明であり、これを「加害者の立場に立っている」とするのは言いがかりにすぎず、なんら正当性を有しているとは言えない。
11 「甲11のツイートについて」への反論
(1) プライバシー侵害については本書面第2-1、答弁書第2-3-①と同。
(2) 名誉毀損について
室井が「揉め事の原因をつくった」のは乙⑫㉓号証にあるように明らかである。「揉め事」とはあらぬ金銭疑惑を言い立てて当事者を怒らせ、周囲の人間を混乱させ、落胆させ、疑心暗鬼に陥れたことを指すのであるから、「揉め事の原因」とは「殴られる原因」のことではない。暴行の原因および責任は当然暴行加害者にあるが、「揉め事」は暴行以前に存在していたのであり、だからこそ室井は謝罪のために暴行加害者に会いに行ったのである。したがって、野間の記述は事実であり、名誉毀損の不法行為を構成しない。
また、野間が「多数のカウンター」関係者を扇動して多数によるネットリンチを行っているという事実はそもそも存在しない。室井は甲27号証の「ネットに引きずり出す」という文言を持って「ネットリンチを行っている」ことの証拠としているが、陰で被差別者の行動を抑圧しようと画策していた室井に対して公開の場で真意を問うことは「ネットリンチ」とは言い難く、また、野間のフォロワーの多くも反レイシズム運動となんら関係のない私的な人間関係のトラブルであるこの事件についてなんの関心も抱いていないので、扇動されてネットリンチをするということはそもそも起きようがない。室井のここしばらくのツイートは本件および関連する訴訟の告知や報告一色といってもいい状態(乙㉙号証)だが、野間は口頭弁論の告知をすることもなく、野間応援のための傍聴を呼びかけることもなく、この本件訴訟や室井言うところの「リンチ事件」について積極的に話題にすることもない。
むしろ裁判支援の会や雑誌等を駆使して大衆を「扇動」し、「私刑」を行っているのは室井の側である。その証拠に甲27号証の野間のツイートは、野間が記述した本年6月1日から室井が証拠として採取した11月4日に至る4か月の間たった1人にしか拡散されておらず、しかもその1人は室井支援の立場に立つ者である。一方で、室井が野間を訴えると告知したツイートは野間に反感を持ついわゆるネット右翼たちを中心に2100以上もリツイート(再投稿による拡散)されている(乙⑰号証)。また、室井は自身の主張にそった立場からつくられた書籍の宣伝を再三にわたって投稿しており、これらも150以上の拡散となっている(乙㉙号証)。さらに室井は「温かいメッセージをくださった方、浄財をお分けくださった方」に再三にわたって礼を述べてもおり、これらは「ネットリンチがあるので発信を控えている」という室井の主張とは大いに矛盾するどころか、むしろ「扇動」として機能しているのは明らかである。
第3 原告第2準備書面第3への反論
1 暴行事件加害者エル金が主張した内容(甲31号証)と野間の主張が同じだと主張するが、基礎的事実はひとつなのだからその点について認識が共通するのは当たり前である。むしろ室井が自身の名誉を毀損したと主張する野間の主張、すなわち甲1〜13号証における野間の記述内容、とくに甲5号証や13号証のような論評といえるものと、甲31号証には内容的に共通するものはほとんどないのであるから、「野間がネット等で主張してきたことにつき、暴行加害者が主張した事実はない」という記述は事実である。
また室井は「説明テンプレ」「声掛けリスト」の存在を問題にするが、被告第2準備書面第2-(5) で記した通り、この2つの文書について野間は不知であり、室井の証拠提出によって初めてその内容を知ったものである。したがって、これらの文書をもってして野間が「加害を矮小化しようとした」と言うことはできない。
室井は訴外伊藤健一郎が野間の指揮命令系統下にあったと主張するが、野間は伊藤に反レイシズム運動におけるカウンター行動の計画や実施においてなんらかの指示をすることはあっても(それも実際には指揮命令とはほど遠く、関西において伊藤らがカウンター行動を企画するに際して相談等があればそれに乗ったり助言をしたりする程度である)、本件は反レイシズム運動となんら関係のない人間関係のいざこざにすぎないのであるから、この件に関して野間が訴外伊藤に対してなんらかの「命令」を下すことはない。現にこの文書はC.R.A.C.のメーリング・リストには投稿されず、野間に個人的にも送信されなかった。また、野間がそのような文書の作成を指示した事実もない。
さらに、この「説明テンプレ」には野間の知らない事実が多々書かれており、野間の主張と「説明テンプレ」の内容が一致するとはとても言えず、またそれが「共有された主張」であるとも言えない。暴行事件に関する事実関係の大筋については概ね見解が一致しているが、それは事実関係を虚心坦懐に精査すれば誰でも到達する見解であり、むしろその反対側として意見が細部まで一致しているのは室井および室井を支援する組織、そして青林堂や鹿砦社といった出版社の出版物における記述である。すなわち組織的に共有された情報を「そのまま垂れ流し」ているのは、広く室井側だと言わざるをえず、これもまた室井による「ネット私刑」の一端をなすものである。
ただし、本件訴訟および関連する訴訟や雑誌記事等における「ネット私刑」での室井の立ち位置は主導者というよりはむしろ神輿であり、実際には本件訴訟の訴状内容すら把握できない状態で暴行事件の被害者であることを利用され、「カウンター運動」批判のための神輿として担ぎ上げられているにすぎないことは、被告第2準備書面「本件訴訟の背景」において詳述した通りである。
2 「被告第1準備書面第4の2について」への反論
「室井がリンチ事件を告発する意図を持っていたことは事実」であるなら、すなわちそれは室井にとって秘匿したい私生活上の事柄ではありえず、本件訴訟における室井側の主な主張はすべて崩壊する。また、野間言うところの「リンチ事件」について、野間は現実に起きた事実から正義と公正さに照らして別の評価を下しているのであって、その内容が室井の望まないものであったからといって室井の名誉を毀損する不法行為となるわけではないのは自明である。
室井はしきりに野間の言動を「加害者擁護」と非難するが、暴行事件そのものについて加害者の行為が正当であったと野間が言明したことは一度もなく、むしろ暴行事件については司法の解決と当事者間の解決にまかせるため、1年半近く沈黙を守ってきた。一方で、室井はその暴行事件の被害者であることを公表されたくない私生活上の事柄と主張するかと思えば、こちらが沈黙していたことをもって「隠蔽」だと言うのであるから、その主張はおよそ整合性のあるものとはいえず、支離滅裂である。
なお、野間が《従前より悪質な「ネット荒らし」「ネット私刑」の常習者として知られた人物》であったという事実は存在しない。室井作成の本件訴状には《野間は(中略)主として関東において、「カウンター」と呼ばれる、ヘイトスピーチに対する抗議行動において、中心的な役割を担ってきた》とあり、室井が提出した甲14号証には、野間は《朝日新聞の朝刊に大きく氏名を割いて単独インタビューを受けることもあるような高名な社会活動家であり、著作を多く出版している作家でもある》と記述されている。
また室井は2014年8月11日夕方、大阪市生野区・JR鶴橋駅前の路上で野間に対して「(ツイッターの)ブロック解除してくださいよ〜」と声をかけてきたことがあるが、野間が《従前より悪質な「ネット荒らし」「ネット私刑」の常習者として知られた人物》であるなら、室井がわざわざそのように懇願してきたことと整合性が取れていない。
3 「野間第1準備書面第4の3について」への反論
(1) (略)
(2) (中略)「十三ベース」云々については、事件となんら関係のない地名を冠したツイッターハッシュタグ(「#十三ベース事件」のように冒頭に#をつけることによって、ツイッター上では一種の簡易検索として機能し、これを「ハッシュタグ」という)を事件を指し示す俗称として室井側代理人高島章が積極的に使用してきたのであって、室井はそうした行状を知りながら弁護団の指導的人物として代理人高島を選任したのであるから(乙⑱号証)、室井がこうしたデマ情報の流布に加担したのは明白である。
また、《「カウンター」の一部によって行われた》とする、室井言うところの「リンチ事件」については、その暴行の被害者である室井もまた「カウンター」の一部であり、それは同じ「カウンター」運動において室井が暴行加害者の行状について邪推による疑いを抱き、右翼から金を受け取っているとなかば決めつけて第三者にその主張を流布したことが原因で起きたトラブルの一環である。本来組織的な正確を有していない「カウンター運動」について、自身もまたその一部であった室井が自身のみを埒外に置きながら暴行事件の原因を「カウンター運動」の性質に求めることは自家撞着であり、暴行事件とその後の顛末について周囲の「カウンター」運動参加者が自身の下す評価にもとづき、室井と異なるさまざまな評価を下したり室井の意図とは異なる動きをすることは当然のことである。
これを室井は《事後の隠蔽工作や室井の名誉を毀損する言説の流布は、野間も含めた関係者ぐるみで行われていた》と言うが、「声掛けリスト」「説明テンプレ」の件その他であきらかなように、それぞれが《カウンター》運動参加者の個人的判断による自発的な行動にすぎず、それらが《関係者ぐるみ》で行われていたという事実もなければ、《隠蔽工作》であったという事実も存在しない。また、暴行それ自体についても、事前の共謀や相談は存在せず、その場に居合わせた室井言うところの加害者のひとりがむしろ暴行を止めていたことは室井が警察に語った内容からもあきらかであるから(乙⑳号証)、これを「組織的リンチ」と流布することはむしろ多くの「カウンター」運動参加者、C.R.A.C.や旧レイシストをしばき隊、男組、友だち守る団等の参加者の名誉を著しく不当に毀損するものである。そもそも室井はその「関係者」が具体的にどのような「関係者」なのか、今にいたるまで明らかにしていない。
第4 請求の追加について
4 甲40のツイートについて
室井が虚偽の情報の流布を行なったのは事実であり(乙㉓号証)、またそれが暴行加害者に対する従前からの悪感情に起因することもまた、事実である(乙⑪、㉓号証)。対して暴行加害者は自身の名誉を大きく毀損する虚偽の情報を室井によって流布されたことに怒ったのであるから、その発露が暴行・傷害という許されないものであったとしても、怒りの感情それ自体は正当なものであることは論を待たない。
5 甲41のツイートについて
単純な論評にすぎず、野間が「室井とK3」をもとからバカだと考えていることは事実であるから、構成論評の法理にもとづく正当な意見の表明である。
第4準備書面(2017年1月31日)
第1 原告第3準備書面について
11 原告第3準備書面「第3-12」について
室井は「電話やメール、それこそTwitter上の機能によって(室井に)質問すればよい」と言うが、野間は室井の電話番号もメールアドレスも知らないために、Twitter上の機能であるメンション通知によって質問したのだから、ここで室井が何を問題にしているのか皆目見当もつかない。
なお、この「質問」が反語による不存在の主張と解釈される余地はもちろんあり、そういう意図もなかったわけではないが、これは公開の場でなされるべき「質問」であることには変わりがなかった。
なぜなら、この時点で室井が被害を受けた暴行事件について、反レイシズム運動のグループによるおどろおどろしい集団リンチ事件であるかのような言説がネット上に溢れており(乙⑦号証、乙⑬号証-1,3,4,5)、その情報源は室井宛の私信や室井が自ら録音した暴行現場の様子であったからである。またそのことによって風評被害を被っている者、やってもいないことをやったと言われている者などが多数いたのであるから、まずはネット上で沈黙している室井の認識がどのようなものであったかを尋ねるのは当然必要なプロセスだったといえる。
いわばこの質問自体が、ネット上にあふれるこの暴行事件にまつわる流言飛語(十三ベース云々等)に対する対抗言論のための事実確認の端緒であり、野間が個人的に室井に尋ねてどうこうする性質のものではなかった。
室井がその問いに答えなかったのは何か後ろめたいことがあったからであろうが、そもそも室井は情報が少しずつ不特定多数に渡るように仕向け(虚偽情報をともなう拡散に対して何もしないという不作為も含む)、それをもって世論に「運動」に対するネガティヴな感情が巻き起こるように仕向け、そのことによって暴行加害者とその友人たちに復讐しようとしていることはあきらかであった(甲59号証の3、甲59号証の5)。
暴行の被害を受けて憤りそれを公に告発するところまではよいとしても、このような卑劣な方法は全く認めがたく、またそのことによって当然喚起される無関係な在日コリアンへの差別扇動も自己の怨恨を晴らすためには眼中にないという室井の態度に対し、怒りを持って問いただすのは当然のことである。
12 原告第3準備書面「第3-14」について
通常人の読み方で「揉め事」が室井言うところの「リンチ事件」を指すのでない理由は第三準備書面第2-11-1 (2) 、本書面第1-9で反論済み。この「揉め事」は金銭疑惑とそれを複数人に吹聴したことを指すのであるから、それ以前の確執について反論されても無意味である。
なお室井は自分がネットリンチされていると主張するが、単に多くの人から言論によって批判されているだけである。こうした自分への批判や、単なる個人的な暴行被害を「リンチ」と称して自らを絶対的な被害者の立場に置こうとするのは、そのことによって批判から不可侵のポジショナリティを獲得しようという室井の卑劣な狙いによるものであって、暴行への告発を超えたそうした画策についてまで第三者が認めることはありえない。
13 室井第3準備書面「第3-17」について
室井は《野間は室井およびその支援者が「組織的に情報を共有している」旨主張するが、何らの事実にも証拠にも基づかない言いがかりに過ぎない》と言うが、室井の支援者たちは「M君の裁判(主水裁判)を支援する会」を結成して裁判費用を集金までしている(乙㉟号証)のだから、それらの会が組織として室井や室井代理人と情報を共有するのは当然のことであり、むしろやっていないとすれば支援組織としては異常である。通常、どんな裁判支援グループも当事者や代理人と密に連絡を取り、支援者に裁判の進捗や詳しい内容を報告するものである。
14 室井第3準備書面「第3-18」について
「正当な怒り」云々については第3準備書面第4-4を参照。
15 (略)
16 (略)
17 原告第3準備書面「第3-24」について
室井は自分が野間に「バカ」と評価されたことを「罵詈雑言」とし、その反論として「では訴外在特会が朝鮮人のことをゴキブリと思っていることは事実だから公正な論評の法理として正当だと主張するのであろうか」と言う。しかし、単なる罵詈雑言とヘイトスピーチの区別については、室井自身が深く関与してきた2013年以降の反レイシズム運動がもっとも強調して述べてきたことであり、室井自身もその理屈に則って《「死ね」は「暴言」であってヘイトスピーチではない》等とネット上で主張してきたのであるから(乙㊱号証)、室井が「このような主張が認められないことは言うまでも無い」と言うのは矛盾している。
おそらくこの項は代理人の作文であろうが、これは訴訟である以上、室井自身の発言である。罵詈雑言とヘイトスピーチの違いを主張しながらこれまで多くの人に向けて「俺はお前をガス室に送りたい」等と発言してきた室井は、自身が「バカ」と言われたときにはそうした罵詈雑言と在特会の醜悪なヘイトスピーチを相対化し、まるで相手が在特会と同じようなヘイトスピーチを繰り出したかのような印象操作をして自らを守ろうとするのである。これほど醜悪なことがあるであろうか。
室井準備書面第3-25以下は争点と無関係なので反論を省略し、以下結論を書く。
結び
罵詈雑言が公正論評の法理の観点からどうかという議論は当然にあってよいものの(もっとも、公正論評の法理には「いかにその用語や表現が激越辛辣であろうとも、またその結果として、被論評者が社会から受ける評価が低下することがあっても」という留保がついていることは第3準備書面第2-8で指摘した通りである)、室井も反レイシズム運動に携わってきたなら、そうした議論をするにあたって決して踏み外してはならない一線があるはずである。
野間をはじめ当初室井を暴行の被害者として支援した多くの人がなぜ室井のもとを離れ、今では室井を批判する側に回っているのか。そのことを室井は冷静に考えるべきである。自身を守るため、ヘイトスピーチの大原則すら捻じ曲げて相手を論難するその姿勢が踏みにじっているものは何か。暴行の被害を受けたというただ一点のみで、多くのマイノリティの尊厳を蹂躙するヘイトスピーチやヘイトクライムの被害を矮小化して自身の利益のために利用し、気軽にヘイトスピーチを吐き捨てながらまるで観客席で楽しむかのようにしてリンチだと囃し立てる野次馬に「支援」され、彼らからカネを集め、民族差別専門の極右雑誌やゴシップ誌まで動員して守るものがはたして正義と公正さであると本当に考えているのか。法学徒としてそれでよいのか。
よく考えてほしいと思う。
第5準備書面(2017年2月3日)
第1 原告第4準備書面について
争う。
1 原告第3準備書面「第1」について
室井は甲64号証を示して野間の本件ツイートが虚偽であると主張するが、甲64号証の野間メール本文と本件訴訟のツイート、および本件での野間の主張には特段の矛盾はない。
室井の主張は野間が2015(平成27)年3月31日の時点で暴行事件のことを知っていたため、「リンチであることを否定する内容の野間ツイートおよびそれを補強する趣旨の野間の主張は全て野間の認識に反するもので」あると言う。
しかしこの点については第1準備書面第3-13 (2) その他ですでに反駁は終わっている。結論だけを再掲すると《暴行事件をすなわちリンチ事件であるとする立場に野間は立っていない以上、そこに論争が生じるのは当然である。これらについて、言論で対抗することなく不法行為責任を問うことは、表現の自由の観点から言っても決して容認することはできない》となる。
なお室井の録音による暴行現場音声には訴外李信恵の声は録音されておらず、李信恵はこの暴行現場にはいないので室井が「リンチ」と称するところの集団的暴行が仮にあったとしても、それに参加していたとは言えない。室井の認識によれば「平手打ち」をしたとのことである(乙㊲号証)が、この平手打ちは刑事処分としては不起訴であり、すなわち大阪地方検察庁によって可罰的違法性が認められなかったものである。
常識的に考えて、飲み屋で飲酒しているところに友人を誹謗中傷した屈強な男性が現れ、おもわず平手打ちをしてしまった女性がいたとして、その程度のことで暴行だの暴力だのと騒ぎ立てるのは、日常的で些細な個人的トラブルをなんでもかんでも司法によって解決しようという姿勢にほかならず、社会通念としては認められないものであるばかりか、それ自体が司法を使った嫌がらせの一種であり、正義にもとると考えられる。しかも室井が示している通り本人は謝罪をしているのであって、ことさらにこれを「リンチ」の一環として糾弾することは実態と大きくかけ離れていると言わざるをえない。
また、同録音および室井の検察調書によれば凡は室井の認識においても一貫して暴行を止めていた側であって(乙⑳号証)、凡の暴行もまた、エル金の暴力がやまないためにやむをえず自らが一発殴ることによって事態を収拾しようとしたものであることはあきらかである。したがって、これもまたこの暴行事件の現場で起きたことが集団的な「リンチ」とは程遠いものであったことを示している。
また、第2準備書面第2-(5)においても野間は《この暴行傷害事件の発生直後から加害者である訴外エル金および同席していた訴外凡からことの顛末の報告を電話で受け顛末を知っていたが、当初からこの暴行傷害事件を「個人のケンカ」「人間関係のいざこざ」としか捉えていない》と陳述しており、これは甲64号証の内容と一致する。
したがって、野間のツイートや認識、陳述は当初から一貫して「リンチなどない」であり、一切の矛盾がない。
1 原告第3準備書面「第2-1」について
ある暴行が起訴に値するかどうかはケガの態様によって決まることではなく、そのことは室井自身が起訴を逡巡していた(乙㉗号証)ことからも明らかである。なお、室井が加害者側代理人にあてたこの文書には、訴外李信恵が「拳骨をもって被害者の顔面を殴りつけた」とあるが、乙㊲号証においては「当初から平手打ちと主張している」と言っており、矛盾がある。このことは、室井が自らの受けた被害を当初、実態以上に過度に申告しようとしていたことを示している。
また、室井が情報を第三者に手渡すことで世論を煽り、ありもしない「リンチ事件」の輪郭をつくりあげようとしたことは、暴行加害者側代理人から室井代理人(当時)宛に送られた次のファックスからもあきらかである。
「当職からM先生に差し入れた謝罪文そのものがネット上に掲示されたり、本件ボイスレコーダーの音声がアップされていたり、刑事記録の情報に接していなければ知り得ない情報を用いた表現行為等も確認でき、明らかに、室井さんが代理人を通じて入手された本件文書を公開使用されています。弁護士高島章という人物から、終日にわたって質問メッセージを受けるなどしています」(乙㊳号証)
室井は野間のブログ記事をもってして「暴力是認の態度」とするが、ではこのブログ記事のような事態が起きた場合、「朝鮮人はゴミ」と目の前で言われた在日コリアンがどのような有効な反論を言論で行うことができるのか、室井の認識を明らかにされたい。
このブログ記事の事例は、ヘイトスピーチを浴びせられることが物理的暴力を受けたに匹敵するものであることをわかりやすく示したものであって、暴力を是認せよということではない。むしろ室井の態度は、怒って掴みかかった在日コリアンをことさらに「暴力的だ」と宣伝し、誹謗中傷したいわゆるネット右翼たちの態度を彷彿させるものであり、これこそがヘイトスピーチの根源的な暴力形態なのである。
チャールズ・R・ローレンス三世はその著書『傷つける 言葉 批判的人種理論、侮蔑表現、修正第一 条』(1993年)の中でヘイトスピーチについて次のように語っている。「ニガー、スピック、ジャップ、カイクなどと呼ばれるのは、顔面に平手打ちをくらうようなものである。被害は瞬時に与えられる。何故にそうした行為がなされたのかに思いを 巡らす余裕も、それに対抗しうる表現を相手に返す余裕も与えられない」。このことは、ヘイトスピーチが物理的暴力にも匹敵する暴力としてマイノリティに対して作用することを示したものである。
なお、室井が引用する甲64号証後半「今後3人がそれぞれツイッターを再開すると、室井やら金展克やらが暴行傷害の件でいろいろ騒ぎ、それにネトウヨが便乗するというめんどくさい展開になってくるとは思いますが、もう刑事事件になっていることなので基本放置がよいのではないかと(もちろん、反論してもかまいませんが)」という一文であるが、これは室井の主張とは違い、野間がこの暴行事件について隠蔽する意志も対策を取る意志もなかったことを示すものであり、訴外伊藤健一郎らがなんとか正しい事実を知人に知らせようとした「説明テンプレ」云々の背後に野間がいるという室井の主張を否定する内容である。
わざわざ説明文を作成し、送付リストをつくり、実際に送付するという訴外伊藤らの行為は「放置」とは程遠く、野間が乙64号証のメールで示した認識やアドバイス(放置あるいは室井らへのネット上での反論は自由に)と直接の関連がないことはあきらかである。
なお室井は「室井から事情を一切聞くことなく、一方的に垂れ流し」たと言うが、本件訴訟の陳述でもあきらかなように、野間の認識はこの2015年3月31日時点からなんら変更はなく、その後刑事処分の結果をへて新たに加わった認識としては「リンダさんもちょっと叩いた」は可罰的違法性を欠いた軽微な暴行であったというぐらいである。
(注)その後の別裁判で、この「軽微な暴行」自体が存在しないことが明らかになった。
むしろ室井側は陳述が二転三転しており、虚偽を述べているのは明白に室井の側であることは議論の余地がない。
訴訟活動の不誠実云々については本件訴訟と関係がないので割愛するが、第3準備書面をもって反論を終えるようにという裁判官の訴訟指揮を無視して第4準備書面を提出しているのは室井側である。
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