世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)の日本語病名・用語の検討が進められております。日本不安症学会は、日本精神神経学会精神科用語検討委員会と関連の専門学会・委員会の代表から構成される精神科病名検討連絡会に参加し、不安症関連の病名について検討を重ねて参りました。
2018年4月、精神科領域のICD-11新病名草案が出来上がり、日本精神神経学会ホームページ上でパブリックコメントが募集されております
1)。
不安症関連の病名に関して、2014年に日本語版が出版されたDSM-5における日本語病名と、おおむね同一でありますが、Selective mutismの訳語については「選択性緘黙」から「場面緘黙」に変更となっております。その経緯についてご説明いたします。
日本不安症学会(旧日本不安障害学会)は、DSM-5日本語版刊行に際しての日本精神神経学会精神科病名検討連絡会に病名検討ワーキング・グループとして参加し、不安関連の
翻訳病名について「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」の作成に協力いたしました。この時、「障害」を「症」と訳そうという動きが起こり、本学会は「不安障害」を「不安症」に変更する要望を出し、採用されました。それに伴い、学会名も変更いたしました
2)。今回のICD-11新病名草案では、原則的にdisorderは「障害」ではなく「症」と訳されるようになっており、さらに広く「症」が採用されております。
Selective mutismはDSM-IV-TRまでは「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」のカテゴリーに分類されていましたが、DSM-5から、「不安症群」に含まれるようになり、DSM-IV-TRと同様に「選択性緘黙」という訳語となりました。
これに対して、「選択性」という語からは「当事者の意志で発語しないことを選択している」という誤解を与えやすいので、「特定の場面で話せない」という状態像を重視した「場面緘黙」という訳語が望ましいとの意見をいただきました
3)。その後、2016年の第8回日本不安症学会学術大会においてシンポジウム「場面緘黙―知られていない実態」を行い、学会として理解を深める取り組みをしてまいりました
4)。
今回の、ICD-11の訳語検討において、当学会より、「場面緘黙」の訳語を要望しましたが、他学会より提案のあった「状況依存性緘黙」がよいだろうという意見が一時優勢となる事態となりました。これに対して、上記文献3の意見に加えて、これまで認知されてこなかったものが、ようやく「場面緘黙」として認知されてきたところであり、当事者も「場面緘黙」という用語を望んでいるという内容の要望書を、場面緘黙関連団体連合会より日本精神神経学会および日本不安症学会に提出していただき、2018年3月の精神科病名検討連絡会において議論され、「場面緘黙」が草案として採用されるに至りました。
今後、パブリックコメントなどを経て、正式決定になると思われます。場面緘黙について賛同のパブリックコメントをいただけますと大変ありがたいです。日本精神神経学会のホームページからどなたでもICD-11新病名草案についての意見を送ることができます。各診断名についての支持・不支持のみでも回答することができます。場面緘黙以外の不安症群、強迫症群などに関してもご意見をお願いいたします。
今回、ご協力いただいた場面緘黙関連団体連合会の方々に深く御礼を申し上げますとともに、今後も、各方面から幅広いご意見をいただきながら、適正な用語の検討を進めてまいりたいと存じます。
日本不安症学会用語委員会
委員長 山中学
1) 日本精神神経学会ホームページ
https://www.jspn.or.jp/modules/info/index.php?content_id=622
2) 清水栄司、佐々木司、貝谷久宣、久保木富房.「不安障害研究」から「不安症研究」への雑誌名変更につきまして.不安症研究6:1-2.2014
3) 久田信行、藤田継道、高木潤野、奥田健次、角田圭子.Selective mutismの訳語は「選択性緘黙」か「場面緘黙」か? 不安症研究6:4-6.2014
4) 金原洋治、梶正義、青木路人、角田圭子、久田信行(座長)、加藤哲文(指定討論).シンポジウム:場面緘黙―知られていない実態.第8回日本不安症学会学術大会抄録集: 2016
日本精神神経学会のページにリンクします