2012年 岐路に立つ世界経済
ユーロ危機 世界の雇用を直撃
世界最大の鉄鋼グループが拠点を構えるベルギー・リエージュ州です。
この街で先月大規模なデモが行われました。
200年近く続いた製鉄所が突如、閉鎖を発表。
住民たちの反発が強まっています。
「製鉄所が閉鎖されれば数万人の雇用が失われる
この地域にとって極めて深刻な問題です。」
閉鎖を決めたのは鉄鋼最大手アルセロール・ミタルです。
ヨーロッパの信用不安の影響で、去年の夏以降、鉄鋼の出荷量は10%減少しました。
今後も需要の回復は見込めないとして、ミタルは老朽化した高炉などの生産設備を閉鎖。
効率の高い拠点に生産をシフトすることを決めたのです。
高炉の閉鎖は、従業員だけでなくこの地域に、およそ150社ある下請け企業にも大きな影響を及ぼします。
さらに金融機関の間で高まる信用不安が、街の経済に深刻な影を落としています。
ベルギーでは去年金融大手デクシアが経営に行き詰まり、一部が国有化されることになりました。
デクシアは、ギリシャなど巨額の財政赤字を抱える国の国債を大量に保有していました。
この国債の価格が急落。
資産が目減りし、経営が立ち行かなくなったのです。
これをきっかけに銀行の間で互いの経営に対する不信感が広がり資金の貸し借りが縮小。
企業や商店への貸し出しにも慎重になっているのです。
金融機関の貸し渋りによって、資金繰りに困る経営者が急増しています。
製鉄所の近くにあるレストランでは客の数が減ったことに加え、銀行からの融資が受けられないという二重の苦しみに見舞われています。
「1000ユーロ借りようとしても銀行は自営業者に貸してくれないのです
本当にどん底です」
景気が急速に悪化し始めたヨーロッパ。
その影響は世界に及んでいます。
ヨーロッパが最大の輸出先である中国。
広東省の東莞市(とうかんし)では多くの企業でヨーロッパ向けの輸出が激減し去年、少なくとも450社が倒産に追い込まれました。
これまでの人手不足から一転、職業あっせん所は仕事を探す人であふれています。
経営者の間では、かつてない危機感が広がっています。
スピーカーの電子部品などを作る工場です。
7割を海外へ輸出。
最大の輸出先はヨーロッパです。
去年の秋以降、僅か3か月で注文が半分近くに減りました。
24時間、フル稼働だった生産設備は、4分の3が停止に追い込まれました。
会社では、600人いた従業員を400人に削減しましたが、それでも経営が立ち行きません。
残った従業員にも休暇を取るよう要請し、人件費をギリギリまで抑えようとしています。
●ユーロ危機 国家を揺るがすマネー
世界に広がる負の連鎖をどうすれば食い止められるのか。
危機の発端となったヨーロッパでは各国の首脳たちが協議を重ねてきました。
先月のEU首脳会議では財政難に陥った国に金融支援を行う支援組織の導入を前倒しすることを決めました。
さらに財政危機の再発を防ぐため、ユーロ圏各国の財政規律を強化することも合意しました。
「規律を緩めれば各国の財政赤字はさらに膨らむでしょう
財政状況を監視する仕組みが必要なのです」
しかし、危機を速やかに収束させる具体策を示すには至っていません。
ヨーロッパの危機を増幅しているといわれているのが投機マネーの存在です。
ロンドンにあるヘッジファンドです。
ギリシャやイタリアなど巨額の財政赤字を抱える国の国債をターゲットに大量の資金を投入。
デリバティブと呼ばれる金融商品を駆使して、国債価格が下がるたびに巨額の利益を上げてきました。
各国の対応が後手に回るほどもうけのチャンスが広がると見ています。
危機の拡大に歯止めがかからない中、より長期的な運用を図る機関投資家までもがユーロ圏の国債を手放そうとしています。
ロンドンに拠点を置く資産運用会社です。
去年の秋以降、年金基金や銀行がユーロ圏の国債を売却する動きが急増。
値下がりに拍車をかけているといいます。
岐路に立つ世界経済
伊藤さん:(ヨーロッパの状況は)非常に深刻だと思うんですね。
これまで首脳会議、サミット、なんとかかんとかでもいろんな手を打ってきたはずなのに、全然状況はよくなっていない。
2年かかって、もうどんどん危機は広がっているとふうに思います。
ヨーロッパの中はやっぱりまとまっていない、ドイツはこう言っている、それからフランスはこう言っている、それで南ヨーロッパの人たちは、こう言っていると言うことで、そこがまとまらないかぎりはやっぱり有効な解決策というのは、出てこないと思うんですね。
倉都さん:もちろん財政危機も大変深刻な問題だと思います。
ただそれと同時に、金融危機、とりわけ銀行なんですけど、今、VTRにもありましたけれども、銀行が今までリスクがないと思っていた、リスクフリーと思っていた試算が大変実はリスクのある試算であったという、そういったところで非常に経営を縮小しなきゃいけない。
そういったところが実体経済に波及していく、そのプロセスというのは非常に懸念されるところだと思います。
(中国の受注が減っているのは)実際に輸出、輸入、そういった実体経済の経路もありますし、ヨーロッパの銀行というのは、歴史的に海外への貸し付けというのが非常に大きいので、中南米、あるいはアジア、そういったところへの貸し出しを急に縮小する、それによって実体経済が影響を受ける。
そういったところもちょっと心配をしていなければいけないと思います。
●ユーロ危機 揺れる国家の信用
伊藤さゆりさん:特に2012年の上半期というのは、非常に緊迫感を帯びる可能性というのが、非常に高いんですね。
と申しますのも、実はこの3月、このユーロ危機の本質というのは、そもそもきっかけというのは、やはりギリシャの資金繰りの問題ということがあるんですけれど、実は3月にギリシャ、150億ユーロほどの国債の償還というのを予定しています。
実はこの国債の償還に向けて、去年の夏ぐらいから追加の支援をしなければいけないということが明らかになっていたんですね。
この追加の支援の中には、実は民間の金融機関に負担を求めるというような議論があるんです。
夏の段階では、2割ぐらいの借金の棒引きをというものだったのが、秋には5割ということで、今、最初の詰めという段階なんですけれど、これがなかなかうまくまとまらないという緊迫した状況です。
この問題がうまく決着したとしても、ある意味では債務の不履行ということになるんですね。
ただ、これは秩序だった形で進められるということになるわけなんですけれど、もしそうでなければ、もっと大きな、いわゆる無秩序なデフォルトというんですが、支払い不能というようなことになってしまって、大きな金融システムにインパクト、あるいはほかの財政への影響ということを、及ぼす可能性があるわけです。
ギリシャのこの150億ユーロの資金繰りの問題は、どうなるのかということに向けて、非常に市場が緊迫する中で、イタリアは上半期の間に、大体1000億ユーロほど、10兆円ほどの国債の償還というのを行わなければいけないんですね。
この相乗効果、こういうときに、イタリアがうまく資金繰りをできないリスクに備えて、本当であれば、ユーロ圏の政府というのは、安定化基金という防火壁を備えましたので、こちらがうまく機能して、いざというときはイタリアを助けましょうという、役割分担ができているはずなんですけれど、実はこの防火壁のほうが、機能はある、それから枠組みはあるんだけれど、資金量が足りないという絶対的な問題を抱えてしまっているんですね。
今、絶対量としては2500億ユーロ、支援可能額ということになります。
これだけですと、イタリアの資金繰り、当面サポートしましょうと、それだけでいっぱいになってしまいます。
そこで例えば、スペインが銀行の増資のための資金が必要ですと手を挙げたとしても、サポートできないというような事態に至ってしまうんですね。
ですので、最低限でも1兆ユーロほど、100兆円ぐらいまでは積み増す必要があるというのが、いわれています。
伊藤さん:実際にもうすでにECB・ヨーロッパ中央銀行が、イタリア国債を少し買って、7%を超えたのをちょっと下げたりしてるので、確かに買い増せば、もっと下がるかもしれない、あるいはその借り替えが来たときにも、すでに出てる国債を買うことによって、需要を誘発するということは、可能だと思うんですね。
ただこれについては、無制限にやるということについてはドイツが非常に強く反対しています。
したがって、このままいけば、少しは買う、買って抑えることはできるんですけれども、なかなか大量に買って償還を完全にしてしまうということにはいかないという状況ですね。
伊藤さゆりさん:アメリカ、あるいは市場の要求としては、やはりそれをやってくれれば安心感が出るのに、ユーロ圏の国債に手が出るのにというところなんですけれども、実際にここのところ、EUの条約、基本条約の中で、救済禁止条項ということで明確に禁止されているんですね。
そういう問題に対して、ノーを言うドイツに対して、市場は非常に厳しい対応ということを言う、非常に厳しい評価を下すわけなんですけれど、私自身は逆に、ここで市場に追い詰められる形で、議会と手続きを経ないから、じゃあECBを使おうじゃないか、あるいは基本条約にこだわっていられないから、じゃあ超法規的な動きで、こういうことをやろうじゃないかというところに、踏み込んでしまうと、実はEUの基本原則というのは、法の支配、それから民主主義ということですので、これを大きく踏み越えてしまうことになるんですね。
市場がそういう措置をしなければユーロは崩壊するぞというふうに脅すんですけれど、私は逆に市場に脅かされる形で、あまり拙速な対応を取ってしまうことも、ユーロの足腰を大きく揺さぶる結果になってしまうのではないかと、おそれています。
一番大事なユーロ圏の国民の支持を得られなくなってしまうということです。
倉都さん:実際に今、マーケットでやってるのは、今お話にあったように、ヨーロッパの中央銀行に国債をとにかく無限に買ってほしいという、そういう言い方をしているわけですけれども、ただ、やはり中央銀行はやっぱりやっていいところと、やっていけない一線というのがやっぱりありますし、後は、これは私自身、思うんですけれども、ギリシャとイタリアを同じように見てしまう、そこにもちょっとやはり、私自身は違和感がありますね。
イタリアも決してよくないんですけれども、例えば格付けが下がったと、あるいは債務の残高がGDP比で100%超えてるという、そこだけを取って、ギリシャとイタリアを同一視してしまう。
これはやっぱちょっと、この市場の弱点が出ているように思います。
ですから、本来であれば、きちんとマーケットはイタリアの財政状況ですとか経済構造ですとか、そういったものを踏み込んで自分自身でリスク分析を実はしなきゃいけないのに、ただ、やはり非常にスピードの早くなったマーケットにおいて、とにかく格付けが下がったらとにかく売ると。
そういう非常に短絡的な動きが出ている、私はここに非常に大きな問題があると思います。
今まではマーケットがこう言ってるからこうしなきゃいけないという、一つの何か定説があったんですけども、ドイツは明らかにそれに対してそうじゃないと。
マーケットの求めるソリューションが唯一ではないという、はっきり言ってることは、私にとってはちょっと新鮮な感じは受けています。
伊藤さん:ただ、もともとはやっぱりギリシャが財政赤字を、協定違反の財政赤字を膨らませたっていうところが発端なわけですね。
それに対してマーケットはやはり、それはいけないことだよと言って、高い利回りを要求したっていう。
これは正しいシグナルが、マーケットがシグナルを出しているということだと思うんですね。
それに対して、じゃあギリシャは、借金を棒引きしてもいいですよと、棒引きしなさいという形で、ドイツが要求して、そういう仕組みを入れたわけですけども、そのときに、じゃあ、イタリア、スペインはどうするのかと。
確かにイタリア、スペインは倉都さんがおっしゃったように、状況はいいんですね。
ギリシャに比べれば非常に努力もしている、財政、プライマリーバランス、基礎的財政収支はイタリアも黒字なんですね。
でもギリシャがその棒引きを要求されたんだったら、ひょっとしたらイタリア、スペインにいくかもしれないということで、イタリア、スペインに対する防火壁、先ほど伊藤さゆりさんが言った防火壁を作らないで、それを完全に作らないで、ギリシャを棒引きさせたというところで伝染しちゃったんですね。
だから、そういうところはやっぱり市場との対話っていうのが非常に重要だと思うんです。
倉都さん:(不安定化の原因というのは、)アメリカの問題でもあったんですけれども、金融があまりに肥大化をしてしまったという、一つの側面があると思うんですね。
ですから冒頭に金融危機というお話をしましたけれども、やはり銀行が割と自由に貸し借りといいますか、貸し出しを行って、今、先生おっしゃったように、ギリシャもあまりリスクの関係をきちんと把握しないで、単に為替リスクがないということだけで、ほかの国がいろいろ貸し込んでしまったと。
そういったやっぱり、金融の肥大化を通して、今まで、もうユーロ導入時点で、ユーロの問題というのはすでにあったんですけども、それが何か見えなくなってしまって、視界から外れていったと、そうすると、なんかマーケットはリスクがなくなったように、問題がなくなったように見てたんですけども、それは実は錯覚でしかなくて、実はやはり問題がもっと肥大化して出てきてしまったというのが、今の現状だと思います。
アメリカ 金融政策の限界
先月ジョージア州で行われた大手スーパーの採用説明会です。
朝早くから長蛇の列ができました。
300人の求人に対し1400人が殺到しました。
仕事の多くが商品の陳列やレジを担当するパート。
時給は8ドル日本円で620円です。
アメリカではリーマンショック以降、800万人の雇用が失われました。
平均して、10か月間も職を見つけることができていません。
リーマンショックで深い傷を負ったアメリカ経済。
政府は、景気対策として巨額の財政出動を行ったため財政赤字が膨らみ、もはや新たな対策を打つ余裕はありません。
市場に資金を供給する金融政策が頼みの綱となっています。
中央銀行であるFRBは3年前に事実上のゼロ金利政策を開始。
2年前には金融機関から国債を大量に購入して市場に資金を流し込みました。
FRBの狙いです。
金融機関を通じて企業、そして個人へ資金を供給。
アメリカ経済の原動力である消費や設備投資を刺激し落ち込んだ景気を押し上げようというものです。
しかし、その効果は限定的なものにとどまっています。
金融機関が大量の不良債権を抱えているためです。
その原因となっているのが住宅ローンの貸し倒れです。
深刻な事態は今も続いています。
債務返済の相談に乗るこのNPOでは、住宅ローンの返済に困る人々からの電話が途絶えることはありません。
返済が滞った住宅は次々と差し押さえられています。
銀行が差し押さえの手続きを本格化させる中、去年の夏以降、3か月で20%も増加しています。
個人の所得が伸び悩み雇用が改善しない中、増加傾向に歯止めがかかりません。
アメリカの住宅価格は、今ピーク時のおよそ7割に値下がり。
住宅を売ってローンを返済することもままならない状況です。
不良債権の処理に苦しんだ銀行は、積極的な融資に二の足を踏んでいるといいます。
この結果FRBが金融機関にいくら資金を供給してもその効果は中小企業や個人に思うように行き渡っていません。
大量の資金は、金融市場の中に滞留してしまっているのです。
金融機関の貸し渋りは雇用の拡大を妨げています。
ここは、環境に配慮した自動車部品の開発を行うベンチャー企業です。
エンジンのオイル漏れを防ぐ独自のパッドをネットで紹介したところ、中東や北欧から引き合いが相次ぎ本格的な事業化を検討しています。
しかし、融資を申し込んだ4つの金融機関にはすべて断られました。
販売実績が少ないことが大きな理由です。
今は社長の持ち出しで社員の給料を捻出し、なんとか事業を続けています。
このままでは今いる社員の雇用を維持することさえ難しいといいます。
経済が停滞し、一向に生活が改善されない現状に人々は抗議の声を上げています。
アメリカでは上位1%の富裕層が全体の所得の20%以上を握っています。
富の集中は、この10年で急速に進みました。
一方で、年収およそ2万2000ドル、日本円で170万円以下の貧困層は今や7人に1人に上っています。
広がり続ける格差から生まれる抗議の声。
その矛先は、金融システムに向いています。
経済政策に詳しいテキサス大学のガルブレイス教授です。
今のアメリカ経済は機能不全に陥っているといいます。
「経済が成長するには金融が機能することが欠かせませんが、
銀行は本来の役割を果たしていません。
市民が利用できる住宅ローンを提供せず、企業に融資もしません。
どうやったら経済が立ち直るかなんて考えていないのです。
機能していないものは取り替えなければなりません。
新たな対応が求められているのです。」
岐路に立つ 世界経済
伊藤さん:(アメリカの健康状態は)必ずしもよくはないですけれども、方向としてはいい方向に向かっているというのが、大勢の意見でした。
少しずつ、ヨーロッパがこれ以上悪くならなければという条件付きで、少しずつよくなっていくだろうということで、それほど心配してないという感じでした。
住宅市場については、やはり地域間格差というのが非常に大きくて、それでニューヨーク、ワシントン、シカゴ、サンフランシスコ、こういう所は、それほど悪くないんですね。
やっぱりアリゾナであるとか、フロリダであるとか、サブプライムの問題が非常に激しく起きたところはいまだに、差し押さえであるとか、住宅価格の低迷であるとかいうことが続いているということで、非常に地域による格差というのは大きいと思います。
倉都さん:実際にFRB、アメリカの中央銀行が、どんどん大量にお金を出していると、これは事実なんですけれども、そのお金がやはり金融機関の中にとどまっていると、滞留しているといいますか、アメリカの銀行は、やはりある程度のドルを持っておきたい。
やはり、リーマンショックのときに大変な思いをしましたので、お金は取れない怖さというのが身にしみているわけですね。
ですからとにかくお金はもうありったけ手元に置いておいたほうがいい、これがアメリカの銀行です。
それから実はヨーロッパの銀行も関係があるわけですね。
さっき言いましたように、ヨーロッパの銀行も、大変多くのドル建ての貸し出しですとか、運用をしています。
そうしますと、ヨーロッパにとっては、やはりドルの資金が足りないわけですね。
それも今、なかなかマーケットでとれなくなっている。
そうすると、このFRBが出してくるドル、これをとにかく自分のところに確保する。
ですから、アメリカの銀行も、ヨーロッパの銀行も、みんな出てきたドルを自分のところに抱え込んでしまっている。
ですから今、VTRにもありましたように、そこの金融の外にお金が全く出ていかないと。
これが続いているということなんですね。
伊藤さん:時間はかかると思いますけれども、ただ、金融市場に滞留しているドルも、ある程度はやっぱり株式市場に向かって株高になり、為替市場に行ってドル安になるということで、中期的にはやっぱりドル安が輸出を増やしていく、あるいは輸入を少し下げるという意味で、調整が働くというふうに考えてる経済学者が多いですね。
やっぱりバブルを経験して、そのバブルを、破裂を経験して、それは痛い目に遭った、だからこれと同じことは繰り返さないということは、みんな分かっていると思います。
やはりデフレにはしないんだという決意で、そのドルをどんどん出したということで、これはデフレにはなってないわけですから、そういう意味ではまだ希望があるということだと思います。
●問われる“金融資本主義”
倉都さん:これはもう明らかに先生と全く同じ意見です。
もう消費もけん引していく、それがアメリカのずっとこの、高度成長を支えていたわけけれども、これはもう無理だというのは、もうはっきりと分かったと思うんですね。
ですから私もアメリカは恐らく再生のためにはもう一回製造業にチャレンジをしていく。
ですからやはりドル安政策、これは恐らくずっと変わらないと思いますし、もう逆にいうと、アメリカはもうそれしか選択肢がないっていう、そこまで追い込まれた感じはあると思いますね。
もうむしろ今、そういうふう(アメリカの力に世界は頼れない)になりつつあって、やはり世界の目も、需要はアメリカの需要を狙うのではなくて、例えば新興国の需要をねらう、そういうほうに完全にギアシフトをしているわけですね。
伊藤さん:アメリカの場合、やはり機会を平等にすると、チャンスを与えるということで、そのあと格差が生じても、それは努力、あるいは運によって出てくるので、そのアメリカンドリームも、それによって出てくる可能性もあるしということで、機会の平等さえ保障されていればいいんだというのが、これまでの考えなんですね。
ところが今回、それの裏側はやっぱり努力しない、あるいは失敗した人は、報酬をもらうべきじゃないということがあったわけですけども、今回、銀行がこれだけ公的資金をもらったのに、経営者がまだボーナスをもらい続けていると。
これはもうとんでもないことなんですね、アメリカの基準からいうと。
それでこういった抗議行動に結びつかないと、そこはやっぱり規律をたださないと、人々の不満というのは収まらないというふうに思いますね。
倉都さん:(構造的なアメリカの弱さをまた回復させるには)やっぱり相当な時間がかかると思います。
やはりその労働の問題というのは非常に厳しいわけで、800万人の雇用をどういうふうに吸収していくのか、これはもう1年、2年の設計図じゃ無理なわけですね。
ですから、相当長期的なコミットメントがないと、これはなかなかアメリカの再生というのは、難しいと思います。
やはり政治がある程度、共和党、民主党、今、完全に分裂をしてしまって、なかなかいろんな政策もまとまらないという意味で、やはりある程度の一種の政治危機であると思います。
ですからもちろん経済危機、財政危機と、そういったことでもあるんですけれども、やはり政治の立ち直りっていうんですか、これは日本も同じかもしれませんけれども、そこにやはり期待をするしかないということだと思います。
やっぱりアメリカは製造業を捨ててサービス業に生きていく。
これの代表格が金融だったわけですけれども、それがものの見事に破壊されてしまったと。
そうなるとやはり戻るべきところはやはり製造業しかないんじゃないかと、今、問われているんだと思いますね。
巨額の財政赤字 危機感強める財務省
国債の発行を担当する財務省・国債業務課。
新年度、発行する国債は借り換え分を含め、174兆円。
過去最大規模です。
主な引き受け手は国内の金融機関です。
「入札発表です。」
この日は2兆5000億円分の国債が落札されました。
10年ものの国債の金利は0.975%。
日本の国債は世界でも極めて低い金利で順調に発行されています。
しかし、ヨーロッパでの信用不安が日本の国債に影響しないか。
財務省はこれまでになく危機感を強めています。
国債業務課長の平井康夫さん。
日々、金利に異変がないか目を光らせています。
去年11月下旬、平井課長を驚かせる動きがありました。
信用不安の広がりでヨーロッパ各国の国債の金利が一斉に上昇したときのことです。
この時、日本国債の金利も一時跳ね上がりました。
金利が1%上昇すれば1兆円を超える利払い費が新たに必要になります。
わずかな金利の上昇でも利払いが膨らみ財政を圧迫します。
●膨らむ国債保有 金融機関のジレンマ
今国債の引き受け先となっている全国の金融機関の間では日本国債に対して慎重な見方が広がりつつあります。
三重県最大の地方銀行百五(ひゃくご)銀行です。
地方銀行の業務は本来、地域で集めた預金を地元の企業に貸し出すことです。
しかし、リーマンショック以降中小企業への貸し出しが減少。
その代わりに、国債を大量に買い増ししてきました。
国債の運用を統括する三田武課長です。
「預金として預けていただいたお金を運用しているので、安定して利益を獲得していくのが一番大事だと思っています。」
国債の保有額は実に5000億円。
運用している資産の3分の1に達します。
国債への依存が高まる中地方銀行が懸念しているのは、経営への影響です。
国の信用が揺らぎ国債が売られれば価格は下落します。
すると、銀行は含み損を抱えます。
その損失は自己資本で補います。
しかし値下がりが止まらなければ銀行の自己資本が大きく減り、経営の健全性が損なわれることにつながります。
国債の比重を何とか抑えようと銀行では、改めて貸し出しを増やす取り組みを強化しています。
「こんにちは。」
この日、訪れたのは自動車部品などを製造する中小企業です。
銀行は「新たな取引先を紹介するので借り入れを増やして欲しい」と持ちかけました。
貸し出しはなかなか目標額には届きません。
この銀行の貸し出しと国債の残高です。
貸し出しが伸び悩む一方国債の残高は2年前の1、5倍に増えました。
このまま国債の保有を増やし続けて、大丈夫なのか。
この日、三田さんの元に気がかりなニュースが飛び込んできました。
国内の格付け会社が巨額の債務を理由に日本の国債を格下げしたのです。
国債の価格が下落して、金利が上昇した場合経営にどのような影響が出るのか。
信用不安の高まりから国債の金利がさらに2%上昇する場合を試算。
損失の規模を探りました。
試算の結果、損失は出るものの経営の健全性には大きな問題は生じないことが分かりました。
集まる預金をどう運用していくのか。
この日、戦略会議が開かれました。
会議では、国債の購入を続けざるを得ないという結論になりました。
金融機関にとって、国債に代わる有効な運用先が見当たらないのが現実です。
●日本国債 信用をどう保つか
先月、IMF国際通貨基金は日本国債について一つの報告書を発表しました。
日本国債の先物を取り扱う市場で海外の投資家が売りを仕掛けてくる可能性を指摘。
その結果、安定して推移している通常の国債の金利を上昇させる恐れがあるというのです。
日本国債の信用をどう維持していくか。
財務省は、先月、国内の金融機関などと意見交換をしました。
参加者からは「信用維持のためには、財政再建への強い意志が必要だ」などと改めて厳しい意見が相次ぎました。
政府は、先週、消費税率の引き上げを盛り込んだ社会保障と税の一体改革の素案をまとめました。
社会保障改革と同時に目指すのは財政再建です。
巨額の財政赤字 危機感強める財務省
伊藤さん:(日本が市場の)ターゲットになる可能性というのは非常に高いと思うんですね。
いくつかの条件が満たされているので、今、1%で回っているわけですけれども、その条件が崩れていくようなことがあれば、ヨーロッパのような危機になる可能性があると。
やっぱりヨーロッパの危機から学ぶべきことは、やっぱり健全な財政に早く戻すということが重要だということだと思います。
(どれぐらい時間の猶予があるのかは)難しいですけれどもね、家計貯蓄がこれからが減ってくるということを考えると、5年もつかどうかというところだと思います。
倉都さん:いつまでもつかというタイミングというのは本当に誰にも分からないと思いますけれども、早ければ私はもう数年で来ると。
ですからそのターゲットになるかならないかではなくて、ターゲットになるとすればいつかということで考えると、私はすみません、ちょっと、そんな5年という感じではなくて、もう少し前倒し。
ことしとか、来年というタイミングではないと思うんですが、やはりある程度、時間的な猶予はもう、今はなくなりつつあるということだと思います。
やっぱりマーケットって一度弾みがつき始めると、いくら誰が何を言っても、もう信用されなくなる。
ですから今、先生おっしゃったようにコミットメントをきちんとはっきりしておかないと、例えば海外は日本が例えば、財政再建をどうやるんだろうと、もう非常に神経を使って見てるわけですね。
ですから、当然そのヨーロッパでこういう問題があったわけですから、日本にも同じような目で見る。
そこで何もメッセージが出てこないというのが一番まずいわけです。
ですから、やっぱり何かしら手を打たないと危ない、そういう時期に来ていると思います。
伊藤さゆりさん:ユーロの財政危機というのは、かなりの部分、ユーロの制度的な問題を根ざす部分もありますので、今の危機は即座に日本に飛び火するというリスクはないと思うんですね。
ただ、先ほど来、お話にも出ていましたように、例えばイタリアの場合、確かに今の政府財務残高は高いんですけれど、ただ、過去10年間にわたって、いわゆるプライマリーバランスという形で、利払いを除いた財政収支、これは黒字にしてきて、政府債務の残高もそれなりに減らしてきている。
ところが、やはり絶対水準として債務が高いということが大きな不安材料になってしまって、今の危機になっておりますし、もう一つイタリアとの共通点というところで、私が気になるところは、イタリアは成長してない、この10年間、非常に低生産性というのに甘んじているという状況なんですね。
この問題が大きく、その市場の不安材料になっていますので、日本としてもやはり財政の構造改革、もちろん大事なんですけれど、もう一つこの成長戦略、成長に道筋をつけるということも、非常に大事なんだろうというふうに感じています。
●巨額の財政赤字 日本はどうなる
伊藤さん:先ほど1%にとどまっている条件っていう話をして、やっぱりその一つが、消費税の増税余地があると投資家が見ているから、経済的な解決策はあるんだと、問題は政治的な意志が伴うかどうかというところを見てると思いますね。
何%までどれくらいのスピードで上げればいいのかという問題は考えなくてはいけないんですけれども、5%のままでいるというのは、非常に危険だと思うんですね。
やはり増税余地があるんだから、それを使って、一歩一歩正しい方向にいくという姿勢を見せるということで、マーケットを安心させることができるということで、今回、不退転の意志でということを言っているわけですから、万が一、これがこけるようなことがあると、市場が非常に不安になると思いますね。
だから少しずつ上げていくということが、ぜひ重要だというふうに思っています。
伊藤さゆりさん:私自身も高齢化、人口減少という社会構造の変化への対応という観点では、やはり消費税増税、税制の改革というのは避けて通れないと思うんですね。
ただ、いわゆる国債、イタリアが見舞われているような国債の危機のリスクを減らすという観点でいえば、日本の財政の一つの特徴として、全体的な、総債務は非常に大きいんですけれど、一方で、資産というのもそれなりに持っていて、純資産になれば少しそれよりも額は減ってくるというような話、いくつもあります。
資産の規模というのは、諸外国より大きいんですね。
そうであるならば、やはり資産の売却という部分を少し急いで、絶対的な債務の残高の水準を減らしておくことも、将来のリスクを減らすという意味では大事なんではないかと思います。
●迫られる財政再建 日本の成長戦略は
倉都さん:(実体経済にお金を回して、個人の所得も上げていく)どっちか一方ということではなくて、必ずやっぱりバランスを取らなきゃいけないんですけれども、確かに今、可処分所得が下がって、労働バランスの問題なんですが、そこで消費税を上げると、ますます景気が悪くなるといわれるわけですけれども、その消費税の上げ方も工夫がやっぱり必要なわけですよね。
例えばやはり食品ですとか、子ども服ですとか、そういった必要なところは、例えば思い切ってゼロとか、そういうことにしてしまって、一方でぜいたく品を思い切って消費税を上げていくという、そういうふうな景気にある程度、配慮したやり方、これで消費増税をしていかないと、逆にやはりマーケットも日本がどういうふうに増税をしていくんだというところを、やっぱりこれは注目するわけですね。
実際に今までも何回も実はその海外勢は日本の国債をターゲットに先物で売り攻勢をしてきたんですけれども、今まですべて失敗をしてきたわけです。
今、さすがに日本もうまくこの財政再建が、それこそ成長を伴う財政再建ができないと、今度は投機筋から見ると勝てるかもしれない。
そういうふうな思惑が出てきてしまっているわけですね。
ですから、それはもう、きちんとやっぱり政治は認識をしなきゃいけないと思います。
ですからやはりもちろん成長路線も考えたうえでの増税路線、これは大変難しいバランスですけれども、やはりそこはもう頭を使わなきゃいけないと、そういう時代だと思います。
この状況を識者たちはどう見ているのか
ロナルド・ドーア氏:
「世界経済全体が金融化されている
つまり金融業者の支配下に置かれているということは、やはり災いの根源になっている。
そういう資本を持っているいわいる投資家、投資家は今の世の中に少なくなっている、ほとんどが投機家。
銀行が投資家の役割を果たして、ただギャンブルする投機ができないような制度に変えなければならない」
ジャック・アタリ氏
「2012年は分岐点になるでしょう。
各国が手を結び、世界経済をコントロールできるかが問題です。
財政規律を守ること、国を超えた取引を活発にすること、社会の正義を守ることの重要性に気づかねばなりません。
そうしなければ保護主義がすすみ、悲惨な状況に陥ることになるでしょう。
世界がともに手を結べることになるのか、それとも地域に閉じこもるかが問われているのです。」
揺らぐ世界経済 いま何が必要か
伊藤さん:確かにその金融というものを野放しにすると、暴走することがあるというのは、今回のサブプライムローン以降の教訓だと思うんですね。
ただ、それを単に抑えるんではなくて、そこがどうして暴走したのかと、どこにどう手綱をかけて、コントロールすることで、きちんと金融と実体経済がそろっていくのかということを考えるべきだというふうに思います。
伊藤さゆりさん:今やはり、欧州の危機の渦中にあるわけですけれど、市場と国家の理念というんでしょうかね。
そことのある種、戦いになっている部分もあるのかなと思うんですね。
例えばヨーロッパの場合は、福祉国家という理想を掲げて、これを実現してこようとしていました。
ただ、この国際競争の中、市場経済の中では、やはりそれだけでは経済的な繁栄を維持することはできない。
この国家の理想福祉の問題、それから公平な社会、それと経済成長と。
今の課題としては、環境という問題も大事だと思うんですけれども、やはりバランスの取れた成長というんでしょうか。
市場一辺倒ではない、理想的なバランスというのを追求することが大事ではないかなと思うんです。
倉都さん:まさに分岐点ということば、非常に印象的なんですけど、私も今はまさに経済史の転換点にあるようなそういう印象をやっぱり抱いているんですね。
それはやはり金融というこの機能の追い風に乗って、みんないい思いをしてきたわけですけれども、それがやはり立ち止まって、ちょっと待てと、この経済は本当に正常だったのかという、今はみんな振り返って、反省をしている時点だと思います。
ただやはり金融なしに実体経済はうまくいきっこないと、これも事実なので、金融市場がいくら暴走するくせを持っているとしても、金融市場を否定することはできないわけですね。
ですから、非常に危うさを内包した市場と、いかにうまくつきあうかと、これはやはりわれわれ考えなきゃいけない、そういう時代になったと思います。
伊藤さん:やはり金融の立場からいうと、長期的に投資をするというところに、お金が回るような仕組みっていうのが重要で、短期的な取引で、濡れ手にあわのようなことが起きないようにするということが重要だと、そのとおりだと思うんですね。
ただ、濡れ手にあわにならないようにするというときに、なんでそういうことが起きていたのかと、ひょっとして情報が、非常に偏った形で持たれていた、ひょっとしたらインサイダーに近いような持ちかたをしていた、あるいはあるマーケットに独占力を持つような人がいたというようなことが問題だとしたら、そういうところを抑えるべきで、マーケットそのものを全部規制しちゃうというのは、私は間違いだと思うんですね。
だからそういう意味では、やはり長期的なところにお金が回るような仕組みというのをぜひ考えなくちゃいけないというふうに思います。
倉都さん:やはり今、マーケットも社会も非常に早く答えを見つけようとし過ぎだと思うんですね。
例えば企業の決算は3か月ごとに出さなきゃいけない。
そうしますと、経営、とにかく早く結果を出そうと。
それに金融も乗っかって、とにかくじゃあ、手っ取り早く利益を上げるために、金融を使おうと。
こういう風習があまりに強くなりすぎた。
ですから、そこはやっぱりもう少し長いタイムスパン、これは投資家もそうなんですけれども、そういったところでいかに安定したリターンを上げるかという、そういう発想の転換がやっぱり必要になってきていると思いますね。
伊藤さゆりさん:やはり本来的に何が大事なのか、格差をやはり拡大してしまって、全体として伸びているときはいいんですけれども、特に先進国のように、ある程度成長が成熟した段階では分配の公平というのも、すごく大事な課題だと思います。