〈時代の正体〉ヘイト抗議「差別許さぬ一心」器物損壊容疑で逮捕の男性
- 神奈川新聞|
- 公開:2018/06/09 15:24 更新:2018/06/09 15:37
ヘイト集会の抗議に会場周辺に集まった市民=3日、川崎市川崎区の市教育文化会館
集会は中止になったというアナウンスが市教育文化会館(川崎区)周辺に響いた。会場入りさせないよう参加者に立ちふさがる風呂橋さんらの抗議が実った。
立ち去ろうとしない参加者に近づくと、プラカードが倒れかかってきた。とっさに両手でつかみ「もう終わりだろ」と引き下ろしたという。パネルが持ち手からはがれた。「すぐに背後の警官にベルトをつかまれ『器物損壊』と言われた。テープがはがれただけじゃないかと主張したが」と話した。
川崎署は「器物損壊事案における通常の対応」と説明。調べに対し「プラカードを下げ降ろしたが、器物損壊したつもりはない」と話したという。
風呂橋さんは「差別は許さない。その一心だった」。中卒で故郷を離れ、いすゞ川崎工場に就職。仕事の傍ら通った県立川崎高校の定時制には在日コリアンの同級生がいた。高度経済成長を支えた京浜工業地帯にこそ公害、民族差別、貧困といった矛盾はあらわだった。
取り調べで「日本人なんだからヘイトなど気にしなくても生きていけるじゃないか」と問われ、語気を強めたという。「川崎では共生社会を築こうと努力が続けられてきた。ヘイトスピーチは長年の積み重ねを破壊する。この集会も市を挙げて条例を作ろうという動きに足かせをはめるものだ。許せるわけがない」。市内のヘイトデモのカウンターに再三加わってきたのも、この街に半世紀余り生きた労働者の矜持(きょうじ)だった。
保釈された5日、福田紀彦市長は会見で「現場が混乱したのは遺憾。実力行使は望ましい姿ではない」と語った。風呂橋さんは首を横に振る。「市が会館を使わせなければ抗議には行かなかった。ただ、取り組みが道半ばで市の判断の難しさも分かる。だから市民の声で後押ししなければ、との思いがある。差別撤廃の条例作りも後退してほしくない」
留置場では事件が口実にされるのではという不安に襲われた。「私の行動が積み重ねてきた運動を台無しにしまいか、と。命を絶ってしまおうかとも頭をよぎった」。集会中止に報復するかのような差別落書きが市内で見つかり、主催者は「暴徒による言論弾圧」と差別を表現の自由の問題にすり替える。威力業務妨害で訴えると在日コリアン市民の実名をブログでさらす非道に悔しさが募る。
実名で逮捕が報じられ「レイシストから家や親族に嫌がらせをされないか、怖さはある」。だが、取調官に答えたという。「苦しめられている人が目の前にいる。手を出したのは反省しているが、今後も同じことが続くなら、私は抗議に駆けつける」