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【社説】

日中首脳会談 もろさ克服の好機に

 安倍晋三首相と中国の李克強首相が会談し、尖閣諸島の問題などで冷え切った日中関係は改善軌道に戻った。歴史や領土問題など両国関係を常に揺さぶるもろさの根源を克服する好機としてほしい。

 李首相の訪日は中国首相として八年ぶりの公式訪問であり、李氏にとっては二〇一三年に首相に就任して初の訪日となった。

 一二年の日本政府による尖閣諸島国有化などで日中関係は長期にわたり険悪化した。それだけに李首相の訪日を新たな関係構築のための第一歩と期待したい。

 李首相は「今まさに波風が過ぎ去って晴天が現れ始めた」と述べた。今後の首脳相互訪問で合意したとはいえ、真の信頼回復の努力はこれからであるとの共通認識をしっかり持つべきであろう。

 会談では、自衛隊と中国軍の偶発的衝突を避けるための「海空連絡メカニズム」の運用開始で合意した。対象範囲に沖縄県の尖閣諸島が含まれるかどうか明示しない玉虫色の決着だが、十一年間もたなざらしにされた懸案を一歩前に進める政治の知恵であろう。

 両首脳は、金融機関が人民元で中国本土の証券に投資できるようにする「人民元適格海外機関投資家」の投資枠を日本が得ることで合意したほか、サービス産業や社会保障などの分野で幅広い協力協定に調印した。

 「海空連絡メカニズム」を除けば、経済面での協力を軸に関係改善を図りたいとの中国側の思惑がにじむ会談結果といえよう。

 中国は米国との貿易摩擦や東南アジア諸国との領有権問題を抱えており、「周辺外交」重視の一環として、戦略的に日本との関係改善に動いたといえる。

 中国が推進するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に日本が協力姿勢を示したことは関係改善の追い風になったが、両国首脳の信頼感が高まったゆえの関係改善でないことには留意したい。

 厳冬の時代が過ぎ、対話の軌道に戻ったが、正念場はこれからである。今会談で両首脳が避けた歴史認識や領土問題などが繰り返し両国間の大きなトゲとならないよう、首脳同士が定期的に胸襟を開いて話し合い、信頼感を高めることが何よりも重要である。

 中国は欧米流の民主的な価値観と一線を画してきたが、最近、特に共産党による統制を強めていることも気になる。

 友好はむろん大切だが、是々非々の立場で中国とつきあっていく姿勢も求められる。

 

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