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旅行は楽しかった。
ホテルの目の前が碧い海で、テンション上がりまくり。
部屋はもちろんスイートルームで、私はお兄様と一緒にリビングを隔ててベッドルームがふたつある部屋に泊まった。
両親はビーチで日光浴やエステに行っていて、ほとんど海に入らない。
ありえない。海に来たのに泳がないなんて、一体なにしに来たんだ!
こんな時、年上の兄妹がいるといいよね。
保護者兼、海の遊び相手として引っ張りまわす事ができる。
私も朝からお兄様を誘って海三昧。お兄様の肩につかまって子亀状態で泳いでもらったり、シュノーケリングしたり。
本当はお兄様ももう中学二年生なんだから、小さい妹の相手なんて退屈なんだろうけどね。
鏑木雅哉のように仲の良い友達を誘いたかったかもしれないけど、そうすると私がひとりになっちゃうので、ここは我慢してもらいましょう。
調子に乗って得意げに泳いでいたら、河童の川流れになり、お兄様に慌てて救助してもらったのは、良い思い出だ。
一応日焼け止めを塗っていたにもかかわらず、真っ黒になってしまった私を見て、お母様がムンクになっていた。
旅行から帰ってきてその楽しかった余韻に浸りつつも、秋にはピアノの発表会があるのでレッスン日を増やされて集中練習をさせられたり、他の習い事にも通ったり、親戚の集まりに参加したりと、毎日なんだかんだと予定が入っていて、忙しく過ごしていたら、あっという間に夏休みもあとわずかになり、サマーパーティーの日は目前になっていた。
「麗華、用意は出来た?」
先に支度を終えたお兄様が、部屋に私を迎えにきた。
「はーい」
今日は初めてのサマーパーティーと言う事で、中等科でピヴォワーヌメンバーであるお兄様がエスコートしてくれるのだ。
心強いね。
「ドレス可愛いよ。よく似合ってる。その髪に挿してある花は本物?」
えへへ。
お兄様ったら褒め上手。
このシャーベットグリーンのフレアドレスは私もお店で見て、一目で気に入ってしまったのだ。
夏らしくて、とっても可愛い。
このドレスを買った時は旅行前だったので、白い肌に合わせて「なんだか儚げな雰囲気?むふふ」なんて思ってたのに、予想外に日焼けしてしまったので、当初のイメージとは少しばかりかけ離れてしまったが、子供らしい元気さがあっていいじゃないか。
ドレスを一緒に買いに行ったお母様がこの姿を見て、少しがっかりしてたのは見なかった事にする。
髪はヘアサロンでセットしてもらって、ヘアアクセサリーの代わりに白い生花が挿してある。
あぁ、気分はお姫様。
おしゃれは女の子の気持ちを盛り上げるね。
もうニマニマが止まりませんよ。
お気に入りのドレスを着て、向かうはサマーパーティー!
でもこんな笑い方はお嬢様らしくないから、気を付けないと。
しかし頬筋が言う事をきいてくれない。ニマニマ。
「じゃあそろそろ行こうか」
「はいっ」
会場であるホテルまでは吉祥院家の車で送ってくれるので、ヒールのある華奢なサンダルでも平気。
あぁ、わくわくするなー。
「ね、ね、お兄様。サマーパーティーのお話を教えて?」
「また? この前も話したじゃないか。それにもうすぐ着くんだから、自分で確かめられるよ」
お兄様は苦笑しているけど、だって聞きたいんだもん。
何度も同じ話をさせられるお兄様にはお気の毒だけど。
会場は都心にあるホテルの1階のホールで、プライベートガーデンに面しているので、そこからテラスに出て過ごしてもいいらしい。
そのお庭には薔薇のアーチがあって、とてもきれいだそうだ。
お兄様曰く、「麗華が好きそうな庭だよ」との事。
開始時刻は夕方からだけど、夏は日が落ちるのが遅いので、自然光と夜のライトアップと両方楽しめるらしい。
「絶対お庭に行きましょうね!」
「はいはい」
料理はビュッフェスタイルの立食だけど、テーブルも椅子もあるのできちんと食事をしたい人はそちらに座って食べる。
でもほとんどの人が社交目的なので、そんながっつり食べる人はいないんだって。
最高級ホテルのお料理なのに、もったいないな~。
前世ではビュッフェに行く時は朝から食事制限して、心置きなくめいいっぱい食べたのに。
私の中で、ビュッフェ=死ぬ気で食べる!だったから。
そういえば、友達とデザートビュッフェにもよく行ったなぁ。毎回、全種類制覇を目標に掲げて行ったけど、一度も 貫徹できた事なかったなぁ。
……みんな、元気かなぁ。
「麗華?」
はっ! いかん、いかん。自分の世界に入り込んでしまった。
余計なことは考えないようにしないと。
「楽しみね、お兄様」
私は今、吉祥院麗華なんだから。