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結局、塾には夏休み明けの9月から通う事になった。
キリがいいのと、他の習い事のスケージュル調整との兼ね合いもあったからだ。
9月まではあと2か月もあるけど、そこは贅沢は言うまい。
ここで今すぐにと我を通せば、さすがに変だと思われるし。
楽しみだなぁ。
その前に夏休みだ!
セレブ小学校では朝顔の観察日記なんていう、しょぼい宿題は出ないらしい。
私、朝顔やへちま育てるの結構好きだったんだけどな。ちぇっ。
「麗華様は夏休みはどこへ行くのですか?」
あと数週間で夏休みと言う事で、学院全体が浮かれた雰囲気になっている。
取り巻きその1芹香ちゃんと、その2菊乃ちゃんも同じく夏休みが待ち遠しいようだ。
もちろん私もね!
「私は家族でタヒチに行きますのよ」
「まぁ素敵!」
やっぱり夏は海だよね!
新しい水着も買ってもらったし、日本の河童魂を見せるぞ!
「私は夏休みが始まったらすぐに別荘に行くんです。その後はハワイ」
芹香ちゃんが言うと、それを聞いて菊乃ちゃんが
「私のうちもハワイよ! もしかしたら向こうで会えるかしら!」
「えぇっ、本当?!」
思わぬ偶然に二人は目を輝かせて、お互いの旅行日程や宿泊先を確認し始めた。
教室を見渡すと、他のクラスメート達も旅行の予定などで楽しそうに盛り上がっている。
旅行っていうのは、行くまでが一番楽しいっていうけど、本当にそうだよね。
待ち遠しくってしょうがない。
しかし、聞こえてくる旅行先はほとんど海外。千葉や神奈川の海に行くような子は、この学院にはいないらしい…。
前世の私の家の定番海スポットだったんだけどね。
あぁ房総の海で食べた焼きトウモロコシが懐かしい。じゅるっ。
「そういえば聞きました? 鏑木様は地中海ですって」
芹香ちゃんが笑顔で、とっておきの話をするように声をひそめた。
ほー、地中海。
「鏑木グループのホテルにずっと泊まって、夏休みはほとんど日本にいないんでしょ。1か月もお顔が見られないなんて、堪えられなーい」
皇帝の話題に嬉しそうに、でも会えなくなるのが悲しそうに、菊乃ちゃんがそれに答えた。
「
クラスが違うのに、二人はしっかり鏑木情報を掴んでいる。さすがファンネットワーク。
「二人ともくわしいのねぇ」と感心したら、これくらい知ってて当然ですと言われてしまった。
そうですか。
しかし、円城
あの二人は昔から本当に仲が良かったんだな。
円城秀介は『君は僕のdolce』の中で、皇帝の幼馴染で親友として登場し、主人公と皇帝の仲を応援するキャラクターだ。
皇帝と対等に話せる数少ない人間で、皇帝と主人公がすれ違ってしまった時は、皇帝を諌める事もあった。
冷たい威圧感漂う皇帝に対し、柔らかな笑みで皇帝と他者の間を上手く取り持つ円城は、癒し系として読者の人気の高い一人だった。
そして腐の人達からは皇帝の嫁扱いされていた…。
ただし、親友である皇帝の害になると判断した相手には、結構厳しい。皇帝以上に容赦ない時もあったなぁ。
もちろん吉祥院麗華も敵認定されて、何度かバッサリ切られていた。
今も、プティピヴォワーヌや廊下で時々見かけた時は常に一緒で、すでにマンガの中のふたりそのものの関係性だ。
確か幼稚園も一緒だったはず。
私は顔だけだったら、円城派だったなぁ。
カラーイラストだと、蜂蜜色の髪で王子さまみたいだったんだ。
初等科に入学して初めて円城秀介を見た時、その髪色が黒だったので、あれはカラーリングか! 人工物だったのか!って驚いた。
そりゃそうか。ハーフ設定でもないのに、あんな髪の色のわけがない。
いつの時点であの髪に染めてくるのか、いきなり黒から蜂蜜にモデルチェンジするのか、周囲はどう反応するのか、心の中でちょっとニヤニヤしながら、今から楽しみしている。
そういえば、この学院の校則ってカラーリングOKなの?
ピヴォワーヌでは、夏休みに恒例のサマーパーティーが開かれる。
あくまでメインは本体なので、私達プティはおまけだ。
しかしこちらにも招待状は来ているので、サロンでは最近、パーティーの話題で持ちきりだ。
女の子達はドレスの相談をし合ったりしている。
そして私もこのサマーパーティーには、わくわくしている。
だって凄く楽しそうじゃない!
煌びやかな会場で、美しいドレスを着たお姉さま方とそれをエスコートするお兄様方。
ホールの真ん中ではクルクルとワルツを踊る人々。
見てるだけでも楽しそう!
マンガの中でもサマーパーティーは華やかに描かれていた。
そこで主人公は吉祥院麗華とその取り巻き達に嫌がらせされるんだけどね…。
ヤな事思い出しちゃったよ。
まぁ、いい。気を取り直して楽しい事を考えよう。
今年は鏑木雅哉は日本にいないって聞いたし、この隙にピヴォワーヌを楽しむぞ!