挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
3/299

3

 さて、ピヴォワーヌには学院内に専用のサロンがある。

 もうすでに、学校のいち教室という域を完全に逸脱した、どこぞの一流ホテルのロイヤルスイートのリビングのような豪華さな部屋だ。

 更にサロン専属のコンシェルジュまでいる。


 プティピヴォワーヌのサロンは初等科内にあるが、私も一応メンバーなので、顔を出しておかないといけない。

 名誉あるピヴォワーヌに選ばれておきながら、全く寄り付きもしないじゃ、余計な反発を生んで敵を作ることになりかねない。

 人間関係において、お付き合い、コミュニケーションは大事です。


 本当は、サロンに行くのは嫌いじゃない。おいしいお菓子もあるし、上級生から学院の情報も頂けるし。

 それだけだったら、もっと楽しい気分で行けていたかもしれない。


 ただ、あそこには“あの方”がいるんですよ。


 “あの方”


 そう、後に皇帝と呼ばれる鏑木雅哉(かぶらぎまさや)様が。



 そもそも鏑木家というのは、グループ企業が世界中にある、日本屈指の素封家一族だ。

 そしてやはり、吉祥院家と同じく元華族の血も引いている。

 爵位は鏑木家のほうが上だったみたいだけどね。

 ご先祖様には、やんごとないお血筋の方もいらっしゃったらしい。


 なんか、もうステージが違う…。


 どこを取っても瑕疵ひとつない、完璧な一族。それが鏑木家。


 その鏑木家直系の御曹司が、鏑木雅哉だ。



 本人もその鏑木家を継ぐにふさわしい器の片鱗を、すでに見せている。

 まだたった小学1年生だというのに、他者を従わせるオーラを放ち、青い焔のような美貌で民草を睥睨するかの態度は、まさに皇帝。


 今もサロンの特等席に当然のように堂々と座っている。

 どうやら彼には上級生に席を譲るという発想はないらしい。さすが皇帝。


 花に群がるミツバチのように、鏑木雅哉の周りには人が集まる。

 それにもほとんど関心を示さず、時折窓の外をつまらなそうに見ている。

 どんな育て方をしたら、こんな、6歳で人生に退屈してるような子供が出来上がるんだ。

 帝王教育か。帝王教育を受けると、こんな子供になっちゃうのか?


 そんなにつまらなければ、校庭でドッジボールや鬼ごっこでもして遊んでくればいいのに。

 まぁ、瑞鸞の校庭では、残念ながらそんな事をして遊んでる子供なんてそもそもいないんだけどね。


 この子って、子供らしい遊びって普段してるのかな。

 一輪車を乗り回してきゃっきゃ、きゃっきゃとはしゃいで遊ぶ、鏑木雅哉。


 うぷぷ、想像したら面白い。


 と、離れた場所からこっそり観察していたら、ばっちり目があってしまった。

 げっ、眉間にシワ寄せた。もしかして、心を読まれた?!


 ひええぇぇっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!


 私は、「あら、ワタクシ教室に用事があったのを思い出しましたわ。戻らないと」という体を装い、さりげなく、さりげなーく鏑木雅哉から目を逸らして、何事もなかったようにサロンを後にした。


 こ、怖い。後ろを振り向けなかった。




「麗華様、プティピヴォワーヌのサロンに行ってたんですか?」


 教室に戻ると、クラスメートの女の子が話しかけてきた。


「えぇ、お茶を頂いてきました」


 他の女の子もそばにきて、


「あの、鏑木様もいらしたのですか?」

 と頬を染めて聞いてきた。


「えぇ、いらしたようですね」


「まぁっ」

 女の子たちがきゃあきゃあとさざめき始めた。


 この子達はピヴォワーヌのメンバーではないし、鏑木雅哉と私達ではクラスも違うから、なかなかそばに近づくチャンスがないのだ。


「麗華様は鏑木様とはお親しいのですか? サロンではどんなお話を?」


 親しくもないし、今後も親しくなるつもりはない。


「鏑木様は寡黙な方で、私はほとんどお話した事はないんですのよ。私も上級生のお姉さまとお話ししてる事が多いですし」


「まぁ、そうですの…」


 女の子達のテンションが一気に下がってしまった。

 う~ん、ごめんよ。出来れば私も、素敵なネタを提供してあげたいんだけど、こっちも将来かかってるし。


「ごめんなさいね、ご期待に添えなくて。あっ、でも、チョコレートを召し上がってたわ。甘いものはお好きなのかもしれませんわ」


 がっかりした女の子達の為に、なんとか観察の成果を披露してみる。

 たいした情報じゃないけど、どうでしょう?


「わぁっ、チョコレートを食べる鏑木様、見てみた~い」

「私もチョコレート大好き。鏑木様と一緒だわ!」

「チョコがお好きなら、バレンタインには最高の物を用意しなくっちゃ!」


 おぉっ、予想外に受けてくれた。

 とりあえず、喜んでもらえたので良かった。

 しかし、今からバレンタインの事を考えるとは、ずいぶん早すぎやしないか?


「麗華様から鏑木様のお話を聞こうとするなんて」

「そうよ、失礼だわ」


 お、吉祥院麗華の取り巻きその1、その2・

 風見芹香ちゃんと、今村菊乃ちゃんだ。


 君ドルの中でも、麗華と共に皇帝に夢中になって、その姿を追っかけまわしてたけど、小学生ですでにファンだったようだ。


 私の為に怒っているようにみせてるけど、本当は憧れの鏑木雅哉の話を、他の子にも平等に流すのが気に食わないだけだ。

 取り巻きやってるんだから、自分達に優先的に素敵情報をくれって事なんだよね。


「私が軽々しく、鏑木様の噂をしてしまったのがいけなかったわ。芹香さん、菊乃さんもごめんなさいね」


「あっ、そんな」

「麗華様が謝る事なんて」


 二人が慌てたので、笑顔でフォロー。

 ファン同士、みんな仲良く楽しくアイドル(鏑木雅哉)の話で盛り上がればいいじゃない。

 二人には後で、鏑木雅哉の食べていたチョコレートのブランドを教えてあげるからさ。





+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。