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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 入学しましたよ、瑞鸞学院初等科。


 そこは前世(?)の私が通ってた公立小学校とはまるで違った。

 伝統ある学院にふさわしい、ヨーロッパの大聖堂のような外観。正面玄関には美しいステンドグラスが輝いている。

 だけど中は最新設備。エアコンはもちろん標準装備だけど、各クラスに加湿器もウォーターサーバーも付いてる。冬は床暖房。


 温水プールもテニスコートもサッカー場も野球場もコンサートホールもある。ミニシアターだってある。プラネタリウムまである。ついでにドーム型温室に茶室もある。

 ほかにもまだまだ、私の常識ではありえない設備がたくさんあった。

 小、中、高と共同で使う施設もいくつかあるけど、とにかく私の今までの「小学校」という概念を覆すものばかりだった。


 都心なのに広大な敷地面積を持ち、緑溢れるこの学院は通称、瑞鸞の森とも呼ばれていた。



 制服は有名デザイナーが手掛けた、ブレザータイプ。中、高等科はラインの入った白いブレザーに、女子はリボンで男子はネクタイ。リボンとネクタイが中等科はボルドーで高等科は深いブルー。

 初等科だけは汚れが目立たないようにか、ブレザーが紺。リボンとネクタイは水色。どれもとっても可愛い。


 さすがです、有名デザイナー。この制服が着られるだけでも、この学院に入学して良かったと思えるよ。

 瑞鸞の制服は「着てみたい制服ランキング」で常に1位を独占している、女の子の憧れの制服なのだ。

 確か主人公も瑞鸞を志望した理由のひとつが、この可愛い制服に憧れていたからだった。

 うん、うん、わかるよ、その気持ち。

 ただ主人公は、その制服を何度も嫌がらせで汚されるんだけどね……。



 中等科と高等科ではお弁当か学食かを選べるが、初等科には給食があった。

 しかし作っているのは給食のおばさんではなく、シェフ。

 給食当番なんてものはない。だって食堂に専任の給仕さんがいるから。

 そして、これを果たして給食と呼んでいいのかと思うような豪華なメニュー。

 ヴィシソワーズとか子牛のテリーヌとかが普通に出てくる。テーブルマナーを学ぶ一貫だそうだ。 

 飲み物は紅茶。お好みでレモンかミルクをどうぞ。間違っても、牛乳がぶ飲みして白ヒゲ作るような子供はいない。

 デザートは冷凍ミカンではなく、クレープシュゼットだ。


 あぁ、なんかもういろいろとありえない。まさにカルチャーショック。

 こんな気持ちを、主人公は高等科に入学した時に味わうんだろうなぁ。


 この学院、一体学費はいくらかかってるんだろう。怖くてなるべく考えないようにしてるけど。



 そして瑞鸞学院の最大の特徴は、「牡丹の会(ピヴォワーヌ)」という組織だ。


 ピヴォワーヌは、初等科から瑞鸞に在学している内部生の中でも、血筋、家柄、財力などの厳しい条件をクリアした、特権階級の瑞鸞生たちの集団だ。

 中、高等科生で組織されており、学院からも様々な特別待遇を受けている。


 初等科には、プティピヴォワーヌがある。この子達が中等科に上がって、そのままピヴォワーヌのメンバーになるのだ。

 純血瑞鸞生のみで構成される為、どんなに血筋、家柄、財力が優れていようとも、中、高等科からの途中入学生は入る事ができない。

 選ばれし者にしか入る事が許されない、まさに全瑞鸞生憧れの組織なのだ。


 そして私、吉祥院麗華ももちろんプティピヴォワーヌのメンバーだ。

『君は僕のdolce』の中でも、麗華はピヴォワーヌの権力を笠に着て、やりたい放題だったもんな。

 ピヴォワーヌというだけで、たいていの事は許される。

 でも生徒を正しい道に教え導く機関であるはずの学校として、どうなのよ、それ。


 ピヴォワーヌのメンバーは、制服の校章の下に会の紋章である牡丹を象った小さなバッチを付けている。

 本物の宝石を使って作られているから、キラキラと輝いてとってもきれい。

 そしてこれが学院内免責特権のパスになる。

 …そう考えるときれいだけどちょっと怖いね。


 ちなみになんで「牡丹の会」なのかと言うと、牡丹の花言葉が「王者の風格」だから、らしい。

 …なんかもう、そういう発想がいろいろ怖いね。



 ピヴォワーヌメンバーというだけで、ほかの生徒達からは憧憬半分、畏怖半分。

 それはそうだ。ピヴォワーヌとトラブルを起こせば、この学院に在籍し続ける事は難しい。

 そしてその家族も、メンバーの持つ背景に追い込まれ、被害を受ける場合もあるのだから。

 賢明な人間なら、ピヴォワーヌとは当たらず障らず、だ。

 私だってそうしたい。


いや、無理なんですけどね。メンバーだし。がっつり食い込んじゃってますよ。

あぁ、怖い。そして彼らの金銭感覚が私には更に怖い。

だって私にはまだ、高校時代のひと月のお小遣い五千円の感覚が染み付いちゃっているからね。

小学生に一体いくらのお小遣い渡しているんだ。それはもはや、お小遣いではなく経費だ。

 うん、もちろん私を含めてね。



 そんなこんなで、実家の権力、財力のおかげで、私は学院でもそこそこ快適に過ごしている。

 いや、そこそこなんて言ったら贅沢か。とても快適に過ごしている。

 小学1年生で、すでに取り巻きも出来ちゃってるしね。

 この子達、『君は僕のdolce』の中でも、麗華の取り巻き役だったなぁ。

 こんな昔からそばで太鼓叩いていたのか。


 6年しか生きていなくても、処世術っていうのは身に着けちゃうものなんだよなぁ。

 あぁなんだか世知辛い。子供の世界も大変だ。


 でも贅沢を言わせてもらえば、取り巻きより友達が欲しい。



 あれ?『君は僕のdolce』の中でも、「吉祥院麗華のお友達」っていうキャラは登場しなかったけど、もしかして私ってばこの先友達ゼロ?

 あっ、いけない。涙が…。



 マンガは主人公が高等科に入学するところから始まるから、麗華がそれまでどんな学院生活を送ってきたのかはわからない。

 でも多分、自分より格下を見下し、通称「麗華ポーズ」の、左手を腰に当て右手を口元で逆手にして高笑いをしながら、我が儘放題にしていたんだろう。

 皇帝に付き纏いつつ。


 でも今の私には、そんな事は絶対出来ない。破滅の足音が聞こえてきちゃうからね。

 それに「オーッホッホッホ」なんて、受け狙い以外でやる神経は、持ち合わせちゃいないので。

 私だって、恥って言葉くらい知っているのだ。

 まぁ瑞鸞なら、他に麗華ポーズをする生徒も普通にいる気もするけど…。








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