龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男
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お気に入り2000突破来たー!!!!皆さんありがとうございます!

これからも拙作をよろしくお願いいたします。きっちり完結目指して邁進します。

アンチ・ヘイトタグを追加しました。

それと新たな評価者様へ。

・確かに現時点では今の緑谷から原作にあった良さのヒーロー性が失われていますが、これは徐々に取り戻させていきます。

・オールマイトは一番ヒーローらしい行動をしたから彼に個性を譲渡をしたというのに自覚はしているけど過去を清算して前に進むのが復讐みたいなやり方って一番ヒーローらしくない選択させているのに違和感があるのもごもっともです。しかしこれは見解の相違という物です。何を以て「ヒーローらしい」とするかはある程度は共通しますが、多感なティーンエイジャーが自分をいじめた相手を見返してやりたいと思わない筈が無いのでこのような展開に持っていきました。

・緑谷と爆豪の関係や態度は理解できなくはないし下地はあるけど「普通の人間だったら当然だろ」理論のごり押し感がひどい。確かに多少は無理があるかもしれませんが、自分はむしろ何故オールマイトが出久にいつも笑っている理由を明かした時の様に人間としての弱さにフォーカスを当てて行かないのかとたまに思ってこんな感じにしました。


File 28: Are you ready?! シャカリキスポーツフェスティバル

体育祭までの準備期間はあっという間に過ぎて行き、遂に当日の朝がやって来た。USJ襲撃を考慮して中止すべきではないかという声もあったらしいが、ヒーロー育成は国家レベルのプロジェクトだ。それをおいそれと中止する訳には行かない。むしろ死傷者ゼロで生き延びたから警備を例年の五倍にまで上げ、強気に出た方が良いという声もあり、敢行された。

 

1-Aの控室でクラスメイトと待機している出久はノートを見ながら柔軟体操をしていた。

 

『チェックはしたが、コンディションは今までにないほど良い。あまり気負うな。』

 

グラファイトはそう言うものの、そう簡単にはいかない。第一に、これは学年別の総当たり。ヒーロー科、経営科、普通科、サポート科の全学科が参加し、国全体が注目しているビッグイベントだ。次世代の『平和の象徴』として、緑谷出久が来た、と世に知らしめなければならない。

 

第二に、麗日の言葉が未だに深く刺さって抜けない棘のように心の奥底に潜り込んでしまっているのだ。自分を長年いじめてきた相手を叩き潰す。そんな私的で自己満足の為でしかない事の為に、オールマイトから借り受けた力を、ヒーローになる為に助力してくれているグラファイトの力を使おうとしている。

 

これでは何の為にヒーローの道を志したのか分からないではないか。ヒーローは己の為に力を振るわない。ましてや復讐などしない。断じてしないのだ。だがそう思う都度、膿んだ心の傷が疼く。脳裏の奥底から声がする。応報せよと、小さくもはっきりとした声で。

 

爆豪の辞書に『同格』の文字は無い。あるのは『格上』か、『格下』だけ。和解が成立しない以上、根本的な解決方法はとことんぶつかり合って全て吐き出し、相手のいじめようと言う意志を踏み潰す事。

 

「グラファイト、この体育祭の結果がどうなろうと、終わったら僕はオールマイトに()()()()()。」

 

グラファイトは何も言わなかったが、元々察しが良い男だ。何も言わない。

 

「は~、着たかったなぁ~コスチューム。」

 

「公平を期す為に着用禁止なんだよ。先生も言ってたし。」

 

皆と同じ学校指定のジャージを着た芦戸の残念がりに尾白が苦笑した。

 

「よ、予選の種目って何なんだろうな?」

 

緊張を紛らわす為か、砂藤が会話を求めて誰ともなしに尋ねた。

 

「何が来ようと、対応するしかない。」

 

「皆、準備は出来たか?!もうすぐ入場だ。」

 

ノートをロッカーにしまい込み、首と肩を回して脱力する。まずは本選で勝ち上がる。

 

「緑谷。」

 

ロッカーの扉を閉めて、後ろから声をかけられた。目に入ったのは赤と白で左右半分に髪の色が分かれた髪の毛。八百万と同じく推薦で入学を果たした轟焦凍だった。

 

「お前、オールマイトに目ぇかけられてるだろ?まあその事について詮索するつもりはねえが、始まる前に言っとく。俺は、お前には勝つ。」

 

入場直前の宣戦布告に一瞬身を堅くしたが、出久も若干気が立っており、言い返さずにはいられなかった。

 

「君が何を思って僕に勝つって言ったのかは分からないけど、客観的に見ても君は強い。戦術眼も、『個性』も、大半よりも数枚上手だ。だから僕も全身全霊で挑むよ。君にも、勿論皆にも。」

 

しかし彼は分かっていない。人生丸ごと逆境だった人間の強かさを。その死に物狂いの純度を。

 

プレゼントマイクの実況と共に、列を成した生徒達が入って行った。大歓声と乱射されるカメラのフラッシュ、そして観客の熱気に晒される。これもまた人の目に晒されながら最大の結果を出せるかのリハーサルなしの一発勝負だ。

 

続いてヒーロー科一年B組、普通科C、D、E組、サポート科 F、G、H組、そして経営科H、J、K組も入場する。

 

集まった雄英一年生は壇上の手前で止まった。主審を務める18禁ヒーロー ミッドナイトが手にした鞭を振り上げた。

 

「選手宣誓!」

 

「ミッドナイト先生、なんちゅー格好してやがんだ!」

 

「流石18禁ヒーロー・・・・」

 

「18禁が高校にいても良いのか?」

 

「いい!」

 

「静かにしなさい!選手代表、1-A、緑谷出久。」

 

肩を回しながら出久は一歩一歩を踏みしめながら壇上に上がり、マイクをスタンドから取った。先端を軽くたたいて作動しているのを確認すると大きく息を吸った。

 

「宣誓。僕達一年は、一人一人が自分でしか成り得ない『平和の象徴』を目指す為、全霊を以て死力を尽くして高め合い、戦う事を誓います!」

 

一礼と共に観客から一段と大きな歓声と拍手の嵐が巻き起こった。

 

『即興にしては中々良い挨拶ではないか。』

 

本番に強くなったとはいえこれだけの人数の前だからあがってしまうのではないかとグラファイトは心配していたが、杞憂に終わってくれて僥倖だ。

 

何でも早速始まる雄英のやり方は相変わらずで、第一種目の説明も早速始まった。

 

「毎年多くの生徒がここでティアドリンク!運命の第一種目、今年は・・・・これ!!」

 

スクリーンに現れたのは障害物競走の五文字。

 

「十一クラス全員参加のレースよ。コースはこのスタジアムの外周、約四キロ!雄英は自由な校風が売り文句。コースを守れば何をしたってかまわないわ!さあ、みんな位置に付きまくりなさい!」

 

選手用の赤いゲート前に全員が集合した。ゲート上の緑のランプが一つずつ消えて行く。

 

「スタート!」

 

狭い門を目指し、出久は並み居る一年生を押し退けながらスタートを切った。二十歩毎にペースを上げて行く。当日まではほぼずっと基本の復習にいそしんでいた。今ではトラックのタイヤを腰に括りつけて海浜公園を何度か往復出来るまでになった。一歩毎に踏みしめ、地を蹴る爪先のパワーを感じる。後続との距離はそう離れていないが、スタートとしては上々だ。

 

『さぁ~て、スタートと共に実況開始だ、are you readyイレイザーヘッド!?』

 

『ああ。』 

 

『早速だが序盤の見どころは?』

 

『今だよ。』

 

外周に通じるまでの通路は狭い。押し合いへし合いして鮨詰め状態だ。行ける通路は左右の壁か上のみ。最初のふるいにはもう既にかけられているのだ。更にスピードを上げ、ワン・フォー・オールの出力をハイペースで上げて行く。

 

『出久、来るぞ。轟に爆豪、切島、青山、八百万、その他複数だ。』

 

やはりそうか。流石はクラスメイト、互いの事を心得ている。後続は恐らく氷で釘づけにされたか滑って転んでスタートダッシュが出来ない状態にあるだろう。だが今は無視だ。とにかく今は出来るだけ距離をつける。

 

「フルカウル28%!」

 

これが今出せる最大値。今は前だけを見ろ。

 

『来るぞ、前だ。』

 

『狭き門は前哨戦!ここからハードな受難の始まりだぜ!まずは手始めに第一関門、「ロボインフェルノ」 を切り抜けろ!GO GO GO!!』

 

立ち塞がるは入試の聳え立つ『お邪魔虫』、ゼロポイントを含む仮想ヴィラン多数。しかし出久はペースを落とすどころか更に上げた。大きい分攻撃の面積は広いが小回りは効かない。縫う様にロボの足元をクロスステップやスピンで抜けて行く。バグヴァイザーZである程度攻撃をしておくことも忘れない。

 

『速い速い!失速ナシのトップスピードプラス繊細なフットワークで抜けるはお手本のような選手宣誓をしてくれた一年代表緑谷出久!あっと、しかし同じく1-Aの轟が猛追!凍結で攻略と妨害を同時にやってのけて二位抜けだ!あれだな、もう何かずるいな!』

 

『合理的かつ戦略的行動だ。』

 

『流石は推薦入学者!』

 

先頭走者は二人。しかしUSJで命を奪われる恐怖を知った1-Aはそれにより迷いを捨てる術を一早く手にしていた。爆豪、常闇、瀬呂の三人が下から行けないならば上からと、ロボ軍団の頭上を飛び越えて行く。

 

八百万も迫撃砲を創造して仮想ヴィランを各個撃破しながら前進していく。

 

『オーオー、第一関門はちょろいってかぁ!?んじゃ第二関門はどうさ?落ちればアウト!それが駄目なら這いずりな!THE FALL! お?おお?!緑谷断崖絶壁向かってスピード落とさねえ!まさか飛び越えるつもりなのか?!飛び越えちまうのか!?』

 

断崖絶壁とその中間地点に乱立する足場。それを繋ぐ唯一の道は丈夫なロープのみ。

 

『Hopper SMASH!!』

 

崖っぷちギリギリまで助走をつけ、両足で力一杯飛び上がる。次の関門へと繋がる地上はまだ先だ。着地からの受け身で再び助走を始める。

 

「言った筈だぞ、俺はお前に勝つってな。」

 

背中が何やら冷たい。恐怖からではない。汗でもない。

 

『チュドド・ドーン!』

 

後ろを見ず、矢継ぎ早にバグヴァイザーZの銃撃で自分に到達する前に氷を砕いて行く。しかしそれよりも氷の生成スピードが速い。向こう側まで跳躍一つで届くと言うのに、左足の足首から下が氷で地面に縫い付けられてしまった。

 

『OH MY GOD! 緑谷、轟の氷に足を封じられた!その隙にトップが入れ替わる!リードは轟焦凍!』

 

「な、んのぉーーー、これしきぃ!」

 

靴と靴下が脱げてしまったが力任せに氷を砕き、裸足になって自分を抜いた轟の後を追う。むしろ履き物を脱いだお陰で爪先の蹴る力が挙がった。左手で右腕を支えながら前方の轟の足元に向けてビームガンを更にぶっ放すが、轟の足が設置した所から幾重もの氷壁がせりあがって銃撃を阻んでいく。更に地面も凍らせて行き、出久の足を止めて自分は更に先へと進む。

 

やはり変身しなければ勝てない。

 

「グラファイト、行くよ。」

 

『いつでもいいぞ。』

 

走りながら変身し、マイティ―ディフェンダーZ、そしてマッハチェイサーバーストを起動して投げ上げた。意思を持つように右腕に装着したバグヴァイザーZの両側の挿入口に二本のガシャットが吸い込まれていく。

 

『「培養!」』

 

『MUTATION!』

 

アーマードチェイサーグラファイトに変身し、ボタンを連打していく。

 

『ずーっと!MACH!』

 

「逃がさないよ、轟君!」

 

『あーっと緑谷ここで切り札発動!素足で氷を砕きながら轟の障害物を物ともせずに遅れた分を取り戻すぅ!そして速い速い速い!!氷壁をぶち抜いて行く姿は正にアンストッパブル、アンコントロールだぜ!緩やかとは言え氷が張った曲がり角もドリフト回転で華麗に切り抜ける!』

 

「・・・・使ってきやがったか・・・・!」

 

『さぁ~て、いよいよ最後の難関、その実態は一面地雷原だぜぃ!YA-HAAAAAA!!! よく見りゃ位置は分かるから、目と足酷似して進めよ!威力はねえが音と光は本物同様だから失禁すること間違いなしだ!』

 

『んなモン人それぞれだろうが。』

 

「デクぅ!俺の前を行ってんじゃねえぞこの野郎がぁ!」

 

『出久、ブロックを。取ったらフェンスへ行け。』

 

「オッケー!」

 

獲物を見つけた猛禽類の様に爆豪が未だ轟を追い抜けていない出久に向かってダイブする。しかし出久も別の方向に向かって飛び、頭上のブロック二つを破壊した。

 

『高速化!』

 

『残像!』

 

『ずーっと!MACH!』

 

爆破で捉えたと思いきや、手応えはスカスカだった。見えたのだ。爆発で捉える瞬間を。しかし、当の本人はコースを示す白いフェンスの上に着地し、走り出した。舌打ちしながら更に戦闘を行っている轟に目を付けた。

 

『やはりか。木に近すぎると爆破によってコースが火の海になるかもしれないから標的をトップの轟に変えたな。』

 

「地雷なんざ俺には関係ねえ!半分野郎!!!!宣戦布告する相手間違えてんじゃねえよ!」

 

更なる高威力の爆破でスピードを上げ、トップを争う轟と爆豪は互いの『個性』を放つ手を払いのけながらも足を止めずに先を目指した。

 

しかし二人の間を半径三十センチはある白い物が通過し、足元の地雷の一つに当たった。瞬間、断続的な爆発が二人を襲う。

 

『ワ――オ!緑谷、なんと地雷を掘り返してフリスビーの如く先頭の二人の足元目掛けてぶん投げた!!しかもまだいくつか持ってやがるぞ!良いのかアレ!?』

 

『ずーっと!MACH!』

 

『そしてチャンスとばかりに緑谷、再びトップに躍り出た!盛り上がれマスメディア、お前らの大好きな展開だぜしっかり見とけよ!?』

 

地雷をさかさまにして後方に向かって投げると、更に進む。適当に投げた為に爆発しないならしないで構わない。今は後続を気にしていられない。もう地雷原は通り過ぎたのだ。後は、スタジアム目掛けて一直線に走るのみ。

 

『BURST!!急に!DEADHEAT!』

 

舞い上がる硝煙と土煙の中から氷の道が現れた。少し遅れて爆豪も追ってくる。二人も抜かれた事に余裕が無いようで必死の形相で追いかけてくる。

 

『イレイザーヘッド、お前のクラスすげえな!どういう教育してんだぁ~~!?』

 

『俺は何もしてねえよ、あいつらが互いに勝手に火ぃ点け合ってるだけだ。』

 

「雄英体育祭一年生ステージ、序盤からのデッドヒート!しかし起点と根性でとことんやる男が、緑谷出久が、今、スタジアムに帰ってきたぁ―――――――――!!!」

 

スタジアムに足を踏み入れ、変身を解除した出久は指二本を伸ばして天に掲げた。

 

平和と、勝利のVサインを。

 

観客席からオールマイトは出久の様子をじっくり見ていた。彼の戦い振りは素晴らしいの一言に尽きた。常に冷静な判断を的確に下し、しかし容赦無く前に出て行く大胆さ。出力が限定されているとは言え、ワン・フォー・オールもきっちり使いこなしている。次代の『平和の象徴』としての自己アピールも十分過ぎるほどに出来ているのだ。

 

しかし、何かがおかしい。どんな逆境も泣き言一つ漏らさずに果敢に挑んでいく彼の形相に、少なくともオールマイトは僅かながら恐怖を感じた。勝利への執着もそうなのだろうが、また別の何かが彼を突き動かしているとしか思えない。宣誓の言葉こそ立派な物だったが、目の奥にほの暗い影が落ちている事と何か関係しているのかもしれない。

 

順次一年生たちがゴールインしていく。出久は座り込み、体力の回復に努めた。まだゴールしていない者は多い。

 

次はいよいよ本戦。さあ、何が来る?

 




緑谷出久の SMASH File

Hopper SMASH:助走をつけて両足を使った大ジャンプ。民家程度ならば余裕で飛び越えられる。バッタの英名Grasshopperから。

次回、File 29:いざ出陣、Cavalry War!

SEE YOU NEXT GAME.....






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