韓国大法院(最高裁に相当)特別調査団が5月25日、梁承泰(ヤン・スンテ)元大法院長の在任中の法院行政処による司法行政権乱用および「裁判取引」疑惑に対する調査結果を発表してから2週間がたった。ところが、事態が収拾されるどころか、論争と混乱ばかりが広がっている。裁判の当事者が一時大法廷を占拠し、大法院前には「裁判不服」と叫ぶ座り込みまで登場した。
大法院内部も「関与者を告発すべきだ」という幹部判事と「告発してはならない」と主張する中堅判事が対立している。とうとう判事歴25年前後のソウル高裁部長判事までもが「告発は望ましくない」という意見を出した。いずれも前代未聞だ。
理由はさまざまだろうが、現在の状況は基本的に金命洙(キム・ミョンス)大法院長が自ら招いた。当初特別調査団は「梁承泰院長在任中の法院行政処が上告裁判所の導入を図るため、政権に有利な判決で大統領府(青瓦台)を説得しようと試みた文書を作成したが、刑事処罰すべき事案ではない」と判断した。アイデアにとどまり、実行されなかったというのが理由だった。調査団には大法官(大法院裁判官)、法院長、高裁部長判事などが含まれていた。20年以上裁判を担当してきた幹部裁判官が100日を超える調査の末、事実関係について法理判断を下した結果だ。
ところが、発表から3日後、金院長が「告発も検討する」と発言し、状況が一変した。大法院長の一言に調査団も「告発可能」という方向へと立場を変えた。この状況も情けないが、その後の状況はさらに理解不能だ。金院長は「司法発展委員会、全国裁判所長懇談会、全国裁判官会議および各界の意見を総合し、刑事上の措置を最終決定する」と述べた。世論を聞き、それを踏まえて告発の是非を決定するとして、判断を先送りした格好だ。そして、「裁判不服」事態が起き、裁判所が完全に二分された。
判事は法律と良心に従い、独立して審判を行う人物だ。明らかになった事実に基づき、偏見や歪曲(わいきょく)なく法理判断を下すことが判事の義務であり基本姿勢だ。告発の是非に関する判断も同じだ。ところが、司法のトップである大法院長が「各界の意見」を聞き、告発の是非を判断すると言って、責任を転嫁している。「判決も各界の意見を聞いて下すのではないか」と言われても仕方がない。
朝鮮王朝時代の儒学者、李珥(イ・イ)は、ちまたに広まる「浮議」(うわついた議論)に警戒すべきだと指摘した。多数意見である「衆論」と理知にかなう「正論」は異なる。明らかになった事実によって、正しく判断するのが判事だ。ところが、現在の司法はいわゆる「司法ポピュリズム」に陥ってしまったようだ。金院長は昨年、人事聴聞会を控え、「31年間裁判一筋だった人間の水準を示したい」と述べた。その水準がこの程度であれば、失望を禁じ得ない。
パク・グクヒ社会部記者