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甲板で日光浴を楽しむアイシー(8歳オス)。(PHOTOGRAPH BY MUHAMMED MUHEISEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)

ようこそ「ネコの船」へ 50匹の共同生活を取材した 写真14点

2018.06.08
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 オランダの首都アムステルダムの運河には大小さまざまな船が行き交っているが、そのなかでとりわけ目立つのが、ネコ専用の船「プージェンボート(オランダ語でネコの船という意味)」だ。

 ここは、世界唯一の水上動物サンクチュアリ。50匹ほどのノラネコや捨てネコがこの船で暮らしている。既に数年間ここにすんでいる定住ネコも17匹いる。

「新しく入ってくるネコもいれば、もらわれていくネコもいます」。そう語るムハンマド・ムヘイセン氏は、ピュリツァー賞を2度受賞した写真家である。2018年にアムステルダムに1週間滞在し、プージェンボートを取材した。ほとんどのネコは雑種だが、そのなかにいた1匹のペルシャネコが注目を集めていた。(参考記事:「閉鎖した刑務所に暮らす難民、写真14点、オランダ」

「美しい毛並みで、船の中で一番の人気者でした。不機嫌そうな顔をした個性的なネコです」(参考記事:「ネコの不可解な行動の理由は?――専門家に聞く」

 プージェンボートは、1966年にヘンリエッテ・ファン・ヴェールデさんという女性が始めた。近所で「ネコおばさん」として知られていたファン・ヴェールデさんは、捨てネコを引き取って、ネコ用に改造した古い船にすまわせた。

「ご主人を亡くして、愛情を注ぐ対象がほしかったのでしょう」と、ムヘイセン氏はいう。

【ギャラリー】 ネコの船、50匹が共同生活 写真14点(写真クリックでギャラリーページへ)
ボランティアにブラシをかけてもらうのを待つカスミ。(PHOTOGRAPH BY MUHAMMED MUHEISEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 それ以来、船は何度か改装され、交換されてきた。現在の船は、住居用のハウスボートを1979年に改造したものだ。1987年6月、プージェンボート財団は正式に非営利団体として登録された。2001年には、オランダの法律に基づいて動物保護区の認定を受けるため再度改修され、ネコが運河へ落ちないように板とワイヤーでていねいに補強された。

ネコへの愛

 ファン・ヴェールデさんは2005年に90歳で他界したが、彼女の遺産は今なお受け継がれている。

 現在、プージェンボートは寄付やボランティアによって支えられ、収益金は新入りネコの避妊・去勢手術やマイクロチップを埋め込む手術代に使われる。ムヘイセン氏によると、20代から70代のボランティア20~25人が交代で船を訪れて、ネコの世話をしているという。(参考記事:「外へ出たネコはどこへ行くのか?」

「当たり前ですが、ネコが大好きなボランティアばかりで、訪問客の対応もします。みなさんとても親切で、ネコの保護を第一に考えています」

 プージェンボートのネコを引き取るには、細かい手続きが必要だ。船には毎年多くの人々が訪れるが、そのほとんどは観光客だ。特定のネコを見たい場合には予約を入れなければならない。(参考記事:「ネコは撫でるとストレスを感じる?」

 引き取りを希望する場合は、手続きを始めるのに1日待たなければならない。その決断が正しいかどうかじっくり考える時間を与えるためだ。また、後で気持ちが変わったら、ネコを返すことも可能だ。

【ギャラリー】 ネコの船、50匹が共同生活 写真14点(写真クリックでギャラリーページへ)
プージェンボートから引き取ったモウ(7歳オス)を家に連れ帰るヨニ・カスパーズさん(30歳)。(PHOTOGRAPH BY MUHAMMED MUHEISEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 ムヘイセン氏が世界でも珍しいプージェンボートの写真を撮ろうと思った理由のひとつは、ネコへの愛だという。

「ネコにとって、人間は環境の一部なのです。彼らは、人間のことを大きなネコだと思っています。プージェンボートは、今までで最も美しい取材のひとつでした」(参考記事:「ネコは飼い主をネコと思っている?」

【この記事の写真をもっと見る】船上で暮らすネコたち あと11点

文=Elaina Zachos/Muhammed Muheisen/訳=ルーバー荒井ハンナ

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