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加藤智大君へ、高校の先輩から

 秋葉原無差別殺傷事件を一人で起こし、死刑が確定した加藤智大君へ。

 小生は貴君が卒業した青森高校の先輩に当たる。学年がひどく離れているから元よりお互いの事は知る由もないのだが。

 わざわざこんなことを言うのは、勿論理由がある。世間では、貴君の母君のエキセントリックなドメスティックバイオレンスが貴君の凶行の原因だ、それだけが原因だ、と考えている。そう考える事で、いろいろなことから逃げようとしている。逃げることなぞできはしないのに。

 だが、小生は知っている。あの学校の雰囲気を。もしあの学校が、もっと人を大切にするとか、もっとお互いが交わろうとか、共通の目標に一緒に歩もうとか、細やかな自然の美に感激しようとか、小さな生物すら人間が作ることなぞできはしない神秘であることに驚くとか、そんな雰囲気のところだったらば、君は決してあんな風な人生を送りはしなかっただろう。

 いや、この言い方は公平ではない。日本とはそういう所だ。

 だから、あの学校の雰囲気を作り、維持した多くの人々は、一人残らず君の凶行の共犯者だ。元より、小生とてその雰囲気を変えることも出来なかったし、変えようとすらしなかったのだ。不肖の先輩である。申しわけない。

 小生があの学校からどう逃げ回ったかのブザマさを少々記しておこう。大体、受験の時からして不条理だ。中学校の担任が成績を元にして小生の受験校を、青森高校だと指定した。それだけだ。一体これは、民主主義の担い手を育成する筈だった新制高校の入学者選抜の方法だろうか?

 入学したらば、籖引きで各学級から何とか委員が選抜された。小生は、体育が苦手だったのに体育委員に選ばれた。数日後、全校の体育委員会が開かれてのこのこ出かけて行ったらば、体育部の活動をやっている者以外は残れ、と言う。残った1年生の生徒がまた籖引きをして、当たった者は応援団員だ、と言う。是非も何もなかった。親が学校に抗議する事も出来なかった。貴君も知っているだろう? あの学校はそういう所だ。

 いや、この言い方は公平ではない。日本とはそういう所だ。

 1年間、底意地の悪い上級生から練習でしごかれ、無意味に大声を張り上げた。勉強が出来ないから、成績は文字どおり最下位近辺だった。丸坊主だったから頭の皮が日焼けし、ある日授業中にそれがそっくり剥けた。

 2年生になり、応援団には行かなくなった。3年生になった団長は小生をみかけて、憎々しげに睨んだものだ。どうして応援団に行かなくなったかって? 2年生になったらばもうクラスの体育委員じゃなかったからさ! 小役人のへ理屈のような事で逃げただけだった。どうして堂々と、

「こんなことは私の意志ではない!」

と明瞭に拒絶しなかったのだろう? でも貴君も知っているだろう? あの学校はそういう所なのだ。

 いや、この言い方は公平ではない。日本とはそういう所だ。

 別の話をしよう。君の母君のドメスティックバイオレンスを、誰か止めようとしなかったのだろうか? 止めようとしなかった全ての人、つまり君の家族を知る全ての人は、だから君の凶行の共犯者だ。

 君が不条理にも劣悪な条件で労働させられ続けた時、誰か止めようとしなかったのだろうか? 止めようとするどころか、砂漠の国で二人の同胞を死に追いやった傲慢で愚かな連中が、君の時よりももっと酷い条件で人々をこき使わせようとしている。この連中は全て君の凶行の共犯者だ。この連中を跋扈させた人々は、全て君の凶行の共犯者だ。

 君が凶行を実行した時、多くの通行人がケータイで君の凶行の写真を撮っていたのを覚えているかい? 夢中になっていて目にも入らなかったかも知れない。彼らは皆、貴君の凶行の共犯者だ。

 誰も貴君を止めようとしなかったからではない。ああやって高みの見物の位置にいれば自分は安泰だし何か価値があることをやっている、と言う自己欺瞞に見物人たちは逃げた。逃げた人間は、全て貴君の凶行の共犯者なのだ。

 かつてオウム真理教団の凶行があったことを覚えているだろう? 誰にでも間違いはある。どんな社会にも失敗はある。問題は、何故それが起こったのかをきちんと理解し、酷い間違いを防ぐことだ。だが今だにもって、殆ど誰も、オウムに走った若者たちが何に絶望していたのか、理解していない、理解しようとすらしていない。

 彼らには解き明かされない”心の闇”があるのだそうだ。彼らは、心の闇に支配されて身勝手にも凶行に走ったのだそうだ。貴君は新聞等の差し入れを受けているかい? 全く同じことをマスゴミ共は君に対しても言っているぞ。

 そうだ。彼らには、大方の日本人には、解き明かされない”心の闇”がある。心、と言うよりも知性や理性の闇だ。彼らは現実を直視しない。直視する知性や理性がないから、直視する勇気も生まれない。因果関係を認識しようとしない。だから、オウムを思って、貴君の出現を防ごうとはしない。

 だから、彼らは逃げる。オウムや貴君の凶行の共犯者である事から逃げる。沈黙する。忘却する。何百万何千万の人々を死に追いやった戦争のことすら真摯に理解せず、忘却する。誰も逃げることなぞ、できはしないのに。

 貴君の見知らぬ先輩である小生は、忘れない。ありのままの現実を理解し続ける。それを語り続ける。そんな人々は、今でも少しばかりはあちこちにいるものなのだ。

 だから、貴君は精神錯乱に逃げ込むことなく、安心して処刑されて欲しい。そして、自分がやったことが逆説的にこの社会を変えていくかも知れない事に満足して欲しい。

 もしこの社会が変わらないならば、この社会は消滅する。そして、その後を、現実を真摯に認識し、理性と知性をより備えた人々が埋めるだろう。だから、貴君は精神錯乱に逃げ込むことなく、安心して処刑されて欲しい。

 ではでは、また。

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