自称“難民”が急増!? 超人手不足でいま何が…?
日本で働きたい外国人の間で新たな手段として広がっている「難民ビザ=Visa Nanmin」。難民申請をすれば、申請結果を待つ間、生活の安定のために就労が許可される仕組みを逆手にとったやり方で、SNS上の口コミで急速に広がっている。去年、申請者は2万人と前の年から倍増し、入管では「このままでは受け入れるべき難民の申請手続きに支障が出てしまう」と危機感を募らせている。一方、製造業で人手不足が深刻な東海地方では、申請中の“難民”を派遣する会社も現れた。外国人労働者の受け入れをどう進めるべきなのか、急増する“偽装難民”の現場の密着ルポを切り口に考えていく。
出演者
- 丹野清人さん (首都大学東京教授)
- サヘル・ローズさん (女優・タレント)
- 武田真一・田中泉 (キャスター)
超人手不足で緊急事態 日本に“難民”が急増!?
超人手不足のニッポンで、今、大変な事態が。入国管理局に殺到しているのは、仕事を求める外国人たち。でも、なぜか向かう先は…難民申請の窓口?
ベトナム人
「自分で難民とは思いません。仕事したいです。」
ベトナム人
「“難民ビザ”は仕事できる。」
インドネシア人
「“難民ビザ”。」
日本で難民申請すると受け取ることができる「在留カード」。実は、このカードがあれば、一定期間働くことが認められます。これが、“難民ビザ”という誤った呼び方で、アジアを中心に広がっているのです。
人材派遣会社
「水曜日から仕事。」
人手不足にあえぐ企業に、こうした自称“難民”を派遣する会社まで登場。
人材派遣会社
「本来の難民と違うのは重々承知している。働きたい人がいて、受け入れたい企業があって、なぜそこに障害があるの?この人手が足りないときに。」
急増する自称“難民”の外国人たち。その背景にある、日本の労働力不足の現実に迫ります。
田中:今、日本は空前の人手不足です。厚生労働省によりますと、去年(2017年)の時点で120万人以上の労働者が不足。さらに、2030年には労働力人口が300万人ほど減ると試算されています。
そこで増えているのが、外国人労働者です。日本で正式に労働者として認められているのは、学識経験者や医師など、専門的知識や技術を持っている人たちや、永住ビザを持つ人たちです。
一方、一定の期間学ぶ目的で滞在が許可された人も働いています。建設や農業の現場で働く技能実習生や、コンビニや居酒屋などでアルバイトをする留学生です。ただ、働ける職種や時間には制約があります。そうした制約がない新たな手段として広がっているのが、いわゆる“難民ビザ”なんです。
超人手不足ニッポン 自称“難民”が急増!?
今回、入国管理局の難民申請窓口にカメラが入りました。そのほとんどが、観光客として東南アジアからやってきた若者たち。観光ビザで日本に入国し、すぐ難民申請をしたといいます。
ベトナム人
「借金を支払えないです。“難民ビザ”で働きたいです。」
インドネシア人
「最初は観光ビザで来て、難民申請しました。」
本来、難民とは、紛争や暴力のまん延によって迫害のおそれがあり、国を逃れた人々のことです。世界的に多いのが、シリアなどの国々。しかし今、日本で難民申請が増えているのは、フィリピン・ベトナム・インドネシアなど、東南アジアの国ばかりです。
去年、難民申請をして審査結果を待っている、インドネシア人のリヤディさん(仮名)です。観光客向けの短期ビザを使って日本に入国。すぐに入国管理局にかけこみ、難民申請をしました。半年後に受け取った在留カード。外国人の間で“難民ビザ”という誤った呼び方で広まっています。
リヤディさん
「これをもらったときは、とてもうれしかった。これさえあれば、正式に日本で働くことが認められるんだ。」
難民申請すると、通常、審査結果が出るまで時間がかかります。日本の制度では、結果を待つ間、生活のために働くことが認められています。仮に、難民と認定されなくても、再申請すれば、平均で2年半ほど働き続けることができます。
リヤディさんは、いわゆる難民ビザによって、自動車部品工場に職を得ました。時給は1,250円。収入は月に30万円ほどで、そのうち半分をインドネシアの家族に仕送りしています。
リヤディさん
「“難民ビザ”を延長し続けて、お金を稼ぎたいんだ。」
こうした人たちは、どんな理由で難民申請しているのか。これは、入国管理局の関係者から独自に入手した資料です。「友人とのいさかいにより殺害される」「妻のいる男性と交際したところ、暴行や脅迫を受ける」。最も多い答えが「借金の返済」。本来の難民にあたらないと思われる理由で申請している実態が分かりました。
名古屋入国管理局 藤原浩昭局長
「その申請の理由を見ると、『借金に追われている』とか、いわゆる政治難民とは考えられないような理由を挙げて申請をしてくるということが多くみられる。本当に困って、あるいは政治的迫害を受けてというものは、ほとんどありません。」
難民申請して日本で働くやり方は、さらなる広がりを見せています。技術を学ぶために日本で働くことが認められている「技能実習生」。最長で5年間という期限が切れたあと、難民申請するケースが増えています。
元技能実習生
「(実習中は)給料が少ない。お金が全然ないから仕事がしたい。日本にいたい。それで“難民ビザ”をとった。」
そうした1人、去年まで技能実習生として食品加工工場で働いていた、ベトナム人のリンさん(仮名)です。リンさんも、家族の借金を返すためという理由で難民申請しました。審査の結果を待つ間、就労許可が下りたため、リンさんは早速この日、企業の採用面接を受けました。
採用担当者
「日本で仕事がしたい?」
リンさん
「はい。」
採用担当者
「ベトナムでは仕事がない?」
リンさん
「ある、でも…帰りたくない。日本に残りたい。今、仕事…日本好き!」
リンさんは日本語がおぼつきませんが、採用担当者は就労資格を確認した上で、採用を決めました。自動車関連の工場で働き始めたリンさん。
リンさん
「ちょっと心配、仕事。」
日本で得た収入を、ベトナムの両親に仕送りしたいと考えています。取材を進めると、ベトナムを含む東南アジアの国々では、いわゆる難民ビザを取得して日本で働く方法がSNSなどで広まっていることが分かりました。
難民申請して働いているリンさんの場合。実家はベトナムの首都・ハノイから車で2時間ほど離れた農村にあります。経済成長著しいベトナムですが、農村部はその恩恵に十分にあずかっていません。リンさん一家の収入は、父親と兄を合わせても月に3万円ほど。
母
「ごはんはちゃんと食べてるの?」
電話:リンさん
“大変だけど、がんばる。”
母
「家計が厳しいから、もう少し辛抱してね。」
今なお、ベトナムの若者にとって日本で働くことは大きな魅力です。日本で働けば、ベトナムのおよそ10倍の収入が得られるからです。
リンさんの兄
「ここ(ベトナム)の給料は安いから、今の生活を変えたいと思っている。僕も日本にすぐ行って、できるだけ長く働きたい。」
超人手不足で緊急事態 日本に“難民”が急増!?
田中:難民申請の件数は急増しています。ここ数年、実際に難民と認定される人の数は20人前後で推移している一方、申請者は6年前の10倍、2万人近くに増えています。働くために難民申請をする人が増えているとみられています。
武田:外国人労働者問題に詳しい丹野さん、この実態には驚きましたが、なぜこうした事態が広がっているのでしょうか?
丹野さん:技能実習生は、「就労先」「実習先」といいますけれども、それを変えることができません。日本に来てからもっといい仕事があったとしても変えることができない。そして留学生がアルバイトとして働く場合だと、28時間までしか認められていません。そういったことと比べてみますと、この“難民ビザ”で来て働くことのほうが、労働してお金を稼ぐということからすると、合理的なビザになってしまっているというところがあります。
武田:政治的迫害を受けているわけではない人がほとんどという話もありましたが、これは違法ではない?
丹野さん:違法ではないんですが、本来の法の趣旨からは大きく逸脱したものになってしまっています。
武田:幼いころ、戦争から逃れてイランから日本にやって来た、サヘルさん。難民申請をして働くというやり方、どうご覧になりましたか?
サヘルさん:実は複雑な気持ちで見ていました。私はパレスチナ難民の方と交流を持たせてもらってるんですけども、彼らは祖国を命からがら逃れてきてるんですね。そういう方々にとっては、この難民申請というのは命綱なわけですよ。それの邪魔になってしまっては本当はいけないんですけれども、一方で、中東の若者にとっては、自分の国で働くすべがなかったりとか、自分の家族を養うためには明日がないわけですよね。その明日を見いだすために働かなければいけない。そういう彼らが最終的に頼ってしまうのは悪質なブローカーだったりするので、その彼らにとっても、ほかの道筋がないわけですよね。そういう思いをしないために、何か別の制度を作ってあげてほしいなと。双方にそれだけ苦しみがあって、双方に理由があるのは事実なんですよね。
田中:一方、企業側のニーズもあります。去年、経済産業省が実施したアンケートによりますと、全国の製造業の企業94%が「人手不足だ」と回答しました。そのうち32%は「ビジネスに影響が出ている」と答えています。特に製造業や建設などの分野で、外国人は貴重な戦力になりつつあります。
超人手不足ニッポン “難民”派遣します…
自称“難民”として働く外国人を、製造業の現場に派遣する企業も現れています。愛知県の人材派遣会社です。派遣社員として登録しているのは、ほとんどが外国人。去年から、いわゆる“難民ビザ”で働く人が目立って増えています。
人材派遣会社 上野一祐営業部長
「難民で仕事をしたいという人が増えた。」
この日、派遣社員の1人が、仕事を探しているほかのベトナム人を紹介したいと相談に来ました。
派遣社員
「ベトナム人が仕事をしたい。部長、よろしくお願いします。」
人材派遣会社 上野一祐営業部長
「今日は何人いる?」
派遣社員
「今日は16人。」
人材派遣会社 上野一祐営業部長
「これは難民ね。」
派遣社員
「“難民ビザ”です。」
この派遣会社には、企業からも外国人の人手を求める相談が次々と寄せられています。
人材派遣会社 上野一祐営業部長
「何名ぐらいというのはありますか?」
鉄鋼関連会社 支店長
「4名ぐらい。」
この日は、鉄鋼関連の工場で働く人材を探しているという依頼でした。
鉄鋼関連会社 支店長
「何としてでも(人手不足に)歯止めをかけないといけないと。これはもう外国の方にもお願いせざるを得ない。」
人手不足によって倒産する企業も出る厳しい状況の中、選択肢はこうした外国人しかないのが現実です。
人材派遣会社 上野一祐営業部長
「日本人では集まらないというのが一番。今までは外国人の受け入れを考えてないという企業でも、今は『外国人で日本語しゃべれたらいい』と言ってくれるところが実際増えている。」
自称“難民”が増える中、この派遣会社では、難民申請中、日本に滞在するためのアパートまで用意。家具や家電製品も貸し出し、生活の準備を支援しています。
ベトナム人
「この派遣会社は、友達の紹介で知りました。部屋も用意してくれるし、家具もそろえてくれて助かります。」
難民申請中に働くことは違法ではなく、こうした外国人をあっせんすることは、人手不足の企業のニーズにかなっていると感じています。
人材派遣会社 上野一祐営業部長
「本来の難民と違うのは重々承知してますけど、働きたい人がいて、受け入れたい企業があって、なぜそこに障害があるの?この人手が足りないときに。」
“難民”で急成長!?
そうした中、難民申請中の人たちがすでに大きな戦力となっている会社もあります。住宅の基礎工事を請け負うこの建設会社では、社員のほぼ全員が外国人労働者。難民申請中の人も10人以上雇ってきました。社長はトルコ出身。同業者が人手不足で受注ができない中、この会社では働き手を確保したことで受注が増え、年商3億円を達成できたといいます。
建設会社 社長 シャーヒン・オズカンさん
「難民申請の人がいるから助かります。結構助かります。」
この現場の親方も、難民申請中のトルコ人。
難民申請中のトルコ人
「そこは81センチだ。」
日本に滞在できるかぎり、ここでさらなるスキルアップを目指したいといいます。
難民申請中のトルコ人
「給料の良い仕事なので続けていきたい。日本で働きたいんだ。」
建設会社 社長 シャーヒン・オズカンさん
「長くいられる人がいない。しょうがないから難民申請の人を使ってます。じゃあ難民申請の人もいなかったら、誰を使います?人がいない。」
超人手不足で緊急事態 日本に“難民”が急増!?
武田:人手不足を補うために難民申請中の外国人を雇わざるをえないという日本側の実態、どうご覧になりましたか?
丹野さん:VTRの中でも人手不足倒産の話が出ていましたが、倒産だけではなくて、人が集まらないから廃業するというような事業所も、今は非常に多く出てしまっています。やはりそれほど、とにかく人が足りない。そして10年前であったら、外国人労働者の問題といえば都市の問題でした。都市に外国人が働くという問題でしたけれども、今は農業に始まり、そして地方を支えてきたような漁業や水産業、そういった産業にまで人手不足が広がっていますから、ある意味、全国的に人手不足の問題が広がっていると考えたほうがいいと思います。
田中:外国人労働者の受け入れについて、NHKの世論調査によりますと、「今程度に制限すべきだと思いますか?」との設問に対し、「そう思う」が51%、「そう思わない」が43%に上っています。経済界は政府に繰り返し「外国人労働者を積極的に受け入れるべきだ」と要望しています。
一方で、慎重な意見もあります。政府の会議などで出された代表的な意見として「治安悪化の不安」「日本人の雇用を奪う」「言葉・文化の違い」というものが挙げられています。
武田:外国人労働者の受け入れに対する賛否の声を、どう受け止めますか?
サヘルさん:皆さんの不安な気持ちもすごくよく分かるんですけれども、でも、そのことで苦しい思いを私もたくさんしてきました。例えば、イランの方が何か悪いことをしたとき、その報道を見て「あなたも悪いことしたんでしょう」とか、すべてのイランの方々が悪くなってしまうのは違うなといつも思っていて、正直、日本に来て働いてらっしゃる方々ってすごく真面目で、日本を尊敬していて、日本が好きで来ていて、すごく真面目な姿勢で取り組んでいる方がよっぽど多いんですね。
例えば、日本の方の雇用を奪われてしまうのが心配という声もあったとは思うんですが、農業とか伝統工芸品って今、そういうのをちゃんと伝えていく方々がどんどん日本の中では減っていっていますよね。でも私、ロケの仕事をしていて地方に行きますと、それをつないでくださってるのが外国人の方々だったりするので、実は私たちが知らない間で日本の文化をちゃんと継承してくださってるのも彼らなんですよ。例えば住んでいる今のおうちだって、もしかするとその土台作りを彼らがしてるかもしれない。食べているお弁当もそうですけれども、そう思うと、切っても切り離せない関係になってきているのは事実ですよね。
武田:治安への懸念など慎重な意見も根強くありますが、そうした声については、どう考えていけばいいのでしょうか?
丹野さん:日本側の受け入れの在り方も大きく関係してるのではないでしょうか。やはり3Kの労働と呼ばれるような労働市場の底辺の部分に、今のところは集まってしまっている。しかもそこに、家族を持たないような形でいるということを求めてしまっている。むしろ、安心して家族を持ってこの国で暮らせるような在り方で外国人を受け入れる、そういった在り方で受け入れていったほうが、当然、犯罪に走るとか、そういったことも大きく減らすことができるはずです。やはり、私たちが外国人をどのように受け入れるのかというところに、もう一度立ち返って考えてみるべきだと思います。
田中:国もこうした事態への対策に乗り出しました。入国管理局では今年(2018年)1月から難民認定制度の運用を見直しました。申請から2か月以内に簡単な審査を行い、明らかに難民ではないと思われるケースでは、就労も滞在も認めないことにしました。難民の可能性が高い場合には、速やかに就労を許可するとしています。この見直しの結果、今年1月~3月までの難民申請の件数は、前の年の同じ時期と比べて13%減っています。
一方で国は、人手不足を解消するためにも、外国人労働者の受け入れを拡大する方向にかじを切っています。政府は今年の「骨太の方針」の原案の中で、業種を限定し、新たな在留資格を創設するとしています。この資格の付与にあたっては、技能や日本語の試験を課すものの、技能実習制度の修了者は試験を免除。事実上、実習生が在留期間を延長できることになります。
武田:これから私たちは、外国人労働者たちとどう向き合っていけばいいのでしょうか?
丹野さん:人口減少社会であるということを考えますと、ますますわが国は外国人労働者を必要としてしまうということになると思います。だからこそ、毎年、より多くの人数を必要とするというよりは、一定程度の人数の人については長くこの国にいてもらう人という形にして、そしてその人たちをある一定程度確保した上で、さらに足りない部分については、単身者とかそうした形で受け入れるということも考えていっていいのではないのかなと思います。
武田:長くいてもらうための工夫が必要だと?
丹野さん:そうでないと、外国人を受け入れるのにもやはりコストがかかります。人数を多く受け入れれば受け入れるほど、どうしてもコストがかかってしまいます。そして長くいてくれる人については、むしろ本来は社会ソーシャルコストも下げることができるはずなんです。そういったミックスの在り方を考えながら受け入れていく。そして今は向き合っていない、“移民”とまでは言いませんけれども、長期にいてくれる人をどうやって確保していくのかということについて考えていくべきだと思います。
武田:サヘルさんは外国人としてこの日本で働いているわけですが、日本社会に何を望みますか?
サヘルさん:もっとお互い理解してほしいし、信じてほしいなと思うんですね。私とお母さんは日本に来ていなければ、たぶん今こうして生きることも、こういう生活が一切できていなかったと思うので、私とお母さんがいつも口をそろえて言うのは「日本に感謝をしている」と、「恩返しをしていきたいね」って、いつも話をするんです。ですから、そうやって今来てくださっている外国の方々も、信じて一緒に働くことで理解をすれば、後々に日本のプラスになっていくので、お互いを人として見て、お互いをもっと理解し合える社会になっていけたらいいなと私は思います。背景を見てあげるということが大切ですね。
武田:こうした形で働く外国人が増えているという実態から、人手不足に直面する日本社会の課題が見えてきました。外国人労働者をどう受け入れていくのか、具体的な答えが求められていると思います。