永遠のフランク・ザッパ 

~唯一の本物ミュージシャン、そしてロック史上最も偉大な男~

1992年12月4日。一人のアメリカ人が死んだ。男の名はフランク・ザッパ。現代音楽、ジャズ、ロック、ドゥアップ、等20世紀が生んだ音楽を縦横無人に駆使した偉大な音楽家の、はや過ぎる死だった・・・。



デビュー前


ザッパは1940年12月21日、アメリカ・メリーランド州に生まれる。幼い頃から人並みはずれた感性の持ち主だったフランクは、芸術性の高いものから大衆的なものまで、耳に入る音楽を素直に吸収していった。特に現代音楽作家のエドガーヴァレーズに強くひかれたフランクは音楽の道に進むことを決心したのだった。

 12歳でオーケストラ・パーカッションを学び、高校では友人のキャプテン・ビーフハートと組んだバンドでギターを担当、大学では作曲学、和声学などを修めたザッパ。そして、卒業後勤めた「スタジオ・Z」では多重録音技術を学び、もはや学ぶものがなくなった彼のデビューは24歳の時だった.




60年代 ~「母の日」にちなんで~


 1964年母の日、「スタジオ・Z」に集まったメンバーとザッパは、「母の日」にちなんで「ザ・マザーズ」を結成、デビューアルバム「フリーク・アウト」を発表する。しかし、1966年に作られたとはにわかに信じがたい、このロック史上まれに見る傑作も、発表当時は「ノリ」のみを求める人々をまごつかせるばかりであった。そんな世間を尻目に、彼はこう語っている。

 「自分自身の内に社会の変化を起こす力をもっているが、その力を使ったことのない人達。そういう人の為に私は演奏したいのだ」

 

永遠の金字塔 Freak Out

これがデビューアルバムとは!と思わせる余裕の完成度。まさに巨匠の処女作に相応しい傑作。

 翌年、セカンドアルバム「アブソリュートリー・フリー」(絶対的自由)を発表。だがこのアルバムは思わぬ波紋を広げる。ビートルズがこのアルバムのアイデアを借用して「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を発表、たちまち世界中にサイケデリックブームが起こったのである。世界中のバンドがこぞってドラッグに溺れサイケデリック・ヒッピーな世界に浸ろうと躍起になった。

絶対的自由な演奏 Absolutely Free (Rmst)

様々なスタイルの音楽がカオスのようにミックスされ、ほのかに芸術が香ってくる。素晴らしい。 それにしても、軽々とファーストアルバムを超える作品を作り上げるところがすごい。

ドラッグの大嫌いなザッパは非常にショックを受け、三枚目のアルバム「俺達は金の為にやっている」を発表。ジャケットは「サージェント・ペパーズ・・・」をパクりビートルズが押し広げたロックの商品化と、ヒッピームーブメントの新たな全体主義にたいする危険性を訴えた。ザッパの主張が正しかったことは、後の歴史が証明しているが、この頃から、「奇人、変人、変態」といった枕言葉がザッパにまとわりつくことになるのである。

 また、このアルバムは単にビートルズに対するあてつけに終わっているわけではなく、音楽的にもビートルズなど足元にも及ばないレベルにあるのはもちろんの事、他に大きく2点の主張が込められていたことを強調しておきたい。まず、太平洋戦争時のアメリカにおける日系人強制収容所の違憲性を、カフカの「流刑地にて」にたとえながら訴えたこと。そして、当時カリフォルニア州知事だったロナルド・レーガンの強権性を強く批判したことである。皆がドラッグでラリッているときにである!

cover サージェント・ペパーズ・ロ...

これはこれで、大変な傑作アルバム・・・
ザッパの We're Only in It for Money

つまり、「俺達は金の為にやっている」。 サージェントペパーズ・・・を軽く凌駕する、傑作。 ちなみにこれは裏ジャケ。

 さてさて、一向に世間を気にしないザッパは、マザーズ最高傑作「アンクル・ミート」を1969年に発表する。緻密な対位法で作曲されながらも、素晴らしく自由なアンサンブルに、人々は陰口をいうのも忘れ、ただ口をあんぐりと開けるのみであった。

20世紀を代表するレコードとまで言われた Uncle Meat

ドウアップからジャズ、クラシックまで縦横無尽!

Uncle Meatと双璧をなす、 Burnt Weeny Sandwich

ためいきが出るばかりの芸術・・・



70年代 ~最も充実していた時期~


 70年代はザッパの創造エネルギーが最も充実していた時期だろう。10年間に30枚近いアルバムを発表、そのどれもが他のアーティストをまったく寄せ付けない完成度を誇るという、まさに孤高の存在であった。しかしまた、その10年間は熾烈で孤独な戦いの連続であった。商品化するロック、それを煽るメディア。ベトナム、ウォーターゲート事件などで自己検証能力のなさを露呈したアメリカ。ザッパはそれらを痛烈に批判し続けた。だがロックは商業主義の経営者に、そしてアメリカは扇動的な政治家やメディアに次々と牛耳られていった。

売れるアーティスト

 60年代末に「マザーズ」を解散させたザッパは、一枚のジャズロックアルバムを発表する。「ホット・ラッツ」と名づけられたこの傑作は、チャートをぐんぐん上昇、なんとイギリスで1位となるなど、ザッパは売れるアーティストとして認知されるようになった。このアルバムはザッパの知名度を上げるのに一役買ったが、一方後に商業主義との戦いを呼び込む布石となるのである。

代表曲「籠の中の桃」も入っている、しぶーーーい Hot Rats (Rmst)

ジャズロックの金字塔!

ビッグバンドジャズの醍醐味が味わえる、Waka Jawaka

軽快かつものすごいアレンジが楽しめる!

ジャズロック3部作の最後を飾る、ジャズロック最高傑作、 Grand Wazoo

ザッパ流ビッグバンドジャズ、ここに極まれり・・・。

完璧な内容!One Size Fits All

巨匠ザッパの代表作。入門用にも最適!素晴らしい完成度。
ザッパ流ポップミュージック! Overnite Sensation

ゴキゲンなポップミュージックがぎっしり。 ザッパって難しいと思っている人は聞いてみよう。 耳からすごいクソが飛び出るぞ! 単純にロックアルバムとして大傑作。

ライブもすごければ、スタジオワークもまたすごい

 この頃からライブ録音に手を加えてアルバムを制作する手法が本格化する。この手法が徹底している。まず、半年間、ツアーの為に徹底的に練習する。そして、ザッパがOKを出した時点で全米を回るライブツアーを行う。そのツアーはすべて録音され、ツアーが終了した頃には、数百時間にも及ぶ膨大な記録となっている。その中から数十テイクを選び出し、2ヶ月程スタジオにこもり、編集に没頭するのだ。その際、スタジオでかなりの音が加えられ、オリジナル音源とは全く別物といえる作品が出来あがるのである。ライブもすごければ、スタジオワークもまたすごい。無敵のザッパ作品はこうして出来あがっていった。

70年代の最高のライブがここに・・・ Zappa in N.Y.

すさまじい演奏の嵐・・・すごすぎる・・・。
大阪城ホールの名演、「ブラックナプキン」収録された、 Zoot Allures

かっこよすぎる・・・。
最高傑作。ほとんど奇跡と言われた Sheik Yerbouti

ザッパの真髄がこれでもかと畳みかけてくる怒涛の70分。地球を代表するレコード。

 また彼のバンドは音楽学校としての側面も持っていた。彼は既に技術の完成されたミュージシャンを雇うことを嫌い、バークレー音楽院で作曲学の講師をする傍ら、素質のある新人を発掘しては自分の思いどおりのスタイルに育てた。こうしてザッパは自分の意のままに動くバンドを作り上げていったのである。ザッパ・バンドにいたメンバーはその反動からか、離れた後、ザッパに批判的な発言をする者が多かった。マスコミもこぞってそれを報道した。彼らはそのマスコミを利用し、世界一の技術を要求されるザッパ・バンドにいたことをセールス・ポイントに、コマーシャルなバンドに散っていった。ザッパは一切反論せず、じっと耐え、姿勢を変えることはなかった。



80年代 ~「歌詞検閲法」~


 激動の70年代を乗り越え、時代はザッパが最も嫌悪する方向へと収束しつつあった。80年代、ザッパの戦いも最終局面を迎える。戦いの火蓋は、あの「アブソリュートリー・フリー」でも批判した宿敵、レーガンが合衆国大統領になることで切られた。ザッパは反レーガンキャンペーンを展開、扇動的タカ派政治家、テレビ伝道師、また彼らにたやすく洗脳されてしまう白人右派勢力らを槍玉にあげ、痛烈にこき下ろしていった。

 ザッパの戦いはさらに具体的に対象を絞るようになり、ブッシュが選出された大統領選では、反ブッシュキャンペーンアルバム「ブロードウェイ・ザ・ハードウェイ」を制作、ブッシュをなじり、投票はデュカキスにと訴えた。

 もはや、レーガン、ブッシュらタカ派政治家にとって、ザッパの存在は「目の上のたんこぶ」どころではなかった。彼らはザッパを押さえ込むため、一つの法案を用意する。「歌詞検閲法」つまり、「歌詞検討委員会」なるものを作り、審査にパスしたもののみに発売を許可する、というものであった。

 彼らのなりふりかまわぬ攻撃にも、ザッパはたじろぐことなく、多彩な反撃を行っている。まず上院議会の公聴会で表現の自由について証言、さらにこの時の録音を用いて、アルバム「ザッパ検閲の母と出会う」を制作、歌詞検閲運動の馬鹿馬鹿しさを笑い飛ばしていった。とうぜんながら、この法案は廃案になった。

ビッグバンドジャズ作品のライブ演奏を収録した、 Make a Jazz Noise Here

至福の音楽がここに・・・
反ブッシュキャンペーンアルバム Broadway the Hard Way

Make a Jazz Noise Hereと同時期のライブ作品! もちろん、作品自体もすごいんです。


90年代 ~大きなマイナス~


 80年代の後半、大手レコード会社の経営が、音楽に何の愛情も持たない経理マンに握られる傾向が増大した中、ただ一人それを真正面から批判し、音楽産業の危機を訴えたのもザッパだった。ボブ・ディランも誰も、メジャー会社を堂々と批判など出来やしなかった。ザッパは口先だけの批判だけでなく、大きなマイナスを覚悟の上で、自分の作品を完全な自己管理の下においた。つまりレコード販売をレコード会社に任せず、自分自身による通信販売に切り替えたのである。当然、彼のレコード販売は激減し、彼は孤立した。しかし、それは唯一の本物ミュージシャンだからこそ、音楽が大きく変質していく中で、名誉ある孤立の高みに立ちつづけた、ということに他ならない。時代はもはや彼を必要とせず、彼も時代を必要としていないように思われた。

最後のツアーがそのまま収められた The Best Band You Never heard in your life

つまり、「お前が今まで決して聞いた事のないバンド」。オーヴァーダビングなしでこの完成度である。 はっきりいって、史上最強のライブアルバムだと断言できる。 なんと最後を飾るのは、ツエッペリンの「天国の階段」

「自分自身に忠実であれ。」

 彼は生前、こう語っている。「死んだ後も忘れずにいてもらうことなど重要じゃないさ。憶えていてくれるだろうか、なんて心配するのはレーガンとかブッシュみたいなやつらさ。俺はいいよ。」

美しすぎるラストアルバム Zappa: The Yellow Shark

ザッパが、アンサンブル・モデルンを使ってザッパ自身の現代音楽作品を演奏。何もいうことはない・・・。
アンサンブル・モデルン自身がザッパ作品を選曲し、演奏した、 Greggery Peccary and Other Persuasions: The Ensemble Modern Plays Frank Zappa

1978年のハロウィンショーを収録したDVDオーディオ、 Halloween

2曲だけ映像あり!ファンなら買い!
Baby Snakes!
77年ニューヨークのパラディアムで行われたハロウィン記念のライブを中心に、アブノーマルな“ザッパ・ワールド”が展開! なんとエイドリアン・ブリューの若き姿も見れるぞぉ!!!テリーボッジオも!!!

現在リリースされている映像作品では文句なくベスト。

 しかし、そんなに簡単に忘れていいのだろうか。彼のメッセージを、そして永遠に輝きつづけるに違いない作品達を・・・。我々は彼が生きている間、彼の作品を、難解だ、下品だ、などとレッテルをはり、視野に入れようとしなかった。確かに彼の作品は、どれも非常に高度で、十分難解ではある。耳から血が出るほど聞き込まないと、良さがわからない。しかし、それこそ芸術の本性なのだ。口当たりのよい音楽に慣れている我々が、病んでいるのである。彼の音楽を一言で言い表すなら、それは「美」だ。見せかけの美しさに慣れ、本物の美を鑑賞する力を我々は失ってしまったのだ。

 彼の死から一段落した今、彼の全ての作品が続々とメジャーレーベルから再発されている。これは時代が彼を必要としているからに他ならない。彼の死によって、ようやく我々は目覚めようとしている。ザッパが事ある度に言っていた言葉、「自分自身に忠実であれ。」これほど、現代に生きる我々にとって示唆に富む言葉はない。

 ザッパが生涯敬愛した音楽家、エドガー・ヴァレーズ。そのヴァレーズの言葉をザッパと、彼の作品に贈ってこのページの〆とする。

「現代の作曲家は死ぬことを拒否する」

ザッパ大先生、長い間ありがとうございました。



ZAPPA初心者の方へ


ZAPPAの作品は振幅が激しいですが、主に、 ロック、ジャズ、現在音楽(前衛)の3種類に分けられます。 はっきり言ってZAPPAはなかなかとっつきにくいです。 以下に、まず聴くべき私のお薦め盤を紹介します。
ロック、ジャズ、現在音楽、その3つを堪能できるのが、 20世紀を代表するレコードとまで言われたUncle Meat です。しかし、結構難解です。
ジャズロックなら、 「籠の中の桃」も入っている、しぶーーーいHot Rats (Rmst) で決まりです。これはジャズファンなら唸ること間違いなしです。
ロック系ならほとんど奇跡と言われたSheik Yerbouti が良いでしょう。最高傑作だと思います。特に最後の「ヨー・ママ」のギターソロは永遠です。

 



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