「海賊版サイト」の広告を排除へ
漫画やアニメなどの「海賊版サイト」に掲載されている広告の収入が、サイトの運営資金になっていると指摘されていることから、ネットの広告事業者などでつくる業界団体は、「海賊版サイト」を具体的に指定して、広告を排除する取り組みに、はじめて乗り出すことになりました。
海賊版サイトを巡っては、ことし4月、5万点の以上の漫画を無断で掲載し、多くの利用者がいた「漫画村」が大きな問題になり、その後、漫画村は閲覧できなくなりましたが、こうした海賊版サイトはほかにもまだ多く存在し、そこに掲載されている広告の収入は、サイト運営の資金源になっていると見られています。
こうしたことから、ネット広告に関連する代理店や配信事業者、それに広告主の企業などでつくる3つの団体が共同で「海賊版サイト」から広告を排除する取り組みに、はじめて乗り出すことになりました。
具体的には、海賊版サイト対策を行っているCODA=コンテンツ海外流通促進機構が作成したブラックリストに基づいて、10数のサイトを指定し、広告を出さないよう、団体の加盟社に呼びかけます。
3つの団体とCODAは、今後3か月に1度、協議の場を設けてリストの更新や取り組みの効果の検証を行っていくということです。
広告主の企業で作る団体、JAA=日本アドバタイザーズ協会の鈴木信二専務理事は「ネット広告が今後、健全に発展していくためにも違法なサイトに広告を出さないような仕組みづくりが必要だ。海賊版サイトには絶対に広告を出さないという決意を会員企業に促していきたい」と話していました。
アニメやテレビ番組が無断で掲載されていて、1か月におよそ2000万のアクセスがあるとされる海賊版サイトの一つを今月上旬、NHKが調べたところ、自動車メーカーの「マツダ」や「スバル」、また「セガゲームス」、「コナミスポーツクラブ」など、国内の10社余りの企業の広告が掲載されていました。
それぞれの企業に広告を掲載した経緯を取材したところ、マツダは「このネット広告は大手広告代理店に依頼していて、そこからさらに別の会社に発注されて配信されていた。代理店とは、不適切なサイトには広告を掲載しないよう取り決めをしていたが漏れてしまっていた。非常に遺憾であり、今後、同様の事態が発生しないよう原因究明と問題解決に取り組んでいる」と説明しました。
また「セガゲームス」は、「連絡を受けて、すぐに広告の配信を停止した。広告代理店には漫画村など、4月に問題になった3つの悪質な海賊版サイトなどには広告を配信しないよう依頼していたが、今回のサイトは排除できていなかった。広告を適切に配信する難しさを痛感している」と話していました。
このほかにも、取材した広告主の企業は、いずれも意図的に掲載していたのではないと答えましたが、自社の広告がどのサイトに掲載されているかを、詳細に把握している企業はひとつもありませんでした。
一方、これらの10余りの企業の広告をこの海賊版サイトに実際に配信していた「広告配信事業者」は、少なくとも4社ありました。
取材に対して、都内にある会社の1つは、「このサイトとは2年前に契約を行い、確かに広告の配信を行っていた。ことし4月、漫画村のことが問題になり、問題のあるサイトが配信先に含まれていないか点検を行ったが、チェックをすり抜けてしまっていた。事態を重く受け止め、改めて点検を行いたい」と説明しています。
一方で、別の配信事業者は、「広告を配信していたかどうかも含め答えられない」とするなど、対応は分かれました。
この海賊版サイトに掲載されていた国内の企業の広告は、NHKが企業に取材した数時間後に、すべて表示されなくなりました。
権利者からの依頼を受けて海賊版サイトへの対策を行っている「CODA」の後藤健郎代表理事は、「アニメの海賊版サイトに正規のアニメの広告が載っているようなこともあり、広告主の企業が、結果的に、海賊版サイトを資金面から支えてしまっている現状がある。広告収入を断つことは、海賊版サイトへの対策として効果的なので、ネット広告に関わる企業は意識を高めてもらいたい」と話していました。
広告主の企業が望んでいないのに、広告が海賊版サイトに掲載されてしまう背景には、テレビや新聞の広告とは異なる、インターネット広告の複雑な仕組みがあると、指摘されています。
現在ネット広告で主流になっている「運用型」と呼ばれる広告では、広告主の企業は、広告を掲載したいウェブサイトを直接、指定するのではなく、広告を見て欲しい人の年齢層や興味のあるテーマなどの「属性」を指定して広告代理店に発注しています。
そして広告代理店は、実際に広告をウェブサイトに表示させるシステムを持っている配信事業者に依頼して広告を表示しています。
このシステムでは、たくさんのウェブサイトの中から、その時々の需要と供給のバランスで、自動的に広告の配信先が決まる「入札システム」のような仕組みになっています。
このシステムを使うと、大量の広告を効率的に扱うことができますが、広告の掲載先について、その都度、広告主の確認を取ることはなく、結果的に、広告主の望まないサイトに表示されるケースも起きてしまいます。
今回の広告業界の取り組みについて、海賊版サイトの問題に詳しい弁護士の福井健策さんは「広告収入を絶つことは海賊版サイトへの対策として有効だと言われていたが、これまでは出版社が個別に依頼しても、効果がそれほど上がっていなかった。今回、ネット広告に関わる業界が全体で取り組むことは、一定の効果が期待できる。」としています。
そのうえで、「業界の自主的な取り組みだけでは、団体に加盟していない業者や海外の業者をどうするかといった課題も残る。今回の対策の効果を検証しながら、海賊版サイトそのものを利用しないという風潮を広めることも大切だ」と話していました。