神木隆之介主演のNHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(やけ弁)は、学校に常駐する弁護士(スクールロイヤー)が熱弁をふるって波風を立てる新形態の学園ドラマだった。
主人公の極端な言動には賛否が分かれる。それが制作者の狙いであろう。
このスクールロイヤーの本格導入に向けて、文部科学省は2018年度予算で調査研究費約5000万円を確保した。
しかし、弁護士が法律を使って一刀両断する手法は教育現場に相応しいのか。ドラマが投げかけた問題提起を重く受け止めるべきである。
私は大阪で弁護士をしており、学校や教師から相談を受けることも数多くある。
「それは体罰であり違法です。謝罪と再発防止策が必要です」という助言が、教師の姿勢を方向転換させて解決につながったケースもある。
「その親のクレームに応じる義務はないですが、時間をかけて背景や真意を聴き取るべきです」という助言によって、教師が心理的な余裕をもって信頼関係を築けたケースもある。
このように、弁護士による助言が教育現場によい効果をもたらすことはあり得る。
しかし、弁護士が「法律をタテにして正論を吐けば何でも解決できる」と思うのは傲慢であろう。
司法試験の科目には教育学も教育法規も含まれていない。弁護士は教育については素人である。そのことへの自覚と謙虚さが必要である。教師やスクールカウンセラーの専門知識や経験に敬意を払い、学びながら協力しあう必要がある。
これは、そう簡単なことではない。
という思いとは裏腹に、大勢の弁護士を「スクールロイヤー」として学校教育に関与させる動きがある。本当に大丈夫だろうか。
文部科学省は、2018年度に5000万円の予算を組んで全国10地域でスクールロイヤー制度の調査研究を実施する。前年度予算は300万円(2地域)だったのと比べて、予算額も規模も一挙に拡大した。
制度の概要は次のとおりである。ドラマ「やけ弁」とは違って学校には常駐しない。法律事務所で日常業務をこなしながら、学校から相談や依頼があれば応じる形態である。
弁護士は「法律の専門知識」を期待されている。しかし、教育学的知見の尊重や教師との連携が制度的に保障されていない点は問題である。
どんな弁護士でもよいのか、という問題もある。ドラマ「やけ弁」のスクールロイヤーは、法廷に立った経験のない新人弁護士であった。