カリフォルニア住民、判事を弾劾 性的暴行罪の学生に軽い量刑
米カリフォルニア州サンタクララ郡で6日、裁判官を審査する住民投票があり、女性に対する性的暴行と強制性交未遂の罪で有罪となった学生に禁錮6カ月の軽い量刑を言い渡した裁判官が弾劾され、罷免された。
今年11月の中間選挙に向けた予備選挙に伴い実施された住民投票で、約60%がアーロン・パースキー判事の罷免に賛成した。カリフォルニア州で判事が罷免されるのは1932年以来で、米国全体でも1977年以来という。
判事罷免につながった事件は2015年1月、スタンフォード大学構内のごみ置き場で起きた。大学の水泳選手だったブロック・ターナー元受刑者(当時22)は2016年3月、意識不明の女性(当時22)を性的に暴行した罪で有罪となった。3件の重罪について有罪となったため、最大で禁錮14年の判決を受ける可能性があった。検察側の求刑は禁錮6年だった。
しかし量刑言い渡しでパースキー裁判長は、元受刑者が若く、犯罪歴がそれまでないことや、加害者も被害者も飲酒していたこと、禁錮刑による影響などについて懸念を表明し、郡刑務所で禁錮6カ月という軽い量刑を言い渡した。また元受刑者の父親は量刑言い渡しに先駆けて法廷で、自分の息子は「20年余りの人生におけるわずか20分の行動」について高い代償を払わされており、犯罪歴もないのだから厳罰に値しないと主張していた。
ターナー元受刑者は郡刑務所で3カ月服役した後、釈放された。性犯罪者リストに登録されているが、有罪判決を不服として控訴している。
軽い量刑と父親の主張に、米世論は激しく反発した。性的暴行や強姦の法的定義に関する議論のほか、米国の裁判所は裕福な白人男性を優遇しているのではないかという議論も起きた。
ジョー・バイデン副大統領(当時)は、被害者の勇気を称える書簡を公開。ソーシャルメディアでは、パースキー裁判長の辞任を求める書き込みが相次ぎ、辞任要求嘆願には100万人近くが署名した。
昨年6月には、スタンフォード大学のミシェル・ダウバー教授(法学)を中心に、罷免要求の住民投票を実現するため、署名活動が始まった。160日間で有権者の2割にあたる5万8634人の署名が必要だったが、住民投票実現にこぎつけた。
ダウバー教授は「社会的地位の高い加害者が、性的暴行や家庭内暴力の罪にきちんと問われない。私たちはこの状態に反対して投票した」、「女性の権利が攻撃されたこの歴史的な時、この郡の女性と多くの男性が断固として立ち上がった」と述べた。
パースキー前判事は、自分の量刑判断に後悔はないと発言していた。自分は量刑基準や保護観察指針をもとに判断したのであって、裁判官は「世論の支配ではなく法の支配に従うべきだ」と述べていた。
カリフォルニア州司法審査会は、パースキー氏の対応に問題はなかったと判断を下している。
「気がついたら担架に」
被害者は名前を公表していないが、加害者の行為でどのような影響を受けたか、公判中に読み上げた。この被害証言はインターネットで大きな話題となり、バイデン氏の公開書簡につながった。
「あなたは私を知らない。でも私の中に入った。だから私たちは今日、ここにこうしている」で始まる被害女性の証言は、近所のパーティーに出かけただけのはずが、気が付いたら病院の担架に寝かされていたことや、自分がどのように暴行されゴミ置き場に捨てられていたかの詳細を報道で知る羽目になったことなどを赤裸々に語っている。
「気がついたら、廊下で担架に寝かされていた。手の甲やひじに、乾いた血がついて包帯が巻かれていた。もしかして自分は転んで、キャンパスの学生課にでもいるのかと思った。自分は落ち着いていて、姉妹はどこだろうと思っていた」
「私は襲われたのだと、担当者が説明してくれた。私はそれでも落ち着いていて、人違いだろうと思っていた」
「あなたのせいで、私は被害者になった。新聞での私の名前は、『意識不明で酩酊状態の女性』だ。たったそれだけ。しばらくの間、自分はそれだけの存在、それ以外の何者でもないんだと思い込んでいた。自分の本当の名前、自分が本当に誰なのか、あらためて自分にたたきこまなくてはならなかった」
(英語記事 Stanford sex attack: Judge Aaron Persky removed from office)