今、全国で「コミュニティカフェ」が増えている。コミュニティカフェとは、地域社会の中での「たまり場」や「居場所」になるスペースで、多くは個人やNPO法人が運営する。メディアでも度々取り上げられる「こども食堂」も、コミュニティカフェの一つ。格差の広がりでひずみが大きくなっている現状に即して増加しているともいえるが、それだけにはとどまらない、社会の隠れたニーズに応えたのがコミュニティカフェだ。
原点は人とのつながりにあった
日本最初のコミュニティカフェは、1997年に在宅福祉サービスに従事していた河田珪子さんが「誰かに会いたい、話したい、一緒にお茶を飲みたい、行くところが欲しい」という願いに応え、月に1度の割合で新潟市の自治会館に『地域の茶の間』を開設し、それが2003年に常設型の『うちの実家』へ発展したものといわれている。コミュニティカフェの原点は、こうした人とのつながりにある。
この動きは徐々に全国に広がり、高齢者の地域活動を支援する団体「公益社団法人長寿社会文化協会」(WAC)が2002年と2003年に新潟市で、翌2004年には広島市で地域の「茶の間」についてのシンポジウムを行った。
これら一連の活動から2009年に”全国コミュニティカフェ・ネットワーク”(http://blog.canpan.info/com-cafe/)が同協会内に作られ、運営が始まった。
ここでは全国のコミュニティカフェへの情報提供やゆるやかなネットワーク作りを支援しており、その担当者である昆布山良則(こんぶやまよしのり)さんは、
「WAC内に”全国コミュニティカフェ・ネットワーク”が作られ、本格的に活動を始めたのは2009年。その頃から全国にコミュニティカフェが急増し始めたといえます。昔は誰かの家に集まってお茶を飲む習慣がありましたが、高齢化社会が進む中で逆に各家の扉は閉じられ、お年寄りに限らずママさんや若い人でも孤独になることが増えている。そうした人たちの居場所になるのがコミュニティカフェです」と話す。
目的は地域活性化と保健福祉
コミュニティカフェの目的は大きく分けて2つで、地域活性化と保健福祉にある。
保健福祉を目的にしたコミュニティカフェは「従来の福祉制度の枠では収まらないものを補うという意味で、今とても大切な存在になっていると思います。例えば要支援1や2の軽度の被介護者の居場所作りを市民に担ってもらおうと、以前より市区町村からの補助金なども出やすくなりつつあるんです」(昆布山さん)という。
保健福祉が目的のコミュニティカフェには介護関連に限らず、例えば東京・練馬区の『カフェ潮の路』(http://tsukuroi.tokyo/ibasho/#cafe)がある。
ここは長年、路上生活者や生活困窮者の支援を行ってきた稲葉剛さん(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授)が代表理事を務める、「つくろい東京ファンド」が2017年4月に開いたコミュニティカフェだ。
現在は週に2回ランチ営業を行い、平日の昼間にコーヒースタンドをオープンしている。ホームレスだった人が、住まいを得て生活し始めた後の社会的孤立を防ぐ居場所であると共に、地域住民との交流の場でもあり、稲葉さんは「内容的には福祉色の強い場ですが、それが見えないように近隣さんには普通のオシャレなカフェに映るようにやろう、と努力しています。ホームレス支援というのは世間的に一番厳しい目を向けられがちなので、そこは慎重にしています」と語る。
子供の貧困には、全国に「子ども食堂」が続々オープンするように温かいまなざしが向けられるようになったものの、いまだ成人のホームレスには「自己責任」論が幅を利かせているのが悲しいかな、現状だ。しかし、だからこそホームレス経験者と地域住民が隣り合って座り、ランチやコーヒーを味わえる、ここは貴重な場所だ。
「同じ困難を抱えた人たちだけのシェルターにするのではなく、地域の人たちも一緒に同じテーブルでご飯を食べていると、互いに慣れていくんじゃないか? 人に優しくしようと呼び掛けるとかじゃなくて、慣れることが大事だと考えました。メニューを工夫し、1コインのランチや200円で飲めるドリンクなどを用意し、安全な食材を使って、健康を考えた料理を安価で提供すれば、地元のお年寄りなども来てくれるんじゃないか?と考えたんです」
そう語るのは、稲葉さんと一緒にカフェを運営する小林美穂子さん。料理も小林さんがボランティアたちと一緒に作る。ランチ営業日には稲葉さんもエプロンを付けてホール係をやり、「潮の路」は和気あいあい、ホッとする居心地のいい場になっている。
誰かのために飲食代を先払いする「お福わけ券」
また、ユニークな取り組みが「お福わけ券」。カフェに来たお客さんが「次の来る誰か」のために飲食代を先払いする仕組みで、お金のない人もそのチケットを使って無料で飲食できる仕組み。券の裏にはメッセージが書き込めて、多様な人々が交流できる。
「海外でやっていたシステムをまねたんです。『ペイ・イット・フォワード』とか、『サスペンデッド・コーヒー』とかいって、お金のないホームレスの人たちでも飲食できるように考えられたものです。さらにここでは、『頂いたお金をちゃんと使ってますよ』という透明性を見せるためにも、裏に書き込む欄を作って当事者同士を交流させています。そうすると、無名の誰かに贈ったお金が例えば『佐藤さんが贈ってくれたお金で僕、田中が食べて、裏に感想を書きました』と具体的になって、それだけでガラっとお互い見る目が変わると思ったんですね。そんなことしたら『ありがとう』を強要するんじゃないか?と最初は賛否両論でしたが、蓋を開けてみたら食レポをする人がいたり、短歌を書く人がいたりとさまざま。恵んでもらっているという卑屈なものにならず、いい感じにすれ違っていたりでとても面白く、また、たくましさを感じました」(小林さん)
ホームレス経験者と近隣住民との交流という高いハードルも、ここではごく普通の中に流れていく。たまたまカフェのある所が、病院や福祉施設の多い地域だったのも幸いしているし、ランチ・メニューが多彩なのもいい。おいしいメニューには、これまで苦しい生活で食の喜びの乏しかった人たちに「食の体験をここでしてほしい」という願いも込められている。
実際にここでランチをした折にホームレス経験者の男性と話をしたが、いかに路上生活を脱したかを分かりやすく教えてもらい、大変ですね、というよりは勉強になった、役だったと感じた。気張らず過ごせる時間を作ることに成功しているコミュニティカフェだ。