小売業が水産資源のサステナビリティに取り組むときのさまざまな課題。成功している企業はどうやって解決しているのだろうか。

 イオンは日本の小売業の中ではこの分野で最も進んでいる企業だろう。同社の取り組みから日本の漁業の現状まで、イオンリテール株式会社 商品企画本部 水産商品部長 松本金蔵氏に聞いた。

第1回 水産資源とスーパーマーケットの切れない関係
第2回 サステナブルな魚の選び方

イオンの4つの方針

――水産資源のサステナビリティへの取り組みを教えてください。

 イオンは2014年に「水産物持続調達方針」を出し、毎年若干改定しながら公表しています。中身は大きく4つの項目があります。

1) MSC、ASC認証商品を積極的に販売する

 1つ目は「持続可能な商品の販売」。2006年から開始したMSC、ASC商品の積極的な販売です。また、2017年にGSSI*のファンディングパートナーにアジアの企業として初めて参画しました。

*GSSI:世界水産物持続可能性イニシアチブ(The Global Sustainable Seafood Initiative)、持続可能な水産物の普及に取り組む機関。国連食糧農業機関(FAO)のガイドラインに基づき、各種の水産物に関する認証を審査する。

2) IUU漁業で獲られた水産物を排除する

 2つ目は「トレーサビリティの確立」。基本的に追跡可能な水産物を優先的に扱います。

 例えばIUU(違法)漁業です。水産物が難しいのは県ごとに獲っていいサイズなどが決められているから。例えば北海道の毛ガニであれば、雌と甲長(体の縦の長さ)8cm以下のものは捕獲できません。われわれは県条例をしっかり把握し、バイヤーは条例を持ち歩いて常に確認するようにしています。

 人権問題についてはASC、MSCの監査に含まれるため、認証を取っている商品はクリアしていると認識しています。

3) ワシントン条約で保護されている水産物が混ざらないよう確認する

 3つ目は「違法な取引の排除」。ワシントン条約で保護されているヨーロッパウナギを扱っていません。ヨーロッパウナギを売っているスーパーもあるのですが、それは稚魚が混じって養殖されてしまったということです。われわれが扱うのはジャポニカ種(日本のウナギ)とビカーラ(インドネシアのウナギ)で、(他の種が混じらないよう)基本的に全て確認しています。

4) リスクの高い水産物を扱わない

 4つ目が「定期的なリスク管理」です。リスクの高い水産物について方針を決めて取り組んでいます。

 例えば本マグロです。最もリスクが高いのは6月ごろに水揚げされる日本海の本マグロで、われわれの方針は抱卵マグロと30kg未満のものは販売しないというものです。中身を確認するために境港に駐在員を置いています。取引先に任せるのではなく、イオンの社員が行っています。

――今のシステムができるまでの経緯を教えてください。

 石油や石炭は採ったらなくなりますが、水産物はしっかり管理すれば永遠に食材として活用できます。この発想をベースとして2006年に始めました。

 トレースバックのシステムは、例えば養殖魚だと給餌記録、投薬記録、種苗(稚魚)の購入記録、残留抗生物質の検査記録などを把握し、安全性の担保を取っています。

 ウナギであれば池入れ記録と池上げ記録も管理しています。日本の貿易統計を見ると、ウナギは池入れの数量より池上げの数量の方が多いのです。これはどこかの商品(稚魚)が混じっているということで、長年の課題です。われわれはこれが混じらないように記録を管理しています。