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【社説】

自民の選挙改革 ご都合主義が目に余る

 「抜本的な見直し」とは懸け離れた「小手先の見直し」との批判は免れまい。自民党の参院選挙制度改革案。理念を欠き、地方組織の不満解消を最優先にした弥縫(びほう)策だ。ご都合主義が目に余る。

 自民党の合同部会がきのう来年の参院選から導入する選挙制度改革案を了承した。総務会での了承を経て法案を今国会に提出し、会期内の成立を目指す、という。

 改革案の柱は二つ。一つは議員一人当たりの有権者数が最も多い埼玉選挙区の定数を二(三年ごとの改選数では一)増やすこと。もう一つは比例代表の定数を四(改選数では二)増やし、名簿順位を付けない現行制度の例外として、各党が事前に定めた順位に従って当選者を決める「拘束名簿式」の特定枠を導入することだ。

 「鳥取・島根」「徳島・高知」をそれぞれ一つの選挙区に統合する「合区」と「十増十減」の定数見直しを行った三年前の前回改正では、二〇一九年の参院選に向けて「選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする」と、改正法の付則に盛り込んでいた。

 自民党の改革案は「抜本的な見直し」という、国民との約束を果たす内容とはとても言えない。

 半数改選という憲法上の制約がある参院で定数増による「一票の不平等」是正は一概には否定しないが、そもそも埼玉の定数を増やしても、三倍近い格差が残る。

 最高裁が前回一六年参院選での格差三・〇八倍を「合憲」と判断したのは、抜本的に見直すとした立法府の姿勢を評価したからにほかならない。自民党案は投票価値の平等を追求する真剣さを欠く。

 さらに問題なのは特定枠の導入だ。「国政上有為な人材」らの選出を名目に、対象人数などは各党の判断に委ねてはいるが、自民党の狙いが、合区対象県で公認に漏れた県の候補を比例代表で救済することにあるのは明らかだ。

 これまで主張してきた憲法改正による合区解消が難しいからだろうが、自党の議席維持を優先する場当たり的な対応と批判されて当然だ。

 参院選挙制度改革では故西岡武夫氏が参院議長当時に全国九ブロックの比例代表制、公明党が十一ブロックの大選挙区制を提唱したことがある。抜本改革の参考になるのではないか。

 選挙制度の抜本見直しは本来、衆参それぞれの権限や役割などに踏み込んで議論すべきである。それを怠ってきた責任は、与野党が等しく負わねばならない。

 

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