- 結愛ちゃんの手書きメッセージ(全文)
- 救えたはずの命はなぜ救えなかった?
- 児童相談所と警察の全件情報共有がカギ
救えたはずの命はなぜ救えなかったのか?
東京・目黒区で、5歳の女の子が虐待死し、両親が逮捕された事件で、女の子が「ゆるしてください」などと書いたノートが見つかっていたことがわかった。
島田彩夏キャスター:
愛を結ぶと書いて結愛(5)ちゃん。5歳といえば小学校に上がる前の幼さです。
そんな5歳の結愛ちゃんが生前にノートに手書きでつづっていたという「ママへのメッセージ」は本当にあまりに悲しく、あまりに辛いものでした。
結愛ちゃんの手書きメッセージ(全文)
島田彩夏:
だが、目をそらしてはいけないと思い、ここに全文を読み上げます。
ママ もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりかもっと あしたはできるようにするから
もうおねがいゆるして ゆるしてください おねがいします
ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできなかったことこれまでまいにちやってきたことをなおす
これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたいだからやめる もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします
もう あしたはぜったいやるんだぞとおもって いっしょうけんめいやる やるぞ
島田彩夏:
5歳の子がどんな思いで、これを書いて、どんな思いで死んでいったかと思うと本当に胸がつまります。
反町理キャスター:
しつけと言う名の折檻で、どんな目にあっていたのかというのも伺えますし、でもギリギリの所で母親への気持ちも残っているように見えます。習いたての「ひらがな」で書いた文書がこれかと思うと切なくなる。
児童虐待の専門家に聞いた
元警察庁で児童虐待の現状に詳しい弁護士の後藤啓二さんに、どうすれば私たちがこうした悲しい事件を一つでもなくすことができるのかについて聞いた。
島田彩夏:
後藤さんはこれまで児童虐待のケースたくさん見てきたと思うんですけれど、結愛ちゃんの手書きのメッセージをどうご覧になりましたか?
後藤啓二:
これは本当に切ないわけなんですけど、恐らく些細なこととか、何も悪いことをしていないのに、いちゃもんと言いますか、叱られて、殴られたり、叩かれたり、あるいはご飯を食べさせてもらえなかったり、そういう目にあってたんじゃないかと思うんですね。それでこういうものを書かざるを得なくなって、本当に怖かっただろうなと思います。
警視庁が結愛ちゃんのメモを全文公開した理由は?
島田彩夏:
追い詰められた気持ちが伝わってくるんですけれど、今回のように虐待死した子供のメモを目にすることは、これまであまり無かったように思います。その背景を警視庁記者クラブの金子記者に聞きます。警視庁はどんな思いでこのメモを公開したんでしょうか?
金子聡太郎記者:
虐待事件捜査では、家族内の当事者にしか知りえない状況を立証する難しさ。いわゆる「密室感」があります。今回警視庁が明らかにしたメモは、結愛ちゃんが事件直前どんな劣悪な環境にいたか、そしてどんなに切迫した状況だったかを、亡くなった結愛ちゃん自身の言葉で示す状況証拠です。警視庁は両親による悪質な犯行を裏付けるうえで重要な証拠と判断し、結愛ちゃん自身が記したメモの公開に踏み切ったと言えます。
島田彩夏:
父親が逮捕されてから母親が逮捕されるまで3カ月もかかった理由は?
金子聡太郎:
密室の中での犯行を立証する上で必要な時間だったと言えます。警視庁は発覚当初からこの事件が単に義理の父親が子どもを殴って死なせてしまったものと矮小化せず、一定期間の中で恒常的に行われた虐待の末に起きたものとみて、一緒に住んでいた母親の関与を調べてきました。その後の3カ月に及ぶ捜査で夫婦2人が、長い期間、食事も与えず結愛ちゃんを衰弱させた上、病院に連れて行かず放置したことなども明らかになりました。その結果、むごたらしい虐待の実態に即して、今回、保護責任者遺棄致死容疑での立件につなげたと言えます。
何度もSOSが出ていたのに…結愛ちゃん虐待死の経緯
5歳の結愛ちゃんの心の叫びを亡くなる前になぜ社会は受け止めることができなかったのか?結愛ちゃんが亡くなるまでの経緯をもう一度振り返ってみる。
結愛ちゃん一家は今年1月に東京・目黒区に引っ越してきた。その前はというと…
2016年12月、香川県の自宅の前で結愛ちゃんが唇から出血した状態で放置され、児童相談所が一時保護をしていた
2017年2月、一時保護を解除され自宅に戻る
2017年3月、また放置され、児童相談所が2度目の一時保護
2017年4月、幼稚園を退園
2017年7月、一時保護を再び解除
2017年8月、結愛ちゃんが「パパにけられた」と病院が市に通報もしていた
2018年1月、東京に引っ越し。香川の児童相談所から東京の児童相談所にそれまでの経緯や情報は全て伝えていた
2018年2月9日、東京の児童相談所職員が自宅訪問したが、結愛ちゃんに会わせてもらえず
2018年2月20日、小学校の入学説明のため関係職員が自宅訪問したが、結愛ちゃんに会わせてもらえず
ここまでSOSが出されていて、児童相談所も関わっていたにも関わらず、
2018年2月下旬、父親が結愛ちゃんの顔面殴るなどの暴行
2018年3月2日、搬送先の病院で結愛ちゃん死亡。享年5歳
と事件は起こってしまった。
児童相談所の対応に問題はなかったのか?
後藤啓二:
完全に救えたはずの命ですよね。東京の児童相談所が自分で案件を抱え込まずに、家庭訪問して会えなかったのであれば警察に連絡をして、警察が家庭訪問すれば絶対子供の安否は確認できたはずです。その時傷があったり、ガリガリに痩せていたということであれば、その場で警察官が緊急に保護できたはずなんです。それをみすみす児童相談所が警察にも連絡せず、結果的に虐待死に至らしめたという事件だと思います。
倉田大誠キャスター:
事前にこういうことがあったにも関わらずどうしようもできないものなんですか?
後藤啓二:
これは普通の人が考えても、面会拒否は危険な兆候だと思うのは当然ですよね。それを児童相談所はそのままにしてしまったと、ここがまずあり得ない対応です。警察に連絡さえすれば、警察が保護できたはずなんですね。なんの問題もない。絶対できるはず。
島田彩夏:
なんで抱え込むんですか?警察になぜ電話をしないんでしょうか?
後藤啓二:
これは他機関の関与を嫌うという縦割りの体質が非常に強くて、危険な兆候があっても警察に連絡しないというのは、特に東京都の児童相談所は顕著ですね。
児童相談所と警察が全件情報共有している地域も
島田彩夏:
地域によっても差があるんですか?
後藤啓二:
高知県、愛知県、茨城県では、児童相談所と警察は全件情報共有していまして、連携して活動しています。ですからそのような県では必ず警察が行って、警察が子供を確認する、危ないと思ったらすぐ保護すると。非常に連携とれて子供が守られている所もあるんです。東京は残念ながらそういう状況にないということです。
反町理:
東京の児童相談所はなぜ連携を嫌がるんですか?さきほどセクショナリズムという話もありましたが?
後藤啓二:
実は東京都は毎年毎年同じような事件を起こしていて、私どもは3年前にも要望書を出して全件情報共有をお願いしているんです。それでも拒否されているんですね。今回も要望書を小池都知事に出して、都議会の議長宛にも出しているんですけれど、まだ何も言ってきていないという。こういう状況でも他機関の関与を嫌う(東京都の)閉鎖的な体質が顕著ですね。
反町理:
東京の児童相談所が閉鎖的という言葉で片付く話なんですか?児童相談所には児童相談所なりの理由はないのか?例えば予算の問題、人員の問題、受け入れ施設の問題、そういったさまざまな問題が児童相談所に実はあるのかどうか?
後藤啓二:
それはもう無いですね。正直言いまして、私どもがお願いしているのは警察と連携して情報共有してくれというだけですから、何の支障もないですよね。どちらかと言えば警察がやってくれることになるんで、児童相談所はむしろ楽になると言うか、拒否する理由は何もないですよね。ですから高知県、愛知県、茨城県ではそれはそうだと言ってやってくれているんです。
島田彩夏:
もう何年も前に法律で、要保護児童対策地域協議会を設置しなさいとなって、東京都にも適用されていると思うんですが?
後藤啓二:
それは主に市町村に設置されている機関なんですけど、やはり警察が参加していない地域も多いですし、参加しても情報共有はしていないことも多いです。市町村によっては資料をわざと持ち帰らせないようにしている所もあって、じゃあ何のために協議会を開いているのか分からないような。
島田彩夏:
それはプライバシーの問題というようなことなんでしょうか?
後藤啓二:
いやあ。私もどうも理解できないんですけれど、まさに案件を抱え込む体質が強い。
反町理:
そこが分からない。なんで抱え込むんですか?抱え込む児童相談所側の理屈は何なんですか?
後藤啓二:
これはですね。私も10都道府県くらいの児童相談所と話しているんですけれども、要するに児童虐待と言うのは児童相談所が解決するものだと。他機関が関わるのは、私は耳を疑ったんですけれど「児童相談所のメンツが立たない」とかですね、あるいはそもそも「児童相談所が解決すると法律にもそうなっていて、逆に情報提供なんかする義務は無いはずだ」とか言うんですけれど。私はもう本質は役人の「今までのやり方を変えたくない」とか「他機関と一緒にやるのは面倒くさい」という不作為のなせるワザだと思います。
回りの大人たちができることとは?
島田彩夏:
近所の人も薄々変だなと思うこともあったかと思うんですけれど、そういう時に回りの大人たちができることってどんなことでしょうか?
後藤啓二:
やはり虐待に気づいたら通報するということなんですけれども、今回の事件でも近所の方は何度も通報しているんですよね。それを全く活かせない児童相談所、ここに最大の責任があると思うんですね。住民の通報を児童相談所が抱え込むことによって死蔵されている、活かされていない。要するに児童虐待は一つの機関だけで対応できるほど甘いものではない。それを肝心の児童相談所自身が感じていない。私は周囲の方は今回非常に良く反応していただいたのではないかと思うんですけど。私はもう法律で情報共有を義務付けない限りは「法律で義務付けられていないのに、そんなことはやれませんよ」「そんな余計なことだ」「面倒くさい」ということでやらないんだと思うんですね。これが正に高知と愛知と茨城を除く全国の状況だと思う。
島田彩夏:
警察は「民事不介入」ということもあって、なかなかズカズカと入り込めないというか令状もないですし、それはどこまでできるんですか?
後藤啓二:
それは確かに拒否されればできないです。ただ普通の人は児童相談所には拒否しても、警察が来たらもうしょうがないと思いますよね。ズカズカとか全くそんなことやる必要はないんです。「ちょっと子供さん見せてくれますか」と警察が言うだけで大部分の人は見せますし、それで見せなければ児童相談所が一時保護するとか措置をすればいいことだと思います。
反町理:
都道府県ごとの話をされていますが、国全体の法整備が必要ということにはならないんですか?
後藤啓二:
私ども法改正の要望はしているんですが、これは厚生労働省が拒否していまして、本当は法律で全件びしっと情報共有するとしてもらえば解決するんですけれど、国も拒否していると、東京都も拒否していると。こういう状況ですね。
島田彩夏:
虐待死はわかっているだけで年間に100人近くともいわれています。周囲で、もしも虐待かなと気になったらすべての人が躊躇せずに通報または相談をしてほしいと思います。全ての子供が明るく楽しく生きること、それをサポートすることが大人の義務だと思います
(プライムニュース イブニング6月6日放送より)