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【コイ大量死】

猛威コイヘルペスの謎


2カ月で21都府県に拡大


KHVの感染で大量死し、茨城県・霞ヶ浦の養殖場に浮かぶコイ=11月4日、同県玉造町で、本社ヘリから

 茨城県・霞ケ浦の養殖ゴイ大量死をきっかけに明るみに出たコイヘルペスウイルス(KHV)病が、全国に広がっている。たった2カ月で21都府県に拡大した。どんなルートで日本に入ったのか、どうして急に感染が広がったのか、農林水産省は検討会を設けて調査しているが、謎はまだ解明されていない。有効な対策はとれるのだろうか。

経路は
――海外から?遺伝子類似

 食用ゴイの全国出荷量の半分を占める霞ケ浦。10月上旬、コイが次々と死んでいるのが見つかった。水産総合研究センター養殖研究所(三重県)は10月31日、霞ケ浦で死んだコイから、KHVを日本で初めて検出した。

 その後、霞ケ浦産コイの出荷先で、コイの大量死が相次ぐ。これもKHVの感染だった。さらに、大阪府の淀川など各地河川にいる天然コイへの感染もわかった。

 さかのぼると、5~7月に岡山県の湖や河川で大量死したコイのKHV感染も判明。10月の確認以前に感染が拡大していたことがわかった。

 KHVは98年5月、イスラエルで世界で初めて発見された。同年8月には米国でも確認、さらに英、独、オランダ、ベルギーに感染が拡大した。昨年はインドネシアや台湾でも発生した。

 イスラエルは日本と同様、ニシキゴイ養殖が盛んで欧米に輸出されている。英国の発生例はイスラエル産のニシキゴイからと報告されている。  米国の場合は、品評会から持ち帰ったニシキゴイが発病し、その池のコイが9割死んだ。

 インドネシア・ジャワ島西部の養殖場では昨年5月、大量のコイが死んだ。中国から輸入したニシキゴイを島の東部から西部に移したのがきっかけだった。ジャワ島以外へのコイ持ち出し禁止令は、業者の反発にあい2カ月後に破棄されたが、今年に入って病気はスマトラ島などに広がった。

 こうした世界の状況を見ると、感染したコイの流通が感染拡大につながるのは必至とみられる。

 対策に日本も手をこまねいていたわけではない。農林水産省はインドネシアでの大流行を機に養殖研究所でのKHV検査態勢を整備した。今年7月、「持続的養殖生産確保法」に基づき、KHV病を日本に入ると重大な損害が予想される「特定疾病」に指定、コイの輸入を許可制にして警戒していたが、KHV侵入は現実のものとなった。

 養殖研究所の飯田貴次病害防除部長は流行中のKHVは「海外から入ったとみられる」という。国内KHVの遺伝子の一部が海外のものとほぼ同じ型▽国内で今年まで大量死が確認されなかった、などからの判断だ。

 感染地域からコイが持ち込まれた可能性などが考えられているが、侵入経路は不明だ。

 KHVは、家畜や魚類の感染症の国際的監視機関である国際獣疫事務局(OIE)への届け出対象外なので世界の流行状況も詳しくはわかっていない。インドネシアにコイを輸出した中国は自国内での流行の有無を公にしていない。

対策は
――増殖阻む水温調節カギ

 KHVには苦手な季節がある。米カリフォルニア大のロナルド・ヘドリック教授(魚病学)らの実験によると、KHVは水温15~25度では活発に増えるが、寒くなって4~10度になるとほとんど増えない。逆に、30度以上でも増殖できない。人間は体温が36度と高いのでKHVの害が及ばないという。

 このウイルスの性質が、病害対策のヒントになるのかもしれない。

 ヘドリック教授らはコイを水温を変えて飼い、KHVに感染させた。水温が18~28度では85%以上のコイが死亡したが、13度では死ななかった。

 その死ななかったコイを1カ月飼ってから水温を23度に上げたところ死亡した。ところが、23度に上げる時期が2カ月後だと死ななかった。

 この実験は、KHVは、水温が低下する冬には息を潜め、春になって水温が上がると再び活動し、流行する可能性を示している。一方、水温の低い時期を長くすると死ななくなるのは、この間にコイがKHVに免疫を持ったためともみられる。

 KHV対策で参考になるのは、キンギョに造血障害を起こして高率で死亡させるキンギョヘルペスウイルスの流行だ。

 このウイルスは飼育温度を32度以上にすることで発病が抑えられる。キンギョヘルペス対策として、発病魚の隔離と養殖池の消毒を徹底し、水温を32度以上にして生き残ったキンギョを選択して出荷するなどして対応している。

 99年以降流行が続く埼玉県では県内3分の2の養魚場で感染魚が出ているが、こうした措置を続け、キンギョの感染率は00年の47%から01年は6%に下げられたという。

 生き残ったキンギョについて、東京海洋大の福田穎穂(ひでお)教授(水族病理学)は「高温の間にウイルスに対する免疫が成立するものもいる一方、生き残りはウイルスを体内に潜ませたキャリアーになる可能性もある」と話す。

 福田教授らの実験では、卵巣にウイルスが潜んだまま3年間症状を出さなかったキンギョが、産卵などでホルモンバランスを崩すと、ほかのキンギョを殺すほどのウイルスを排出する場合もあったという。KHVでも同じことがいえるかは不明だが、可能性はある。

 福田教授は「楽観的にみると免疫ができてあまり死なないこともあり得る」というが、川の天然のコイにまで感染が広がっていることから「来春、野生のコイが大量に死ぬ最悪のシナリオも否定できない」と話す。

 イスラエルでは、毒性が弱いKHVを魚に注射して体内に抗体を作ると死亡率が抑えられるという研究報告が最近出された。しかし、効果の検証はこれからで、実用化にはまだかかりそうだ。

 今年初めて見つかったKHVへの対策は、当面は感染地の徹底把握と、そこからコイや感染の可能性のある水などの移動を禁止する「封じ込め」しか手がないようだ。

 だが、「完全な蔓延(まんえん)防止は難しく、根絶は無理」との専門家の声もある。「今後国内のほとんどの地域で感染が確認されるような事態になると、むしろ感染させて免疫がつき生き残ったコイを出荷することしかできなくなるのではないか」と福田教授は懸念している。

性質は
――他魚への感染実態不明

 一体どこからKHVは現れたのだろうか。

 ウイルス学の常識からは、(1)元々コイの体内にいたウイルスが突然変異して激しい病原性を得た(2)ほかの魚が持っていたウイルスがコイに感染して病原性を示した――などが考えられるが、現状では決め手はない。

 ほかの魚が持っていたウイルスが由来とすると、本来はコイとは同じ環境には生息しない魚が観賞用などとして輸入され、同じ環境で飼われたコイにウイルスが感染するケースが想定される。

 しかし、畑井喜司雄・日本獣医畜産大教授(魚病学)は「コイ以外でKHVに感染しても発症しないでウイルスを持ち続ける魚の有無もまだよくわからない」と話す。

 イスラエルの研究者は同じコイ科でもハクレンやソウギョ、キンギョなどは、KHVに感染したコイと一緒の水槽で飼っても発病しなかったと報告している。しかし、「コイ以外は発病しなかった」というデータのみで、どの魚種がウイルスに感染し、他に感染させるかなどはわからない状況だ。

 日本では、コイヘルペス発生前に国内での感染実験はできなかった。しかし、今年春に、養殖研究所感染実験ができる「海外伝染病研究棟」整備が完了、今は実験可能だ。現在は各地で発生するKHVの検査業務に追われており、他の魚種などへの感染実験にはまだ手が回らないという。

 生態系への影響も含め、KHVの実態の解明はこれからだ。

<キーワード>
――ヘルペスウイルス

 ヘルペスウイルスはDNAウイルスの一種で、人では水疱瘡(みずぼうそう)や突発性発疹、口内炎、リンパ腫などを起こす。膜(エンベロープ)に包まれた中心部を電子顕微鏡で見ると正20面体構造をしている。一度体内に入ると、残り続けるものが多く、免疫が衰えると症状を示すようになる。

 人だけではなく、多くの動物に固有のヘルペスウイルスがあり、腫瘍(しゅよう)を起こすものも多い。魚類ではサケに腫瘍を起こすものやキンギョに造血障害を起こすものなどがある。

 KHVは潜伏期が2~3週間で、コイは動きが鈍ってエラがただれる。死亡率は高い。ウイルスは尿やふんと一緒に排出されるとみられている。





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