天候はあいにくの雨。足早に埼玉スタジアムへと向かう人々──。浦和レッズは去る5月13日(日)のサガン鳥栖戦で『Go Go Reds!デー』と銘打ち、小学生・中学生・高校生の指定席全席種のチケットを550円(5=Go、5=Go、0=Reds)で販売する企画を実施した。
この企画は2016シーズンに始まり、マイナーチェンジを重ねながら、今年で3回目を迎えた。『Go Go Reds!デー』当日は、時折雨が激しく降る悪天候にもかかわらず、40,000人を超える来場者数を記録した。
浦和はJリーグで群を抜く集客力を誇るクラブだ。スタジアムには日本随一とも言える“熱気”が漂う。2017シーズンのJ1リーグにおける1試合平均入場者数は、浦和を除くJ1クラブの平均が18,020人だったのに対し、浦和は33,542人。そこには2倍近い開きがある。
さらに注目したいのは入場料収入だ。2016シーズンの浦和を除くJ1クラブ平均が6億4500万円であるのに対し、浦和は23億7500万円と4倍近い数字を誇る(※1)。
浦和は創設以来、入場者数はもちろん、その“質”、つまり“有料観戦”に強くこだわってきた。これは「お金を払って見る価値のあるコンテンツ」であり続けることをクラブ、チーム、選手が強く意識していることの表れである。クラブの価値を高める上で、場当たり的に資金を費やして選手を獲得することはない。入場料収入と同額の費用をチーム人件費に投じてさらなる“質”の向上に努めているのだ。
“浦和レッズ”が価値のあるコンテンツであり続けることで、ファン・サポーターから成るマーケットの“質”も良好に保たれている。その“質”の高さはスポンサー企業にも事業的な恩恵をもたらす。その結果として、2016シーズンのJ1クラブでは2番目に多い広告料収入を得られ、責任企業(親会社)からの損失補てんを受けずにクラブを経営できる好循環を実現しているのだ(※2)。
浦和は2006年以降、収容人員21,500人の駒場スタジアム(現浦和駒場スタジアム)を併用してきたシーズンを含めて、10年以上にわたりJ1最多入場者数を記録し続けている(※3)。シーズンチケット販売数も20,000枚を超える中、無料観戦者数がJ1クラブの中で最少という“質”の高さも特筆すべき点だ。
そのような浦和がなぜ小学生・中学生・高校生の指定席全席種のチケット料金を550円で販売する企画を実施したのか?
※1 本稿執筆時点でJリーグが全クラブの個別経営情報を開示しているのは2016年度まで
※2 2016年の1位は名古屋グランパス
※3 2005年の1位はアルビレックス新潟
浦和はサッカー技術の向上のみにとどまらず、サッカーを通じて「こころ」を育むことをテーマに活動するハートフルクラブの運営に力を入れている。現状にあぐらをかかず、さまざまな形でホームタウンの子供たちとの継続的なコミュニケーションを図ってきた。しかし、スタジアムへの来場という側面だけで見れば、必ずしも十分な成果が出ているとは言い切れない。
例えば、『Jリーグスタジアム観戦者調査2017サマリーレポート』の「来場者年齢分布」を見ると、11歳~22歳の若年層が占める割合は、J1クラブで最下位だ。少子高齢化の時代背景は当然ながら全クラブに共通したものであり、浦和のクラブスタッフは所属部署を問わず、皆が強い危機感を抱いているという。
もちろん、こうした状況にただ手をこまねいているだけではない。スタジアムの飲食売店で提供するメニューに対戦チームの郷土料理を盛り込んだり、ビールフェスタを開催したり、工夫を凝らしている。また、クラブOBを中心に構成されるハートフルクラブのコーチたちによる、当日参加ができるサッカー教室が開催されており、参加者は芝生の上で楽しくボールを蹴ることができる。
その他にも、スポンサー企業の協力を得て、40メートルの高さからスタジアム一帯の風景を眺めることができる高所作業車体験会や、建築資材を再利用した箸作りを大工に教えてもらえるワークショップを開催。子供たち、あるいは親子が楽しめるイベントを数多く実施し、幅広い年齢層の受け入れ態勢を地道に整えていった。5月に実施した『Go Go Reds!デー』企画も、そのような取り組みの一つである。
5月15日、浦和はクラブ設立から四半世紀を経て、あらためて「浦和レッズ理念」を発表した。その中にこんな一文がある。
“伝統を大切にしながら、新しいことにチャレンジしていきます。”
従来の枠にとらわれず、将来を見据えて、新たな挑戦を続けていく。スタジアムにサポーターが集い、これまで以上の“熱気”で包まれた時、そこには未来を担う多くの子供たちや若者が目を輝かせているはずだ。