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この物語はフィクションかもしれません

北欧の街オスロ②:街歩きと食べ物、所感

 続きです。美術館や博物館と、アーケシュフース城については前回のこの記事に:

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参考サイト:

Visitoslo.com (オスロ観光情報)

Lifeinnorway.net (ノルウェー情報)

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駅前、宙に引かれた線はトラムのもの
  • 序章

 さて、昨年に訪れた街オスロを紹介するための導入に最適な事柄は何かないかと探していたところ、こんな記事を見つけた。

 これは世界の都市の中で、1パイントのビールを手に入れるのに、平均でどのくらいのお金がかかるのかをランキング形式で掲載しているものだった。

 ドイツ銀行によってこの調査が行われたのは2017年度のことであり、その時点でノルウェーの首都オスロは第2位の10.3ドルという結果になっている。ちなみに1位はアラブ首長国連邦のドバイでその価格は12ドル。記事のタイトルが示すように、オスロは今までこのランキングの1位の常連であった。ちなみに消費税率だけではなく、国民の幸福度の値も高い。

 現在は非EU国家であるこの国で使われている通貨は、ノルウェー・クローネ(NOK)。英語ではノーウィ―ジャン・クローナと発音する。日本の50円玉のように真ん中に穴の開いている硬貨があるなど、英ポンドとユーロになじみのある自分としては少し新鮮な感じがした。

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 画像の100クローナ札に採用されている肖像は、ノルウェーの国民的オペラ歌手であったキルステン・フラグスタートのもの。特にワーグナーの作品中で演じた役柄が評判であった。彼女はハーマルという街の出身で、そこにある彼女の生家は1985年から博物館となっており、洗礼を受けた教会もそばに建っているそうだ。

 オスロ市内にあるオペラハウスについては後述するが、そこにはこのキルステンの彫刻が入り口付近の外部に設置されている。

キルステン・フラグスタート博物館:Kirsten Flagstad Museum

 私自身は音楽を含むこの国の文化芸術にもここ数年で興味を持ち始めたばかりだが、特に地域の伝説や神話が気になっている。上記のワーグナーが手掛けた「ワルキューレ」のドイツ語オペラを以前日本で見たが、ストーリーの根幹には北欧神話が関わっていた、ということを思い出した。

  • 入国審査、そして市内へ

 さて、この旅行で利用した空港はロンドン・スタンステッド空港とオスロ・ガーデモエン空港であった。お昼ごろに出発し到着は夕方。オスロで飛行機から降りた後に並ぶ入国審査の列はEUとEU圏外のパスポート所持者の2つに分かれているため、ここでは友人といちど別れて出口で落ち合うことにした(EU圏外パスポートの列は長く、時間がかかっているようだった)。

 入国審査の際には思ったよりも細かく目的や予定を聞かれた。例えば観光が目的で来たのだと答えれば、具体的にどのエリアへと足を運ぶのか、そこに何があるのか知っているかどうかなど。加えて英国のBRPカードを所持していたので、現在私がイギリスに滞在している留学生というステータスであるということも再度確認された(どの都市で学んでいるのか、専攻は何かなど)が、やはり学生を装って入国し、勝手に現地で就労したり、国の財源を当てにしたりしている人間に対しては近年とくに敏感になっているのだと感じる。

 空港から市内へ出る際の電車は2種類あるので、自分の都合に合うほうを事前に調べて利用するのが良い。中央駅はOslo S(Oslo Sentralstasjonの略)と電光掲示板に表記されているのでそこで降りる。

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 駅の外観はこのような感じだ。野外彫刻作品がぽつぽつと周囲に置かれている。

 近くのビルにはショッピングセンターが入っていたり、またØstbanehallenというフードコートも付随したりしている。オスロ・パスの購入ができる観光案内所はそこを通り抜けて階段かエスカレーターを降りたところだ。ちなみにここよりも少し北のグリューネルロッカ地区にもMathallenというマーケットのような場所があり、食べる物に困ったら行ってみようかとも考えていた。

Mathallen Oslo:Mathallenoslo.no

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フードコート

 ところでここにも、イギリスでもときおり見かけるYo! Sushi(ふざけた名前だと思うが、その名のとおりにお寿司を扱うチェーンのお店である)が入っていたけれど、どこの国に滞在しているにせよ、試してみる気にはあまりなれない。ちなみにYo!活と表記されている店舗をロンドンやカンタベリーで見かけたのだが、暗号だろうか?一体何を意味しているのだろう。真相については深い闇の中である。

 そしてこれを見ても分かるように、私と同じようなことを感じている人は他にもしっかりと存在しているようで、安心した。

  • MENY(スーパーマーケット)

 ひとまずは荷物を置くためにホステルへと向かったが、その時点で私も友人も非常にお腹が空いておりまるで亡者のような状態だった。前述したように外食の値段が驚くほど高いので、私達は「レストランやカフェなどに立ち寄るのは1日のうち1回のみ」という規定を設けることにし、そのほかの食事はスーパーやコンビニで購入したもの(それでも高い)を部屋や公園でいただいていた。

 項のタイトルにあるMENYというのはノルウェーにある大手のスーパーマーケットのうちのひとつだ。他にもREMA1000やKIWIといったような名前のものがあり、値段や品ぞろえがそれぞれに異なっている。

 今回訪れたのはホステルから近い、中央駅横のショッピングセンターOslo Cityの内部にある店舗だった。

 このスーパーマーケットの紹介記事(2014年に書かれたものだが)を事前に読んでいったが、棚に記載してある"Tilbud"が、そこに置いてある商品が割引されているということを意味しているという事実を知ることができて良かった。見切り品や割引の品は素晴らしい。

 それでは、実際に現地のスーパーで購入し食べたものの中から、特に現地でしか手に入りにくいもののうちいくつかを掲載しておく。

①チーズ(オスト)各種

 私はノルウェーの、あの茶色のかったチーズというものに並々ならぬ興味をずっと抱いており、今回の旅行でやっと実際に食すことができた。大好きな味だった。説明するのが難しいが、ウェブ上に散見される感想の中には「塩キャラメル」に例えられたものが多く、見た時は納得した。本当にそんな風味がするのだ。

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スライスされたものが1枚ずつ入っている

 これらは主に乳と乳清、クリームなどを煮詰めて造られ、種類によって違う名前が付けられている。最もおいしいと感じたのは上の写真のチーズで、山羊と牛のミルクを混ぜ合わせてできる、Gudbrandsdalsost(グッドブランズダルゾスト)というもの。山羊の乳のみではどうしても強くなってしまうクセのある香りが少なく、パンに乗せて口に運ぶ手が止まらなくなる。料理の隠し味にも使えそう。

  イギリスでもぜひこれを味わいたいのだが、どうやらウェイトローズやアマゾンで取り扱われているようだ。いまは真剣に購入を検討している。

②レフセ

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  レフセというのはノルウェーの伝統的な薄いパンのことを指すようで、このようなお菓子に使われているものだけではなく、実に多様な料理のバリエーションが存在している。スーパーではぱっと目に付いたものを購入してみた。

 お菓子のレフセは実際にはコーヒーなどのお供として食されることが多いらしく、使われている砂糖の量も多くかなり甘い。ふわふわの生地とバタークリーム、シナモンとわずかなチーズは、ふと思い出したときにどうしても食べたくなる魔の組み合わせだ。日常的に食べていたらきっと太ってしまう。休日に部屋の掃除を終えたあとなど、一息つく際に欲しい一品。現に、たった今食べたい。

③トマト&バジルのサバ缶

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 私はサバ缶が好きだ。ここロンドンでも月に1度はサバ缶を購入し食べている。そしてこのようなトマトとバジルのスープに漬かったサバ缶は英国でも簡単に手に入るが、個人的にはこちらのものの方が味に深みを感じられた。

 現地でも人気かつ定番の食べ物らしく、私達がスーパーに滞在していた短い時間の中にも、人々がこれらを手に取っていくのを確認することができた。下の記事では他の種類(キャノーラ油+胡椒味のものにかなり惹かれる)に加えて、売り場を埋め尽くすこの黄色いサバ缶の様子が紹介されている。お昼ご飯として学校や職場に持ってくる人もいるとのこと。

 上記の商品のうちチーズとレフセを手荷物に入れてイギリスへと持って帰り、少しずつ消費した。ノルウェーのスーパーにはぜひまた足を運びたい。また朝食として、軽くお腹を満たすためにジャム付きのライスプティングを買っていたが、こちらもおすすめ。

  •  現代的なオペラハウスの建築

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 中央駅からそう遠くなく、徒歩5分から10分ほどの距離にそれはある。 

 2007年に施工が完了しその翌年に開かれたこのオペラハウスは、オーストラリア・シドニーのオペラハウスに倣い、オスロの新しい文化と芸術のシンボルとなることを目的として建てられたのだという。白い大理石で覆われた外観とガラスの青が与える鋭利な印象と、内部の木の壁が醸し出す暖かみの組み合わせが何とも言えない居心地の良さを演出していた。

 私達が散歩の途中でここに立ち寄ったように、観劇を目的としなくても、例えば晴れた日などに屋上へと足を運び、広がる海を眺める行為をするためだけでも十分に訪れる価値がある。個人的にこの建物はとても好きだった。使われている直線や角ばった形の組み合わせも、鑑賞する側の目を退屈させない。

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木が使われた内部

 付近の海上に設置されているのはShe Liesという彫刻作品で、イタリアのアーティストであるモニカ・ボンヴィチーニの手によるものだ。

 天候や時間によってその光が異なるように反射し、それ自身が動くことのない静かな佇まいのなかにも確かに息づく、恒久的な変化の存在をこちらに示唆してくるという。私が見ていたときは引き潮だったので、透明な板たちが設置されている土台の部分も垣間見ることができた。

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 まるで海に浮かぶ氷山の一角のようなその形状は、ドイツの画家カスパル・ダーヴィト・フリードリヒの絵画作品である「氷の海」に着想を得たのだとボンヴィチーニは語っている。彫刻の持つ形状やコンセプトがオペラハウスの建築自体と呼応し、互いに興味深い関係をこの環境(フィヨルド、氷河によって形成された入り江)のなかで作り上げていると思った。ちなみに彫刻作品の背景に写っている船はデンマークのフェリー会社DFDSのもので、イギリスにも発着する便がいくつかある。

 ここでこの日の夜ご飯のために足を運んだレストランを紹介する。

Louise Restaurant & Bar

 海の真向かいに建っているノーベル平和センターの付近にあった、シーフードを主に取り扱うレストラン。夕刻のテラス席に腰かけて、沈みゆく太陽を横目に見ながらグラスを傾け、街の風を感じたのは本当に贅沢な思い出になった。近くの花壇に植えられたパンジーがそっと静かに揺れていた。

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 このとき注文したのはムール貝とロブスターで、2人で分けた。思えば新鮮な海産物、と呼べるようなものを食べたのはずいぶんと昔のことであるような気もする。普段の生活の中では、安さを重視すると冷凍食品や缶スープの割合が多くなりがちだ。

 私は節約のためにやめておいたが友人はこれらに加えてオイスターを所望していた。そのきらめく貝殻と艶のある牡蠣の中身にソースのようなものをかけ、至福の表情ですする彼女を、私はただ目の前でじっと見ていた。本当に本当においしそうだった。

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あまりにも贅沢な食事

 ホステルに帰った後は早々に眠りにつき次の日へと備えた。部屋のシャワーが本当に使いにくかった(やたらと長さの短いカーテンのみが仕切りとして存在しており、細心の注意を払っても、使った後にトイレを含むバスルーム全体が水浸しになる仕様だった)が、数日の辛抱なのであまり気にしないことに決めた。

  • オスロ大聖堂 (Oslo Domkirke)

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 中央駅から徒歩すぐの場所にあるこの大聖堂は、もともと17世紀後半に建てられたものだ。

 かつてのデンマーク=ノルウェー王クリスチャン4世は1624年に起きた3日間に及ぶ大火事の後、今よりも東の方角にあったこの都市の拠点を現在の位置へ動かすことを決定したのだが、その際に古い大聖堂(St. Hallverd's Cathedral)はそこに残され廃墟となった。加えて新しく建てられたものも50年と経たず焼けてしまい、今残っているオスロ大聖堂は街の中で3番目に建造されたものだということになる。

 ちなみに当時のオスロは彼の名にちなみ、その治世の間は"クリスチャニア"という名前で呼ばれていた。またアーケシュフース城のある位置に街を近づけることでより強固な防衛ができると考えたのが、このクリスチャン4世がオスロを移動し建て直した主な理由であるのだという。

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パイプオルガンと天井の模様

 内部の撮影は許可されている。

 青と金を基調とした内装は聖母マリアのシンボルと同時に、どこか海辺のこの街らしさも表現されているという気がした。空気の色や匂い、形、例えばそのようなものが。そのときは訪れている人も少なく、発する音全てが天井へと真っ直ぐに吸い込まれていってしまうかのような感覚をふと味わった。

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 席に座って足を休めていると、教会内でピアノのソロ演奏が始まった。その様子を比較的間近で見ることができたのだが、演奏自体もさることながら、ピアニストの表情や仕草が魅力的だった。柔らかな微笑みを浮かべながら指先で鍵盤を弾くその様子に、音楽に血が通う瞬間を目撃しているかのような気分に浸っていた。

 このオスロ大聖堂の横にはその名前を拝借したレストランがある。

Cafe Cathedral

 晴天の続いたこの旅行中、私達はすっかり「屋外テラス席」の虜になってしまっていた。

 渡航前からうわさに聞いていた、トナカイの肉を使ったノルウェー料理の存在。子供向けの絵本の中で、サンタクロースのよき相棒として働いている赤い鼻の彼らの姿を丁寧に思考の隅に押しやりつつ、好奇心のまま注文をしてみた。

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 まずはサーモンとクリームチーズの前菜。香草のようなものが練り込まれていた。

 そして友人と相談して決めたメインの料理はトナカイのシチューと、もうひとつはその肉が乗ったピザのようなもの。風を感じられる外に座っているとはいえ、当時の20度を超える気温の中、何を血迷ったのか温かい(熱い)コーヒーを注文してしまったのは他でもない私だ。ご飯どきではなかったので空いており、特に待つことも無く料理は運ばれてきたし、雰囲気がゆったりしていてよかった。陽が落ちてくるとまた違った感じになるのではと思う。

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 料理には赤い色のペーストが付属してきたが、このコケモモのジャムは、多くの場合トナカイの肉に添えられるものなのだという。調べた中ではミートボールの乗ったお皿の隅にジャムが置かれているのもあった。半信半疑でお肉とともに口に運んでみたのだが、確かにそれぞれの風味が絶妙に組み合わさって美味だった。

 量もかなり多く満足したけれど、かのロンドンと比べても外食の値段が数割増しになるというのは恐ろしく、観光でもなければ積極的に外食をしようという気分には到底なれないだろうと思う。

 どこの国を訪れても、今回のような短期の滞在はその土地の大まかな雰囲気と良い部分を効率よく摂取できる素晴らしい経験だと思う。そして同時に、暮らしてみると分かる困難や理不尽、あるいは隠された美点などを発見できるというのはある程度長い期間そこに住んでみた人間の苦悩でもあり特権でもある。旅行は好きだが、できることならばいろいろな場所で、「生活」と呼べるような滞在をしてみたい。

 席からは宮殿へと真っ直ぐに続く大通りの端を観察することができ、まるでオックスフォード・ストリートの縮小版を見ているような気持ちになった。ここにもいろいろな種類のお店が並んでいる。

  • オスロ市庁舎 (Rådhuset) 

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港より

 この日はムンク美術館に立ち寄ってから、市庁舎(シティホール)の壁画を覗いてみることにしていた。お昼はお金をあまり使わないようにするため、付近のコンビニで買った40NOKほどの味の薄いピザパンを2人でかじることに。夜にレストランで美味しいご飯を食べるためなら背に腹はかえられない。しかし海沿いの都市の片隅にひらけた公園のベンチで、のんびりと過ごしながら食べるそのパンはとてもよいもののように感じられた。

 食べ物自体だけでなく、それを楽しむことのできる環境は大切だ。

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 ノーベル賞という言葉を聞いて、人々の頭に浮かぶものはどの部門だろうか。化学、物理学、文学……そのなかでもノーベル平和賞は、このオスロ市庁舎で受賞式の行われる唯一の賞となっている。その他すべての部門の式典はストックホルム・コンサートホールにて開催されるが、こちらの方が日本のテレビで報道されることも多く、一般の人にもなじみのある光景だと思う。

 茶色いレンガの外壁、規則正しく並ぶ窓、そこに配置されている時計や像の位置などが洗練されていると感じる。とても格好いい。東側の塔は時計と連動する49個のカリヨン(音楽を奏でることのできる鐘)を備えており、1時間ごとに稼働してする。

 市庁舎は海に面した正面の側からだけではなく、反対側からもこの建物を眺めると、そこはまた違った雰囲気を持っているのだということに気付いた。設置されている時計も時刻を示すものではなく天文時計に変わる。ちなみにクリスチャン4世の時代に建てられた古い市庁舎は、紆余曲折を経た後、いまではレストランに改装されているそうだ。

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壁画「働き楽しむ人々」

 開放的な大広間の壁一面にはノルウェーの画家ヘンリク・ソーレンセンが描いた油彩画が設置されており、彩度を抑えた色の組み合わせが施設に厳かな印象を添えていた。内装も含めて本当に美しい近代建築なので、ツアーやイベントがないときでもいろいろな人に足を運んでほしいと感じる場所だ。

オスロ市庁舎:Oslo City Hall - Politics and administration

 この市庁舎の裏から伸びる通りを直進すると、その左手にナショナル・ギャラリーが見えてくる。その付近は小さなレストランがあり、旅の最後を飾る晩餐をここでいただいた。

Elias mat & sånt

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 無料で提供されるパンにはガーリックの風味があり、練り込まれている葉っぱのようなものも含めて柔らかくしっとりとしており食べやすかった。バターによく合う。日常的に食べたいのでこのパンをスーパーで販売してほしいとも思った。タラの一種であるポロックを注文し、それを待つ間にりんごジュースをちびちびと飲んでいた。

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 出されたお皿には、ふんわりとした魚の白身を埋めるようにしてじゃが芋、ニンジン、そして甘辛く煮られた玉ねぎが白いソースの中に所狭しと並んでいた。全体的に至って素朴な感じなのだけれど、特にじゃが芋の柔らかさとほんのりとした甘みに、まるで胃袋が安心しているかのような感覚をおぼえる。また寒い冬が巡ってきたら、暖かい魚料理を家で静かに楽しむのもいいと思った。レストラン自体が小さく家庭的な雰囲気であるのも影響していたのかもしれない。

 このときは旅行最終日、そしてひとつの年度の終わりということもあり、私と友人の「今後の人生をどうするか」という談義に咲く暗い色の花が満開になった。それゆえにこやかに食事を楽しむことができたものの、気分は完全に葬式だった。もちろん自分自身のだ。やがてあらゆることがうまく回り始めた暁には、またおいしい魚を食べに来たい。

 そもそもこれを書いているという時点で私はなんとか1年間生き永らえることができているということになるので、それに関してだけは自分を褒めている。

  • 飛行機

 往路と復路、いずれも航空会社はアイルランド発、今ではヨーロッパの大手LCCとなっているライアンエアーを利用した。基本料金は格安だが、別途で荷物を預けると航空券自体よりも高い金額を払うことになるので、私は5日分の着替えを中サイズのバッグに圧縮に圧縮を重ねて詰め機内持ち込みとした。これは無料だ。おおよそ2時間という短さのフライトであったので座席の座り心地などに関する記憶は少ない。

 出発は定刻、帰りの便は1時間ほど遅れたが、帰国の日に予定を入れるようなことは特にしていなかったので支障は無かった。しかし早朝のフライトだということもあってか、空港で待機している際にはだいぶ疲れてぐったりとしていたのを覚えている。

 ライアンエアーを利用する際には幾つか注意すべきことがあるが、特に前述した手荷物の件に加え、航空券の印刷を忘れないようにしたい。さもなくば高額の追加料金を払うことになる。なぜこんなことをわざわざ書いておくのかといえば、このときは他でもない私が帰国便のチケット印刷を忘れ、空港へ向かう直前にプリントし難を逃れるという間一髪の経験をしたからだ。

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花市場

 オスロ中央駅にあるネットカフェにはパソコンに加えて印刷機があるので、いざという時はそこへ行くと良いと思う。英語も通じる。私が行ったとき、スタッフの方はこちらの質問に丁寧に答えてくれた。

 そうして、私達は見慣れた(という感覚を持てるのは素直に嬉しい)ロンドンの地をまた無事に踏むことができたのであった。充実していた。

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 これが今から約1年とひと月前のできごとであり、時間が経つのは本当に早い。今年も学業や生活、人間と社会の面でうまくいかないことが実に多かったけれど、引き続きこつこつとやっていくつもりだ。途中でやめたくなっても、自分の本当の望みはそれを続けることであると心の底で感じるので。