マダニ感染症対策に朗報 天敵生物を発見
2018年06月06日
マダニの天敵として見つかったオオヤドリカニムシ(森林総合研究所提供)
森林総合研究所は5日、人の感染症の原因となるマダニを捕食する天敵生物を発見したと発表した。天敵は、野生のネズミなどと共生しているオオヤドリカニムシで、マダニをはさみで捕まえ、体液を吸って殺す。山間部の農地や果樹園で同天敵がいればマダニの感染症被害を少なくできる可能性があるとみて、生息しやすい環境を調べる。
同天敵は、カニムシの一種で、サソリのように大きいはさみを持つのが特徴。体長約5ミリ。ネズミなど小型動物の巣に住み、ネズミに付着して移動する。
同研究所は、森林のネズミの巣などから同天敵を30匹以上採取して、生態や捕食性を調べた。餌はコナダニを好んで食べたが、マダニの幼虫(体長1ミリ)、成虫(同4ミリ)を食べることが分かった。捕食率は、幼虫が100%で、成虫が約80%。体長がほぼ同じマダニ成虫でも捕食する。
同研究所は、生物農薬や感染症予防としての利用よりも「生息しやすい環境を明らかにすれば、農家の心配を減らせる」(生物多様性研究拠点)と期待。野外の生態を詳しく調べる。
同天敵は、カニムシの一種で、サソリのように大きいはさみを持つのが特徴。体長約5ミリ。ネズミなど小型動物の巣に住み、ネズミに付着して移動する。
同研究所は、森林のネズミの巣などから同天敵を30匹以上採取して、生態や捕食性を調べた。餌はコナダニを好んで食べたが、マダニの幼虫(体長1ミリ)、成虫(同4ミリ)を食べることが分かった。捕食率は、幼虫が100%で、成虫が約80%。体長がほぼ同じマダニ成虫でも捕食する。
同研究所は、生物農薬や感染症予防としての利用よりも「生息しやすい環境を明らかにすれば、農家の心配を減らせる」(生物多様性研究拠点)と期待。野外の生態を詳しく調べる。
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農泊より手軽な茶会 地域伝える縁側カフェ 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
静岡市内から車で1時間半、藁科川上流の山あいにある大川地区大間集落は、「縁側カフェ」発祥の地です。正式には「縁側お茶カフェ」と呼ばれ、農家の縁側で自前のお茶と手作りのお茶請けでもてなすサービスで、料金は300円。開催される第一、三日曜には遠方から何十組ものお客さんが訪れます。
きっかけは2008年、地域の女性たちで1991年から運営していた直売所が、過疎や高齢化で続けられなくなったとき、それならば個々の縁側を店にしようと集落の全民家5軒で始まりました。そのうちの1軒が発案者でもある静岡大学名誉教授の小桜義明さん(73)。調査で通ううち、この地に引かれて移住した地域政策の専門家です。
そもそも日本家屋の縁側は、外部と内部とをつなぐコミュニティーの緩衝スペースの機能を持っています。茶飲み話をし、畑の野菜やお茶を並べれば、憩いの場は地域のアンテナショップになるというわけです。
最初に訪ねた中村敏明さん(59)の縁側では、ふかしたサツマイモ、干しシイタケやダイコンの煮物、漬物の3品が豪華に並びました。
さらに驚いたのは、煎茶のお点前! 茶葉の上に氷を置き、冷水をほんの数十ミリリットル注ぐと、じんわり氷が溶けだす“氷出し茶”です。待つこと10分、ぐいのみに注がれた透明感のある一煎目をいただくと、緑茶とは思えないうま味に思わず声を上げました。高級な緑茶は低温で出すとアミノ酸が際立ちますが、お茶というより、うまみを抽出したエキスなのです。
縁側カフェはハシゴが定番で、一軒一軒もてなしが違います。93歳の増子さんが畑で摘んだグリーンピース、あやめさんのきな粉おはぎ、さらに栃沢集落の山水園では、毛せんを敷いたお茶席が用意され、まるで京都の古刹へ迷い込んだような格調あるお茶会を堪能しました。
品評会でも優秀な成績を収める大川地区は、静岡の茶祖・聖一国師生誕の地という歴史を誇ります。鎌倉時代から継承されたお茶栽培の技は別格で、茶葉の品質はもちろん、お茶のいれ方の工夫とこだわりに、洗練された文化の高さを感じました。
どの農村にも風土に根ざした農産物と、それにまつわる文化があります。これらを生かす振興策として農泊がありますが、縁側カフェは、より気軽に人々を呼び込むことができそうです。何しろ仏間の片付けも布団もいりません。座布団を縁側に並べれば、さあ店開きです。
2018年06月05日
そんな子に育てた覚えはない
そんな子に育てた覚えはない。心中、煮え返る思いだったに違いない。公文書管理法の「生みの親」、福田康夫元首相が先週、公の場で重い口を開いた▼中央官庁を舞台にした公文書の隠蔽、改ざん、廃棄。福田さんは、法律作成時には考えてもいなかった事態だと渋面を作った。国民と国会を欺いても罪に問われず、政治責任も曖昧なまま。「職員が1人命を断っているんですよ」。元首相は語気を強めた▼その財務省で関係者が処分され、政府・与党は幕引きに躍起である。福田さんは言う。「記録を残すことは、日本の歴史を積み上げること。一つ一つの公文書は、石垣の石と同じ。ちゃんとした石、正確な文書でないと、日本の歴史は形づくれない」。いま民主主義の土台である石垣が、ぐらついている▼公文書の在り方を巡っては、もう一つの「9条」問題が提起されている。公文書管理の専門職である沖縄県公文書館の仲本和彦さんは、同法9条に着目する。行政文書に何か問題があれば、首相権限で報告や調査を命じることができる規定だが、安倍首相はこちらの「9条」には至って冷淡である▼「歴史を学ばない者は、歴史を繰り返す」という。ちなみに同法の「生みの親」は福田さんだが、成立時の首相は麻生財務相、その人である。
2018年06月05日
准組事業利用額で農水省 来年5月に調査結果
農水省は、JAの准組合員の事業利用規制の在り方に関する実態調査の概要を明らかにした。全JAについて、2018事業年度から信用、共済、購買の各事業の利用額を正・准組合員別に把握し、来年5月ごろに調査結果をまとめる。19事業年度も調査する方針。政府の規制改革推進会議は、准組合員への規制の導入検討へ調査結果を早急に示すよう求めているが、改正農協法に基づく検討の開始は21年4月以降。JAが地域で果たす生活インフラの役割も十分に踏まえるなど、慎重な議論が不可欠になる。
2018年06月03日
貯蔵かんきつ「清見」 5割高 長期販売好調 愛媛・JAにしうわ三崎共選
愛媛県のJAにしうわ三崎共選が取り組む中晩かん「清見」の長期販売が好調だ。近年、6、7月の1キロ価格は600円を超え、通常出荷の3~5月のほぼ5割高。夏の中元ギフト需要を狙い、今年度から地元スーパーなどでも取り扱いが始まった。小売店が輸入果実を主体に売り場を展開する時期に、県産かんきつを売り込む。
「清見」は、同JAが全国屈指の年間約2000トンを出荷する。同県の果樹研究センターみかん研究所などが長期販売の方法を開発。カワラヨモギの成分を含む鮮度保持剤「シトラスキープ」と、青果物の呼吸を抑える包装材「Pプラス」を使う技術で、6、7月まで出荷が可能になった。
6、7月出荷の「清見」はマルチ被覆などを条件に、特に高品質な果実の収穫が見込める、管内12の特選園のものに限る。3月の収穫期に、手作業で「清見」にシトラスキープを塗り、他の低温貯蔵分の果実と共に三崎共選の冷蔵施設に収容、室温を5度に保って保存する。これまでの試験では、長期貯蔵中のロス率は2~5%。
引き合いは強い。松山市に本社を置くスーパーのフジは、今年から夏用ギフトに200ケース(L級15玉、2L級12玉入り)を4980円(税別)で販売。昨年6月の試食販売では、2日間で約10万円を売り上げ、果実全体の約15%を占めた。国産かんきつが少ない時期の販売が消費者の購買意欲を刺激したと分析する。バイヤーは「愛媛県ならではの商材として需要はある」と期待を寄せる。
三崎共選は市場と申し合わせ、毎年1キロ600円前後の価格を維持する。今年産は量が少ないため、6月までの出荷になる見込みだ。自身も16アールの特選園で出荷する増川榮男共選長は「他果実が少ない時期に、国産を求める消費者ニーズは根強い」と話す。
2018年06月06日
[達人列伝 51] ブロッコリー 鳥取県大山町・齋藤伸一さん(65) 品質求め産地けん引 生でも食べられると評判
鳥取県西部の名峰・大山の山麓周辺は、西日本有数のブロッコリー産地だ。リーダー的存在として産地を引っ張るのが、鳥取西部農協大山ブロッコリー部会副部会長の齋藤伸一さん(65)。苦味やえぐ味が少なく、生でも食べられると評判のブランド「きらきらみどり」の栽培体系を仲間と確立した。栽培技術も高く、秀品率は8割以上を誇る。
「大山ブロッコリー」は、米の転作作物として大山町で1969年に栽培が始まった。80年代後半から90年代前半にかけて「西日本一の産地」と評されるまで生産が拡大したが、根こぶ病の多発や円高による輸入増加で減少の一途をたどった。
起死回生の策が、葉付き出荷だった。収穫時間は1・5倍かかるが、鮮度の良さが伝わり、外国産との差別化に成功した。収穫時期に合わせて15品種ほどを栽培。より良い品種を探すため、毎年試験栽培をしている。
齋藤さんは農業を始めて27年。15年前からブロッコリーを手掛け、栽培開始の翌年から部会役員も務めている。部会員に新たな栽培方法を広める役目を担う運営委員の一員として、毎年新品種の試験などに尽力してきた。
部会では2011年から、秋冬取りで化学肥料を通常栽培より7割減らした新ブランド「きらきらみどり」の販売を始めた。有機肥料主体の施用で、苦味やえぐ味の元になる硝酸態窒素の含有量を減らした。そのままで甘く、生でもおいしく食べられるブロッコリーを目指した。
「きらきらみどり」の試験栽培に取り組んだ齋藤さんだったが、3年ほどは失敗の繰り返しだった。
全く収穫できないこともあったが「うまくいけばえぐ味がなくなり、生でも食べられる。おいしいのは間違いない」と諦めなかった。苦労の末に効果的な肥料の種類、施肥のタイミングの組み合わせを見つけ出し、栽培体系を確立した。
齋藤さんが経営する法人では、従業員に収穫の際の足運びまで細かく指導。作業は午前5時から短時間で済ませ、収穫したものはコンテナに入れてそのまま箱詰め作業に移行。人が触れる回数を極力減らすことで、品質を最良に保つよう心掛けている。
その品質は折り紙つき。秀品率は部会平均が7割前後のところ、8割以上。支部ごとの表彰の“常連”だ。「さらに良いものを消費者に届けたい。大山ブロッコリーを名指しで買ってもらえたらうれしい」と、今後も産地の発展に力を尽くす考えだ。(柳沼志帆)
経営メモ
初夏取りを4・5ヘクタール、秋冬取りを10ヘクタールで栽培。5年前に法人化し、従業員5人を雇う。就農希望者や研修生を積極的に受け入れ、後進の育成にも力を入れる。
私のこだわり
「毎日食べても飽きのこないブロッコリーを作りたい」
2018年06月04日
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2018年06月06日
自伐型林業 持続的収入、初期投資低く、環境守る
移住者や若者が他人の山を借りて伐採や搬出を自ら行う「自伐型林業」が全国の中山間地に広がっている。持続的に森から収入を得ることができ、初期投資も低いとして、実践者は全国で推定2000人。環境を守りながら小さな規模で稼げ、若者の価値観に合った新たな働き方だ。定住政策に据える山村の自治体も40に増えている。(尾原浩子)
若者 価値観にぴたり
高知県佐川町の森林。間伐を終え、樹齢50年を超えた木が立ち並ぶこの山を滝川景伍さん(34)が誇らしげに見渡す。
「10年後にまた間伐する。木の価値はさらに高まって収入にもなる」と見据える滝川さん。多少の土砂災害でも崩れないよう緻密な計算をした作業道は、先輩林業者に教わって造った。長期的な視点で経営する林業は、目先の結果だけを追求しがちな今の時代の対極にあるように思え「僕に合っている」と言う。
京都市出身の滝川さんは4年前に地域おこし協力隊として同町に移住した。協力隊を卒業した現在は、地域の人から委託された森林の伐採管理を請け負う。月収は30万円弱。木材の売り上げの10%は山主に返している。
妻と共稼ぎで2人の子育てをし、山に向かう日数は月15日程度。長時間労働が当たり前だった20代の会社員の頃に比べ、ゆとりある暮らしを送っている手応えがある。
滝川さんは「やり方次第で見向きもされなかった山がきれいになり、何世代もが稼げて、地域の人にも喜ばれる。中山間地が盛り上がる」と自伐型林業の魅力を話す。
5年前から自伐型林業を町政の柱の一つに据える同町は、専任担当部署を設置するなど林業の担い手育成に力を入れる。これまでは森林所有者が業者などに委託して伐採や植樹する以外、山を自ら管理する人はほとんどおらず、森林は荒れ放題だった。同町によると、ここ5年で若者定住の道筋ができ、住民の山への目線も変わってきた。
滝川さんら協力隊員を卒業した5人が定住した他、森林を所有する住民4人が新たに林業を始めた。現在、自伐型林業を学ぶ地域おこし協力隊は8人だ。小型のチェーンソーなどは町が貸与し、同町は林業で生計が立てやすい。元病院経営者で、兵庫県姫路市から移住し林業を目指す入江健次郎さん(50)は「最小限の機械で木を自ら切り搬出する自伐型林業。農山村の価値と山づくりの奥深さを知った」と話す。
中山間地で拡大じわり
NPO法人・自伐型林業推進協会によると、高知県内で300人が実践するなど、ここ数年で自伐型林業の担い手が増加している。新たに挑戦する7、8割が若者で、そのうち半数以上が移住者だという。
北海道旭川市の清水省吾さん(31)は1年前から4ヘクタールの自伐型林業を営む。林業や森のガイド、庭の木の伐採などで生計を立てる。収入は会社員時代とほぼ同じで、自由な時間が増えた。「木材の質を高める小さな規模の林業を目指したい。生き物を守りながらの山づくりに共感する仲間がいて、わくわくする」と実感。岐阜県恵那市で40ヘクタールの山を委託契約で管理する三宅大輔さん(40)は「山をより良い状態にして次の世代に渡す仕事は気持ちが良い。数十年後の山の姿を想像しながら木を切っている」と明るい。
同協会によると、佐川町のように、自伐型林業を学ぶ地域おこし協力隊の募集や研修を始める自治体など、36市町村4県が自伐型林業推進のための予算を持つ。ここ2年で、自主的なグループも全国に20程度立ち上がっているという。
同協会の中嶋健造代表は「採算性と環境保全を両立する自伐型林業は、自立した生き方を希望する若者の新しい価値観に合う。低コストで参入障壁が低く、中山間地の再生につながる」と利点を指摘している。
<ことば> 自伐型林業
採算性と環境保全を両立する持続的森林経営。自伐型林業推進協会によると、山林所有者が自ら森林の整備を行う「自伐林業」に対し、若者や移住者らが山を借りて伐採や搬出を担うことを「自伐型林業」という。
2018年06月06日
ため池廃止相次ぐ 老朽化進行 管理者減少 安全優先「苦渋の決断」 瀬戸内沿岸7府県
全国のため池の6割が集中する瀬戸内沿岸地域(7府県)で、老朽化や管理者の減少を受け、ため池の廃止が相次いでいる。多い県で過去5年間に40カ所以上、他の県でも30カ所前後で、埋め立てや堤の切開工事を実施。集中豪雨などで、ため池が決壊するといった被害を防止するためだ。一方で、ため池の廃止は農業基盤の弱体化につながる。生活の安全と営農継続との間で農家が苦渋の決断を迫られている。(橋本陽平)
5月中旬、山口県光市の蔽田ため池に、県や市の職員が点検に訪れた。同行した農家に、2019年度から堤の切開工事を始める方向で検討を進めている旨を伝えた。
大正時代に築造されたため池は、堤の高さ11・3メートル、長さ58メートル、貯水量9100立方メートル。受益面積は2・1ヘクタールある。傾斜が40度もある堤の草刈り、取水施設や周辺の道の手入れなど、農家が丁寧に管理してきた。
半世紀前に25件だった受益農家は4件に減り、必要水量は減少。一方、下流では宅地化が進んでいた。近年はイノシシによる被害も増加。ミミズを食べようと堤に生えた草を根ごと掘り返し、水が漏れる箇所もあった。
農家の大木良明さん(69)は「廃止を望む住民の声が強かった。安全な間に役目を終えることは大切だ」としながらも、「われわれ農家が心を折るしかなかった」と無念さをにじませる。
山口県周南農林水産事務所は「資産を安全な形で後世に残す意味でも、重要な決断。農業と安全をてんびんに掛け、苦渋の決断だったと思う」とおもんばかる。
農水省によると、16年度までの10年間で、豪雨や地震によって約8800件のため池が被災した。住民の命や財産に危険が及ばないよう、廃止という選択肢も増えている。13~17年度の5年間で山口県では45件、広島県では約30件、兵庫県では26件で工事を実施。統計がない府県でも、老朽化や管理者の不足、宅地化などに伴って廃止する例が多く確認されている。
一方、営農継続を望む農家の声は軽視できない。ため池の保全に関する条例を制定し、半世紀にわたって計画的な整備を進めている香川県は、「基本的には保存を最優先する。やむなく廃止する場合も、周辺の池と統合するなどして水源を確保する」(土地改良課)と、受益者の利便性に配慮した対応を取る必要性を強調する。
集中豪雨や地震など自然災害は頻発している。ため池の管理・保全をどうするのか。全国的な課題となっている。
2018年06月04日
「飯舘牛」復活 必ずかなえる 放牧実証実験スタート 営農再開のリーダーに 福島県飯舘村・山田猛史さん
東京電力福島第1原子力発電所事故後、初めて繁殖牛の一般放牧が始まった福島県飯舘村に、「飯舘牛」ブランドの復活を願う畜産農家がいる。同村の繁殖牛農家、山田猛史さん(69)だ。「福島産牛の安全・安心をアピールしたい」と、県による牧草地での一般放牧の実証実験に協力。山田さんの思いに刺激を受け、村内で花きを中心に営農を再開する農家も出始めている。(川崎学)
原発事故から7年が経過した牧草地で、牛がおいしそうに牧草を食べている。山田さんは笑みを浮かべて牛の顔をなでた。
県畜産研究所は5月23日、村内で一般放牧の実証実験を始めた。山田さんが所有する繁殖牛6頭を同村松塚地区の地元農家らが管理する牧草地に放牧した。牧草地は約2ヘクタール。傾斜地約1ヘクタールと平地約1ヘクタールに各3頭を放す。
飯舘村では原発事故前まで繁殖・肥育農家約230戸が和牛2400頭を飼育していた。村内で肥育したA4、A5ランクの牛を「飯舘牛」として出荷。しかし、原発事故で村は計画的避難区域に指定され、全村避難が行われた。多くの畜産農家は廃業し、村から放牧の風景が消えた。
山田さんは原発事故前まで繁殖牛を29頭飼養。三男の豊さん(35)を後継者にし、いずれは繁殖と肥育両方に取り組むことを考えていた。
しかし、原発事故で営農に取り掛かる余裕はなくなった。当時区長を務めていた山田さんは、住民の意向調査などに追われた。豊さんも家族と共に京都へ避難。山田さんも震災から約4カ月後に同県中島村に避難した。
「何もしないで避難生活をしたくなかった」と営農再開への熱い思いを持ち続けた。しかし、その間にも周りの農家のほとんどが廃業した。山田さんは「自分が全ての土地を借りられるのかと言っていた冗談が現実になった」と苦笑する。
一方で「広い遊休農地を活用でき、避難中に準備できるのは畜産くらいだ」と考えた。これまで米やブロッコリーなども栽培していたが、風評被害もあり栽培は容易ではないと考えた。
山田さんは避難に合わせ、所有していた29頭のうち26頭を売りに出し、村内の廃業した繁殖農家から系統の良い牛や若い牛を20頭買った。避難先の中島村に牛舎を借りて繁殖牛を飼育し、村で畜産を再開する機会をうかがっていた。
山田さんはその後、福島市飯野町に移り、養鶏場を改造して牛舎を造った。豊さんも福島市に戻り、現在は二人三脚で畜産に取り組んでいる。現在は繁殖牛44頭、肥育用で販売するもと牛20頭を飼育する。
山田さんの動きに触発され、花きなど5戸の農家が営農を再開。2戸がニンニクなどで今後の再開を予定する。山田さんは「本当にうれしい」と喜ぶ。
安全性証明へ
飯舘村復興対策課は山田さんについて「自分で動いて地区をまとめることもできる希有(けう)な存在。山田さんの行動に触発され営農を再開している。村の営農再開のリーダー」と評価する。
山田さんは今年度中に村内に牛舎を建設し、完成させる予定だ。来年には住居も建設し、村に戻ってくる予定だという。今後は営農規模も拡大し、繁殖牛が80~100頭、肥育牛も40~50頭を飼育。繁殖牛は飯舘村、肥育牛は飯野町で飼育する計画を立てている。
しかし、福島産の牛には今も風評被害が残る。山田さんは「数字を明らかにし、消費者に安心を証明したい。村内で生まれた牛を肥育し、A4、A5ランクの飯舘牛に育てたい」と村の畜産の復活を目指す。
2018年06月01日
営農情報を一元化 畜産・畑作データ蓄積 総合支援システム 北海道・十勝農協連
北海道帯広市の十勝農協連は、「十勝地域組合員総合支援システム(TAF)」を開発した。スマートフォンやタブレット型端末から、生産者が畜産・畑作経営で必要な営農情報を一元化し、確認できるのが特徴。30年以上のデータ蓄積を活用する。乳牛の個体情報や生乳生産の状況、生産履歴の他、肥料・農薬管理状況などが閲覧でき、今後も機能を拡充する。会員24JAに普及を進め、農業経営を総合的にサポートし、所得向上を目指す。
2018年05月29日
営農型発電 収量減など支障1割 改善策が不可欠 農水省調べ
農地に支柱を立て、営農を続けながら上部空間で太陽光発電をする「営農型発電」で、この3年間で設置された775件のうち、1割に当たる81件で収量が落ちるなど営農に支障が出ていることが、農水省の調査で分かった。同省は農家所得向上に役立つとして営農型発電の普及を進めるが、営農に支障が出ないようにする改善策が欠かせないことが改めて浮き彫りになった。
太陽光パネルを農地の上に建てる場合、農地法ではパネルの支柱部分で転用許可が必要になる。再生可能エネルギーの普及拡大を受け、同省は2013年3月、支柱部分の一時転用を認める制度を始めた。転用期間を3年間に設定し、営農に問題がなければ再度許可される。担い手が使う農地や荒廃農地に限り、10年に延長される措置が今月から始まった。
実態調査の期間は、措置開始から3年間。775件が制度を活用して、太陽光パネルを設置した。設置した農地の面積は10アール以下が65%、30アール以下だと88%を占め、小規模農地での活用が進む。
都道府県を通じて実態を調査したところ、営農に支障が出たことを確認したのは81件だった。当該農地の10アール当たり収量が2割以上減ったり、生産された農産物の品質が周辺農地や過去の生産に比べて大きく落ちたりなどの報告があった。同省によると、支障が出た場合は、都道府県が農家に改善を指導してきたという。
一方、支障を確認した81件のうち、認定農業者ら担い手は5件にとどまった。若手農家や新規就農者らが制度を活用し、荒廃農地での所得向上につなげた事例もある。担い手による制度活用が進んでいる実態を踏まえ、同省は、一時転用期間の延長措置の条件を①担い手が営農する農地②荒廃農地③第2種、3種の農地――に限定している。
同制度では、設置した農地での農産物の収量などを毎年、農家が都道府県に報告する。支障が出て改善されなかったり、営農されなかったりする場合は、設備の改築・撤去を求める。支障が出る事例が増えると、制度の活用拡大に水を差しかねないだけに、同省は、チェックや改善を促すことに重点を置く考えだ。
2018年05月29日
雌子牛の第1号 ホルス×モンベリアード 北海道訓子府町
北海道訓子府町にあるホクレン農業総合研究所訓子府実証農場と、JA全農が取り組む乳牛の異種交配(クロスブリーディング)の研究で、初の雌子牛が生まれた。ホルスタイン種にフランス原産の「モンベリアード種」を交配した子牛は、顔が白くやや太めなモンベリアード種の特徴が現れた。ホルスタインと同じ飼養管理を施し、来年は別品種の精液を授精する予定。ホクレンによると、モンベリアード種の輸入精液をホルスタインに授精して誕生した子牛は国内で初めて。
2018年05月25日
レンコン DNAで品種識別 ブランド展開に期待 茨城大など
茨城大学などの研究グループは、レンコンの品種を高い精度で識別する方法を開発した。ハスのDNA配列を調べ、配列の違いを検出する「DNAマーカー」で品種を識別する。品種が区別できることで、産地や品種によるブランド展開、機能性成分の豊富な新品種の育成などが期待できる。
レンコンは、ハスの根茎部で見た目での識別が難しい。栽培中に品種が混じるなど混乱が起きやすい。そこで研究グループは、品種判別試験を開始。6種類のDNAマーカーを使って、国内で栽培されている品種のほとんどが識別できることを確認した。45品種を調べたところ、同じ品種で、別名が付いていた場合も見分けることができた。茨城県や新潟県の品種群と、西日本の品種群が別グループであることも分かった。
DNAマーカーによる識別は、設備があれば公的農業試験場などでできる。同大農学部の久保山勉教授は「レンコンは、栽培する水田で混ざりやすいため、品種を維持するには有効だ」と説明。品種を正しく増殖し、品質が保証された形で流通できれば、ブランドを守るのに役立つという。
レンコンは、ポリフェノールなど機能性成分の研究が進んでいる品目の一つ。DNAマーカーを使えば、機能性成分の豊富な品種の探索や、育種も加速できるとみる。
2018年05月20日
野菜盗難相次ぐ 被害者落胆 「栽培やめる」 宮崎県延岡市
宮崎県延岡市で、野菜の盗難が相次いでいる。収穫直前の野菜を、時期を見計らったかのように盗む手口だ。被害に遭った農家は「悔しい。苦労を踏みにじる行為で許せない」と口をそろえる。「栽培をやめる」と意欲をなくす人も出ており、野菜泥棒が地域農業の大きな問題になっている。
同市大貫町の富山重利さん(82)は11日、JA延岡の直売所「ふるさと市場」に出荷する直前だったニンニク30本以上を盗まれた。午前7時ごろに畑に行き、ニンニクがごっそりなくなっている光景にがくぜんとした。
富山さんは50アールの畑でブロッコリーやエダマメ、レタスなどを通年栽培する。以前から盗難に遭っていたが、今年に入り度重なる盗難に悩まされるようになった。
富山さんは「自転車で周辺を見回っているような不審な人物を見掛けた。近所の人たちも知っている。証拠がないので何とも言えないが」と、やるせない表情だ。
すぐに警察に相談し、「自分でも看板を設置するなど対策をしてほしい」とのアドバイスを受けた。畑の周囲にネットを張ったが、「無駄な労力と経費。今後も続くようなことがあれば、被害届を出す」と話す。
また、出荷前の野菜を何度も盗まれた同市片田町の70代の女性は「1、2個程度なら諦めもつくが、大量に持って行かれるとやる気がなくなる」と話す。軽トラックなどを使った大胆な手口という。「もう気力もなえた。栽培中の野菜もあるので年内は農業を続けるが、その後はやめようと思う」と肩を落とす。
野菜だけでなく、肥料を入れるバケツや、トラクターなどを圃場(ほじょう)に入れる際に使う農機ブリッジなどの資材を盗まれる被害もある。
2018年05月17日
定年帰農者に柿託す 自園提供し技指南 静岡県函南町山本光男さん
優良な柿園地を良い状態のまま残していこうと、ベテラン農家が自分の園地を定年帰農者らに提供し、栽培や販売の経験を積んでもらう仕組みが静岡県函南町で定着してきた。機械を使い、第一線の専業農家とほぼ同じ環境が整っているとあって、優良果樹園を守る担い手“候補生”として約10人が管理に携わる。技術を持った人員を地域につくり、園地維持につなげる狙いだ。
このベテラン農家は、農水省の「農業技術の匠(たくみ)」にも認定されている山本光男さん(83)。2001年から個人的に講座を開いたり、13、14年には静岡県東部農林事務所主催の農業塾の講師も務めるなど、人材育成に力を注いできた。
講座や塾で山本さんから指導を受けてきた定年帰農者らが、栽培や販売の経験をさらに高めようと山本さんの条件の良い園地を借り、管理作業に励んでいる。こうしたOBらは14年に「農の匠塾柿部会」を発足させた。山本さんを顧問に招き、助言を受けながら園地の一部を管理する。
定年帰農者が部会に集う理由の一つが、まとまった資金がなくても好条件の土地で、専業農家と同じ農業経営を経験できる点だ。園地は日当たりや風通しが良く、10アール当たりの木が18本程度となるよう植え付けている。部会は山本さんの農園の3分の1を担当。トラクターや高枝切りチェーンソーなどの農機具も山本さんから借りる。
収穫した柿は部会員らで販売する。半分をオーナー制度でさばき、その他をイベントや直売所で販売する。売り上げから農薬や肥料の代金を捻出している。部会員の一人、内田進さん(78)は「高い技術を学びながら本格的な農業を実践できる。ここまで任せてくれる農家は少ないのでは」と喜ぶ。
今年からはさらに3分の1に当たる70本を、塾生で柿園を持たない大橋正利さん(62)が引き受けている。大橋さんは「扱うのは、50年かけて高い技術で管理していた木。技術を学びながら将来に残したい」と意気込む。
山本さんには息子がいるが、企業勤めで定年後に就農するかは分からない。就農しない場合は塾生らが管理し、就農する場合は塾生らが技術を伝え共に柿園管理を手伝ってもらうことを考えている。山本さんは「果樹園は一度荒れると元に戻すのに時間がかかる。技術と農地を引き継ぐ人を育てていきたい」と話す。
2018年05月14日