こんにちは。ライターの神田です。
先日ホームセンターの防災用品コーナーで、オシャレなパッケージの非常食を見つけました。こちらです。
これ、本当に非常食……!?
洗練されたデザイン! 手書きフォントの温かみ!! パッケージに“防災感”がないので、防災用品コーナーの中で一際目立っていました。
こちらの商品は、非常食ブランド「IZAMESHI」の「IZAMESHI Deli」シリーズ。和食から洋食まで、9種類用意されています。
非常食ってカンパンやおかゆといったどこか無機質なものとばかり思っていたのですが、「梅と生姜のサバ味噌煮」「ヨーグルトが隠し味のスパイシーチキンカレー」など、食卓に並んでいてもおかしくない非常食もあるんですね!
でも、肝心な味はどうなの?
なんでこんなオシャレなパッケージにしたの?
どんな会社が作っているの?
いろいろ気になったので、「IZAMESHI Deli」を販売している杉田エース本社を直撃してみました!
今回お話をうかがったのは、商品開発グループの今掛里美さん。試食用に、商品をたくさん用意してくれました。食べるぞ!
なんでこんなにオシャレなパッケージなの?
さっそくなんですが、なぜパッケージをこんなにオシャレにしたんですか?
▲非常食、スプーン、皿がセットになった「イザメシキャリーボックスDeli DON」。これもやっぱりオシャレだ
今は飽食の時代で、何を食べてもおいしいといいますか、当たり前になってきています。だからこそ、非常食を「災害時に食べる一時しのぎのもの、あまりおいしくない食べもの」と思われたくないんです。そういったメッセージを込める意味で、商品パッケージは非日常的にならず日常に溶け込むデザイン、そしておいしさが伝わるように意識しています。
なるほど。ではパッケージだけでなく、味にもかなりのこだわりがあるということ……?
はい。普段も買って食べたくなるような、おいしい非常食を作りたいという思いから「IZAMESHI」シリーズの開発をスタートしたので、「日常で食べておいしいか」を大事にしています。
非常食は「もしものときの備え」というイメージがあったので、普段から食べたくなる非常食というコンセプトは意外でした。
杉田エースでは、ずっとストックしておいたものを何かが起きたときに食べるのではなく、普段から食べて活用し、食べた分だけ買い足して保存期限を更新する「ローリングストック」をオススメしています。
ローリングストック。初めて聞きました。
災害時に、非常食の消費期限が切れていたら困ってしまいますよね。ローリングストックなら、そんな事態を防ぐことができます。それに、普段から非常食の味や使い方に慣れておくことで、災害時に慌てず落ち着いて活用できます。そのためにも、普段から食べてもらえるくらい、おいしく作りたいですよね。
普段食べるなら、おいしいほうがいいですからね……。おいしい食品を作るノウハウはあったんですか?
杉田エースはもともと建築資材やDIY用品を卸売りしている商社なので、食品の開発は初めてでした。東日本大震災のとき、被災地から遠く離れた都内でも非常食や消耗品の需要が一気に高まって欠品が相次ぎ、本当に必要な人に行き渡らない時期があったんです。それが大きなきっかけとなり、「おいしい非常食」の開発がスタートしました。
どんな商品があるの?
▲お腹いっぱい食べられる丼ぶり、おかず、マフィンなど、さまざまな商品がある
今掛さんのオススメの商品はどれですか?
オススメは、プレミアムシリーズの「IZAMESHI Deli」ですね。化学調味料を使わず素材のおいしさを活かし、毎日食べたくなる非常食をとことん突きつめました。「ヨーグルトが隠し味のスパイシーチキンカレー」と「梅と生姜のサバ味噌煮」の2つが特に好きです!
このカレーには骨付きの手羽元がゴロッと2本入っています。マンゴーピューレなどを加えて、お店で出てきてもおかしくない特別感のある風味に調整しました。
▲「ヨーグルトが隠し味のスパイシーチキンカレー」。骨を持ってかぶりつかなくても、箸やスプーンで肉がスルスルと外れる。ルーはトマトベースでちょっと酸味があり、食欲をそそる
うまい! 確かに、お店で出てきてもおかしくない!!
こうしたパウチタイプの非常食は、製造工程で加圧加熱処理をして保存性を高めています。圧力でグッと熱をかけているので、お肉がほろほろになっています。
保存性を高める加圧調理が、結果として具材をおいしくすることにつながっているんですね。災害時のレトルトカレーは定番ですが、こんなにゴロっと骨付き肉が入ったものはなんかテンション上がっちゃいますね。
ありがとうございます。サバの味噌煮は、脂が乗ったノルウェー産のサバを使っています。ただこちら、長期保存する場合には脂が多いと酸化しやすくなるので、本来は保存食には不向きなんです。でも、梅酢と生姜を使うことで酸化の臭いだけでなく生臭さも抑えてくれます。
おいしくするためだけでなく、保存面も意識して食材をチョイスしているんですね。
▲「梅と生姜のサバ味噌煮」。サバの切り身が2切れでボリュームあり。身がとてもやわらかく、脂が乗っている。味噌の塩加減もちょうどよく、梅酢でさっぱりとした味わいに
これも、お世辞抜きでめちゃくちゃうまいですね!!
ありがとうございます! 味噌もまろやかな風味に調整して、ごはんなしでも食べられるよう工夫しています。
商社の強みを活かして、おいしさを追求する
開発で苦労した点はありましたか?
工場にはすごく苦労をかけたと思います。食品の加工方法など、食品業界のセオリーを知らずに難しい注文をお願いしたこともありました。
例えば、どんな……?
レトルト食品って、加圧加熱処理をしたときに、具材にしっかり熱が通りやすいように平べったく小さい形にするのが一般的なんです。だから肉じゃがを作るにしても、じゃがいもが平べったくなるので、「もっとゴロゴロ感がほしいんです!」と交渉をしました。
▲「ごろごろ野菜のビーフシチュー」。確かに、じゃがいもなどの具材がゴロゴロ入っている
おいしさのために、そこまでこだわっているとは!
形や食感も、おいしいものを作るには欠かせない要素なんですよね。
こちらのチーズマフィンも、具材がたっぷり入った食べごたえのあるものにしたかったので、手作業でチーズを生地に混ぜ込んでいます。機械だとうまく混ざらなかったり、形が崩れたりしてしまうんです。かなり手間をかけていただいていますね。
手間をかけたら、その分、費用がかかるんじゃないですか?
一般的な食品メーカーは防災用品の問屋さんを通して商品を卸しているのですが、杉田エースは店舗と直接やり取りをしている商社なので、そのぶん値段を抑えることができます。これは食品業界にいないからこその強みでもありますね。
なるほど。価格を抑えられるから、味を追求できるんですね。
「缶だからこそできるメニュー」を増やしたい
これから何か新しく作ろうとしているものはありますか?
今は缶詰に注目しています。世の中はレトルトが主流になっていますが、缶だからこそできるメニューを増やしていきたいです。
缶だからこそできる……。例えばどんなメニューですか?
ごはんの缶詰を作りたいですね。玄米の缶詰はすでにあるので。缶を開けたら炊かれた白いごはんが入っていて、すぐに食べられるものを目指しています。
それすごくうれしいですね! やっぱり白米を食べると人心地つきますし、他の食材と組み合わせてもよさそうなので。
時間が経ったら変色したりカピカピになってしまったりと、技術的に難しいところもまだまだありますが、いつか実現したいですね。あとは、離乳食やアレルギーに対応した非常食のニーズも多くいただいています。
研究に余念がないですね!
私たちは毎日、食べたいものを当たり前のように選択しています。だからこそ災害で大変なときにも、あれを食べたいとかこれなら食べられるとか、無限の選択肢の中から選べるようにしていきたいですね。
もっと試食させてもらおう!
さきほど紹介したサバ味噌煮、チキンカレー以外の「IZAMESHI Deli」シリーズも、この場で食べさせていただきました。
おいしいかどうか、率直にコメントしたほうがいいですか?
改善に役立てたいので、正直なコメントでお願いします!
わかりました!
以下、私の率直な感想つきで、非常食をレビューしてみます。
▼名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮
2016年に開催された「日本災害食大賞」おいしさ部門でグランプリに輝いた一品。タケノコやごぼうなどの根菜がたっぷりと入っており食べごたえは充分。関西風のだしが利いていて、普段の食卓にすっと馴染むような生活感を感じる。
▼トロトロねぎの塩麹チキン
おいしくするために、塩麹を人の手で鶏肉に揉み込んでいるそう。肉がとてもやわらかく、繊維が舌の上でほどける。くたっとしたねぎとの相性が抜群。白ごはんと一緒に食べたい。他のメニューと比べて塩気が強いので、おつまみにもいいかも。
▼りんごが決め手の生姜焼き
りんごピューレをわざわざ豚肉に揉み込んだ一品。こちらもすごい執念である。加圧調理のためか肉がフレーク状になっていて、食感はあまりよくない。すり潰して肉味噌にしたらいいかも?
▼ごろごろ野菜のビーフシチュー
野菜がごろごろである。トマトの酸味が利いてコクがある。ちょっと水っぽくて薄味かも。ケチャップなど“ちょい足し”してアレンジしてもよさそう。
▼きのこと鶏の玄米スープごはん
おかゆだと何だか鬼気迫るマインドになってしまうが、スープごはんなので“ちょっといい店でランチしてる感”がある。きのこがたっぷり入っていて、やさしい和風味。ただ、量なのか味付けなのか、ちょっと物足りなさがありました。小食の人にはちょうどいいかも。
▼濃厚トマトのスープリゾット
野菜だけで作っているので、全体的にとてもあっさりしている。食欲がないときでも食べられちゃいそう。ただ、このあっさり具合によって、どこかが突出しない平坦な印象も。チーズを乗せたらもっとおいしくなりそう。
▼大豆たっぷりカレーリゾット
食欲をそそるカレー味のリゾット。大豆がたっぷり入っており、食べごたえがしっかりある。プチプチするもち麦が入っており、食感がなかなかおもしろい。ただ、味付けはちょっと薄味かも。
「IZAMESHI Deli」シリーズ全9品を完食。調子にのってマフィンの缶詰も2つ平らげました。
打ち合わせや取材で試食される方はこれまでもいましたが、全部残さず食べてくれた方は初めてです!
おいしかったし、食費が浮くと思って全部食べちゃいました……。災害が起こって大変なときに、これらの非常食が食べられたらうれしいですね。
非常食を普段から食べて保存期限を更新するローリングストック、「保存食を、非日常から日常へ」という考え方。取材を通して、非常食の新しいあり方を感じました。
僕のアパートには非常食の備蓄が1つもないので、まずは飲料水を箱買いして、1本飲み干したら1本購入するといった、できそうなことから始めてみたいと思います。
ひとつ思ったんですが、お母さんの手作りカレーを長期保存食にすることってできますか? 大変なときにお母さんの手料理が食べられたら心からほっとすると思ったのですが。
それこそ本当の日常ですね! 技術的には可能だと思いますが、お母さんには3000食の最低ロット数をクリアしてもらわないと……。
ムリだと思いますが、母に相談してみます。
(おわり)
取材協力
杉田エース株式会社
http://www.sugita-ace.co.jp/
IZAMESHI
http://izameshi.com/
筆者プロフィール
神田 匠(こうだ・たくみ)
有限会社ノオト所属。1995年生まれ。よく食べる。やよい軒が好き(ご飯おかわり処があるので)。
Twitter:@gogonocoda
編集:ノオト