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二度目の人生を異世界で 作者:まいん

導入部分のようなもの

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嵐の前らしい

お気に入り登録してくださってる方に感謝を。

数字はやる気に直結すると思うのです。

 なんにせよ、一度村まで戻ろうと言うシオンの提案に、反対する者はいなかった。

 森の中にいた為に、蓮弥は時間の感覚がなかったのだが、シオンが言うにはこのまま探索を続ければ、森の中で日没を迎えることになり、夜行性であるゴブリン相手に、用意のない人間が立ち回るのは非常に危険だと言う。

 ゴブリンって夜行性なのか、と新しい情報に驚く蓮弥に、魔獣や魔物と呼ばれる存在達は、一様に夜行性であり、これは常識であるとシオンは言い切る。


 「だからといって、昼間に行動してないわけではないがな」


 村に戻って、拠点として借りたと言う空き家に置いてあった荷物を漁りながらシオンが言う。

 荷物は森の中に置いてきた6人の分も合わせてかなりの量が置いてあった。

 村に戻った時に、村人達は人数が減っているのを見て何があったのかとシオンに問いかけたが、シオンは6人は途中ではぐれてしまって行方が分からなくなったと説明している。


 「まさか、こちらを襲ってきたから叩きのめして森に放置しました、とは言えないからな」


 「ギルドへの報告もそんな感じで?」


 蓮弥が尋ねるとシオンはすぐにそれを否定した。


 「ギルドに嘘はつけない。本当のことを報告する」


 「俺、犯罪者扱いにならないかな?」


 この世界にだって殺人罪はあるだろうと心配する蓮弥。

 ただ、この場合の心配は、自分が犯罪者になるであろうことへの心配ではなく、犯罪者として拘束される面倒さへの心配ではあったのだが。

 その心配をシオンはあっさりと否定した。


 「問題ない。私とロウが証人になるから。依頼中の事故は同行していた者の証言が証拠として一番有力視される」


 「ああいう人達は常日頃から素行が悪いものだから、きちんと説明すればすぐ無罪放免になりますよ」


 こちらも荷物をかなり適当に漁りつつ、ローナが請け負ってくれるが、口ぶりからしてある程度は拘束されるらしいことを察して、蓮弥はげんなりとした表情になる。


 「それにしてもこいつら、本当に武器持ってないんだな」


 「使えないですね。着替えとかはもう使う人もいませんから、全部燃やしてしまいましょう」


 備え付けの暖炉に火を入れて、二人は本当に適当かつ大雑把に、必要のなさそうな荷物をぽんぽんと放り込んで燃やしてしまっている。

 そのあまりに適当な扱いに、おそらくはすでにこの世にはいないであろう6人の冥福を蓮弥はこっそりと祈った。


 「何か探しているのか?」


 容赦なく燃えて灰となっていく荷物を見ながら蓮弥が尋ねる。


 「適当に金品。それとレンヤに武器があればいいなと思ったんだが」


 言ってる事がほぼ完全に泥棒の口ぶりなのに、軽く引く思いをしながら、武器ならば一応持っていることを、竹刀を指し示しながら蓮弥は言うが、シオンはそれをあっさりと却下した。


 「レンヤがそれに思い入れがあるのは分かるが、ちゃんと刃のついた武器を使うべきだ」


 流石に、竹刀を棒扱いした時の蓮弥の豹変っぷりを見ているので、同じ愚を犯すことはなかったが、言外にそれは戦闘に向かないと言う旨を口にするシオン。


 「攻撃が突きに限られるようでは、戦闘の幅が狭まるだろう?」


 「あの身のこなしなら、問題ない気もしますけどね」


 シオンの言葉に蓮弥をフォローするようにローナが言うが、シオンはそれを否定した。


 「突き技だけで問題ないのであれば、斬撃が使えればもっと余裕のある戦いができるはずなのだから、やはり武器は変えるべきだ」


 「そういう考え方もありますね」


 「これはもう、私の予備の武器を渡す以外ないかな」


 「えーと、まぁ、迷い人なら問題ないでしょう」


 ローナがなんだか引っかかる物言をするが、シオンは気にした様子も無く、自分の荷物の中から一振りの長剣を引っ張り出すと、蓮弥に手渡す。

 渡された長剣の鞘を払って、蓮弥は刃を露わにすると、目の高さで長剣を水平に右手一本で構えてじっと刃に目を凝らす。

 しばらくそうしていた蓮弥は、抜いた時と同じく慣れた手つきで剣を鞘へ戻した。


 「どうした?」


 「いや、造りのいい剣だな、と」


 シオンに聞かれて答えた蓮弥の声はどことなく平坦だった。

 本音の部分を言ってしまえば、蓮弥は渡された長剣の作りが非常に不満だったのだ。

 刀身自体は装飾の施されていない、実用一辺のものだったが、刃に使われている鉄は蓮弥から見れば非常に粗悪でとても命を預けようと言う気持ちにはなれなかった。

 刃自体も、ある程度鋭くなるように研いだだけの代物で、これできちんと斬れるかと言われると、はなはだ疑問であるとしか返答できない。

 中世の武器は、板金鎧の上へ叩きつけるような代物で、斬ると言うよりは叩き潰すというのが正しい程度のものでしかなかった、と言う知識が蓮弥の頭の中にはあった。

 おそらくは、それと似通った技術しか普及してなく、またそれと同じような使われ方しかしない武器なのだろう。

 刃部分のおそまつさとは対照的に、柄の部分に施されている細工は見事なものだった。

 握りの部分は無駄な装飾は使い勝手の悪さにしか繋がらないので、なめした革を細く割いて編みこんで巻きつけただけであったが、鍔の部分には絡み合う龍の細工が金と銀で施されており、中央には向かい合った二匹の竜をデフォルメして紋章としたものが掘り込まれている。


 「柄の部分は、えらい高価そうだね」


 「柄の部分は伝来のものだが、刀身は何回か折れて替えているものだから、お眼鏡にはかなわなかったようだな」


 ちょっと悔しそうな表情をシオンが浮かべた。

 品質的には不満が残る代物ではあったが、せっかく貸してくれたものなのだから、使わなくては申し訳が立たないだろうと、蓮弥は竹刀をインベントリに収納する。


 「おや、虚空庫持ちか、うらやましいな」


 「本当ですね。それだけで荷物運びの依頼が殺到する技能ですよ」


 竹刀が何もない空間に消えるのを見て、二人が感心したような声を上げる。

 何を言われたか分からずに、視線だけで蓮弥が疑問を提示すると、シオンが説明を続けた。


 「今、何もない空間にその武器を仕舞っただろう? それは虚空庫と呼ばれる技能で、持っているものはそんなに多くない」


 「しまっておける個数はそんなに多くないと聞きますが、重さを無視できるのは羨ましい技能ですよね」


 蓮弥は床に広げられている荷物へ目をやる。

 当初より、次の馬車の定期便が来るまでの調査のつもりだったのだろうが、二日分とは言え、二人の荷物はそこそこの量になっていた。

 主に、食料やら水、傷薬やら装備の整備に必要な小道具が目に付く。

 おそらく目に付かない所には着替えやらなにやらも詰まっているのだろう。

 そう言った物を運ばずに済む技能と言うのは、二人のようにあちこちに移動することの多い者からすれば、確かに羨ましい限りの技能といえるはずだ。


 「帰り足は、二人の荷物を俺の、その虚空庫とやらで運んでもいいが?」


 「それは助かる。運賃も浮くしな」


 馬車の運賃は、人数もさることながら、荷物込みの重さで決まるらしい。

 ローナが言うには、別に秤に載せられるわけではないのだが、馬車の御者が乗る人の装備やら荷物のかさ等から判断して値段を決めるのだと言う。


 「お安い御用だよ。その前に、調査とやらを無事に終える必要があるが」


 「そうだな。相手はゴブリンとは言え十分に気をつけなくては」


 「不慣れな土地ですからね」


 調査と漠然と言ってしまっているが、森の中の地図などあるわけがないので、基本的には適当にうろうろとして、ゴブリンの集落でも見つかれば儲けもの、くらいの話だとシオンは言う。

 もしくは、エサ等を探しているゴブリンたちの後をつけて、集落の位置を割り出せればいいと言う事らしいが、地図も無いのに森のどの辺に集落がある、と報告するつもりなのだろうという疑問が沸いてくる。

 その辺りを確認してみようと口を開きかけた蓮弥は、首筋になにやら冷たい感触を覚えて、思わず背筋を振るわせた。

 右手で寒気を感じた辺りをさすりながら、蓮弥は一人窓辺に近寄る。

 この世界、ガラスを作成するくらいの技術は開発されているらしく、窓には蓮弥が元いた世界のものとは比べ物にならなかったが、やや不透明で少々凹凸が見えるものの、外の様子をうかがい知ることができるくらいの透明度のものが嵌めこまれていた。

 そのガラス越しに外を見れば、外はもうすぐ夜という時間帯に変わろうかと言うくらいの薄暗さで、赤く染まった空に太陽の姿は無い。

 借りている家が村の外れの方にある為に、見える景色は村の防備として設置されている胸の辺りくらいの高さの木の塀ごしに、少々離れて森が黒く影絵のように見える。

 じっと目を凝らしてみても、影絵の森の中は蓮弥のいる場所からはなにも見えない。

 だが、蓮弥の勘のようなものは間違いなく、その森の中になにかあることを教えていた。


 「どうした、レンヤ?」


 険しい顔で森を見つめていることに気がついたシオンが、声をかけてくる。


 「分からない、だが何かある。森の中だ」


 「迷い人の技能みたいなものか?」


 蓮弥の隣まで歩いてきたシオンも、窓から森の方を眺めてみるが何も感じないらしく、首をかしげながら蓮弥に問う。

 ほんのわずかな時間、迷うように考えてから蓮弥は首を左右に振った。


 「技能ではない、と思う」


 「勘か」


 「ああ、だけどかなり確信を持って言える」


 記憶の方はあの神様に消されていたとしても、身に付いた感覚は消えない。

 その感覚を信じるべきである、と蓮弥は確信していた。


 「私は何も感じないし、見えないが。レンヤがそこまで言うのであれば調べてみる価値はあるのかもしれないな。ロウ、頼めるか?」


 「はい、問題ありません」


 シオンがローナの方へ向き直りながら頼むと、ローナは頷いて胸の前で両手を組んだ。

 豊かすぎる胸がぎゅっと押し上げられてその存在を無理やりにでも意識させるかのように強調されるポーズだが、今はそんなことを考えている場合では無さそうだと蓮弥は軽く頭を振る。

 何をするつもりだろうと、蓮弥が注意深く見守る中、ローナの唇から淀みなく言葉が紡がれていく。


 「我は請い願う。我が信奉せし尊き方に。我らが安寧を乱す存在を、指し示さんことを」


 ローナの組まれた両手の間から、何か力強い波紋のようなものが広がるのを蓮弥は知覚した。

 それはまるで、潜水艦のエコーのように素早く広範囲に広がって行き、しばらくしてから広がって行ったのと同じ速さで戻ってくると、またローナの両手の間へと収束していった。

 波が収束すると同時に、ローナが顔を上げて蓮弥を見つめた。


 「確かに、森の中に敵意を持った何かがいます。それもかなりの数です。50以上で……はっきりとは分かりません。この分だと探査範囲外にもかなりの数が……」


 「今のは……?」


 はっきりと言い切られても、蓮弥には今、何が起こったのか理解できない。


 「今のは法術と言って、神に仕える僧侶が扱うものの中の<探査>だ。効果範囲内に害意を持つ者が在れば術者に教えてくれる。しかし……50以上だと? 一体何が……」


 「瘴気の森で、これだけの群れを作るものとなりますと」


 「……不味いな。指揮官付のゴブリンどもか」


 シオンの言葉に蓮弥は、村に戻る前に見たヘルプの情報を思い出す。

 稀に個体能力の高い者が生まれると大集団を形成するような書き込みがあったのを。


 「取りあえずロウ、村長の所へ走ってくれ。大急ぎで女子供の退避と戦えるものの準備を」


 「わかりました」


 答えと同時にローナは走り出している。

 その背中を見送ったシオンは、蓮弥へ向き直る。


 「どうにも運の悪いことばかり続くが、手伝ってもらえるか?」


 尋ねる口調に余裕がない。

 相当に不味い状態なのだなと蓮弥は察した。


 「攻めてくるかな?」


 蓮弥が疑問を提示すれば、シオンは即座に頷いた。


 「50以上も数を集めて、偵察に来たと言うことはないだろう。指揮官付なら尚更だ」


 「戦力差はどの程度だ?」


 「この村の人口は50人ちょっと。そのうち十全に戦える若い男は10人くらいだ。数の上だけなら私達を含めて13対50以上と圧倒的に不利だ。しかも村の男達は戦闘の訓練を受けているわけではないから1対1でなんとか、1対2以上になると防戦一方になるな」


 「負けた場合は」


 「考えたくはないが」


 渋い顔で前置きしてからシオンは言う。


 「村一つ食い物にされる。奴らは人の死体もエサとしか見ない。私も含めて若い女は、殺されなければ、殺されていた方がマシだったと思うような目に遭うだろうな」


 「ひゃっほー、子沢山な未来が待ってるな。AVも真っ青な展開だ」


 おどけて蓮弥が言うが、あまり意味は通じなかったらしい。

 当然といえば当然だろう。

 この世界にAVがあるとは思えない。

 だが、何を言おうとしているのかは通じたらしく、心底嫌そうな表情を向けてくる。


 「冗談でも止めてくれ、笑えない」


 「そうか? まぁ終わった後のことは終わってから考えればいいな」


 「なんだか……テンションが妙なことになってないか? ってお前……」


 蓮弥の顔をまじまじと見ながら、シオンが驚いたような、軽く引いたような声を上げた。


 「なんで……笑ってるんだ?」


 意識はしていなかった蓮弥だったが、指摘されて口元を手で抑えてみれば口角が上がっているのが分かった。

 確かに、どうやら自分は笑っているらしいと自覚する。

 それもあまり、良い笑顔とは言えない顔で。


 「なんで、と言われてもな。強いて言うなら」


 なんと言ったものかと考えてから、蓮弥は続けた。


 「やっぱり戦いというのは、不利な方が面白いからじゃないかな?」

展開が遅いかなーと思案中。

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