モーニング娘。'18の最新曲"A gonna"が大々的にトラップを取り入れた一曲となっていて興味深い。
だいたいBPMが80くらいで、ポルタメントの効いた攻撃的なシンセリフが印象的な、アトランタ流というよりはEDM的なトラップだ。トラップを取り入れたポップスというのはもう世の中にありふれていて、テイラー・スウィフトからTWICEまで例は枚挙にいとまがないわけだけれど、日本ではなかなか「これ!」というものが思い当たらなかった(いや、若い女性に支持を集めるSSWなんかで結構あった気もするけど)。J-POPは、ロック、R&B、ディスコ、EDM、フューチャーベース、ポスト・ロック(エモ、マス・ロック)などなどのジャンルを消化してきたけれども、トラップはまだではないだろうか。そこに来て、EDM歌謡路線を経たモー娘。がど直球のトラップをやっているというのは結構面白い。
(全体はそうでもないが一瞬ガチのトラップが出てくる)
ただ、トラップとしては若干BPMが高くアッパーで、かつ16分音符で刻む譜割りが頻出するため、なかなか歌いづらそうな印象を受ける。ボーカルというよりはハイハットみたいな譜割りだ。トラップを取り入れたポップスはたいてい、よりゆったりとしたテンポにするか(60~70くらいのベーシックなトラップサウンド)、譜割りをもっと余裕のあるものにするか(刻む単位を八分音符くらいにする)、思い切ってラップのフロウに近づけた譜割りにするか、みたいな処理を加えている。ビートの変化にあわせてメロディの作り方も変わってくるわけだ。
たとえばしばしば取り沙汰されるトラップの三連フロウというのは、もちろん起源はそれこそ80年代にさえ求めることができるのだけれども、八分では遅すぎ16分だと刻みすぎ、というトラップのテンポ感に要請されて爆発的に普及した面もあるだろう。
また、EDM~トロピカルハウスの流れを汲むポップスでしばしばみられる、短いフレーズを小節頭や小節末でリピートするフックのつくりも、ドロップでは音数が絞られ情報量が減り、サウンドのダイナミズムが強調されることが高揚を呼ぶというEDM以降のルールにポップス側がアジャストした結果だ。まあ、この流行りも2016~7年くらいですっかり落ち着いてしまったけど。
より大局的な観点から見れば、Aメロ‐Bメロ‐サビ~というJ-POPのお決まりの展開や、ヴァース‐(ブリッジ)‐コーラスの反復というポップスの定型もまたヒップホップ以降、そしてまたEDM以降に変容を迫られ、新しいかたちを見出している。いくらサウンドを真似たとしても、サウンド以前の構造やパターンといった抽象的な要素を組み込めるか組み込めないかが決め手になるのだ。
その点、"A gonna"はJ-POP的な言葉数の多いメロディをトラップに乗せているため、なんならオリジナルなのにリミックスみたいに聞こえるところがある。しかし、トラップの定型に過剰に適応するよりも、これくらいのほうが面白いかもしれない。歌う側、コールする側はちょっと困りそうな気もするけど……
そうそう、以前EDM以降のポップスというテーマでブログの記事を書いたときは、「LDH勢がもうちょっと…(Jが出過ぎでは…)」みたいなことを書いたけれども、最近の三代目J Soul Brothersのリリースは、EDM以降の定型をおさえつつ日本語のポップスを成立させている。LDH全体を通して、ファンにある程度「啓蒙」ができてきた、みたいな判断があったのかな、と思う。けれどK-POPが達成しているレベルを考えるとまだまだいけるんではって感じがする。