文芸部

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 誰もがその太陽のような笑顔に癒やされた。

 誰もがその穏やかな性格にほだされた。

 彼女は誰からも慕われていた。

 だが、彼女――西住みほをを欲しいと思う気持ちは、逸見エリカは尋常ではなかった。

 エリカはみほを自分一人のものにしたいと思っていた。

 しかし、人一人を自分のものにするというのは容易なことではない。

 そのためエリカは必死に考えた。どうすればみほを自分のものにできるかを。

 エリカは連日思案した。それこそ、戦車道が少しおろそかになってしまうほど。

 そのことで隊長である西住まほに怒られることもあった。

 そんなエリカを、みほは心配そうに見つめていた。

 まほに怒られた後のエリカにみほが話しかけてくれる。

 

「大丈夫エリカさん? ちょっと疲れてただけだよね。気にしないで」

 

 ああ、やはりこの子が欲しい。

 この子の優しさを独り占めしたい。

 そのとき、エリカは思いついた。自分を心配してくれるみほを見て、エリカはその発想に至った。

 そうだ、こうすればみほを手に入れられる。

 そのためには、黒森峰には十連覇を逃してもらおう。

 エリカは第六十二回全国高校戦車道大会において、自らを犠牲にすることに決めた。

 事前に調べていた天候も、地形も、すべてが彼女に味方していた。

 そうして、エリカは計画を実行に移した。

 エリカは自ら、事故を装い戦車ごと川の中に身投げしたのだ。

 そうすれば、みほが助けに来ることを知っていたから。

 そしてみほのその行為のせいで、黒森峰が敗北に繋がることも分かっていたから。

 すべてはエリカの思い通りに進んだ。

 大会で黒森峰は敗北し、みほは孤立した。

 誰もがみほから距離を置いた。

 みほに助けられた子達も、自分の身を守るためにみほに責任を擦り付けた。

 戦車道は安全な競技である。川に落ちてもいずれ助けが来ることになっている。

 そのことを考えれば当然だった。

 だがみほは考えるよりも体が動くことをエリカは分かっていた。

 みほは孤独に苦しんだ。

 もうそろそろいいだろう、エリカはそう思い、みほに声を掛けた。

 

「大丈夫、みほ? あなたは悪く無いわ。私を助けてくれたんですもの、気にしないで。私はあなたの味方よ……」

 

 まるですべてを包み込む慈母のように、エリカはみほに言った。

 みほの顔は痩せこけていた。明るかった瞳は絶望で暗く染まっていた。

 そんなところに、エリカのその言葉である。

 

「……エリカさぁん!」

 

 ……落ちた。

 エリカは泣き喚くみほを抱いて優しく頭を撫でながら、そっと心の中で呟いた。

 

 それからというもの、みほはエリカと常に一緒に行動するようになった。

 エリカはみほが傷つく度に、優しい言葉を投げかけた。

 “大丈夫、あなたは悪くない”

 “私だけはあなたの味方”

 “私が怖いこと全部からあなたを守ってあげる”

 エリカの言葉は、静かに、そして着実にみほの中に染みこんでいった。

 その優しい言葉を投げかけられる度に、みほはどんどんとエリカに依存していった。

 さらにみほにとって決定的なことが起きる。

 みほの母、西住流家元西住しほからの叱責である。

 実の親から自分の行為を責められ、姉も味方してくれない。

 家族すら“敵”の状況において、エリカの存在はみほにとってよりかけがえのないものになった。

 

「家元も隊長もひどいわね……みんな分かってないのよ。大丈夫、私だけはあなたの味方。あなたの優しさ、素晴らしさをすべて分かってるから……」

「エリカさん……! エリカさん……!」

 

 もはやみほにとってエリカは自分の一部だった。

 日常生活のすべてを、エリカに手伝ってもらう状況にすらなっていた。

 その様子ははたから見ればエリカがみほを介護しているように見えるだろう。

 しかし、二人の間では違った。

 みほとエリカは、お互いにお互いを求める、閉じた歪な一つの生き物となっていたのだ。

 みほのそれはもはや信仰であり、エリカのそれは完全な支配であった。

 二人ぼっちの世界。孤独で満たされた世界。

 二人はそれでよかった。もう、お互い以外何も要らなかった。

 だが、そんな世界を認めないものがいた。

 みほの姉、まほである。

 まほは何かが異常だと思っていた。

 みほの様子が明らかに尋常では無い、そう思っていた。

 最初は大会のことで気に病んでいたと思っていたが、もはや今のみほはそういう水準ではなかった。

 そのため、みほの様子を出来るだけ観察することにした。

 長きに渡るその観察において、まほはとうとう気がついた。

 みほが、エリカに狂信と言えるほどに依存していることに。

 まほはこれではいけないと思った。このままでは、みほが駄目になってしまう。

 エリカにも、大きな迷惑を掛けてしまう。そう思った。

 だからまほは、母でまるしほにみほの転校を相談した。

 しほはすんなりとみほの転校を受け入れた。

 しほもしほで娘に対して責任を感じていたところがあったのだろう。みほにしばらく療養して欲しいという気持ちがあるのを、まほは感じ取っていた。

 まほはしほと相談したこと――大洗への転校について、みほに話した。

 だがみほは、それを必死に拒絶した。

 

「嫌! 転校なんて嫌!」

「そんなことを言うな、お前のためなんだみほ……」

「何が私のためなの!? 私は今の生活で幸せなの! それを転校だなんて……私からエリカさんを奪おうとするだなんて! なんなの!? 私がそんなに邪魔なの!? 西住の娘として恥ずかしい存在だから!? 黒森峰の連覇をふいにしたから!? だから私が邪魔なの!? 最低だよ……最低だよ、お姉ちゃん!」

「ち、違う! そんなつもりじゃ……」

「いいやそうに違いないんだ! とにかく、私は嫌だからね!」

 

 みほはそう言うと、呼び出されたまほの部屋を駆け出していった。

 

「みほ! おいみほ!」

 

 まほの言葉はみほに届かない。

 みほは急いで、エリカと共に生活している部屋に駆け込んでいった。

 

「あらどうしたのみほ?」

「お……お姉ちゃんがぁ……!」

 

 みほはエリカにすべてを話した。

 エリカはそれを聞くと

 

「そう……それはあなたが正しいわ。隊長も家元も最低ね……」

 

 とみほを肯定した。

 そしてしばらくみほの頭を撫でた後に、エリカはこう言った。

 

「……でもこのままじゃまずいわね。そうね、だったらこうしましょう?」

 

 それからしばらくして……

 

「副隊長? いえ、元副隊長でしたね」

 

 みほは姉の言われた通り転校し、エリカとみほはまるで昔以上に仲が険悪になったかのように見えた。

 誰もがみほとエリカの関係は悪化したものだと思った。

 だが、実態は違った。

 

「いいみほ、ここはあえてその提案に乗るの」

「えっ!? で、でも……!」

「最後まで聞きなさい。そして、周りの人間には私達は険悪になったように見せかけるの。でも本当は違う。私の心はあなたにあるし、あなたの心も私にある。私達は心でつながっている。この関係に戻るのは二人っきりのときだけだけど、みほ、常にあなたは『私のもの』なのよ。そのために周りを騙すの。いいわね?」

「うん……エリカさんがそう言うなら、私、頑張る!」

「そう、いい子ね……」

 

 戦車道喫茶で久々に出会った後、みほとエリカはこっそりと二人きりになった。

 

「エリカさん……!」

「みほ……!」

 

 みほはエリカに抱きつき、エリカはそんなみほの頭を撫でる。

 

「会いたかったよ……会いたかったよぉ……!」

「私もよ。ずっと会いたかったわ。元気だった? みほ」

「うん! 大洗で友達ごっこするのは疲れるけど、エリカさんのことを考えたら頑張れたよ!」

「そう、よかった……。私も、あなたのことを考えてずっと頑張ってきたのよ」

 

 みほとエリカは笑い合う。

 クスクスと無邪気に笑い合う。

 

「私が信じてるのはエリカさんだけだから……でも、一応は頑張ってるよ? エリカさんがいるけど、黒森峰は嫌いだし……」

「そうね。私も好きじゃないわ。だからもしあなたが決勝にこれたら、あなたが勝てるように必死にお膳立てしてあげる。わざとフラッグ車を狙ったつもりで別の車両に当てたりして、ね……」

「ありがとう、エリカさん……!」

「いいのよみほ。あなたは『私のもの』なんだから、これぐらい当然よ」

 

 エリカはみほを撫でながら微笑む。

 慈母のような、慈しみに満ちた笑みを。

 エリカとみほはこれからも周りを欺き続けるだろう。

 しかし、実態は狂信者とその教祖とも言える、悍ましい関係をずっと続けていくのだ。

 エリカがみほに飽きる、そのときまで。
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