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予測可能大統領

就任直後から何をするか予測不能と言われていたトランプ大統領が、最近はその行動パタンが見え見えで、こんなに予測可能な大統領はいないんじゃないかと思えてきました。米朝首脳会談中止の書簡は、見る人には交渉途中のブラフでしかなかったし、案の定、来週12日のシンガポール会談は壮大な政治ショーとしてぶち上げ、とりあえず世界を煙に巻く算段です。

トランプの行動パタンははっきりしています。すでに多くの人が言うように、自分が主演のテレビ番組をセルフプロデュースしているというのが当たっています。まず自分が目立つこと。ディールと称してハッタリをかますこと。次にそのハッタリを本物かのように装うこと。その後で辻褄が合わなくなり、ウヤムヤな着地点を探すのですが、その時点ではすでに視聴者(支持者)には何かすごいことをやったかのように印象付けているのです。つまり「大言壮語」をあたかも「有言実行」であるかのように仕組むパタンです。

メキシコの壁然り。パリ協定やTPP脱退宣言然り。現時点でハッタリ段階の関税戦争もこれから同じパタンをたどるはずです。

「6月12日」も同じ。3月初めの金正恩の呼びかけに即座に応答したことで、世界はこれで武力衝突が回避できると歓迎しました。「さすがトランプだ、因習に縛られずに自ら動いた」と。ところが派手に「5月中」と予告した日取りではとても詰め切れない。「6月12日」にずらしたのはよしとして、問題はそれでも具体的な結論には至らぬ見通しなので、その後も第2回、第3回と会談を継続させることです。

行動パタンは書きました。ここで、トランプの行動指針が明らかになります。

目下の課題は8月か9月に弾けるかもしれないとされるロシア疑惑捜査をどう躱すかです。6月2日付のNYタイムズが、トランプ弁護団からモラー特別検察官に当てた書簡をスッパ抜きました。弁護団はロシア疑惑に関して「大統領は、訴追されても自分を恩赦する権利を持つ」と、かねてより噂されていたトンデモ論理をやはり持ち出してきました。さらには「大統領に司法妨害はあり得ない。なぜなら大統領は司法のトップであり、いつでも捜査を中止できるのだ」とまで言うわけです。その後のトランプのツイートはまたこの件で狂乱状態です。まあ、大統領は訴追されないという慣行があるので、恩赦云々は世間向けの虚勢であると同時に、いかにトランプ陣営が切羽詰まっているかを表する証左ということです。ただし、モラーは弾劾を下院に提起できる。そして弾劾はもちろん恩赦の埒外です。

もう1つの行動指針は11月の中間選挙での勝利です。これは上記の弾劾にも関わる死活問題です。全員改選となる下院は民主党が有利と言われ、多数を獲得されれば弾劾に弾みがついてしまいます。だから何がなんでも勝たねばならない。

そのためには、北との関係は「6月12日」でファンファーレ高らかに前奏曲、それから「成功」を小出しにつなげながら11月以前にクライマックスへ到達するようにした方が良いかもしれない、とトランプが考えても不思議ではありますまい。しかし「始める前から決裂」は最もマズいので、トランプは北の非核化は段階的でもいいと会談実現にハードルを下げたのです。

ところで段階的非核化の容認とは、実は94年の米朝枠組み合意や03〜07年の6カ国協議での取り決めと同じです。その何れもが北朝鮮の約束反故で破綻し、トランプはそうやって失敗した2人の大統領、クリントンとジョージ・W・ブッシュを口汚く嘲り非難してきたはずです。なのにまた自分も同じことをしようとしている。何が違うのでしょう。

メディアはもちろんその点を鋭く衝いています。だからマティス国防長官やクドロー国家経済会議議長が「制裁解除は北朝鮮の非核化の最後のプロセス」と、クリントンやブッシュの時とは違うと強調しているのですが、おかしなことにここ最近のトランプ自身は制裁解除については言及しなくなっている。会談実現と非核化プロセスに関する発言だけなのです。

これも大言壮語の陰で「ウヤムヤな着地点を探す」という行動パタンです。表立っての経済制裁解除は難しいでしょうが、トランプのことです、金正恩に、このところ急接近の中国とロシアの制裁逃れ支援は目こぼしするくらいのことは言うかもしれません。

何れにしても再びの対話路線回帰で「対話は無意味」と言い続けてきたどっかの首相は梯子を外された格好ですが、トランプは圧力一辺倒の前言との齟齬を取り繕おうと、さらに踏み込んで朝鮮戦争の終戦宣言から平和協定締結という大団円を演出したいようです。もっとも、それこそが北朝鮮の思うツボなのですが、ノーベル賞がちらつく彼にはそこはどうでもいいのです。

我田引水、牽強付会、曲学阿世、傲岸不遜……たとえ今回も過去と同じ「対話のための対話」だったとしても、とりあえず武力行使が回避されたのは喜ばしいことです。が、トランプ流の行き着く先に待つ世界を思うと、暗澹たる気分は続いています。

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