【解説】『リズと青い鳥』カイエデュシネマに観て欲しい!幻滅は愛を囀る
リズと青い鳥(2018)
監督:山田尚子
出演:種崎敦美、東山奈央、
本田望結、藤村鼓乃美etc
もくじ
評価:95点
鬼才・山田尚子の新作が公開された。山田尚子といえば『映画 聲の形』、『映画 けいおん!』とトンデモナイ傑作を生み出したアニメ映画界の鬼才だ。特に事前情報を入れずに観たのだが、これが驚きの連続場外ホームランの傑作であった。『リズと青い鳥』あらすじ
吹奏楽部のオーボエ担当鎧塚みぞれとフルート担当の傘木希美。2人はコンクール曲『リズと青い鳥』の花形的存在。しかし、セッションすれど息がなかなか合わない。互いに、『リズと青い鳥』の物語と自身を重ねていく。そして、表には出せない想いが心を満たし、溢れていく…衝撃!響け!ユーフォニアムのスピンオフだった
驚いたことがある。それは、何も冒頭10分台詞ほぼなし、少女が歩いているシーンのことではない。タイトルロールに原作:『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』という文字を見かけたことだ!
What!?
ブンブンは、『響け!ユーフォニアム』なんて観ていない。しかも、本作はどうやら続編ではありませんか?もし、その事実に気が付いていたら、避けていたであろう。しかし、映画が始まってしまったのでこれは観るしかありません。当然ながら、前半部分は人間関係がよく分からず非常に難解だった。しかし、鑑賞後『響け!ユーフォニアム』のことを知らなくて良かったと思った。寧ろ、『響け!ユーフォニアム』のことを知らないで観た方がサイコーの映画体験なのではと感じた。
La désenchantée chante l’amour…
La désenchantée chante l’amour…
(幻滅は愛を囀る)
鑑賞後、ふっとこのようなフレーズが頭をよぎった。本作は、思春期の恋愛とも友情とも言えない不器用な愛のゆらぎを描いた作品だ。冒頭、オーボエの少女みぞれは校門を前に、行こうかどうかを悩んでいる。そして、誰かを待つかのように校門前に座る。そして現れるイケイケなフルート担当希美。突如顔をホッと赤くするみぞれ。そっから、微妙な距離感で二人は歩く。ひょっとして、みぞれは希美のことが好きなのか?これはレズビアンの映画なのかと想う。
しかし、それは大きな間違いだ。決してラブストーリーとかレズビアン映画とかそんな言葉で片付けてはいけないのだ。
それは終盤30分になるまで分からない。後輩が、オフ会に誘うが決して行くことのないみぞれ。常に孤独で、『リズと青い鳥』の世界に逃げるようにして生きる。吹奏楽部の華である、コンクールですら、「永遠に来なくていいのに」とボソっと行ってしまう程。それが何故なのか、何故『リズと青い鳥』に執着しているのか、それが分かった時鳥肌が立ちました。みぞれは幻滅していたのだ希美に。そして憧れだった希美の残像に囚われていたのだ。これ以上は言えません。実際に劇場で確かめてください。
学校は《愛》を象徴する
本作は青春映画、それも吹奏楽部の映画にも関わらず、一切コンクールのシーンはない。そして冒頭、教室に入ったら最後、ラストのラストまで学校の外側を映さないのだ。だから、みぞれが意を決して後輩をプールを誘うシーンがあるのだが、次のシーンで後輩がプールの写真を見せることで時間の経過を表現していたりするのだ。
コンクールに負けたかどうかも全て、登場人物の微かな台詞回しで分かる。時間の経過で、幼き後輩が成長していく様子も、景色の移ろいではなく、全て登場人物が織りなす空間だけで演出する。
みぞれも希美も『リズと青い鳥』のように互いに鳥籠に囚われている。リズは青い鳥に、青い鳥はリズに依存しており抜け出せない。自分の一方的な気持ちで支配しようとしている。みぞれは「リズは何故ラストで青い鳥を逃したのかが分からない」と先生に語る。希美は「可哀想なエンディングだよね」と語る。
鳥籠に閉じ込められたリズと青い鳥という構造をまさしく《学校》が象徴しているのだ。だからこそ、二人とも自分が進むべき道を見つけた時、初めて学校を出るのだ。『響け!ユーフォニアム』のスピンオフだよねこれって?カイエ・デュ・シネマが好きそうな、アート系会話映画じゃねえか!しかも空間の使い方が抜群に良いではありませんか!ってことですっかり本作にメロメロになってしまいました。
音楽が素晴らしい
吹奏楽の話なので、気になるのは音楽だろう。これが素晴らしい。『リメンバー・ミー』がギターの指さばきを繊細に映像化したことで話題となったが、本作も負けていない。オーボエ、フルートのきめ細かい指の所作に目を奪われる。
そして、最初はシンクロ率が低いみぞれと希美。彼女たちが最後に見事なセッションは吹奏楽初心者のブンブンですら、成長を感じさせるものがある。そこには大きな大きなカタルシスがありました。
何故アニメなのか?
本作は確かにラノベ→漫画→アニメという系譜を辿っている作品だ。しかし、こうもミニマルな作品は実写でも良いのではと想う人は少なからずいるかもしれない。だが、私は断じて今の日本でこれを実写化してはいけないと感じた。というのも、今の日本人監督でこうも清く繊細な青春ドラマを撮れる人はいない。いたとしてもそれはインディーズ監督。今の日本のインディーズ監督が撮った場合、「自主制作映画ですよ」「低予算映画ですよ」と画面が主張し始め、清く美しい本作に濁りが生じてしまうのだ。また、大手が映画化すると広瀬すずとか土屋太鳳などといった華を起用してしまう。そうなった途端、《スター》という看板がジャミングとなりこれまた濁りが生じる。
『映画 聲の形』にせよ、『映画 けいおん!』にせよ、山田尚子作品はそういったインディーズ映画の濁りがない。それだけに《青春》純度100%で思春期の心の揺れ動きが描けるのだ。ある意味、山田尚子は日本アニメ界のリチャード・リンクレイターと言えよう。
シネフィルに観て欲しい
本作は、『響け!ユーフォニアム』のスピンオフなので、シネフィルと呼ばれる人種ほど敬遠するだろう。しかし、ダミアン・マニヴェルの『パーク』やハル・ハートリーの『トラスト・ミー』のような作品が好きな人は観て損はありません。寧ろ、今観ないと年末に公開するだろう。
また、カイエ・デュ・シネマ関係者は是非とも観て欲しい。本作を観たら、打ち上げ花火の何某やメアリのなんちゃらに星4つけたのを後悔することでしょう。
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