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image credit:asunow

 およそ7000年前の新石器時代、人間の遺伝子の多様性に奇妙なことが起こった。

 それから2000年以上、アフリカ、ヨーロッパ、アジアで、Y染色体遺伝子の多様性が減少し、子孫を残せる男性が女性17人に対してたったひとりという状態になったという。

 いったいなぜこのようなことが起きたのだろう?
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父系クラン同士の戦争が原因?


 アメリカ・アリゾナ州立大学のコンピューター生物学者、メリッサ・ウイルソン・セイヤーズらの研究グループによるモデル解析によると、この謎めいた現象を引き起こしたのは、父系クラン(集団)同士の戦争が原因だという。

 人間の遺伝子的多様性の減少は、現代の人類の遺伝子パターンをベースに推論すれば、初めてのことではない。だが、こうしたことはたいてい人口全体に影響を与える。

 おそらくは災害や人口の縮小をまねくその他の出来事、それゆえの遺伝子プール(互いに繁殖可能な個体からなる集団がもつ遺伝子の総体)の結果だろう。

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image credit:Public Domain

男性の数は減らずに子孫を残せる男性の数が激減


 だが、新石器時代におけるY染色体ボトルネック(障害)は、2015年の発見以来、謎になっている。

 それは、父親から息子にだけ受け継がれる遺伝子のY染色体だけに見られるものなので、男性にのみ影響が現われるからだ。

 これは環境というより、社会的な要因を示していて、1万2000年から8000年前に、人類が父系構造から農耕文化へと移行した時期に、社会が再編されたことと関係がありそうだ。

 実際は、遺伝子的多様性の減少は必ずしも人口の減少を意味するわけではない。男性の数はまったく同じなのに、子孫を残せる男性の数が減ったということなのだ。

 これは2015年に論文を執筆した科学者たちが提唱したシナリオのひとつだ。

「生物学的感覚で"もっとも適したものが生き残る"のではなく、富や権力の蓄積が、限られた数の"社会的に適合した"男性やその息子たちの生殖成功数を増加させた可能性があるかもしれない」

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クランにとどまることでY染色体の多様性が減少


 研究に参加した、スタンフォード大学の社会学者ティン・チェン・ゼンは、この仮説をベースに理論を構築している。

 クラン(集団)の中にいても女性は別の新しいクランへと嫁いでいき、男性は一生自分たちのクランに留まることで、クラン内でのY染色体の多様性が狭まってしまうことを、研究チームは指摘した。

 だが、なぜ違うクラン間でそれほど低い多様性になったのかという疑問の説明にはなっていない。もし戦いでクラン全体が全滅してしまったら、多くの男性の系統が途絶えて、Y染色体の多様性も減少する可能性はある。

 コンピューターのモデリングで、このシナリオの可能性を検証してみた。

 女性がそのクランから出て行き、男性が同じクラン内に留まる場合の父系クラン間の戦争は、時間とともにY染色体の多様性に劇的な影響を与えたことをシミュレーションは示した。

 また、男性も女性もクラン間を移動できるような社会構造の場合は、たとえ戦争があっても、Y染色体の多様性に影響を与えなかった。

 つまり、戦争をする父系クランが一番の説明になる可能性がもっとも高いということだ。

 「わたしたちの提唱していることは、考古遺伝的、人類学的な説での発見によって裏づけられる。まず、わたしたちの説は、父系グループが社会的に突出していて、グループ間闘争のメインの単位となっていて、戦時でない時期にどちらか一方の側にひとまとめにされたときの、人類先史学の出来事も含んでいる」と研究チームは説明する。

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ヨーロッパ人のDNAサンプルからも裏付け


 この仮説は、ヨーロッパ人のDNAサンプルに、Y染色体の浅い癒着があったという発見からも裏づけられている。この特徴は、異なるクラン間でも父系をたどれば、男性同士が血縁である確率が高いことを示している。

 ヨーロッパの新石器時代以降の農耕文化における男性グループは、狩猟採集グループに比べて、比較的少数の祖先から父系が分かれているようで、このパターンはとくに牧畜民の間で顕著だ。

 今回の仮説は、新石器時代以降の社会が、人口は増えたにもかかわらず、先祖伝来のY染色体の多様性を保持するのが難しくなったのは、遺伝的浮動(無作為抽出によって生じる、遺伝子プールにおける対立遺伝子頻度の変化)を加速させるメカニズムのせいだと予測しており、確かにデータと一致している。

 おもしろいことに、ボトルネックの激しさにはさまざまな変化がある。東アジア、東南アジアでの人口では、ヨーロッパや西アジア、南アジアに比べて、それほど顕著ではない。これは、牧畜文化が前者よりも後者の地域でより重要だからだろう。

 この研究論文は、『Nature Communications』誌に発表されている。

References:asunow / sciencealert / iflscience/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2018年06月05日 09:32
  • ID:wwZzUWtp0 #
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goodbad0
▼このコメントに返信する

なぬ!ちょっと7000年前に行ってくる(早計

2

2. 匿名処理班

  • 2018年06月05日 09:33
  • ID:UiK9UTrZ0 #
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goodbad0
▼このコメントに返信する

農耕民族のなかでも、なぜ牧畜民に顕著なんだろう?
麦や米を栽培してる民族より多く戦争をしていたんだろうか?

3

3. 匿名処理班

  • 2018年06月05日 10:05
  • ID:zhrh3VlE0 #
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goodbad0
▼このコメントに返信する

「ハンドメイズ・テイル」見てたからタイムリーな話題でびっくりした

4

4.

  • 2018年06月05日 10:11
  • ID:fWen7Or00 #
5

5. 匿名処理班

  • 2018年06月05日 10:13
  • ID:dZcyot9t0 #
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▼このコメントに返信する

パラグアイのロサス戦争では男性国民の3分の2が死ぬ絶滅戦争をしたのでわりとありうる説

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