今村昌平監督「うなぎ」から21年ぶり、カンヌ映画祭で日本の作品(「万引き家族」)が最高賞パルムドールを受賞しました。
その是枝裕和監督については、このブログでもたまに取り上げていましたが、デビュー作「幻の光」からずっと追い続けてきた私としては、この盛り上がりにちょっとくらいのっかってもいいでしょ・・・と2017年までの全映画作品レビューをしてみることにしました。
掲載順は好きな順…にしたかったのですが、途中から優劣つけるのが難しくなっていったので、ジャンルで分けました。長くなりそうなので1作品三行を目標で書いていく…予定でしたが、だいたい5行くらいになってます。
ユーモラスな家族もの
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家族をつれて実家のある鎌倉へ帰郷した良多。嫌味をまじえておしゃべりな母と妹に、頑固な父。ひとつ屋根の下に、わだかまりを抱えながらも久しぶりの一家団欒を、ユーモアたっぷりに描く。どこにでもあるような一家の、ここにしかない人生の物語。個人的には是枝監督作品の真骨頂だと思っていて、何か一作見てみようという人には、まずおすすめの作品です。(「歩いても 歩いても」2008年)
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病院でおきた子どもの取り違えが発覚し、交流を始めることになる二つの家族。6年間の絆か血の繋がりか…葛藤する親の心と、子どもの心。しがない電気店の店主を演じるリリー・フランキーを、カンヌ審査委員長のスピルバーグが「あのすばらしい役者は誰」と尋ねたエピソードをおりにふれて思い出します。会話劇の趣のある「歩いても」より一歩進んでストーリーの起伏があり、こちらもおすすめから外せません。(「そして父になる」2013年)
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物書きを密かな夢にしながら興信所に勤めて生計をたてる篠田は、月一回、離婚した妻と息子に会うことが何よりの楽しみ。台風が近づいたその日、三人やむなく篠田の母の住む団地に泊まることに。団地という空間を舞台にして、母の語る父と、自分と息子の三世代の物語。劇場で見たのですが、上映中ずっと笑いの絶えない作品でした。(「海よりもまだ深く」2016年)
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- - - - - 映画についてここまで- - - - -
まとめと解説
是枝監督についてはどこかで何かしら書きたいなあと思っていたのですが、なかなかその機会もなかったので、今回はよっしゃと筆をとりました。
監督を知るきっかけとなった「幻の光」は、絵のように美しい映像を重ねていくことで、その狭間から物語の情感がたちあらわれてくるような、端正な作品です。けれども是枝監督は、きゅうくつな作品になってしまったと感じたのだと、テレビのインタビューでお話しされていました。
「幻の光」のあとに作られたのが「ワンダフルライフ」です。設定やストーリーはファンタジーともいえるフィクションですが、役者たちの主観的な語りは、ほとんどノンフィクションでもある。物語という一定の枠をあたえて、あとは役者の自然な語りがでてくるのを待つというスタイルは、このころに試されていたのだなあと思います。
ついで「DISTANCE」「誰も知らない」とフィクションとノンフィクションのバランスを模索する作品がつづきます。私が監督のひとつのピークだと思っている「歩いても 歩いても」は、この緊迫したスタイルにユーモアがまざって、その”笑い"が不思議なことに、作品により深みを与えるようになっていきます。
是枝監督はよくドキュメンタリー出身の映画監督という言われ方をしますが、私としては、物語の見せ方もうまい人だとおもっています。もともと、映像制作会社に入る以前から映画を撮りたかったのだそうで、大学の卒論では時代劇の脚本論をテーマにしたのだそう。
そういえば是枝監督の作品に出てくる男性って、けっこうクズな人が多い気がします。「海よりもまだ深く」の阿部寛やリリーさんも、ダメ人間だなーって感じでしたね。その人間くささをもった人物を主人公にすえるところが魅力でもあり、「三度目の殺人」の福山雅治さんもそういう意味でとてもいい役でした。
ドキュメンタリー畑出身の監督としてスタートして、近年はストーリーを引き立たせる演出も意欲的に取り入れている印象です。新しい作品のたびに、船はどの岬をめざしているのかと楽しみになります。(なお「万引き家族」は上映館が近くにないため、観るのは半年後になりそう…)
政治的な視座
2018年カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞したおりに、海外メディアで日本国内の社会、政治情勢にふれたコメントが話題になりました。作品についてよりそちらの方が大きくとり扱われていることを、個人的に不満に思っています。
是枝監督の作品はどれも明快な答えを出すものではなく、どんなことがらにも個々それぞれの事情があること、その問題とともに生きざるをえない人たちの生活や眼差しにおりていき、その心の機微にふれるような作品が多いです。なので、その言葉を"何が善か"を決める手段にはしてほしくないなと思うのです。
社会派の作品「誰も知らない」「三度目の殺人」などとくに、作品を見て鑑賞者が何を思うか、だいぶ丸投げされて作られています。その代わり、作品の土台となるテーマの包括する議論の蓄積は、かなり厚いものがあります。その議論の上にたって「私ならどう思う?」と問いかけるきっかけを、多くの人がもてると嬉しいなと思います。
関連リンク
2015年11月17日 誰が何を誤解しているのか? ~放送と公権力の関係についての私見②~ | MESSAGE | KORE-EDA.com
社会派の映画監督ながら政治的な発言は多くない(と思う)なかで、放送法についての主張はかなりはっきりされています。誰が、誰に対して放送の中立性をもとめるのか、その矢印が現在では逆になってしまっています。こういう話ならもっと話題になってもいいのにな。