なぜドワンゴは高校を作ったのか 仕掛け人に聞く「N高」設立の経緯
不登校の小中学校に対しネットを通じた学習支援を謳う「クラスジャパン・プロジェクト」が話題となっている。
DeNA、Classiなど名だたる大企業から協賛を受ける一方で、「全ての不登校児を学校に戻す」というミッションが炎上したり、ミッションに対する釈明文が出たり、その釈明文を書いた理事の今井紀明氏の名前がいつの間にか公式サイトから消えたりと、未だに二転三転の様相を見せている。
クラスジャパン・プロジェクトの真意はどこにあるのか。
そのプロジェクトは、不登校当事者にとって本当に良いものなのか。
本シリーズ【特集 クラスジャパン】では、関係者に対する取材を通して、この問題について考えていきたいと思っている。
本シリーズは、クラスジャパン・プロジェクト理事長の中島武氏、精神科医の斎藤環氏への取材を記事化したものである。取材に応じて頂いた関係各位に、改めて御礼を申し上げたい。
【特集 クラスジャパン】
・なぜドワンゴは高校を作ったのか 仕掛け人に聞く「N高」設立の経緯
・クラスジャパン・プロジェクトの基は「教育機会確保法」(6月5日公開)
・クラスジャパン「原田メゾッド」は不登校児童をケアできるか(6月6日公開)
・クラスジャパン・プロジェクトが目指すもの(6月7日公開)
・精神科医 斎藤環氏に聞く「クラスジャパン」の問題点(6月8日公開)
N高等学校設立の経緯
メンヘラ.jpよろしくお願いします。今回は「クラスジャパンの真意」というテーマでお話を伺わせて頂ければと思います。
中島氏
お願いします。
メンヘラ.jp
まずお伺いしたいのは、クラスジャパンの理念とか、立ち上げられたところの動機といいますか、そういうところをお伺いできればと思うのですけれど。
中島氏
もともと、1992年頃までは、不登校っていう言葉はなかったんですね。「登校拒否」と当時は呼ばれていた。なので通信制高校は今とは違って勤労学生のための教育機関とみなされていたんです。だから、ほとんどは公立校だった。勤労学生のため、要は夜間の高等学校と並ぶような形で通信制高校っていうのはあったんです。で、それが1992年頃に、不登校っていう言葉が出だして、市民権を得たと。
「不登校」が市民権を得ると同時に、通信制高校の私立ができたんだしたんですよ。たとえばクラーク記念国際高等学校ってところなんですが、ここが1992年に設立されたとき、もう子供たちが殺到した。不登校の子供たちの受け皿になったんです当時。
メンヘラ.jp
すると中島さんは元々通信制高校のお仕事をされてたんですね。
中島氏
そうです。教育関連の広告とかマーケティングとかマネジメントとか、そっちをやってました。クラーク記念国際高等学校も最初は私のクライアントで、そこから中に入っていきました。
メンヘラ.jp
そこから本格的に通信制高校のお仕事を始められて…
中島氏
20年以上やってました。今クラーク記念国際高等学校は1万2000人ほどの生徒を抱えていて、日本最大の通信制高校なんですが、そこまで成長させるというのをクラークの中でやっていきました。そこからはルネッサンス高等学校という通信制高校の立ち上げにも関わって。
で、そういう仕事をずっとやってたもんですから、その絡みで2014年にドワンゴの方を紹介されたんです。それがN高設立の始まりみたいなもんですね。
メンヘラ.jp
中島さんは、N高の設立メンバーでもあったんですね。
中島氏
もちろん。で、ドワンゴ役員の志倉千代丸さんって方を紹介されて、彼は色々事業をやってて、声優のスクールもやられてる方なんですけど、この方が高校事業をやりたいと。それは運営されてる声優スクールが大学生以降の子の割合が多くて、もっと若いうち高校生も入れられないかということで企画が始まったんですね。で、通信制高校と提携してってことをやっていけないかというお話を頂いた。
で、私、会ってからわかったわけですよ「ニコニコ動画の人や」って(笑)
実は私、それまではあんまりニコニコ動画好きじゃなかったんです、なぜかというと、通信制高校の子供たちってニコニコ動画大好きな子が多いんですけど、それが生活のリズムを崩してるんじゃないかと、当時思ってたことが実はあったわけなんですね。
でも志倉さんに会うことになって改めて考えてみると、実はニコニコ動画は子供たちの居場所になっていると。学校も嫌、通信制高校も嫌っていう子でも、ニコニコ動画は好きやと。じゃあニコニコ動画自体を高校にしたら、高校が今まで嫌や嫌やって言ってても、要は高校がアウェイなわけですよね、その子どもたち。ニコニコ動画がホームなわけですよ。そしたら、ホームを高校にしてやったら、その子どもたち喜ぶし、これは社会に出ていく一端になるやろうと。
だから志倉千代丸さんに「ニコニコ動画が高校になったらいいんじゃないか」っていう話をしたわけですよ。でも志倉さんの反応は「意味わからん」と(笑)
メンヘラ.jp
(笑)
中島氏
「ニコニコ動画が高校になる?意味がわからん。あ、そういう教育系のコンテンツを作るってことですか?」みたいな感じですよ、最初の先方の反応は。いやいや、違う。正式な高等学校、学校教育法における高等学校を作るんですよと提案すると、「そんなこと可能なのか」っていう話が返ってくる。だから「いや、できる。通信制高校という制度が実はあるんですよ。で、その制度を使えば、自宅にいながらでも、ニコニコ動画というネットのコミュニティを、学校生活に使いながら、高等学校にすることができますよ」と伝えると「これは面白い」と。
で、われわれとしては面白いんじゃなくて、このプロジェクトで子どもたちを救うことができる。今まで学校関係者、教育関係者が全く救えなかったこの子どもたちを、もしかしたら社会に出させるようなことができるかもしれんなっていう話をしたら「それは社会的な貢献度も高い」という話になって、ドワンゴの役員会の中にこの話さしてくださいとお願いしたんですね。そしてドワンゴの創始者の川上さんがその話を聞いて、すぐにやりたいと。高校ができるんやったらすぐにやってみたいという反応が返ってきた。それで会ったんですよ。会ってこの話をさしてもらった。
で、そのときに私が言ったのがこういう話です。「私も通信制高校を20年近くやっているけども、通信制高校って全日制の高校の下にずっと見られてるんです」と。
世間的な印象もそうやし、学校関係者もそうやし、保護者もそう、生徒もみんなそう。通信制高校というものは、通常の普通科高校、全日制高校に色々な理由でいけなくなった子どもたちが、高校の卒業資格を取るということを目的として来るところだと。こういう上下関係が完全にできあがってたんですよね。
だから、ほかの通信制高校、私がもともといたクラーク記念国際高等学校もそうやし、立ち上げたルネサンス高等もそうやけども、やっぱりこれを変えることはできなくて、全日制高校との上下関係をなるべく和らげる、全日制高校に近づくことを目指していたんですよね。そうすると、子どもたちはどうかというと、やっぱり自分のこと卑下するわけですよ。どうしても、そうなるじゃないですか。「僕は、私は全日制高校にいけないから、仕方なく通信制高校にいってる」って思ってしまう。学校にプライドを持てないわけ。持たせることもできない。だから、どこの高校に今所属してますかって、どこの高校出身ですかって言っても、通信制高校の名前を胸張って言える子、少なかったんですよ。
でもね、できたら、ずっとやりたかったのが、この通信制高校に入った生徒たち、いろんな理由はあっても、通信制高校に入って学ぼうと思ってる子どもたちが、胸張って、自分の学校にプライドを持って、社会にどんどん出ていくっていう、そんな自己肯定感をやっぱ持たしてやりたいという思いがあったんです。
メンヘラ.jp
それがN高のアイディアに繋がってくる?
中島氏
そう、それを何とかドワンゴと一緒にできないかっていう話をしたときに、川上さんが「それはドワンゴが得意な分野だ」と。なぜかというと、ドワンゴのニコニコ動画っていうのは、オタク、いわゆるオタクのイメージを言うのを変えたプロジェクトなんだと言うですね。
オタクって昔やっぱり蔑まれていたわけです。われわれの時代ね。ところが、今はそうじゃなくなってるわけじゃないですか。オタクっていうのはすごく一つのことに対して精通もしてるしっていうような、尊敬の念すらあるじゃないですか。それは、ニコニコ動画によるブランドチェンジやったっていうわけですよ。ニコニコ動画、ニコニコ超会議っていうことによって、オタクっていうものの文化を作ったんだと。
だからブランドチェンジということはドワンゴさんは得意分野だと。「もし中島さんが通信制高校、もっと言えば通信制高校にきている子どもたちのブランドをチェンジをしたいんだったら、それをできると思う」と川上さんは仰ったんです。これは面白いと。これは本当にできるかもしれん。じゃあ一緒にやりましょうっていうのが、2014年。そっから。じゃあN高校っていうものを立ち上げましょうよっていうので、もともとN高校始めたんですよ。で、いまやっぱり面白い。非常に面白いことになってる。
メンヘラ.jp
N高は開設早々、通信制高校としては異例の入学者が集まって、ひとつの社会現象にもなりましたね。
中島氏
2016年4月で1482名。で、この2018年4月で3年目に突入ですが、生徒は6500人超えました。
メンヘラ.jp
今6500人もいるんですか、N高。それはすごいですね。
中島氏
そう。超えた。この2年間で6500に一気に。2年間で6500の生徒数なってる高校ってどこもないわけですよ。それを一気にやった。で、これは何かっていうと、まさにブランドチェンジが起きてるんです。
ふつうの通信制高校の説明会って、保護者が子どもを引っ張ってくるんです。子どもは「もういいよ、僕は高校はいいよ」っていう子どもが多い。でも「いや、高校ぐらいいっとかないと困るから」っていって、親が連れてくることがほとんどなんですよ。
ところが、N高校の説明会は違う。子どもが来る。逆に親があとから来る。「大丈夫、ここ?」「ニコニコ動画がやってるの?」って言いながら。これが逆転です。
これを最初2016年の説明会やり始めたときに見て、その瞬間に、「これは変わる」って思った。本当に変わるって。これはブランドチェンジ本当するぞって。これは面白い学校に化ける可能性がある。中身をきちっとつけていったらと。まさにそこから2年間で一気に6500なってきたんです。だから、やっぱり子どもたちが自分の居場所やと、ここやったら自分たちが変わることができる、全日制高校という選択じゃなくて、もう一つの、これはネットの高校っていう自分たちの居場所だって思ってくれたちゅうことです。
メンヘラ.jp
N高校の取り組みっていうのは、われわれもすばらしいと思っていて、
中島氏
ありがとうございます。
メンヘラ.jp
もともと私もニコニコ動画にやっぱり興味があったものですので、
一同 (笑)
メンヘラ.jp
N高はずっと初期から見てたんですね。ネットコミュニティをクラスにして居場所を作っていくというコミュニティ的な面でもすばらしいですし、プログラミングなどの高度な専門教育を行えるっていうところもすごい。
既存の通信制高校になかった高度な専門教育、そういったものが全日と同じかそれ以上にある。これはすごいなとと思うんですよね。
中島氏
専門教育に関しては、はっきりと全日以上だと思います。だって全日制高校で教えてるのは、高等学校の先生。でも、N高校で教えてるのは、例えばプログラミング誰が教えてるかいうたら、ドワンゴの現役のプログラマーですよ。
メンヘラ.jp
圧倒的にそちらのほうが上ですよね。
中島氏
はい。で、例えば国語は国語の教員が教えるけれども、角川出版から出してる作家の先生が、小説の授業したりするわけですよ。そりゃプロの先生で、第一線で活躍してる人の授業受けれる。
メンヘラ.jp
だからこそ、このブランドチェンジが起きたのかなと思うんですね。
中島氏
そう。N高校入った子どもたちも、全日制高校いってるより、僕らのほうがすごいんじゃないかと思い出すわけですよ。
メンヘラ.jp
実際にそうかもしれない。
中島氏
実際そうだと私は思います。受けてる子見とったら。それはね。そら、ドワンゴのプログラマー、角川の編集者、作家の先生、それも自分がいつも読んでるライトノベルの作家の先生、『ソードアット・オンライン』の作家の川原先生の授業受けれるわけですよ。それに加えて例えばメイクアップアーティストの授業が受けれたりとか、そんなプロの先生の授業がばんばん受けれたら、みんなすごくなる。だから、そうさしてやりたいんです。すごいよって。君がいてる学校っていうのは、すごいよっていうふうに思わしてやりたいから、あえて企業がかかわって教育と繋げていく。
メンヘラ.jp
N高校の事業ビジョンについては、つくづくわれわれもすばらしいと思っていまして。で、そこからクラスジャパンというのが始まった…?
次回に続く
【特集 クラスジャパン】
・なぜドワンゴは高校を作ったのか 仕掛け人に聞く「N高」設立の経緯
・クラスジャパン・プロジェクトの基は「教育機会確保法」(6月5日公開)
・クラスジャパン「原田メゾッド」は不登校児童をケアできるか(6月6日公開)
・クラスジャパン・プロジェクトが目指すもの(6月7日公開)
・精神科医 斎藤環氏に聞く「クラスジャパン」の問題点(6月8日公開)
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