はてブで以下のTogetterまとめが話題になっていた。
該当のツイートは私もTLで見かけたが、大変恐縮ながらちょっとモヤるものを感じてしまい、RTはしなかった。付いているブクマを読むと、近い感覚の人がいらっしゃるようで。
以前から感じてはいたが、この手の話題における「無料は悪」という主張は、本当にそれで良いのだろうか。
「ネットにタダで転がっている漫画を読むのは違法!タダでDLできる音楽を聴くのは違法!制作者にマネーという形で還元が無ければ、愛すべき作品そのものが消えてしまうよ!」。
確かにそうなのだ。この表現は、心理的には正しい。私も、オタクのひとりとして大いに頷きたい。
が、そうなんだけど、どうなんだろう、という話である。
- この問題に現段階で100%綺麗な答えはない
- ネットにおける広告ビジネスへの言及が抜けている
- 違法サービスを利用してしまう人は問題認識において別次元にいる
- 問題は「何が公式で何が非公式か分からない」こと
- どうやったら効率よく違法だということを伝えられるか
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この問題に現段階で100%綺麗な答えはない
「この戦いに正義はない。そこにあるのは純粋な願いだけである。」
ー大久保大介(『仮面ライダー龍騎』2002-2003)
なぜ綺麗な答えがないかというと、今まさにこの問題については目まぐるしく状況が変化しているから。いわゆる「過渡期」である。おそらく、数年前の言説が全くあてにならなかったりする。
そして、私は何も、上に挙げたツイートの主張に真っ向から反論したい訳ではない。多分、目指すべきところというか、思いは一緒だと思うのだ。本棚を漫画と小説で埋め尽くして、Blu-rayを毎週のように購入する、男は黙ってDMM主義の人間である。
そこにあるのは、純粋な願い。創作物を愛する気持ちと、消費者としての願いしかない。
ネットにおける広告ビジネスへの言及が抜けている
・・・という前提の上で意見すると、このツイートには、ネットにおける広告ビジネスへの言及が抜けている、と感じるのだ。
ただ、この方は「我が子への教育」という前提で添付の資料を描かれているので、このややこしくなる部分をあえてバッサリ省いたものと思われる。
最初から地図の端から端まで教えるのは難しい。まずは隣県とか祖国からである。
「ネットにおける広告ビジネス~」というのは、例えば有名所でいくと、『ジャンプ+』のようなWebマンガ誌が挙げられる。
私も毎日アプリ版を開くヘビーユーザーだが、このWebマンガ誌は無料で漫画がめちゃくちゃ読める。毎日何作品も公開されるので、課金するタイミングが無いくらい。無料連載作品だけでも追いきれないくらいあるのに、復刻連載、期間限定無料公開など、大盤振る舞いである。さすがの天下の集英社。
前述のツイートの内容「だけ」で論じてしまうと、この『ジャンプ+』も駄目という答えになってしまう。
しかし実際はそうではない。分かり切っていることではあるが、漫画を読んだあとに広告が表示されるし、無料公開以降の続きを読みたければコインを購入して読むことができる。
それらの収益が回りまわって、無料連載している作家に還元される、という仕組み。
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大枠の構造はテレビのCMと同じである。
ドラマの主演者やスタッフにお金を払ったこともなければ、バラエティのセット建設代として請求を受けたことはない(NHKの話はややこしいのでここでは割愛)。スポンサーがついて、CMが流れて、それで視聴者が商品やサービスを知り、果てに購入する。そういう循環があるから、ドラマやバラエティは無料で視聴することができる。
Googleアドセンスが日本での募集を開始したのは2003年とのこと。つまりは、ここ15~20年前後で、広告事情は大きな変化を見せているのだろう。
来年福岡で走るという無料タクシーなんか、構造を知る上で良い例だ。
だからこそ「過渡期」であり、例えば2010年に生まれた子供は、完全に「それ以前」のインターネットを知らないことになる(当たり前の話)。
なので、「広告で儲ける」という方法論が、作者への新しい還元方法になっていることも、違法サイトの飯の種になっていることも、それが「当たり前」の世界で育っているのだ。
難しい。一番難しいのは、「生まれる前から定着していたこと(もの)の原理を知ること」である。知らなくても使えるし、知らなくてもその恩恵を受けられる。その原理に好奇心を見い出すのは、いつだって少数派だ。
この辺りの変遷については、『新しいメディアの教科書』という本が面白かったです。
違法サービスを利用してしまう人は問題認識において別次元にいる
あと、この手の問題で真にややこしいのは、違法のあれこれを利用している人と、それをやめさせようとする側の前提認識に、大きなズレがあることである。一昔前のマジコン問題と同じだ。
違法利用者の多くは、別に「違法でも利用しちゃえ!」とか、「お金がないから仕方なく~」とか、そういう思いがある訳ではない。
「みんなが使っているし、無料だから、使う」。もっと言えば、「検索したら出てきたから、使う」。ただそれだけである。
そこに、違法が適法か、正式なサービスか否か、という判断基準そのものが無い。
対する指摘側は、「それは違法だからダメなんだ!」と叫ぶ。何も間違ってはいない。
しかし、言われる側はそもそも違法かどうかなんて考えたこともないので、ダメだと言われても本質的な部分で届かない。もしその違法サービスが無くなったら、単にそれを使わないだけで終わる。
作者やアーティストへの還元、という視点も、もちろん全く無い。
この意識の断絶については、そう簡単には埋まらないのに、ここが一番の根幹だろう。なんとも難しい話である。
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問題は「何が公式で何が非公式か分からない」こと
広告ビジネスの理屈が分かっていれば、一概に「無料は悪」という結論には至らない。
しかし、それが全く分からない人、むしろ、判断基準が最初から無い状態で違法サービスを利用している人に、「基本は作者に賃金という形で還元されるように消費者として商品の対価を支払わなきゃならないけど広告ビジネスの形もすごい勢いで変わっているので正しい無料と違法の無料があってそれをしっかり認識した上でサービスを利用しなければならないよ」 などと説明して、「よし分かった!」と言ってくれる人が、果たしているだろうか。
到底、そうは思えない。
だから、前述のツイートの、「(原則として)商品には対価を払うべき」という教え方になるのだ。しかしそれは、「でもちゃんとしたアプリで無料で読めるのもあるよ?」「テレビのアニメはなんで無料なの?」という答えに対応することができない。
むしろ、例えば『ジャンプ+』のような、第一義的にどんどん利用した方が良いサービスから遠のいてしまうことにもなる。そしてこれからは、「まずは無料、追加で有料」に限らず、「定額読み放題」「定額見放題」のサービスも加速度的に増えていくだろう。
問題は、「何が公式で・何が非公式か」が容易に分からない、という点に尽きる。
『ジャンプ+』と『漫画村』の違いをちゃんと説明できる人が、双方のユーザーにおいてどれだけいるのか、という話だ。
これは、私のようなこの問題について語りたがりなネットのオタクにとっては「容易」なのだが、先に挙げたような「判断基準もなく違法サービスを利用している人」にとっては、「難解」だ。
注意書きとか、但し書きとか、利用規約とか、そういう次元よりもっと手前の、ネットにおける「嗅覚のようなもの」が最低限身に付いていないと、把握し辛い。
『ジャンプ+』というアプリの宣伝も、コミックスを買えば帯に書いてあるし、ジャンプを買えば宣伝ページに載っている。しかし、「買わない」人には伝わらない。
・・・などと偉そうに指摘してみたが、これほど難しいこともないだろう。「判断基準がない人に判断基準の宣伝をする」だなんて、もはや禅問答の域だ。
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どうやったら効率よく違法だということを伝えられるか
冒頭で書いたように、現時点で私に出せる綺麗な答えは無い。
なので、それはそれとして、どうやったら違法サービスをそれと伝えることができるのか、を考えてみたい。
まず思い浮かぶのは、相手をオタクにする方法である。
オタクになればなるほど、作品への知識、それが作られた背景への見識は深くなる。作者への敬意、対価という形でのマネーの動き、それらを自然と知っていくだろう。
しかしこれは「そういう傾向があると思われる」という話であって、オタクでもそれを理解せずに違法万歳の輩がいる。まったくもってやるせない。
もうひとつ。私も子どもがまだ1歳なので、我が子にどう教えるか、という観点。
これは、「仕組みを教える」以前に、「感覚を持ってもらう」ことがまずは重要だろう。
そういう意味で、子どもにはお仕事系の作品を与えてみたいと画策している。
例えば『バクマン。』とか、『東京トイボックス』とか、そういうの。あまりアニメ分野には明るくないのだけど、漫画・アニメ・音楽業界等の制作舞台裏を描いた作品、ありますよね。
どうせなら、普通のお仕事作品より、漫画や音楽といったカルチャーの方が今回の問題に対する解答として相応しいだろう。
我が子が大きくなれば、『鈴木先生』や『ドラゴン桜』だって読んで欲しいのだが、これはちょっと話がズレてくるかな。(『鈴木先生』は一種の業の深さがあるし『ドラゴン桜』もその中身が全部正しいとは思わないけど、この場合はあくまでお仕事漫画としての話)
『ブラック・ジャック』を読ませた後の『ブラック・ジャック制作秘話』とか。
あと映画だと、例えば『KUBO クボ 二本の弦の秘密』を観てもらった後に(後年でも良いから)メイキング映像も観てもらうとか。
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つまりは、「漫画やアニメや映画って、大なり小なり、作り手の血と汗と涙の結晶なんだよ」ということを、言葉や理屈ではなく、肌感覚で知って欲しいと思うのだ。
そうすれば、後の「商品への対価、およびビジネスの形態におけるそのバリエーション」という話への理解度も、違ってくるのかな、と。
こういう手順を踏まないと、いきなり理屈で「これはOK、あれはダメ」と教えるのは、本人にとっても難しいだろうし、教える私にも難しい。今後更に議論が活発になるだろうこの問題については、じっくりと種を蒔いて、間違いのない認識を持って欲しいと思う。
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中々まとまりに欠ける話だが、要は、「無料は悪」という主張に私は簡単には頷けない、という話だ。
しかし、それを効率良く飛び越える理論展開はできないし、我が子に対する教育計画を挙げるくらいしか今は手札がない。
今はただ、この問題について、多くの人が意見を交わし合い、ぼんやりとしたネットの雰囲気を良い方向に持っていければ良いな、という願いしかない。
今この瞬間にもきっと、「嗅覚のようなもの」を磨いている層がいるのだろうから。