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ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。 |
2018-06-04 日本語で書かれた教科書も理解できない大学教員
■[医学]日本語で書かれた教科書も理解できない大学教員
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2017年11月に九州大学馬出キャンパスで行われた「福島小児甲状腺がん多発問題」に関する科学技術社会論学会の自由集会*1に参加させていただいた。集会に先立って、富山大学の林衛氏とやり取りする機会があった*2。林衛氏は、LDLコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因であり、スタチンはそれを予防するという標準的な学説に否定的な「論文」を書いておられる*3。その根拠を尋ねてみたのだが、林衛氏は一次文献を読んでいないらしいことが判明した。教科書も読まなかったのかと尋ねたところ、お勧めの教科書を聞かれたので『ハリソン内科学』を勧めた。『ハリソン内科学』は内科学の定番の教科書で原著は英語で書かれているが日本語訳が出ている。結果から言うと、日本語で書かれた教科書でも林衛氏ご理解していただけることはなかった。以下、林衛氏のツイートを引用する。
「スタチンの強力な脂質低下作用と多面的作用は,心不全のない患者群において主要な心血管イベントを減少させ生命予後を改善する」という部分は読んでいただけなかったらしい。「心不全の背景疾患としての冠動脈疾患進展の治療にスタチンが必要ならば,使用すべきである」という部分もだ。脂質低下が主な作用であるスタチンが、脂質が関与しない動脈硬化以外(弁膜症や心筋症など)による心不全に効果がなくても不思議ではない*4。『ハリソン内科学』のこの記述は「LDLコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因であり、スタチンはそれを予防する」という学説とは矛盾しない。
『ハリソン内科学』におけるスタチンやLDLコレステロールの記述
■ニセ医学に騙されているのに境界線上の事例を検討できようかでも述べたように、少しぐらいコレステロールが高くても心血管リスクが小さい場合、薬を使うべきかどうか微妙な場合もありうる。しかしながら、幼少期からLDLコレステロールが高い家族性コレステロール血症や動脈硬化性心疾患を既に発症した人、糖尿病や慢性腎臓病がある心血管リスクの高い人に対するスタチンの有用性は確立されている。
『ハリソン内科学』において「心筋梗塞の危険因子にアテローム性動脈硬化はあげているが、コレステロールは慎重にはずすようになった」と林衛氏は書いているが誤りである*5。いったいどこを読んで「慎重にはずすようになった」と林衛氏が思い込んだのか不明だ。アテローム性動脈硬化の主要なリスク因子としてLDL高値は記載されているし、冠動脈疾患のリスク因子として脂質異常症は複数のページで触れられているし、もちろん治療の第一選択はスタチンだ。
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血漿LDL高値はアテローム性動脈硬化症の主要なリスク因子。『ハリソン内科学第5版』より引用。
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脂質異常症の治療が中心となる。『ハリソン内科学第5版』より引用。
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LDLコレステロール低下への介入が、総死亡、心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患を明らかに抑制するデータが豊富にある。『ハリソン内科学第5版』より引用。
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他にも林衛氏の主張が間違っているところを『ハリソン内科学』から引用できるが、これぐらいにしよう。
林衛氏に科学リテラシーを教える資格があるのか
「教科書に書いてあるから正しい」とは私は主張していないことに注意していただきたい。仮の話として、林衛氏が教科書の記述を正確に理解した上で「標準的な学説ではLDLコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因だとされているが、○○という理由で私は反対する」と主張したのであれば、有意義な議論ができたかもしれない。あるいはコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因であること、スタチンがそれを予防することを踏まえた上で、どの程度のリスクがあれば薬物療法を開始するべきかという論点で議論ができたかもしれない。しかしながら林衛氏は、そもそも日本語で書かれていても教科書の内容を理解できなかったのである。有意義な議論をするためのスタート地点にすら立てていない。
林衛氏のやり方は、「コレステロールは心疾患の原因ではない。スタチンには効果はない」という結論がまずありきで、その結論に合うように見える部分を探して抜き出すだけである。だから、教科書が書いていないことを読み取ってしまうのだ。林衛氏とやり取りすると、常にこの「言ってもいないことを言ったとされてしまう問題」に悩まされる。本質的な議論に至る前に「そうは書かれていない」「そうは言っていない」というやり取りで終わってしまう。
林衛氏が単なる一人のTwitterユーザーであればいちいちこうしたエントリーを書かない。しかし、林衛氏は富山大学の教員の一人であり、科学コミュニケーションや科学リテラシーの講義を行っているのだ。いったい学生に何を教えているのだろうか。また、科学技術社会論学会年次研究大会ではオーガナイザーを務めている。どの分野にもこうした人はいるが、たとえば近藤誠氏が日本癌学会学術総会において座長を務めるようなことがあった場合、必ず批判が巻き起こるであろう。科学技術社会論の分野ではメンバー間で相互批判は行われないのだろうか。
コレステロールと心血管疾患の因果関係、および、スタチンの臨床における有効性については、多くの研究があり確立された事実であるが、それを理解するには疫学についての知識が必要である。低線量被ばくと甲状腺がんの因果関係、および、甲状腺がん検診の臨床における有効性について理解するためにもまた、疫学の知識が必要だ。教科書にも載るような基礎的な事例すらろくに理解する能力のない人が福島県の事例を果たして理解できるだろうか。
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*1:https://www.facebook.com/events/135058797059461/
*2:私が何度も「私と林衛さんとのやり取りの部分だけでもメールを公開してもよろしいでしょうか」と尋ねるも林衛氏の同意が得られないため公開できない
*4:細かいことを言えば、スタチンの多面的作用が虚血を伴わない心不全にも有効かもしれないという議論はある。『ハリソン内科学』の記述はそうした議論を踏まえている
*5:https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/929358778834628608